icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科58巻7号

2004年07月発行

雑誌目次

今月の臨床 産婦人科医に必要な乳がんの知識 乳がん検診

1.乳がんは増えている

著者: 三浦重人

ページ範囲:P.857 - P.861

はじめに

西洋人に比べて東洋人女性に乳がんが少ないことは,昔からよく知られた事実である.多くの疫学調査研究を通して,東西間には食生活や性生活をはじめとする生活習慣に大きな差があり,このような環境要因が乳がん発生率の差を産むものと考えられてきた.

ところが近年,日本でも急速な経済成長と生活様式の欧米化に伴って女性の体位が向上し,同時に乳がんが増加してきた.といっても現在はまだ日本人乳がんの罹患率は欧米よりはるかに低く,何世紀にもわたる東西の民族間格差は保たれているのであるが,今後の日本人乳がんの動向に対しては真剣な予防対策を考えていく必要があるようである.

2.乳がん検診のあり方

著者: 宇佐美伸 ,   大貫幸二 ,   大内憲明

ページ範囲:P.863 - P.867

はじめに

わが国においても乳がんの罹患率が急速に増加し,現在女性の悪性腫瘍のなかでは最も罹患率の高いがんとなっている.日本においては40歳代で最も罹患率が高いことが特徴で(図1)1),患者およびその家族にとっての問題はいうに及ばず,もはや乳がんは社会的な問題といっても過言ではないであろう.

それだけに昨今,乳がん,とくに乳がん検診に対する社会の関心は大きく,厳しい眼が向けられるようになってきている.この傾向はさらに今後ますます高まっていくものと思われる.

一方,乳がん検診受診者の約7割が産婦人科医による検診を受けているともいわれており2),乳がん検診における産婦人科医の果たす役割と責任は大きい.

3.産婦人科医と乳癌検診

著者: 永井宏

ページ範囲:P.868 - P.873

はじめに

平成15年8月24日の朝日新聞上,乳癌見落とし(女性39歳)の記事に端を発した一連のキャンペーンは,乳癌検診のあり方に論を賑わし,各方面に大きな波紋を及ぼした.

これを受けて,厚生労働省は乳癌と子宮癌検診のあり方を見直す「がん検診に関する検討会」を設け,特に乳癌検診と子宮癌検診のあり方の見直しが始まった.これらは,平成16年3月いっぱいをかけて結論をまとめ,ある程度の方向性が示される予定となっている.本稿において,現在までの乳癌検診における日本産婦人科医会の歩み,および婦人科医の取り組みを記し,現時点での乳癌に対する婦人科医の取り組み方,および産婦人科乳癌研究会を中心としてまとめられている産婦人科医としての検診参加のための研修目標について述べる.また,現ガイドライン下で行われている仙台市における乳房検診の現況を紹介したい.

乳がん検診の実際

1.問診と視診・触診

著者: 佐川正 ,   岩本幹子 ,   鷲見尚己

ページ範囲:P.875 - P.883

はじめに

高エストロゲン状態が乳癌のリスク因子と考えられているが,乳癌患者の5~10%は遺伝的素因により乳癌に罹患するとされ,乳癌の家族歴が最も強力なリスク因子であることが欧米の疫学的調査で明らかにされている.したがって,問診では内分泌学的因子だけではなく,乳癌,卵巣癌などの家族歴,既往歴を詳細に聴取し,遺伝的素因を見逃さないようにすることが大切である.

現在,乳癌検診には,マンモグラフィと視触診によるマンモグラフィ併用検診が導入されているが,マンモグラフィ単独では約10%の乳癌が検出不可能であると報告されている1).特に50歳未満の若年齢では検出不能の率がさらに高くなることが指摘され,また,マンモグラフィで検出不能の乳癌には腫瘤径が1~2 cmの浸潤癌が多いことも見過ごせない問題である.したがって,マンモグラフィ併用検診を行うに当たっても,われわれは視触診の精度を高めて,乳癌の見逃しを避けることが必要である.

