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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科59巻10号

2005年10月発行

雑誌目次

今月の臨床 腫瘍マーカー─基礎知識と診療指針

産婦人科で用いられる腫瘍マーカーの種類と正常値

著者: 鈴木光明 ,   大和田倫孝 ,   藤原寛行

ページ範囲:P.1334 - P.1337

はじめに

 腫瘍マーカーとは,癌細胞自身または癌細胞の存在に反応して宿主が反応性に産生する物質であり,癌の診断,予後の推定,治療効果の判定,再発の発見などに有用な検査法である.現在多くの腫瘍マーカーが開発され,婦人科領域では実地臨床で広く用いられている.しかしながら現在のところ癌特異抗原はみつかっておらず,癌と正常の間に明確な線を引くことはできず,癌と非癌との間に量的,質的な差がみられる癌関連抗原などを腫瘍マーカーとして臨床応用している.

 腫瘍マーカーの歴史は1848年に報告されたBence Jones蛋白質に始まる.その後AFP,CEAなどの癌胎児性抗原物質の発見につながるが,1960年代にラジオイミュノアッセイの開発に伴い,精度が飛躍的な進歩を遂げた.特に1965年に発見されたCEAは結腸癌より抽出された新しい生体物質で,その抽出方法は,後の腫瘍マーカーの開発の基本となった.その後1975年にKohlerとMilstein1)によってモノクローナル抗体の作製法が確立されたのを契機に,1979年から1980年代はじめにCA19─92)やCA1253)などの糖鎖関連抗原を中心としたモノクローナル抗体由来の腫瘍マーカーが数多く開発され,実用化された.

腫瘍マーカーの細胞生物学―SCC

著者: 黒木遵 ,   長谷川清志 ,   宇田川康博

ページ範囲:P.1339 - P.1341

はじめに

 腫瘍マーカーには,癌のスクリーニング,進展度の把握,治療効果や予後の判定,さらに再発の早期診断などの有用性が期待されるが,いまだ完全といえる腫瘍マーカーは発見されていない.子宮頸部扁平上皮癌における腫瘍マーカーとしてはSCC抗原を中心にCEA,CYFRA21─1,尿中hCG β─core fragment(β CF)などが用いられており,それぞれのcombinationでの診断効率も論じられている.本稿ではこれらのうち最も頻用されているSCC抗原の生物学的,臨床的特徴について概説する.

腫瘍マーカーの細胞生物学―CA125

著者: 鏡誠治 ,   柏村正道

ページ範囲:P.1343 - P.1347

はじめに

 腫瘍マーカーは1975年にモノクローナル抗体の作製法が確立されて1),さまざまな種類のものが発表されてきた.特に臨床応用されているものは糖鎖抗原関連腫瘍マーカーである.これはコア蛋白,母核糖鎖,基幹糖鎖,糖転移酵素,修飾構造(末端糖)などからなっている(図1)2)

 CA125抗原はコア蛋白であり,上皮性婦人科腫瘍で最も関連性のあるマーカーとしてよく知られている.成人において卵管上皮,子宮内膜上皮,頸管上皮,胸膜や心嚢膜中皮細胞,腹膜に存在する.表層上皮性卵巣癌に対する陽性率が高いが,子宮内膜症,胸腹膜の炎症性疾患,月経時や妊娠初期などでも上昇する.近年,CA125抗原分子がクローン化され,これが新たな膜結合型ムチンMUC16と称され,癌研究において現在注目を集めている3).これらについて最近の研究報告を含め解説する.

腫瘍マーカー測定値に影響する因子

著者: 梶山広明 ,   吉川史隆

ページ範囲:P.1348 - P.1351

はじめに

 腫瘍マーカーは腫瘍由来の物質と腫瘍に対する宿主の反応物質に大きく分類される.このうち腫瘍由来の腫瘍マーカーのなかには,多種類の腫瘍で出現するものと,比較的限定された組織型にのみ出現するものがある.前者は汎用腫瘍マーカーと呼ばれているが,各細胞に共通の基本的な性質に関与する物質でもあり,正常組織でも産生される.そのため,非腫瘍性疾患,炎症,妊娠などおいても上昇し,偽陽性の種類や頻度が多くなる可能性がある.さらに,腫瘍マーカーの血中濃度は宿主の代謝・排泄能などによっても変化し,加齢の影響を受けるものも少なくない.したがって,腫瘍マーカーをスクリーニングとして用いる場合,カットオフ値より高値が出たとしても,これらの因子による部分を除外しつつ入念に評価する必要がある.ここでは,婦人科疾患において汎用される腫瘍マーカーについて,その測定値に影響を与える因子について解説する.

