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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科58巻6号

2004年06月発行

雑誌目次

今月の臨床 Urogynecology

Urogynecologyの展望

著者: 永田一郎

ページ範囲:P.747 - P.755

Urogynecologyとは


Urogynecologyは女性の泌尿器(特に尿失禁など下部尿路の機能不全)と生殖器(性器脱や腟の瘻孔など骨盤底の機能不全)の疾患を扱う領域であるが,適当な日本語の用語は未だない.泌尿器科ではfemale urologyとして同様の疾患を扱っている.扱う疾患は同じでも科によって得意,不得意がある.婦人科医は下部尿路の詳細な機能検査や尿道,膀胱の取り扱いには不慣れであり,泌尿器科医は腟式子宮全摘術を含む性器脱の手術は不得手であろう.

Urogynecologyの基礎知識

1.女性骨盤底と泌尿生殖器の解剖

著者: 古山将康

ページ範囲:P.756 - P.761

はじめに


高齢化社会を迎え,QOLを左右する排尿,排便機能障害や性器脱に対して機能を重視した治療の必要性が叫ばれている.「pelvic floor disorder(骨盤底臓器機能障害)」を診断,治療するフィールドは,urogynecologyとして欧米では産婦人科診療の第4のサブスペシャリティーとしてすでに確立されている.Urogynecologyは排尿,排便,性交などの重要な骨盤機能を回復,維持させることが目的であり,そのためには骨盤底臓器の解剖学,生理学,病理学の的確な把握を前提とした診断と,それに基づくsite specificな治療法(保存的,外科的)が必要となる.特に産婦人科医がこれまであまり注目してこなかった泌尿器系,生殖器系の機能解剖学が特に大切である.

本稿では,尿道,膀胱,腟,子宮,直腸,肛門の骨盤底での解剖学的支持機構と,それに基づく機能について述べたい.

2.排尿機能

著者: 関聡 ,   井川靖彦 ,   西澤理

ページ範囲:P.763 - P.767

下部尿路の神経生理

1. 下部尿路の末梢神経支配

女性の下部尿路(lower urinary tract)は膀胱(bladder)および尿道(urethra)からなり,尿の貯留と排出という2つの相反した機能を持っている.これらの機能は骨盤神経(pelvic nerve),下腹神経(hypogastric nerve),陰部神経(pudendal nerve)の3つの末梢神経によって支配されている2, 4, 8, 9)

骨盤神経は仙髄から起こり膀胱排尿筋(detrusor)の収縮と尿道平滑筋(内尿道括約筋)の弛緩に関与する.下腹神経は胸腰髄から起こり,主に膀胱体部の弛緩と尿道平滑筋の収縮に関与し,陰部神経は仙髄から起こり尿道横紋括約筋(外尿道括約筋)の収縮に関与する(図1).これら3つの神経はそれぞれ求心路(afferent pathway)と遠心路(efferent pathway)を含んでいる.

3.女性の排尿障害

著者: 角俊幸 ,   石河修

ページ範囲:P.768 - P.771

はじめに

1984年にWHOより「健康度」という概念が提唱されるようになってから,わが国でも「死なないための医療」だけでなく「健康度」を重視した医療が考えられるようになってきた.女性排尿障害はこの「健康度」を著しく低下させる疾患であり,これまで泌尿器科や産婦人科の専門医が診療にあたってきたが,最近ではurogynecologyという専門分野として骨盤機能外科学を中心とした診療が行われつつある.2020年には,わが国の人口の4人に1人が65歳以上となることを考えると,排尿障害の有病率は増加することは明白な事実であり,urogynecologyに対する需要は増加する.女性排尿障害に対する診断・治療は各論に譲るとして,本稿ではその基礎知識を述べることとする.

尿失禁の診断と検査 : 過活動膀胱と腹圧性尿失禁

著者: 加藤久美子 ,   鈴木弘一 ,   村瀬達良

ページ範囲:P.772 - P.777

はじめに

女性の尿失禁保有率は尿失禁の定義や調査法によって大きな幅が出るが,大勢として,生殖期を通じての増加で45~55歳でいったんピークになり(30~40%),停滞ないし微減して高齢層で再び増加する(30~50%)と考えられている1).症状症候群として過活動膀胱を定義する動き2),腹圧性尿失禁に対するTVT手術の普及3)が追い風となって,女性泌尿器科(female urology,urogynecology)の分野は本邦でも泌尿器科,産婦人科の双方で成長しつつある.