2.マンモグラフィ

著者: 遠藤登喜子

ページ範囲:P.884 - P.887

はじめに

マンモグラフィ併用検診は,死亡率減少効果があるとする相応な根拠(40歳代),あるいは十分な根拠(50歳以上)があると評価されており1),2000年3月には50歳以上に導入が通達され2),通達には精度を保つための精度管理の概念が盛り込まれていることが特徴である.さらに,2003年12月から2004年4月まで,厚生労働省は「がん検診に関する検討会」を招集,その中間報告3)を受けて対象を40歳以上と拡大するとともに,視触診単独検診は廃止し,30歳代の検診は調査・研究事業の対象と位置づけられると予想されている.本稿では,マンモグラフィ検診の実際について述べる.

乳がんのリスク

1.ピルと乳がん

著者: 倉澤健太郎 ,   茶木修 ,   平原史樹

ページ範囲:P.888 - P.893

はじめに

近年,米国のWHI1)や英国のMillion Women Study2)の報告などの大規模スタディにより,ホルモン補充療法のリスクとして乳がんがクローズアップされてきている.しかし,多くの論文では従来のホルモン補充療法がその主役であり,いわゆる低用量ピルを主眼に置いたものはほとんどないといっても過言ではない.とりわけ,日本では低用量ピルの認可が遅れたこともあって,日本人のランダム化された大規模スタディは皆無である.さらに,欧米諸国の20歳代女性の避妊が50%以上経口避妊薬の内服によるものだが,日本人女性は1%に過ぎない.今後の研究が望まれるが,低用量とはいってもエストロゲン製剤を投与する限り,乳がんのリスクは十分に考慮・検討されるべきである.

2.HRTと乳がん

著者: 麻生武志

ページ範囲:P.894 - P.899

はじめに

女性の悪性新生物のなかで近年著しい増加をみせているのが乳がんであり,1996年に約30,000であったわが国での罹患数が,近年の集計では35,000人となっている.1983~87年の集計で対人口10万当りの乳がん死亡数が約28と世界的に最も高いイングランド・ウエールズに比して日本女性では5.8であったが,その20年前には3.9であったことからも,この間のわが国での増加傾向は明らかである1).また,わが国での乳がんの年齢層別罹患率は40歳代の後半にピークを呈して65歳までそのレベルを保ち,死亡率は50歳代の中頃に最高となるパターンは欧米と異なり(図1)2),中高年女性のヘルスケアにおける乳がんの診断・治療はきわめて重要である.

一方,閉経以降や両側卵巣摘除に生じるestrogenの低下とその後の持続的な欠乏状態に起因する種々の機能障害に関する詳細な検討が進むにしたがって,estrogenは単に生殖機能に関連するホルモンであるのみならず,女性の生命維持にもきわめて重要で多彩な作用を有することが明らかとなり,その低下・欠乏を補うことによって各種機能の障害が防止され,機能の回復を期待できることが示されている.以上のような背景に治療から予防へ向けての医療の基本姿勢の転換が加わって,ホルモン補充療法(hormone replacement therapy : HRT)が実地臨床の場に導入されるようになった3).一方,乳腺細胞・組織の分化発育はホルモン依存性であり,乳がんリスクが高まる更年期に外因性ホルモンを使用するHRTを実施するリスクとベネフィットは慎重に判断されなければならない.

3.家族性乳がん

著者: 石飛真人 ,   三好康雄 ,   野口眞三郎

ページ範囲:P.900 - P.903

はじめに

家族性乳癌は,全乳癌のうち5~10%を占める1).家族性乳癌は,その多くが遺伝的要因が主な原因であると考えられる遺伝性乳癌である.近年,遺伝性乳癌の原因遺伝子であるBRCA1, BRCA2が相次いで発見され,遺伝性乳癌の遺伝子診断が可能になった2, 3).本稿では,日本人の家族性乳癌におけるBRCA1, BRCA2の変異の頻度,BRCA1癌およびBRCA2癌の臨床病理学的特徴,BRCA1, BRCA2変異保因者における乳癌罹患リスク,変異保因者に対するマネージメントについて概説する.

