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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科58巻9号

2004年09月発行

雑誌目次

今月の臨床 不育症診療─その理論と実践

不育症の病態

著者: 山本樹生

ページ範囲:P.1097 - P.1101

習慣流産の原因

Coulam1)は不育症の原因として,ホルモン異常29%,解剖学的異常10%,遺伝子異常6%,免疫異常40%,不明15%を挙げている.牧野ら2)は,内分泌異常10%,子宮内腔異常15%,染色体異常10%,自己抗体20%,不明45%としている.さらに,習慣流産の検査異常とその頻度を図1のごとく報告している.

不育症外来における検査の手順

著者: 三木明徳 ,   石原理

ページ範囲:P.1102 - P.1105

はじめに

全妊娠の10~15%は自然流産に終わる1).一昔前のように女性が一生涯に出産する児の数が10人近くあった時代には,流産は誰でもが経験するありふれた現象であった.しかし現代日本において女性が一生涯に出産する児の数は2人を割り込んでおり,流産を経験することなく全出産を終了する女性が多い.さらに昭和30~40年代までは妊娠6週以前を確実に診断する方法がなかったため,初期流産は月経が数週間遅れただけと認識されていた.しかし,妊娠検査薬の改良とその一般市販化により誰でも初期のうちに妊娠の診断をすることができるようになった.月経が予定日より1日遅れただけでも市販の妊娠検査薬で陽性と出れば妊娠と判断される.そして産婦人科を受診し子宮内に胎胞(GS)が認められるが,GSの成長がみられない場合は流産と診断されるわけである.このように,検査方法が進歩したため流産と診断される女性の数は増加した.

一方,流産に関する情報は核家族化の進行のためにさらに減少している.また,ほかに流産を経験した女性を身近に探しても流産経験を語る女性は少なく,無事に赤ちゃんが生まれたという話のみが耳に入ってくる.きまじめな女性であるほど妊娠のごく早期に何か胎児に悪いことをしたのではないかと気にかかり,流産したことを自分の責任だと思い悩む.お腹のなかの胎児を喪失したという虚脱感はきわめて大きなものであり,一度の流産でも悩み,落ち込み,相談に来る女性も多い.二度,三度と続くとなおさらである.習慣流産外来の存在意義は,まず第一に,このような女性に流産に関する正しい情報を与え,不安を取り除くことにある.

子宮因子による不育症

著者: 熊切順 ,   武内裕之 ,   木下勝之

ページ範囲:P.1107 - P.1113

はじめに

不育症は着床完了した胚を母体が発育維持させる機構が障害されているか,あるいは胚側の問題により着床後の発育が維持されない状態の2つに大別される.母体側の原因は着床した良好胚の発育を維持できず,その結果流産の転帰となる.具体的な疾患として子宮奇形,子宮筋腫,子宮腺筋症,子宮内膜ポリープなどの子宮側要因が不育症に強く関与していると考えられる.またこれらは子宮内膜の局所的な血流分布の不均衡や子宮内腔の慢性的な炎症状態により,着床不全による不妊症の原因ともなりうる疾患である.本稿においては,これらの子宮性不育症についてその診断および治療法について述べることとする.

内分泌異常による不育症

著者: 楢原久司

ページ範囲:P.1116 - P.1119

はじめに

不育症は,いわゆる反復流産(2回連続した自然流産)および習慣流産(連続3回以上自然流産を繰り返した状態)を含み,生殖年齢の男女が妊娠を希望し,妊娠は成立するが流産や早産を繰り返して生児を得られない状態の総称である.不育症の原因は,子宮因子,内分泌異常,染色体異常,感染,抗リン脂質抗体症候群を含む免疫学的異常など,多岐にわたっている.

不育症を引き起こすとされる内分泌異常には,黄体機能不全,高プロラクチン血症,甲状腺機能障害,糖尿病などが挙げられる.黄体形成は卵胞成熟の過程から連続した変化であり,正常な黄体機能は正常な卵胞発育と排卵に引き続いて獲得される.黄体は,主として卵巣性ステロイドであるエストロゲンとプロゲステロンの分泌により,子宮内膜を増殖期内膜から着床可能な分泌期内膜に変化させる.この過程は,着床および妊娠の維持に必須であり,黄体がこの機能を十分果たせない状態を黄体機能不全(luteal phase defect)という.