女性尿失禁の多くは,問診で尿意を我慢できずに漏れる切迫性尿失禁か,咳や運動で腹圧がかかると漏れる腹圧性尿失禁かに分け,基本的検査で診療方針を立てることができる.瘻孔や神経疾患の初発症状が排尿障害である場合など診断に難渋し,また子宮癌治療後の排尿障害も産婦人科領域で大切であるが4),本稿は過活動膀胱と腹圧性尿失禁の実践的な診断に絞って述べる.

尿失禁の治療

1.尿失禁の薬物療法

著者: 野田洋一 ,   木村俊雄 ,   樽本祥子 ,   藤原睦子 ,   喜多伸幸

ページ範囲:P.779 - P.781

はじめに

近年,わが国においては高齢化社会が進み,更年期女性のQOLにかかわる病態として尿失禁が問題とされてきている.しかし,この問題に関する要因は決して高齢化に関するもののみではない.最近の報告にみられる尿失禁の発生に関する疫学調査では,単に婦人の高年齢や肥満のみならず,分娩の態様をも要因として分娩をきっかけとして比較的若年の婦人にも尿失禁が発生していることが報告されている1, 2).事実,われわれの経験する日常の臨床においても,100 kgを超える体重のご婦人に遭遇する機会が増えており,これらは30年前には滅多に経験しなかったことであり,わが国における食生活の変化が実感される.このような現象を見る限り,米国をはじめとする諸外国にみられる排尿障害に関する議論と,わが国における議論とはようやく同じ土俵で議論がかみ合う時代が到来したというべきであろう.

本稿では,与えられたテーマである尿失禁の薬物療法について実際の診療に則して具体的に述べる.

尿失禁は,腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁といくつかの種類に分類でき,発生頻度や治療法も尿失禁のタイプにより異なる3).尿失禁のなかでは腹圧性尿失禁が約半数を占め,切迫性尿失禁との混合型を含めると約70%となる4)

多数を占める腹圧性尿失禁に対して薬物療法は,理学療法や手術療法の補助的な治療と位置づけられるが,即効性があり,低侵襲であることから,患者のQOLの向上のためには積極的に行うべき治療法と考えられる.また切迫性尿失禁の治療は薬物療法が有効であり,第一選択となる.混合性尿失禁は腹圧性と切迫性の両因子の混合したものであるが,まず切迫性尿失禁の治療を行い,加えて腹圧性尿失禁の治療を行う.

薬物療法の実施に際しては,その薬物の治療効果を厳密に判定し,治療に抵抗する場合には,治療方法の再検討を行う必要がある.

2.尿失禁の理学療法

著者: 花井禎

ページ範囲:P.782 - P.785

はじめに

理学療法には生活指導,骨盤底筋体操,バイオフィードバック療法,電気や磁気による刺激療法などがあり,単独あるいは複数の手法の組み合わせで行われる.一般には,軽症から中等症にはまず理学療法を行い,中等症から重症例には外科的治療が適応となる.ここでは特に骨盤底筋体操と電気や磁気による刺激療法について詳細に述べることとする.それぞれの治療方法のポイントを表1にまとめたので参照していただきたい.