乳がんの診断

1.乳癌の分類と病理

著者: 猿丸修平 ,   秋山太

ページ範囲:P.904 - P.907

はじめに

乳腺疾患の組織学的な分類を理解することは,乳腺診療の場,とくに画像診断において必要不可欠なものとなっている.マンモグラフィや乳腺超音波などの画像所見から得られた情報を単に「悪性か良性か?」のレベルではなく,組織型のレベルまで掘り下げて考えることが診断精度の向上につながる.

2.乳腺症,良性腫瘍との鑑別

著者: 山片重房 ,   山本久美夫 ,   山本彰 ,   田村一富

ページ範囲:P.910 - P.915

婦人科医と乳房疾患

分娩・授乳,乳腺炎,乳汁漏出性無月経など,乳房は産婦人科診療の対象臓器として,その生理・病理を含まない教科書は存在しない.にもかかわらず,子宮癌・卵巣癌という女性特有の癌を取り扱う立場にある婦人科医が,なぜか乳癌にだけは例外的に敬遠姿勢を続けてきたようにみえる.そこでまず,次のような実態を再認識し,いま何が求められているのかを知ることから始めたい.

3.乳がんの細胞診,組織診

著者: 元村和由 ,   南雲サチ子 ,   柄川千代美 ,   菰池佳史 ,   稲治英生 ,   小山博記

ページ範囲:P.916 - P.921

はじめに

乳房病変の診断に際し,視触診,超音波検査,マンモグラフィがルーチンに行われる.腫瘤が触知される場合,画像上の非触知腫瘤,マンモグラフィ上悪性が疑われる石灰化が存在する場合には,さらに生検による確定診断が求められる.生検手技として主に穿刺吸引細胞診,外科的生検が行われてきたが,最近ではコア針生検,吸引式針生検が汎用されるようになってきている.本稿では,穿刺吸引細胞診,コア針生検,吸引式針生検の生検手技と診断におけるアルゴリズムを概説する.

4.乳がんの画像診断(CT,MRI)

著者: 木村青史

ページ範囲:P.922 - P.927

はじめに

近年,乳癌診療に導入されてきたCTやMRIは,これまでのマンモグラフィや超音波検査では得ることのできないインパクトのある画像をわれわれに提供してくれる.これらは,高い空間・時間・組織分解能を示し,画像加工にも優れた新たな診断モダリティである.本稿では,CTおよびMRIを用いた乳癌の画像診断についてわれわれの方法と症例を紹介し,その有用性と今後の展望について述べる.

乳がんの治療

1.乳がん治療における最近の動向 乳房温存療法─その考え方と限界

著者: 園尾博司 ,   中島一毅

ページ範囲:P.928 - P.933

はじめに

30年前に世界で初めての乳房温存療法の無作為比較試験が始まり,乳房温存療法〔乳房温存手術に放射線治療〔放治〕を加える治療〕が乳房切除術と同等の生存率を示すことが報告された.その後,現在まで多くの臨床研究が行われ,乳房温存療法は多少の乳房内再発はみられるものの乳房切除術と同等の生存率を示すことが確認され,広く普及している.わが国では,乳房温存療法は15年余前から徐々に導入され,その後急速に普及し,2000年現在,わが国における乳房温存療法の頻度は41%である1).一方,2000年から乳がん検診にマンモグラフィが導入されたことにより,今後わが国の早期乳癌の比率は上昇し,乳房温存療法の頻度がさらに高くなるものと推測される.また,術前化学療法を取り入れ,乳房温存率を高めると同時に予後の改善をはかる臨床治験が行われつつある.本稿では乳房温存療法の現況,その考え方および限界について述べてみたい.

2.乳房再建術

著者: 酒井成身

ページ範囲:P.934 - P.939

はじめに

乳癌で乳房を喪失せざるを得なくなった女性の悩みは深刻である.これらを解消する手段の1つとして乳房再建がある1~3)

連載 知っていると役立つ婦人科病理・60

What is your diagnosis ?