黄体機能不全が不育症の原因として占める割合は報告により異なるが,25~60%であるとされる1).同様に,高プロラクチン血症の占める割合は10~20%,甲状腺機能障害は2~10%,糖尿病は0.1~2%と想定される.それぞれの値の幅は,諸家の報告によりその頻度が大きく異なることを示している.また,これらの内分泌異常は,それぞれ相互に影響を及ぼし合っていることが考えられ,例えば高プロラクチン血症も甲状腺機能障害も黄体機能不全の原因になり得る.

本稿では,不育症の原因として内分泌異常に焦点を当て,なかでも黄体機能不全とのかかわりを中心に,その病態,診断と治療について概説したい.

染色体異常による不育症

著者: 三春範夫

ページ範囲:P.1121 - P.1125

はじめに

不育症には,習慣流産をはじめ,ごくわずかではあるが反復する中期以降の胎児死亡や生後1週間以内の新生児死亡が含まれている.このうち3回以上流産を繰り返す場合の習慣流産が不育症の大部分を占めており,その原因の1つとして染色体異常が挙げられる.

本稿では,習慣流産でみられる染色体異常,それにかかわる精子,卵子,受精卵の染色体構成や染色体異常発生機序,習慣流産患者へのカウンセリングについて概説する.

感染症による不育症

著者: 野口昌良

ページ範囲:P.1126 - P.1129

はじめに

成立した妊娠がその後,分娩予定日近くまで継続することなく早期に分娩が開始するか流産に終わる不育症は決して少なくない.

感染,とりわけ細菌感染により子宮頸管の熟化が推進されて,子宮頸管無力症のように,子宮頸管長の短縮や開大から流早産に至るものが存在する.

これらは単に頸管の変化だけではなく,各種サイトカインの活性化を促し1, 2),最終的にはプロスタグランディンが誘導され,子宮収縮が始まることによっても,より子宮頸管の熟化を進め,子宮口開大を促進するために,妊娠の継続ができなくなり,中期流産や早産を招来し,不育症が成立することになる.

自己免疫疾患による不育症

著者: 香山晋輔 ,   古山将康 ,   村田雄二

ページ範囲:P.1131 - P.1135

はじめに

不育症(recurrent pregnancy loss : RPL)は,3回以上の妊娠22週未満での流産を繰り返す状態と定義されており,RPLは生殖年齢カップルの約1%の頻度に認められる1).RPLの原因は多岐にわたっているうえ,それぞれの流産原因を精査しても,半分以上の症例においては推定される原因が不明であるため,患者や産婦人科医双方にとって診療上厄介な疾病である.RPLの主たる原因としては,遺伝学的,内分泌代謝学的,子宮の形態学的,血液凝固学的異常によるものとともに,自己免疫学的異常の関与が示唆され,RPLの原因の約5~10%を占めている2)

代表的な自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus : SLE)に流産発症が関連することは長い間知られていた3).1980年代に入って,抗リン脂質抗体症候群(anti─phospholipid antibody syndrome : APAS)患者におけるRPLの合併が注目され始め,現在では抗カルジオリピン抗体(anti─cardiolipin antibodies : ACA)の有意なレベル上昇がRPLに関連することが確実なものとなってきた4).他の自己免疫疾患や関連する自己抗体,例えば抗核抗体,抗SS─A抗体,甲状腺自己抗体などに対してもRPLの原因としての可能性について研究が進められたが,十分なevidence based medicine(EBM)を持つものは少ない5).この総説ではRPLの原因としてEBMの確立しているSLEとAPASを中心に,自己免疫疾患とRPL発症との関係について概説する.

抗リン脂質抗体による不育症

著者: 青木耕治

ページ範囲:P.1137 - P.1141

はじめに

不育症患者においては,自己免疫疾患ではないが,何らかの自己免疫異常(自己抗体陽性)を有する割合は20%以上にもなると報告されている.各種自己抗体のなかで,1985年ごろより,抗リン脂質抗体による不育症の存在が明らかにされてきた.その流産を引き起こす機序としては,母児接点での血栓形成による機序と,サイトトロホブラストに直接反応してシンシチオトロホブラストへの分化を阻止することにより,トロホブラストの脱落膜への侵入,着床を障害する機序が考えられている.

免疫応答不全による不育症

著者: 高桑好一 ,   田村正毅 ,   田中憲一

ページ範囲:P.1143 - P.1147

はじめに

近年,原因不明習慣流産の原因として免疫的要因が注目されている.胎児・胎盤系は母体にとって半分は自己,半分は非自己という性質を有しており,母体にとって半同種移植片とみなすことができる.したがって妊娠がうまく継続するためには,免疫反応の制御が必要であるが,最近では胎児・胎盤系に対し,母体が積極的な免疫応答を行い,適切な免疫反応が生ずることが妊娠維持に重要な役割を果たしているものと考えられている.今回のテーマである「免疫応答不全による不育症」は,そのような背景によるものであり,このような病態に対し,夫リンパ球によるいわゆる「免疫療法」が行われその有効性が報告されている.