3.尿失禁の手術療法

著者: 嘉村康邦 ,   山口脩

ページ範囲:P.786 - P.791

はじめに

近年の尿失禁手術の変遷はめまぐるしい.加藤ら1)は尿道スリング手術に関する論文のなかで,「女性腹圧性尿失禁の手術術式は100余に及び,短期の成績でもてはやされ,合併症,長期成績で失墜する栄枯盛衰を繰り返してきた」と述べている.1980年頃より,Burch法や,Marshall─Marchetti Krantz法などの開放手術が激減し,Stamey法に代表される針式膀胱頸部挙上術が主流となった.しかし,これらの長期成績が不良であると報告されると,以前は再発性尿失禁などの重症尿失禁のみに適応とされた尿道スリング手術が注目を浴びるようになった2, 3).スリング材料は,患者自身の筋膜を用いる施設もあれば,人工材料のところもある.また,スリング材料の牽引糸を恥骨に固定する方法(恥骨固定式尿道スリング手術)がポピュラーになった時期もある.一方で,Burch法の長期成績がよいことから,laparoscopic Burchを試みている施設もある4).また,スリング手術でありながら,従来の尿禁制理論とは異なる考え方から生まれた,膀胱頸部ではなく中部尿道をtension freeでスリングするTVT法が,1999年,本邦でも保険適用となり急速に普及しつつある5).このように手術手技が乱立しているのは,真に長期の尿禁制効果が良好で,かつ低侵襲の方法をまだ模索中であるからに他ならない.

骨盤内臓器下垂・脱の診断と検査

著者: 古谷健一 ,   永田一郎 ,   菊池義公

ページ範囲:P.793 - P.801

はじめに

最近,子宮下垂・脱を含む骨盤内臓器の位置異常と排尿異常に対する関心は非常に高く,欧米では泌尿器婦人科医(urogynecologist)や女性泌尿器科(female urology)という新しい専門分野も確立しつつある.本稿ではそうした最近の趨勢を考慮して,①性器脱評価法の変遷,②外来における骨盤内臓器下垂・脱の評価法(POP─Q法など),③尿道膀胱子宮造影法,④性器脱の自己評価,および手術適応に関して概説したい.

骨盤内臓器下垂・脱の治療

1.骨盤内臓器下垂・脱の保存療法 : 新型ペッサリーの開発

著者: 佐藤浩一 ,   可世木久幸 ,   十藏寺新 ,   井上保 ,   朝倉啓文 ,   竹下俊行

ページ範囲:P.804 - P.807

はじめに

子宮脱,下垂の保存的治療に対し,従来わが国で多く使用されているリングペッサリーは,装着時挿入困難なもの,装着後嵌頓して用手的抜去が困難なもの,自然脱落,滑脱してしまうものがあった.また,装着後の装着感が必ずしも良好でない症例もあった.さらに全子宮脱,不全子宮脱ともに多くは膀胱脱を合併しており,併せて治療する必要がある.

このように従来使用されてきたリングペッサリーにはさまざまの欠点があるにもかかわらず,これまでその改良は十分になされてこなかった.これに対して,われわれは子宮脱,膀胱脱治療に有用な新型ペッサリーの開発を目的とする研究を行っている.本稿では,われわれの研究の足跡を紹介する.

2.骨盤内臓器下垂・脱の手術療法

著者: 工藤隆一 ,   寒河江悟 ,   伊東英樹 ,   山内修

ページ範囲:P.808 - P.811

はじめに

骨盤内臓器下垂・脱に関する手術療法は多彩で,これらのすべての術式について述べることは誌面の関係で不可能である.そこで本稿では,これらの疾患のなかで頻度が高い子宮下垂・脱と膀胱瘤,直腸瘤を伴った症例の手術療法を中心に記載したい.また本号のテーマがurogynecologyであることから,尿失禁などの症状の改善を目的とした手術操作についても述べたい.

産婦人科手術後の排尿障害への対応

著者: 平松祐司 ,   舛本明生 ,   洲脇尚子

ページ範囲:P.812 - P.815

はじめに

健康人では,尿は腎で産生され尿管を通過し膀胱に集まり,約300 ml貯留すれば排尿反射が起こり尿意が生じ,外尿道括約筋の収縮は抑制され,膀胱頸部と内尿道括約筋は弛緩し,同時に膀胱の排尿筋は収縮し,尿は尿道を通り排尿される.この正常な排尿機能の過程の一部に障害が起こった場合,一般的に排尿障害と総称される.

排尿障害には大きく分けて,1)回数異常型,2)排尿困難型,3)尿失禁型がある.今回のテーマである術後排尿障害は主に排尿困難型である.

連載 知っていると役立つ婦人科病理・59

What is your diagnosis ?

著者: 小川史洋 ,   石原理 ,   清水道生

ページ範囲:P.743 - P.745

症例 : 61歳,女性.2経妊,2経産

子宮筋腫および左卵巣腫瘍の診断のもと,単純子宮全摘術および両側卵巣摘出術が施行された.Fig 1は摘出された左卵巣腫瘍(直径5 cm)の割面の肉眼像で,Fig 2,3はその組織像(HE染色)である.

