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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科58巻5号

2004年05月発行

今月の臨床 血栓症と肺塞栓―予防と対策

肺塞栓症の診断と治療

著者: 藤井弘史1 中谷壽男2

所属機関: 1関西医科大学胸部心臓血管外科 2関西医科大学胸部救命医学科

ページ範囲:P.671 - P.675

文献概要

はじめに

 肺塞栓症とは血栓,脂肪,空気,羊水,腫瘍などの塞栓子が静脈血に乗って肺動脈を塞栓して急性または慢性の肺循環の障害が生じた状態である.血栓による肺塞栓症を肺血栓塞栓症,脂肪によるものを肺脂肪塞栓症などと塞栓子を明示する場合もあるが,肺塞栓の塞栓子の約80%は骨盤あるいは下肢などの深部静脈に形成された血栓であり,肺塞栓症といえば一般的には肺血栓塞栓症を示すことが多い.なお,産婦人科領域では分娩時の羊水による肺塞栓症も失念してはならない.

 少し古いデータではあるが,平成8年度厚生省心身障害研究報告書によると,調査が可能であった197例の妊産婦死亡の原因では,肺血栓塞栓症が17例,羊水塞栓症が7例を占めている.ちなみに,出血性ショックが74例,妊娠中毒症が17例である.前述の報告によると,肺血栓塞栓症による17例の死亡のうち13例が帝王切開後に発症し,妊娠後半において異常とされるBMI 28%以上の肥満例が80%を占めている.術後あるいは長期臥床後の初回歩行時に肺血栓塞栓症が発症しやすく,肥満が危険因子であることは非妊産婦と同様である.同じく,羊水塞栓症による7例の死亡のうち経過記録が明らかな6例中5例が発症後10分以内に呼吸停止,意識障害に陥っており,すべての症例において救命の可能性は不可能あるいは困難と判定されている.なお,肺梗塞とは塞栓症の結果,肺組織が出血壊死となったものである.また,慢性肺塞栓症は肺動脈内の塞栓が溶解されずに器質化した状態で残存したり,肺塞栓症の再発により生じるもので,急性例の1%未満の稀な頻度で肺高血圧を伴った慢性例に移行する.

 肺塞栓症の診断手順や治療方法については絶対的な総意が得られているものはなく,実際の臨床の現場によって意見も異なっている.ここでは,われわれの施設で実施している方法について,肺血栓塞栓症を中心に据えて記述した.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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