著者: 島田志保 ,   廣瀬隆則 ,   清水道生

ページ範囲:P.853 - P.855

症例 : 38歳.女性

多発性子宮筋腫と臨床的に診断され,子宮筋腫核出術が施行された.Fig 1(弱拡大)およびFig 2(強拡大)は,その核出されたなかの1つの結節(直径7 cm大)の代表的な組織像(HE染色)である.

診断名は何か.

もうひとつの国境なき医師団・1

意外な展開

著者: 東梅久子

ページ範囲:P.941 - P.941

ある冬の日,長年の夢が叶って退職が決まった.教授に進路を問われたものの決まっていなかったので答えられなかった.しばらくどうしたものか逡巡した末,退職が押し迫った3月下旬,イラク戦争が始まった日に国境なき医師団日本へ応募書類を送った.

国境なき医師団(MEDECINS SANS FRO─NTIERES,MSF)が国際的な民間医療援助団体であることを知る産婦人科医は多いと思う.しかしながら,国境なき医師団が主な活動の対象とする戦争,紛争,貧困に苦しむ人々という言葉からイメージされるのは,遠く思い及ばない国で起きている遠く思い及ばない出来事というのが一般的ではないだろうか.私自身そのような遠く思い及ばない国の辺境の地で産婦人科医から離れてひとりの一般医として働くことを考えての応募であった.

病院めぐり

茨城県立中央病院茨城県地域がんセンター

著者: 武知公博

ページ範囲:P.944 - P.944

当院は,県都水戸市に隣接した西茨城郡友部町にあります.最寄りの常磐線「友部駅」は水戸駅から上野方面へ向かって3つ目の特急停車駅で,周囲は風光明媚な田園地帯です.初夏には蛙の鳴き声が響きわたる大変のどかなところで,県立中央病院の「中央」とは,決して茨城県の政治・経済・文化の中心地にあるという意味ではなく,茨城県の地理的中央に位置しているからこそ,との感を深くしています.

当院は昭和31年に結核患者を対象とした県立友部療養所として開設され,翌32年には県立中央病院と改称,36年に12診療科を有する総合病院となり,平成7年には「茨城県総合がん対策推進計画」に基づき「地域がんセンター」が併設され,現在に至っています.茨城県唯一の県立総合病院として500床を有し,二次救急,がん,難病,結核,エイズ,僻地医療,緊急被爆医療,災害拠点などの政策医療を担いつつ,地域の中核病院としての責務を果たしています.

独立行政法人国立病院機構姫路医療センター

著者: 越山雅文

ページ範囲:P.945 - P.945

国立姫路病院は,平成16年4月1日より,国立病院の独立法人化政策のもと,独立行政法人国立病院機構姫路医療センターと名称が変わりました.当病院は,姫路(人口約47万人)の中心街に位置し,あの世界遺産で有名な姫路城の東隣りに位置し,環境的にも恵まれた病床数430床の西播磨の中心的病院です.もともとは明治31年に姫路陸軍衛生病院として設立され,昭和12年に姫路陸軍病院となり,昭和20年に国立姫路病院として発足した歴史のある病院です.ところが,近年,当院はまったく新しい病院に変貌し,平成12年8月には入院病棟が,平成14年9月には外来棟が新築され,姫路城の景観とマッチした綺麗でかつ清潔感のある病院に生まれ変わっています.

産婦人科に関していえば,以前,母子センターと呼ばれていたように,周産期中心の診療形態をとっていました.現在も国の生育医療強化病院に指定されており,NICUも可動しています.分娩は,基本的に陣痛促進薬をできる限り使用しない自然方式にしており,LDR室にて家族と一緒にゆったりとした雰囲気のなかで安全に子供を産めるように配慮しています.