病理診断は何か.

Dos&Don'ts婦人科当直の救急診療ガイド・1

[性器出血を伴うもの]子宮悪性腫瘍(子宮頸癌・体癌)

著者: 澤田類 ,   村上節 ,   八重樫伸生

ページ範囲:P.818 - P.821

1 はじめに

子宮の悪性腫瘍患者が休日あるいは夜間に救急外来を受診するのは,比較的大量に出血した場合と想定して話を進める.というのも,少量の性器出血であれば通常の診療時間内に受診することができるであろうし,たとえ救急外来を受診したとしても,緊急の対応は必要ないであろうからである.よって本稿では,悪性腫瘍の診断がついていないまったくの初診患者か,あるいは悪性腫瘍の診断がついていて婦人科外来でフォローアップされている(おそらく進行した)症例が中等量以上の出血を起こして来院し,基本的に入院管理を必要とする場合についての診療の流れを述べていきたい.

病院めぐり

いわき市立総合磐城共立病院

著者: 矢野正浩

ページ範囲:P.822 - P.822

福島県は南北に走る阿武隈高地,奥羽山脈により,太平洋岸から浜通り・中通り・会津の三地方に区分され,気候も文化も大きく異なります.浜通りの南部,いわき市は,豊かな海と温暖な気候から「東北の湘南」と呼ばれることもあります.当院はいわき市のほぼ中央に位置しており,昭和25年に内科・外科・産婦人科の3科,病床数50床で開設されましたが,現在では病床数893床,診療科22科,3次救命救急センターを併設する浜通りの医療の中心となっています.産婦人科の病床数は産科27床,婦人科43床であり,常勤医4名,研修医1名で診療に当たっています.


産科においては,浜通り唯一の地域周産期センターであること,未熟児・新生児科が独立しNICUが充実していることから,福島県のみならず宮城県南から茨城県北の太平洋岸の高次周産期医療のセンター的役割をしています.新生児科医師とのカンファレンスを毎週行い,ハイリスク妊婦や出生後の児の経過などの情報を交換し周産期管理にフィードバックしています.また病病・病診連携を密にすることにより,ハイリスク妊婦を早めに紹介していただくようにしていますが,それでも2003年には98例の緊急母体搬送がありました.2003年の分娩数は668例で,そのうち帝王切開は257例(38.5%)とハイリスク妊娠の多さを物語っています.

新潟県立中央病院

著者: 有波良成

ページ範囲:P.823 - P.823

新潟県は日本海沿岸のほぼ中央に位置し,面積は12,582km2で全国5位,人口は約246万人で全国14位,また北東から南西に非常に長く,海岸線は345kmもある.以前紹介されたが,県立病院数15は岩手県に次ぎ全国2位で,過疎地を抱える県土の医療を担う.県(越後)を南北におよそ3分し,京都側(南)から上越,中越,下越に分ける.

当院は新潟のはずれ,上越地方の中心である上越市にある(下越にある県都新潟市まで約130km).なお,上越(上州~越後)新幹線とは無関係である.当院の歴史は古く,明治8年の創設で,120年を超える歴史とその長い間に築き上げた信頼を持ち,平成9年には新病院に移転し救命救急センターを整備し,今では20診療科,532床の堂々たる基幹病院として,3次救急,高度先進医療,新生児医療,がん医療をはじめ地域医療の役割を実践している.また,隣設する県立看護大学の看護学生の実習に加え,平成16年度より臨床研修医の受け入れも始まった.

