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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科58巻8号

2004年08月発行

雑誌目次

今月の臨床 妊娠中毒症─新しい名称と定義

欧米諸国の最近の動向

著者: 森川肇 ,   阪本義晴 ,   山崎峰夫

ページ範囲:P.984 - P.989

はじめに

妊娠末期,分娩時あるいは産褥時の母体に痙攣(子癇)の起こることがあり,多くの例で高血圧,蛋白尿,浮腫を伴うことは古くから知られていた.本症にみられる症状(高血圧,蛋白尿,浮腫,痙攣,昏睡など)は妊娠によって発症し,妊娠の終了によって治癒または軽快することから,妊娠に伴い母体血中に出現あるいは増加する因子(いわゆる毒素)により病態が惹起されるとの観点に立ち,妊娠中毒症との名称が用いられるようになった.しかし,当該因子を特定することができないのにもかかわらず妊娠中毒症という名が用いられてきたが,20世紀後半頃から本症を妊娠中毒症と呼ばないでおこうという意見が提案されている.

新しい名称・定義・分類

著者: 伊藤昌春 ,   草薙康城

ページ範囲:P.990 - P.993

はじめに

「妊娠中毒症」は学説の疾患と呼ばれ,本疾患の病因,病態が明らかになるにつれ,国際学会などにおいて定義・分類などが改変されてきた.本邦においても,現在,日本妊娠中毒症学会(佐藤和雄理事長)を中心に「妊娠中毒症」の定義・分類の改変に関する検討を行っているが,本稿では定義・分類の改変が今なぜ必要かについて理解するために,歴史的背景を概説するとともに,日本妊娠中毒症学会が作成した「新しい妊娠中毒症の定義・分類」試案を紹介する.

「妊娠中毒症」に関する最古の記述は,紀元前400年頃のヒポクラテスの著書にある妊娠中の痙攣発作であり,「子癇」という言葉は1616年Varandaeusの婦人科宝鑑に用いられ,1722年,de la Motteは痙攣のあった患者が分娩を終了すると症状が軽快することを初めて記載している.1897年にVinaryは子癇患者と高血圧の関係を報告し,1843年にはSimpsonらが子癇に蛋白尿,浮腫が合併すること,1885年にはBallentyneが子癇に蛋白尿,高血圧がみられることを報告し,1903年になり子癇の主症状は,高血圧,蛋白尿,浮腫であることを記載した.臨床的な事象により,子癇は高血圧,蛋白尿,浮腫と関連し,さらに高血圧,蛋白尿,浮腫は子癇の前兆であることが認識され,pre─eclampsiaなる言葉が作られ使われるようになった.子癇,高血圧,蛋白尿,浮腫などは妊娠が終了すると軽快することより,病因として,当初,胎児に由来する毒性物質が原因であると考えられ原因物質の研究が盛んに行われた.この毒性物質がpre─eclampsia,hypermesisなどを引き起こすと考えられ「Toxemia」という用語が用いられるようになった.1940年に米国のMaternal Welfareの委員会により「Toxemia of Pregnancy」の分類が提案され,1952年にはAmerican Committee of Maternal Welfareにより,高血圧,蛋白尿,浮腫の一症状でもあればpreeclampsiaとすると定義された.

その後,「妊娠中毒症」の病態論の研究が進むにつれ,「妊娠中毒症」は高血圧が主体であり,蛋白尿,浮腫は付随的な症状であるという考え方が生まれ,1972年には,American College of Obstetricians and Gynecologists(ACOG)が,「Toxemia of Pregnancy」という用語を廃止し,「Hypertension of Pregnancy」という用語を用いた.その後,ISSHP(1988年),NHBPEP(1990年),NIH(1996年),ASSHP(1993年)などでも高血圧を主体とした分類変更が行われた.

本邦における「妊娠中毒症」の定義・分類は,1962年に妊娠中毒症委員会(真柄正直委員長)が晩期妊娠中毒症分類(表1)1)として作成したものが最初であり,1984年に作成された定義・分類が現在広く用いられている(表2)2).その後,1992年(表3)3),1997年(表4)4)に改訂され現在に至っている.