 種々の腫瘍マーカーが加齢,妊娠,炎症,および喫煙などの生活習慣因子によって影響を受けることはよく知られている.加齢により修飾を受けるとされているマーカーは,CEA,STN,CA125,CA72─4,SLXなどである.一般的にCEAとSTNは加齢によって血中の値が上昇し,CA125,CA72─4あるいはSTNなどは低下する傾向にある.これらの腫瘍マーカーの測定値の解釈にあたっては加齢の影響も考慮していく必要がある.また,喫煙によって高値を呈することがある腫瘍マーカーとしてCEAやSCCなどが挙げられる(表1).また妊娠期間で変動しうる腫瘍マーカーとして,AFP,CA125,CA72─4,およびhCGなどが挙げられる(表2)

 次に婦人科疾患に代表的な腫瘍マーカーについて代表的な偽陽性疾患を表3に示す.以下に個々の腫瘍マーカー別に述べてみたい.

子宮頸癌の診断・治療・予後と腫瘍マーカー

著者: 梅咲直彦 ,   粉川克司 ,   馬淵泰士

ページ範囲:P.1352 - P.1357

はじめに

 子宮頸癌の早期診断には細胞診が有効であることはいうまでもない.それよりも有効な腫瘍マーカーはない.しかし骨盤内の再発の診断においては細胞診は無効で,画像診断とともに腫瘍マーカーの診断価値が増してくる.また化学療法,放射線療法の治療効果の判定にも有効な補助診断法である.

 本稿では子宮頸癌において用いられている腫瘍マーカーを紹介し,ついでその臨床的役割について記述する.

子宮体がんの診断,治療,予後と腫瘍マーカー

著者: 毎田佳子 ,   橋本学 ,   水本泰成 ,   中村充宏 ,   高倉正博 ,   京哲 ,   井上正樹

ページ範囲:P.1359 - P.1363

はじめに

 日本における子宮体癌の罹患数は増加の一途にある.子宮体癌による死亡を減らすには,体癌の早期発見と治療法の確立が重要な課題である.悪性腫瘍患者の診療において,腫瘍マーカーは診断や治療方針決定の一助となるツールであるが,残念ながら子宮体癌における腫瘍マーカーの意義は卵巣癌ほどには明らかにされていない.

 本稿では,子宮体がんの診断,治療,予後に関して,腫瘍マーカーからどのような情報が得られるのか,その利用価値について考察する.

卵巣がん検診における腫瘍マーカーの意義

著者: 津田浩史 ,   杉山徹

ページ範囲:P.1365 - P.1369

はじめに

 本邦での卵巣癌の罹患数は2015年には約12,000人,年齢訂正罹患数は10.2に達すると推測される.Silent killerと称される卵巣癌は初回診断時60~70%が進行癌で,5年生存率はIII/IV期で30%前後であり,婦人科癌のなかでは最も低い.一方,I期癌の5年生存率は90%を超えており,早期診断の重要性が認識される.卵巣癌の診断については最も有用な腫瘍マーカーCA─125を中心に検討されてきた.

卵巣がん治療の効果判定,再発予知と腫瘍マーカー

著者: 島田宗昭 ,   板持広明 ,   紀川純三

ページ範囲:P.1370 - P.1373

はじめに

 分子生物学の発達に伴い,癌の診断や効果判定あるいは再発や予後を予測する因子が数多く報告されている.卵巣癌においても,osteopontinやYKL─40などの新しい腫瘍マーカーが開発されている1, 2).しかしながら,CA125を凌駕する卵巣癌の腫瘍マーカーは現在のところみられない.