OBSTETRIC NEWS

妊娠中の妊婦体重増加制限は有用か?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.947 - P.949

最近,日本でも“evidence based medicine”という用語をしばしば見聞する.多くの日本の妊婦は,妊娠中に体重増加を制限すれば妊娠中毒症や巨大児を予防できるので「体重増加制限が常識」と考えている.妊婦に体重増加制限を指示すれば妊娠転帰に恩恵があるという証拠はあるのだろうか.皮肉なことに,独断的に決めたある体重増加以下に制限しても妊娠中毒症や巨大児が原因の分娩進行停止は減少しないという証拠が多数ある.米国産婦人科学会(ACOG)が共同で作成しているreview(約8,000のトピックスが取り上げられ,随時改訂されている)を中心にこの問題を考察する.

1. Williams Obstetrics. 21版

1)歴史的変遷

20世紀前半までは,妊娠中の体重増加は9.1 kg未満に制限することが勧められていた.その理由は,妊娠中の高血圧性疾患や巨大児(結果的に器械的分娩となる例が増加)を防ぐと信じられたからである.その後,1970年代までは早産や子宮内発育制限を防ぐために11.4 kg以上増えるように鼓舞された.1990年代になり米国のInstitute of Medicineから妊娠前BMIが正常の場合は11.5 kgから16 kgの増加が推奨されるようになり,米国小児科学会(AAP)とACOGもこの指針を承認している.英国では1991年に6.8 kgから11.4 kgの増加を推奨(正常BMI妊婦)(Committee on Medical Aspects of Food Policy)(Report of the Panel on Dietry Reference Values)するに至っている.

婦人科超音波診断アップグレード・4

子宮留腫の超音波所見

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.951 - P.958

[1] はじめに

子宮留腫は,子宮腔内に各種貯留液が存在する病態であり,貯留液の性状により子宮留膿腫,留水腫(粘液,漿液),留血腫に区別される.用語上,臨床症状を伴う場合には留膿症,留血症と呼称すべきだが,便宜上,留腫と表現する.貯留液量に関する定義は特になく,報告例としては留膿腫で1 ml未満から記述1)が認められており,大きなものでは留膿腫で1,400 mlの内容液2),臍上に及ぶもの3),成人頭大のもの4)が報告されている.

留膿腫の頻度は婦人科外来患者の0.01~0.5%5~7)で,閉経後婦人に多く,60歳以上の高齢者の13.6%に認められたとの報告1)がある.留水腫の頻度については,Carlsonら8)は50歳以上の450例の婦人中で20例(4.4%)の子宮腔内液体貯留例(留水腫と考えられる)を検出したことを述べている.Vuentoら9)は,経腟超音波を用いて1,074例の無症状の閉経後婦人中で子宮腔内液体貯留例34例(12%)を検出しており,Bar─Havaら10)も経腟超音波を用いて1,175例の無症状の閉経後婦人中で166例(14.1%)の子宮腔内液体貯留例を検出している.留血腫についての頻度に関する報告は認められていないようであるが,われわれが経験した子宮留腫51例の内訳は留水腫32例(62.7%),留膿腫14例(27.5%),留血腫5例(9.8%)であり,留血腫の頻度は留水腫の15.6%,留膿腫の35.7%程度の比率であった11)

Dos&Don'ts婦人科当直の救急診療ガイド・2

[性器出血を伴うもの]子宮筋腫,ポリープ

著者: 宮武崇 ,   上田豊 ,   榎本隆之 ,   村田雄二

ページ範囲:P.959 - P.963

[1] 各疾患の概要

1. 子宮筋腫

子宮腫瘍のなかで最も高頻度にみられ,30歳以上の女性では20~30%にみられる.約2/3は無症候性で,出血など臨床上問題となる症状を示すものは約10%である.

発生,発育はエストロゲン依存性であるため,閉経後は数年で縮小する.

2. 子宮内膜ポリープ

多くは50代以降に発生し,閉経後女性で無症候性子宮内膜ポリープは約10%にみられる.タモキシフェン服用者にみられることも少なくない.

3. 子宮頸管ポリープ

成人女性の4%程度にみられる.子宮頸管内を発生母地としているが,子宮腟部に由来するものもある.発生には炎症性変化が関与していると考えられており,悪性化することは稀である(<1%).