「妊娠中毒症」という用語は,妊卵や胎盤からの物質による中毒という成因論的な立場から考えられた言葉であり,日本の研究的背景を考えると非常に受け入れやすい名前であった.“「妊娠中毒症」を高血圧を主徴とする分類に変更する”,あるいは,“名称を「子癇前症」に変更する”などの問題については,1984年改訂時より幾度となく検討されてきたが,浮腫・蛋白尿があっても高血圧がなければいわゆる「妊娠中毒症」ではないという概念や,「妊娠中毒症」以外の名称は一般臨床家には受け入れられないという意見が多く,根本的な変更までには至らなかった.しかしながら,「妊娠中毒症」の病態が解明されるにしたがい,本邦の定義・分類が現在解明されている病態を的確に捉えているとはいいがたく,また,国際学会などでも少なからず支障をきたしているため,国際的に承認される定義・分類に変更することが急務となった.1998年より妊娠中毒症委員会では検討を重ね,新しい「妊娠中毒症」の定義・分類の試案を作成した.新しい定義では従来の「妊娠中毒症」を「妊娠高血圧症候群」と変更している.

中毒症の基礎─病因・病態の新知見

1.妊娠中毒症における遺伝・環境共同作用の解析とその応用

著者: 小橋元 ,   太田薫里 ,   山田秀人 ,   水上尚典

ページ範囲:P.995 - P.999

はじめに

近年の分子生物学と疫学の進歩により,妊娠中毒症においてもその感受性遺伝子の探索が進み,妊娠中毒症の複雑な病因の解明と新しい病型分類への応用が期待されている.また,感受性遺伝子多型と生活習慣調査結果などとの共同解析による遺伝・環境相互作用の解明,さらには妊婦個人の体質や事情を考慮した新しい予防対策の実現が期待されている1, 2)

本稿では,われわれが従来行ってきた分子疫学的研究の成果1),すなわち日本人の妊娠中毒症と各遺伝子多型との関連分析結果と2),遺伝子多型と生活習慣との共同解析結果を紹介し,今後の病型分類や予防医学への応用を展望する.

2.過凝固・交感神経活性化・血管攣縮と血管内皮障害

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.1000 - P.1007

はじめに

われわれは,血管内皮障害こそが妊娠中毒症諸症状の本態であり,これに過凝固状態,交感神経系活性化,血管攣縮などが密接に関連し合い,悪循環を形成しながら妊娠中毒症病態を完成するものと考えている(図1)1).本稿では,臨床例での検討を通して妊娠中毒症における血管内皮障害の病態をさまざまな角度で捉え,病態の解明と新しい治療の確立を検討する.なお,臨床例の検討はすべて日産婦分類による重症妊娠中毒症症例であり,各種検査は当施設の倫理委員会の承認を得て施行した.

3.妊娠中毒症での絨毛細胞の病態変化および絨毛傷害の評価

著者: 関沢明彦 ,   小出馨子 ,   岡井崇

ページ範囲:P.1009 - P.1013

はじめに

妊娠中毒症は全妊娠の3~5%に発症する妊娠に特異的な症候群であり,周産期死亡・母体死亡の双方の主要な原因となっている.この疾患の病因については古くからいろいろな研究がなされてきているが,未だその病態には不明な部分が多い.本稿では,胎盤の低酸素環境が中毒症の病態形成のメカニズムのなかでどうかかわっているのか,われわれのデータを中心に紹介する1)

4.胎盤形成障害と血管内皮細胞障害との関連からみた妊娠中毒症の病態形成過程

著者: 月森清巳 ,   中野仁雄

ページ範囲:P.1015 - P.1021

はじめに

妊娠中毒症の病態の中心には血管内皮細胞の障害が関与していることが明らかとなってきた1, 2).すなわち,血管内皮細胞の障害によって血管トーヌスの調節機構および凝固線溶系の異常をきたし,細動脈の攣縮による高血圧と慢性DICの状態の発現の誘因となる.蛋白尿の出現は,腎糸球体における内皮細胞の形態学的な傷害,および血管の攣縮と血栓形成による糸球体の機能的な障害による.浮腫の発生には,血管内皮細胞自体の障害に基づく血管透過性の亢進と血管の攣縮による毛細血管内圧の上昇が関与している.