本稿においては,免疫療法の実際について筆者らのデータを示しながら概説を行うこととする.

不育症とカリクレイン―キニン系

著者: 杉俊隆

ページ範囲:P.1148 - P.1151

生殖におけるカリクレイン─キニン系

女性の生殖器系は,体内で2番目にキニノーゲンおよびその代謝産物の豊富な部位であるといわれている.ラットでは,各臓器のキニノーゲンの濃度は,血漿12.2 mg/ml,子宮10.9 mg/ml,肝臓0.4 mg/ml,腎臓1.2 mg/mlと報告されており1),生殖器の組織および血漿中のキニノーゲンの濃度は,排卵,妊娠,出産に伴って変動すると報告されている1, 2)

カリクレイン─キニン系は胎児,胎盤の血管に存在していることが最近明らかになってきている3, 4).胎盤の大きな血管や臍帯ではなく,絨毛の毛細血管内皮細胞にキニノーゲンやプレカリクレイン,カリクレインが存在することが報告されており5),キニンが胎盤の毛細血管に限局して産生されていることが示唆されている6).キニンは抗凝固,線溶促進作用だけでなく,血流を増加させるなどの生物学的活性を持ったペプチドであり,胎盤内で放出され,胎盤の血流や代謝産物の経胎盤輸送などを調節する重要な役割を担っている可能性が指摘されている.つまり,カリクレイン─キニン系は,全身の血液凝固,線溶系のみならず,特に生殖の領域で非常に重要な位置を占めていると考えられる.

不育症と心理社会因子

著者: 杉浦真弓

ページ範囲:P.1154 - P.1157

流産の原因

不育症において明らかな原因であるのは抗リン脂質抗体,夫婦染色体均衡型転座,胎児染色体異常であり,反復流産の約60%は原因不明である.

胎児染色体異常については,従来,“偶然”であり習慣流産ではあまりみられないと推測されてきた.当院で検討したところ,既往流産回数が増えるにしたがって胎児染色体異常は減少した1).このことは既往流産回数が増えるにしたがって“偶然”である染色体異常はなくなってくるということを示すが,一方では既往流産回数2~4回ではまだまだ染色体異常による流産の頻度は50%以上存在する.筆者は胎児染色体異常を繰り返している患者が約18%存在すると推測している.

不育症と漢方

著者: 後山尚久

ページ範囲:P.1159 - P.1165

はじめに

「妊娠」に関していくつかの漢方薬が古くから用いられている.妊娠を継続させる「安胎薬」の代表は当帰散や白朮散である.安胎作用を有する生薬としては人参,黄耆,艾葉,香附子,杜仲,冬虫夏草などがあるとされる.この方剤群の実際の処方目標となるのは妊娠初期であり,エキス漢方薬としては当帰芍薬散や帰膠艾湯が切迫流早産などの妊娠の継続目的によく用いられる.漢方薬の安胎効果を知り,妊娠中の諸疾患に漢方薬を適切に用いることは,少産時代における女性の質の高い産前・産後生活に貢献すると思われる.

不育症は,その原因として子宮内腔異常,免疫・血液凝固異常,染色体異常,内分泌異常など,多くの因子が挙げられるが,なかでも抗核抗体陽性(22.0%),抗リン脂質抗体陽性(12.1%)例が多いことが報告されている1).しかし,抗リン脂質抗体陽性にはcardiolipinのみならず,phosphotidylserineやphosphotidylinositolやそのほか多くのリン脂質抗体陽性をすべて含んでおり,どのリン脂質抗体陽性例が不育症を高頻度に起こしてくるのかはいまだに判明していない.また,最近は血栓傾向と不育症の関連についても多くの議論がある.ATIII欠損症,protein C欠損症,protein S欠損症やそのほか多くの線溶系優位環境が不育症要因として注目されている2)

連載 知っていると役立つ婦人科病理・62

What is your diagnosis ?

著者: 清水道生 ,   中山真人 ,   伴慎一

ページ範囲:P.1093 - P.1095

症例 : 43歳,女性

下腹部痛と発熱にて来院.超音波検査にて骨盤内膿瘍の診断のもとに手術が行われた.右卵管を中心に膿瘍の形成が認められ,右付属器切除術が施行された.Fig 1,2は右卵巣組織内に認められた病変の代表的な組織像(HE染色)である.