婦人科超音波診断アップグレード・3

経腟超音波の子宮体癌スクリーニングへの応用(2)

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.825 - P.830

1 経腟超音波菲薄内膜体癌の病態

子宮体癌のスクリーニングに経腟超音波を導入するにあたり,偽陰性例の存在は重要な問題の1つである.われわれは,経腟超音波でcut off値を満たす,子宮内膜厚を示さない子宮体癌例を経腟超音波菲薄内膜体癌と呼称し,その病態について検討してきた.経腟超音波菲薄内膜体癌の病態を知ることは,その診断・治療につながるため重要と考えるからである.自験例5例(図1,2,3,4,5)と文献的考察をもとに検討したところ,(1)極小病巣体癌,(2)びまん性浅層浸潤体癌,(3)主として筋層内に浸潤する体癌,(4)漿膜下や筋層内嚢胞・腫瘍の癌化,などが考えられ,(3)には腺筋症に沿った浸潤例,内向性発育が特に高度な例,(4)には子宮腺筋症の癌化例,mesonephric originの悪性化例1),congenital intramural cyst2, 3)の癌化などがあり得るものと思われた(表1).“主として筋層内に浸潤する体癌”については,“intramural carcinomas”,“intramural”spreadsとしてKuwashimaら4, 5)がその存在について注目しており(図6),内膜から発生した体癌が筋層への浸潤を強く示す場合,腺筋症から発生する場合,漿膜下嚢胞より発生する場合などを想定している.

OBSTETRIC NEWS

超低体重児(≦600 g)の生存率と長期転帰(南カリフォルニア大学)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.832 - P.833

超低体重児出産が予想される場合の妊婦と家族に対する説明には難しい問題がある.最終的には生存児に長期的ハンディキャップが残らない率がどれくらいなのかが新生児蘇生の際の重要な判断因子となるが,さらに胎児と新生児の生存権の問題をどのように加味するかなど解決し難い問題であろう.

最近の報告では,超低体重児の長期間ハンディキャップは出生時児体重500 g以下では60%,500~599 gでは67%である(Pediatrics 101 : 438, 1998/Arch Pediatr Adolesc Med 154 : 725, 2000).出生時妊娠週数別では,妊娠24週以下では66~72%,妊娠25週では38~53%(BJOG 104 : 1341, 1997/Ob Gyn 90 : 809, 1997)と報告されている.英国とアイルランドにおける超低体重児の生存率と長期転帰に関する研究では,生存率20%,身体障害(@30か月)72%であった(NEJM 343 : 378, 2000).母体に絨毛膜羊膜炎が合併する場合は,超低体重児の敗血症,呼吸窮迫症候群,脳室内出血,脳室周囲白室軟化症および痙攣が増加し,生存率と長期転帰はさらに悪化する(Ob Gyn 91 : 725, 1998).

症例

鼠径部腫瘤より発見された卵巣癌の1例

著者: 卜部理恵 ,   松浦祐介 ,   坂井啓造 ,   田中真由美 ,   川越俊典 ,   土岐尚之 ,   柏村正道

ページ範囲:P.835 - P.838

鼠径部腫瘤より発見された卵巣癌の1例を経験した.症例は53歳.圧痛を伴う1.5 cm大の硬い左鼠径部腫瘤を自覚し,左鼠径ヘルニアの診断で左鼠径部腫瘍切除術が施行された.病理組織診で類内膜腺癌と診断され,婦人科原発の悪性腫瘍が疑われ当科を受診した.画像検査より悪性卵巣腫瘍を疑い開腹術を施行した.左卵巣は4 cm,右卵巣は3 cm大に腫大し,表面は不整であり,骨盤内に限局した最大2 cmの播種巣を認めた.左鼠径部腫瘍の断端は円靱帯と連続しており,鼠径ヘルニア内の腹膜播種と考えられた.左右卵巣組織の病理診断は,左鼠径部腫瘍と同様に類内膜腺癌であった.術後診断は卵巣癌IIc期となり,術後化学療法を6コース施行後,現在は無病状態である.転移性の鼠径ヘルニア嚢腫瘍はきわめて稀であるが,ヘルニア手術の際の腫瘤性病変に対しては積極的に組織検査を行う必要がある.


はじめに

鼠径ヘルニアの手術を行った症例の約0.07%に悪性腫瘍の転移が認められたとの報告があり1),鼠径ヘルニア内に悪性腫瘍を認めることはきわめて稀である.本邦では,われわれが検索した限り卵巣癌の転移が鼠径ヘルニアから発見された報告は竹内ら2)の1症例にすぎない.今回われわれは,鼠径部腫瘤を主訴として来院し,精査の結果,卵巣癌が発見された症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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