一方,妊娠中毒症における胎盤床では絨毛細胞の脱落膜への侵入異常,胎盤の形成障害が認められ,妊娠初期における子宮胎盤循環の形成障害が本症の発症に深くかかわっていることが明らかとなってきた3, 4)

このような背景から,妊娠中毒症の病因・病態を明らかにするためには,血管内皮細胞を障害する機序と胎盤の形成障害との相互のかかわりを検討することが重要であると考えられる.

そこで本稿では,妊娠中毒症における血管内皮細胞を障害する機序と胎盤の形成障害との関連について第55回日本産科婦人科学会シンポジウムで発表した知見を中心に述べる.

中毒症の臨床

1.リスク因子と発症の予知・予防

著者: 中井祐一郎 ,   西原里香 ,   本久智賀 ,   橘大介 ,   西尾順子 ,   山枡誠一 ,   石河修

ページ範囲:P.1022 - P.1025

はじめに

妊娠中毒症は,かつては悪阻を含めて考えられていた時代もあったが,発症時期による分類の導入やtriasとされていた浮腫単独の病変については本症の概念から除外するなど,その理解に大きな変化が生じている.しかしながら,今なお数多の病態論が発表されつつもその本質的病因が明らかではない現状では,本症の本質に由来する予防法が確立していないというほかない.本稿では,既報の予知法の紹介とともに,本症の予防法として知られるものについて現在の知見を紹介したい.

2.生活・栄養管理と検査計画

著者: 星合哲郎 ,   木村芳孝 ,   岡村州博

ページ範囲:P.1026 - P.1029

はじめに

妊娠中毒症の栄養管理は古くて新しい問題の1つである.過去に低カロリー,減塩,高蛋白質を中心としたさまざまな栄養管理が試みられた.これらの経験を基に1981年にまとめられた妊娠中毒症栄養管理指針は妊娠中毒症の食事療法の指針と考えられ,その後約17年間ガイドラインとして使用されてきた.この栄養管理指標と妊婦健診の制度により,1980年に妊産婦死亡の第1位であった妊娠中毒症を含む高血圧が1994年には第3位まで改善した理由の1つと考えられる.この改善は妊娠中毒症に対する栄養管理,生活指導の重要性を示している.しかし,この妊産婦死亡の減少の内訳をみると,重症妊娠中毒症の改善がみられず,これが依然第3位と他の死因に対して高率である原因と考えられる.また,妊娠に対する中毒症性物質の産生が原因で高血圧や蛋白尿,浮腫などを生ずる生活習慣病類似疾患と考えられていた妊娠中毒症の病態が,胎盤虚血を原因とした母体末梢血管のシステマチックな機能障害が織り成すさまざまな症状,すなわち末梢血管抵抗増大による高血圧と,腎尿細管の障害蛋白尿,血管透過性亢進による浮腫を示す病態へと大きくパラダイムがシフトしたことにより,それまで信じられていた上記の栄養管理に関し,この栄養管理が逆に妊娠中毒症を悪化させる場合があることが指摘され,栄養管理の見直しの必要性が指摘されている.ここでは,1998年に出された妊娠中毒症患者の生活指導および栄養管理指導のガイドラインを踏まえ,妊娠中毒症の栄養管理の最近の考え方をカロリー摂取,塩分摂取,蛋白質,水分摂取,脂質に分け考察を加え検討したい.

3.薬物療法の実際

著者: 江口勝人

ページ範囲:P.1030 - P.1033

はじめに

わが国の妊娠中毒症は画期的な変革の時期を迎えている.現在使用されている妊娠中毒症の定義・分類は,昭和59年に日本産科婦人科学会の妊娠中毒症問題委員会(鈴木雅洲委員長)によって作成されたものが基本となって,その後,平成9年日産婦周産期委員会(神保利春委員長)で一部改変されたものである.

しかし,ISSHPをはじめ諸外国においてその定義・分類が見直されていることから,整合性をはかるためにも,わが国の妊娠中毒症も大幅な再検討が迫られていた.本特集でも解説されると思われるが,日本妊娠中毒症学会(佐藤和雄理事長)では検討委員会を設置して,約2年間をかけて新しい試案を提言し,日産婦学会雑誌に公表されている.これによれば,定義から浮腫を除き,妊娠中毒症の本態を高血圧(+蛋白尿)とするが,蛋白尿のみは妊娠中毒症に含めない.