1.病理診断は何か.

2.どのような病歴が示唆されるか.

病院めぐり

横浜市立市民病院

著者: 長田久文

ページ範囲:P.1168 - P.1168

横浜市立市民病院は横浜市の中心部(JR・東急・京急・市営地下鉄の横浜駅西口よりバスで10分の三ツ沢丘陵)に位置し,横浜市の中核病院として高度先進医療を担い,かつ横浜市の救急車受け入れ数ナンバーワンの実績で夜間・休日救急を行っている.産婦人科は分娩から悪性腫瘍まで幅広く診療を行い,また併設のがん検診センターでは子宮がん,卵巣がん検診を行っている.

産科は,2003年の年間総分娩数は772件で,帝王切開術140件(18%)(予定選択的帝切72件,緊急帝切68件),吸引分娩29件(3.8%),鉗子分娩6件(0.8%),骨盤位分娩27件(3.5%)(帝王切開24例,経腟分娩3件),双胎5件,早産44件(5.7%)であった.また夫立ち会い分娩は204件で,経腟分娩624件の33%を占め年々増加している.原則として,母児同室で母乳育児を推進している.周産期救急においては,神奈川県周産期救急システム(三次)の協力病院,横浜市母児二次救急システムの協力病院としても機能し,小児科新生児集中治療室が空いている限り体重,妊娠週数に関係なく患者を受け入れている.しかし産科病棟ないし新生児集中治療室が常に満床のため,受け入れ率は約40%である.総合病院であるため糖尿病,甲状腺疾患,膠原病,潰瘍性大腸炎などの母体合併妊娠が多く,最近ではパニック症候群などの精神疾患合併妊娠が増加している.また,母親教室の際に講師を務めている助産師の指導のもとに行っているマタニティーエアロビックスは好評である.

東京都立大塚病院

著者: 阿部史朗

ページ範囲:P.1169 - P.1169

東京都立大塚病院は,昭和4年6月に東京市立大塚病院として内科,外科,皮膚科,産婦人科の4科で開設された.その後,都制が施行されて,昭和18年7月に東京都立大塚病院と改称された.昭和32年8月には総合病院となったが,昭和55年7月に改築のため事業はいったん休止した.その後,工費187億円をかけて改築され,昭和62年10月に248床で1次開設,平成元年4月に500床で全面開設となった.平成7年には東洋医学外来を,平成15年4月には女性専用外来を開始した.

重点医療として母子医療,膠原病系難病医療,リハビリテーション医療および障害者医療を掲げている.母子医療については,産科病棟のほかにNICU,GCUが当初は小児科の一部としてつくられた.のちにNICU,GCUは新生児科として小児科から独立した.

OBSTETRIC NEWS

分娩第二期の管理2003年(1)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1170 - P.1171

パークランド記念病院では,未産婦で分娩第二期所要時間が2時間を超える例は6%である(Williams Obstetricsの第21版p431, 2001).あまり稀ではないことは,われわれも日常診療でしばしば経験することである.

子宮口全開大後,分娩まで何時間くらい経過観察できるのかに関しては,「分娩第二期所要時間の独断的制限」,特に「未産婦では分娩第二期が2時間経過する前に分娩を終了すべき」という「概念」が長い間,大多数の産科医の間で支配的であった.この概念が定着するに至ったのは,Hellmanらの研究データに対する不正確な判断が原因だろうとBowesは述べている.Bowesは,「Hellmanらの研究に対する誤った判断から,外傷の原因となる中位鉗子分娩や不必要な帝王切開(帝切),吸引分娩の過度の採用につながっていった」と推測している[in Maternal─Fetal Medicine. 4th ed(Creasy & Resnik). p541, 1999].

もうひとつの国境なき医師団・3

多様性のなかの集団

著者: 東梅久子

ページ範囲:P.1172 - P.1173

パリ発ジャカルタ行

パリでのブリーフィングの後,シンガポールを経由してジャカルタに向かった.成田を発つときは不安に押しつぶされそうだった.私は何かを失うのではないか.それに比べてパリを発つときの心は軽かった.任地に赴くという不安より,アジアに戻るという安堵が大きく私の心を占めていた.夕暮れに少し間があるころ,降り立ったスカルノ・ハッタ空港では初めての地であるにもかかわらず,ムッとした空気に懐かしさを覚えた.