症例

腸結核を併発した産褥期結核の1症例

著者: 松本安代 ,   紙森隆雄 ,   藤原仁史 ,   横田光 ,   藤川晃成 ,   向井秀一 ,   川端眞人 ,   椋棒正昌

ページ範囲:P.965 - P.967

近年,結核の再興は問題となっている.1999年に「結核緊急事態宣言」が出されたのち罹患率は低下したものの,まだ毎月全国で300人を超える20~30代の新規結核患者の登録がある.妊産婦結核の頻度は高くはないが,診断・治療が遅れたり,妊娠中もしくは授乳中であるため,患者の受診自体も遅れやすい.今回われわれは,腸結核を伴う産褥期肺結核症例を経験した.妊産婦において咳嗽,不明熱の症状があれば結核も念頭において診療することが必要である.


はじめに

結核は,世界的にみて単一病原体による感染症としてはHIV/AIDSに次いで死因第2位であり,年間約200万人が死亡し,2000年においては800~900万人の新規患者が推定されている1).成人の新規結核患者の9%がHIV陽性であることから,二次感染としての結核の再興,また途上国における貧困と人口過密による結核の流行,そして薬剤耐性結核の増加は非常に注目されている2).日本における結核は,1997年より3年連続して罹患率の上昇を認め,1999年には人口10万人対34.6となり「結核緊急事態宣言」が厚生省より出された.以後,罹患率は低下したものの,毎月全国で2,000人を超える新規患者登録があり,20~30代がその17%を占める2).特に妊娠・産褥期は妊娠中もしくは授乳中であるため,受診の遅れ(patient's delay),診断・治療の遅れ(doctor's delay)につながりやすい3)

今回われわれは,産褥期に発熱と腹痛を主訴に来院し,腸結核を併発した肺結核症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻12号(2022年12月発行)

今月の臨床 帝王切開分娩のすべて―この1冊でわかるNew Normal Standard

76巻11号(2022年11月発行)

今月の臨床 生殖医療の安全性―どんなリスクと留意点があるのか?

76巻10号(2022年10月発行)

今月の臨床 女性医学から読み解くメタボリック症候群―専門医のための必須知識

76巻9号(2022年9月発行)

今月の臨床 胎児発育のすべて―FGRから巨大児まで

76巻8号(2022年8月発行)

今月の臨床 HPVワクチン勧奨再開―いま知りたいことのすべて

76巻7号(2022年7月発行)

今月の臨床 子宮内膜症の最新知識―この1冊で重要ポイントを網羅する

76巻6号(2022年6月発行)

今月の臨床 生殖医療・周産期にかかわる法と倫理―親子関係・医療制度・虐待をめぐって

76巻5号(2022年5月発行)

今月の臨床 妊娠時の栄養とマイナートラブル豆知識―妊娠生活を快適に過ごすアドバイス

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号 最新の不妊診療がわかる!―生殖補助医療を中心とした新たな治療体系

76巻3号(2022年4月発行)

今月の臨床 がん遺伝子検査に基づく婦人科がん治療―最前線のレジメン選択法を理解する

76巻2号(2022年3月発行)

今月の臨床 妊娠初期の経過異常とその対処―流産・異所性妊娠・絨毛性疾患の診断と治療

76巻1号(2022年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科医が知っておきたい臨床遺伝学のすべて

75巻12号(2021年12月発行)

今月の臨床 プレコンセプションケアにどう取り組むか―いつ,誰に,何をする?

75巻11号(2021年11月発行)

今月の臨床 月経異常に対するホルモン療法を極める!―最新エビデンスと処方の実際

75巻10号(2021年10月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅱ)―分娩時・産褥期の処置・手術

75巻9号(2021年9月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅰ)―妊娠中の処置・手術

75巻8号(2021年8月発行)

今月の臨床 エキスパートに聞く 耐性菌と院内感染―産婦人科医に必要な基礎知識

75巻7号(2021年7月発行)

今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

icon up
あなたは医療従事者ですか?