新しい病型分類はつぎのとおりである.

・妊娠高血圧腎症(preeclampsia)

・妊娠高血圧(gestational hypertension)

・加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia)

・子癇(eclampsia)

さらに,分類のみでなく従来の妊娠中毒症なる名称も妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension : PIH)と改変することを提言している.これによって,わが国の若い研究者が諸外国の学者と同じ土俵で議論することが可能となることを期待したい.ただ,妊娠高血圧症候群なる名称はまだ提言の段階で,承認されていないので,本稿では妊娠中毒症と記載することをお断りしておく.

4.関連疾患の管理・治療 1)子癇発作

著者: 伊東宏晃 ,   佐川典正 ,   藤井信吾

ページ範囲:P.1035 - P.1039

はじめに

近年,妊娠中毒症の管理が発達し,重篤な妊娠中毒症の状態が持続して子癇発作に至る症例が減少する傾向にあるため,若い世代の産科医が子癇発作に遭遇する機会は減少しつつある.本稿ではまず子癇発作の定義,疫学を概説し,次いで病態に基づいた鑑別診断と適切な取り扱いについて述べる.

4.関連疾患の管理・治療 2)常位胎盤早期剥離

著者: 西口富三

ページ範囲:P.1040 - P.1043

はじめに

常位胎盤早期剥離(abruptio placentae : 以下早剥と略す)とは,妊娠20週以降で,正常位置付着胎盤が胎児娩出以前に剥離するもので,子宮壁との間に胎盤後血腫(retroplacental hematoma)を形成し,それに伴い出血性ショックやDICを続発,さらには胎児死亡をきたすという,母児にとってきわめて重篤な臨床像を呈する病態である.本稿では,早剥の管理ならびに治療について概説する.

4.関連疾患の管理・治療 3)肺・脳・眼関連疾患

著者: 村岡光恵 ,   髙木耕一郎 ,   太田博明

ページ範囲:P.1045 - P.1049

はじめに

妊娠中毒症は高血圧,蛋白尿,浮腫からなる症候群として認識されてきたが,近年,血管攣縮を中心に病態の解明が進められている.2004年には,日本産科婦人科学会周産期委員会から,高血圧がその病態の中心であることを考慮した「妊娠高血圧症候群の定義・分類」が提案された1).そのなかで子癇は病型分類の4番目に位置し,妊娠20週以降に初発する痙攣発作で,てんかんや二次性痙攣を否定したうえで,発症時期により妊娠子癇,分娩子癇,産褥子癇とすると定義された.

また,肺水腫,脳出血,常位胎盤早期剥離およびHELLP症候群については,以前は特殊型と分類されていたが,「必ずしも妊娠高血圧症候群に起因するものではないが,かなり深い因果関係がある重篤な疾患であり,病型分類には含めない」と付記されている.ACOG(米国産婦人科学会)のpreeclampsiaの管理指針2)には,脳や視覚の障害,あるいは肺水腫,チアノーゼ,血小板減少,IUGRなどは,高血圧や蛋白尿の重症化と並んで,妊娠中毒症の重症度における判定基準の因子とされている.

本稿では,妊娠中毒症に伴って生ずる脳,肺,眼などの病態とその管理・治療について述べる.

5.胎児の管理と娩出のタイミング

著者: 佐世正勝

ページ範囲:P.1050 - P.1053

はじめに

近年,新生児管理技術は著しく向上している.妊娠28週を過ぎていれば,ぎりぎりの状況まで子宮内で胎児を管理するより,早めによい状態で児を娩出させ新生児管理へ移行させたほうが予後がよい場合も少なくない.第三3半期に重症化することが多い妊娠中毒症では,胎児の状態を綿密に観察し,分娩の時期を逸しないようにすることが産科の胎児管理と考えている.胎盤機能不全によりasymmetrical IUGRを呈するとともに,胎児well─beingに異常をきたす可能性が高いため,胎児発育の評価と胎児well─beingの評価が胎児管理の中心となる.

連載 知っていると役立つ婦人科病理・61

What is your diagnosis ?