婦人科超音波診断アップグレード・6

子宮外妊娠の超音波診断─頸管妊娠,帝王切開創部妊娠を中心に─

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.1175 - P.1181

1 はじめに

子宮頸管妊娠(以下,頸管妊娠と略)は,米国では2,400~50,000妊娠に1例1),子宮外妊娠の1%未満2)とされており,本邦ではShinagawaら3)は1,000妊娠に1例,子宮外妊娠の9%,中野ら4)は9,614分娩に対して10例(0.10%),子宮外妊娠の3.66%と報告しており,稀な疾患である.また,帝王切開(以下,帝切と略)創部妊娠はさらに稀な疾患であり,われわれの検索では2003年12月末日までで本邦7例5~12),国外28例13~37)の計35例で,自験例での頻度は分娩数に対して0.027%(1/3,679例),帝切数に対して0.19%(1/527例),子宮外妊娠中の帝切創部妊娠の頻度は4.5%(1/22例)であった.

頸管妊娠と帝切創部妊娠は着床部位が解剖学的に近いため,画像診断上で両者の鑑別が問題となる場合がある.また,進行流産や,妊娠反応が陽性で子宮腔内に胎嚢が確認されない場合にはナボット卵や頸管内のポリープ(嚢胞状)との鑑別もときに問題となる可能性がある.頸管妊娠の診断において,子宮内掻爬既往,アッシャーマン症候群,帝切既往,子宮筋腫,体外受精・胚移植との関連性が示唆されている1)ことは臨床的に参考となる.特に子宮内掻爬既往は70%以上に認められるとの報告38)がある.自験例も稽留流産による子宮内清掃術の既往が1回あった.病因は明確ではないものの,子宮内掻爬既往は頸管妊娠のリスクファクターとして認識し,早期診断に心掛ける必要がある.臨床症状としては無痛性の性器出血と頸管の開大所見,内診での頸管の腫大によるダルマ状所見が挙げられている.なかでも無痛性の出血は90%に認められるとの報告39)がある.

Dos&Don'ts婦人科当直の救急診療ガイド・4

[性器出血を伴うもの]機能性出血

著者: 小池浩司

ページ範囲:P.1184 - P.1187

1 初療のチェックポイント

1. 機能性出血の定義

機能性出血(dysfunctional uterine bleeding)は,子宮内膜膜からの出血のなかで,子宮体部における炎症,腫瘍,外傷などの器質性病変,月経異常,妊娠などによる出血を除外した内分泌機能異常に由来する出血と定義される1).日本産科婦人科学会の用語解説集には内科的疾患(血液疾患,肝疾患,薬物服用など)によるものも含まれるとされているが,一般的にはこれらは除外され,視床下部─下垂体─卵巣系の機能異常による子宮内膜からの出血のみにとどめて考えるべきである2, 3)

症例

Thalidomide, celecoxib, irinotecanによりtumor dormancyが得られた進行子宮腺扁平上皮癌の1例

著者: 羽田正人 ,   水足一博

ページ範囲:P.1188 - P.1191

癌性悪液質に合併した胸水・腹水のコントロールは,癌が末期になるほど,原疾患のコントロールとともに非常に困難となる.胸膜癒着を目的としてドレナージ後に種々の化学物質,抗癌剤が使用されるが,多くの症例で再貯留が早期にみられる.Thalidomideの抗悪液質作用,血管新生抑制作用,さらには胸水・腹水貯留抑制作用にcelecoxibの持つ発癌抑制作用を従来の抗癌剤に組み合わせて使用することは合理的であると考える.

今回われわれは,長期にわたってthalidomide,celecoxib,抗癌剤を使用して悪液質ならびに胸水・腹水をコントロールでき,外来でフォローアップできた症例を経験したので報告した.副作用としては湿疹がときに観察され,そのほか抗癌剤による骨髄抑制もみられた.しかしながら,抗癌剤投与に伴う消化器症状は軽減できたものと考えられる.残念ながら,喘息のある患者には適応しえない.


はじめに

胸水・腹水のコントロールは,癌が進行するほど癌性悪液質と相俟って非常に困難となる.胸膜癒着を目的として,ドレナージ後に種々の化学物質や抗癌剤が使用されるが,再貯留が多くの症例でみられる.治療の際の薬剤の選択,貯留胸水・腹水のドレナージ施行の可否,腺扁平上皮癌での治療の差異など多くの問題を含んでいる.今回われわれは,子宮腺扁平上皮癌で著しい胸水貯留を起こした症例にthalidomide,celecoxib,irinotecanを使用して良好な経過を得たので,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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