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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科58巻5号

2004年05月発行

今月の臨床 血栓症と肺塞栓―予防と対策

血栓症のリスク因子

3.ホルモン療法におけるリスク因子

著者: 中村康彦1

所属機関: 1山口大学医学部生殖・発達・感染医科学

ページ範囲:P.661 - P.665

文献概要

はじめに

 性ホルモン,特にエストロゲンが血栓症を誘発することは,古くからよく知られていた事実であるが,2002年にWomen's Health Initiative(WHI)が報告した,閉経後の健康な女性にエストロゲンとプロゲスチンの併用投与を行うと血栓症が有意に増加したという論文1)は,改めて性ステロイドと血栓症の関連を世界中に知らしめることとなった.

 エストロゲンは生理学的に非常に興味深い役割を果たしている.女性にとっては大変重要なホルモンであり,血管壁にとっても有益な作用を有している.Framingham Offspring Studyの報告2)をみても,エストロゲンが枯渇する閉経後の女性では血栓症が増加するようである.しかし一方,エストロゲンはその投与量が過剰となると一転して有害なものとなる.また,これまでに開発されてきた人工的性ステロイドは,天然の性ステロイドには未だ及ばず,副作用の問題を拭い切れていない.最近,更年期障害に対して経皮吸収剤が用いられるようになってきたが,投与ルートが異なると,もたらされる作用・副作用も異なってくる.

 婦人科領域において静脈血栓症が問題となるホルモン療法としては,避妊ピルと閉経後ホルモン補充療法がある.これらはいずれもエストロゲンおよびプロゲスチン製剤を用いるわけであるが,前者が排卵を抑制するほどの投与量を必要とするのに対して,後者ではエストロゲン枯渇による負の影響を改善するレベルで十分という点で大きく異なる.実際,現在主流となりつつある低用量ピル1錠に含まれるエストロゲンの活性は,更年期障害によく用いられるCEE(プレマリン)の約2錠分に相当する.また,併用投与するプロゲスチンの種類,投与量も大きく異なっている.

 なぜ性ホルモン療法が静脈血栓症を誘発するのか.この問いに対する明確な答えはいまだ得られていないようである.本稿では,性ステロイド,特にエストロゲンと血栓症の関係,さらに避妊用ピルおよび閉経後のホルモン補充療法と静脈血栓症との関係について,現在まで判明していることを中心に述べてみたい.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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