著者: 清水道生 ,   小川史洋

ページ範囲:P.981 - P.983

症例 : 45歳,女性

下腹部腫瘤にて来院.子宮筋腫の診断のもとhysterectomyが施行された.腫瘤の直径は12 cmで,割面は白色調であるが,散在性に黄色調の部分が認められた.Fig 1,2はその腫瘍の代表的な組織像(HE染色)である.病理診断は何か.

病院めぐり

横須賀市立市民病院

著者: 今井一夫

ページ範囲:P.1056 - P.1056

横須賀市立市民病院は,神奈川県の三浦半島に横たわる横須賀市の西地区に立地し,病院の7階レストランの窓からは,夕照の相模湾に浮かぶ江ノ島や四季の富士山を望むことができる風光に恵まれた温暖の地にあります.

当病院の歴史は,市立三病院を武山地区に統合する一期工事(昭和46年)で現在の名称になりました.婦人科診療は,昭和47年1月に日野侃先生(前院長S47.1.10~H13.3.31)が赴任し開始され,昭和53年4月に土岐政嗣先生(前産科科長S53.4.1~H15.3.31)が加わりました.昭和59年,二期工事の終了後より現在の業務体系(20科,526床)となり,同時に産科が開設されました.産科開設時には,三宅良明現日本大学練馬光ケ丘病院産婦人科部長(同大学医学部産婦人科助教授)が赴任され,基礎を築かれました.

鹿児島市立病院

著者: 波多江正紀

ページ範囲:P.1057 - P.1057

20床の市立診療所として昭和15年発足した鹿児島市立病院は,現在,鹿児島県の中核病院として17科,670床の総合病院に成長している.昭和50年の五つ子誕生を機に周産期医療の拡充をはかり,昭和53年に周産期医療センターを設置し,県内産婦人科周産期関連急患の85%を収容している.昭和60年には救命救急センターを設置し,現在,救急外来患者は年間6,940人に及んでいる.1日の外来患者数は約1,300人で,平均入院患者数620人,医師数はスタッフ80人,臨床研修および専門研修医がそれぞれ25人,19人,今年から始まった独立型スーパーローテーター10人,さらに大学病院の協力型ローテーターとして4人を受け入れる予定である.

産婦人科関係では,産科36床,婦人科45床,新生児センター80床(うち32床がNICU)の独立した病棟と看護単位を有し,体外受精,顕微授精などの生殖医療も九州において最初の成功を収めてから積極的に行っている.年間外来延べ患者は36,000人で,各部門を産科婦人科の医師が中心に運営している.

OBSTETRIC NEWS

超低体重児分娩に帝王切開を行うと新生児転帰は改善するか?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1059 - P.1061

脳室内出血は超低体重児(<1,500 g)には大きな問題である.多くの産科的因子(妊娠中毒症,絨毛膜羊膜炎を含む)が脳室内出血の発症に影響することが示唆されている(Arch Pediatr Adoles Med 150 : 491, 1996/Ob Gyn 91 : 725, 1998).超低体重児分娩に帝王切開(帝切)を行うと,脳室内出血を予防でき,新生児転帰を改善できるという期待が産科医には根強くある.

25年前までは,妊娠28週未満または推定胎児体重1,000 g未満の場合は胎児適応(胎位異常,fetal distress)があっても帝切であった(AJOG 133 : 503, 1979).その後,新生児ケアの持続的改善があり,現在では500 g未満や妊娠22週でも長期間生存が報告されている.したがって,産科医が徐々により早い妊娠週数でも積極的に帝切を行うようになっている.しかし,胎児適応がある場合にそのような積極的介入が必要な胎児のサイズや妊娠週数に関する明らかなコンセンサスはないという問題がある.米国では1,000 g未満の児が全分娩の約1%で,周産期死亡の約半分の理由となっている(Ob Gyn Clin North Am 15 : 321, 1988).1,000 gで出生した生存児には重篤な罹患が残る(脳性麻痺,重篤な精神発達遅延,盲目,聴覚消失).したがって,生存は非常に高率の罹患と関連があるので,750 g未満または妊娠26週未満の児の取り扱いが新生児科医のジレンマとなっている(NEJM 329 : 1597, 1993/NEJM 331 : 753, 1994).

Dos&Don'ts婦人科当直の救急診療ガイド・3

[性器出血を伴うもの]性器の外傷

著者: 池上博雅

ページ範囲:P.1063 - P.1065

1 初療のチェックポイント

一般に外傷性の性器出血を主訴とする多くの症例は緊急性は少なく,緊急手術を要することは稀である.問診,診察,検査を順序よく行いながら適切に診断し治療する.

まず,外傷の起こった原因の問診が重要である.強姦による外傷性出血の場合は,警察との捜査協力が必要になり,腟内容液の採取や外傷の部位およびその程度の記載など法医学との連携も考慮しなくてはならない.一般的に幼小児期においては遊んでいての外陰部打撲による性器出血を主訴とする場合が多く,出血点の確認が重要である.思春期では,スポーツによる外傷が多くみられるが,特にスキーやスノーボードに関連した外傷性の性器出血では裂傷が大きかったり血腫の形成があり,重症の場合があるので注意が必要である.成人では,腟内異物や性交による腟の裂傷を主訴として来院する場合があるが,腟内異物の取り出しには注意が必要であり,裂傷が深い場合は血腫の形成がみられる.

婦人科超音波診断アップグレード・5

子宮外妊娠の超音波所見─卵管妊娠を中心に

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.1067 - P.1074

1 はじめに

子宮外妊娠の本邦における発生率については,詳細な調査は行われていないため正確なところは不明であるが,従来の成書1, 2)では全妊娠数の0.5~1%とされており,日本産婦人科学会3)の報告による平成10年分の生殖補助技術(assisted reproductive technology : 以下,ARTと略)後の子宮外妊娠率は,全体で3.62%(130/3,595例),IVF─ET 4.28%(103/2,407例),ICSI─ET 3.06%(24/785例)などとされている.米国4~6)では1970年には1,000妊娠に対して4.5であったのが,1992年には19.7まで増加しており,性行為感染症による卵管病変の増加やARTの普及,診断技術の向上などが増加の要因とみられている.

もうひとつの国境なき医師団・2

地球を半周

著者: 東梅久子

ページ範囲:P.1077 - P.1077

任地はインドネシアであるものの,最初の目的地がフランスと知った時は驚いた.

国境なき医師団は5か所のオペレーション支部と13か所のパートナー支部からなっている.本部はなくフランス,ベルギー,オランダ,スイス,スペインがそれぞれ独自のプログラムを運営し,日本,アメリカ,香港などのパートナー支部が活動に参加するボランティアの募集・派遣,広報,募金活動を行っている.日本はフランスとの関係が最も深く,日本からの派遣者の多くがフランスのプログラムに配属になっている.フランスのプログラムに派遣される場合には,パリの事務所で数日の説明を受けたのちに任地に赴く.かくして飛行機で6時間,時差2時間のジャカルタに赴任するために,韓国経由で飛行機に15時間乗って,時差8時間のパリに向かうことになった.

臨床経験

産婦人科術後にみる臀部皮膚障害―術後臀部褥瘡

著者: 木下俊彦 ,   深谷暁 ,   矢野ともね ,   伊藤元博

ページ範囲:P.1079 - P.1081

産婦人科術後に発生した臀部褥瘡について分析した.発生頻度は8.0%であった.褥瘡発生者と非発生者の間には年齢,体格などの背景には違いがなく,術式,手術適応疾患にも違いがみられなかった.

しかし,褥瘡を発生した例では術中・術後に硬膜外麻酔が使用されていたことから,硬膜外麻酔の使用が関与していることが示唆された.特に,術後の疼痛緩和に用いた硬膜外麻酔が,褥瘡発生の機序に関与しているのではないかと推察した.すなわち,硬膜外麻酔による知覚鈍麻,運動の抑制,血管拡張に仙骨や踵など体重のかかりやすい部分の皮膚への持続的な圧迫が加わり,血行のシャント,血流不全を生じることから褥瘡を発生させる可能性がある.術後の患者が仰臥位を長時間保った場合,臀部へは圧迫が加わるが,痛みを覚えなければ姿勢を保ち続けて圧迫を加えることになり,褥瘡発生を促す要因となったと考えられる.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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