 卵巣漿液性腺癌のコア関連蛋白であるCA125の陽性率は,I期で50%,進行癌で90%ときわめて高く,卵巣癌の腫瘍マーカーとして広く用いられている3).一方,CA125は組織型により陽性率が異なることや,子宮内膜症,体腔内炎症疾患,月経,妊娠および腹水の存在などの偽陽性因子が存在することなどの問題点も指摘されている4)

 The European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC),National Cancer Institute(NCI)およびNational Cancer Institute of Canada Clinical Trial Groupが新たな化学療法の効果判定基準としてresponse evaluation criteria in solid tumor(RECIST)を提唱し広く用いられるようになった5).RECISTでは,腫瘍マーカー単独による治療効果判定は原則として行わないことを明記しているものの,前立腺特異抗原prostate─specific antigen(PSA)とCA125に関しては特別な付加的基準がつくられ,その妥当性が検討されている.また,Gynecologic Cancer Intergroup(GCIG)はCA125による再発判定基準を提唱している.このように,CA125の腫瘍マーカーとしての意義は診断的価値から治療効果判定や再発予知に移りつつある.

 本稿では,CA125による卵巣癌の治療効果判定と再発予知について概説する.

乳がんと腫瘍マーカー

著者: 田島知郎 ,   田中洋一 ,   片野智之 ,   石津和洋

ページ範囲:P.1374 - P.1377

はじめに

 乳がんには,固型がん診療のリード役を演じている場面が多い.腫瘍マーカーに関しても,それを孤立的な指標として捉えるのではなく,予後あるいは腫瘍形質を推測するための多くの物質を含めたバイオマーカーという括りで全体像を評価し,そのなかで各マーカーの意義を考える方向でリードしている.この背景には,狭義の腫瘍マーカーが乳がんのスクリーニングや初回治療時にはほとんど役立たないという事情があることもあり,また実際に西欧諸国での利用度はわが国に比較してはるかに低い1~3)

いわゆる“マーカー再発”をどう取り扱うか

著者: 永瀬智 ,   八重樫伸生

ページ範囲:P.1378 - P.1381

はじめに

 婦人科領域における腫瘍マーカーとしては,子宮頸癌におけるSCC,卵巣がんにおけるCA125が代表的である.特に卵巣がんにおいては進行例の90%以上において血清CA125レベルが上昇するといわれており1),治療効果の判定や再発の診断などに利用され,外来定期診察時の検査項目としても推奨されている2).一方,卵巣がんの治療においては,初回手術における病巣の完全摘出または最大限の腫瘍減量の有効性が確認され,後治療としてのtaxane系+platinum系療法が標準的化学療法として確立し,完全寛解50~60%が得られるようになってきた.しかしながら,卵巣がんの再発症例は,ほとんどが致命的な経過をたどるため,再発の診断や再発時の治療法の選択は臨床的にも重要な事項である.本稿では,卵巣がん再発とCA125との関連について述べ,さらに,CA125のみ上昇している卵巣がん“マーカー再発”例をどのように扱うかについて考察したい.

実地臨床応用が期待される新たな腫瘍マーカー―バイオマーカーとしてのゲノム変化を中心に

著者: 平沢晃 ,   進伸幸 ,   青木大輔

ページ範囲:P.1383 - P.1387

はじめに

 婦人科領域では多くの腫瘍マーカーが利用されており,日常診察において欠かせない存在になっている.

 子宮頸癌や子宮体癌では,直接的に細胞や組織を採取し診断することが比較的容易であるため,治療効果の評価や再発の早期発見の目的で腫瘍マーカーを利用することが多い.一方,卵巣は腹腔内臓器であることから細胞や組織を直接採取することが困難である.そのために卵巣腫瘍の場合には,治療前に病理組織学的検索が不可能である場合が多く,卵巣癌診断における腫瘍マーカーへの期待は大きい.特にコア蛋白関連腫瘍マーカーであるCA125は最も汎用されているマーカーの1つであるといえる.

 しかしながら,血清マーカーの開発はやや一段落した感が否めない.さらには,がん特異性の観点からは限界も認識されてきている.

 一方,近年のゲノム医学の急速な進展はさまざまながん特異的遺伝子変化を明らかにしつつある.一般に発がんの過程には,がん遺伝子,がん抑制遺伝子,ミスマッチ修復遺伝子などの変異が認められることが知られている.近年,婦人科領域においてもそれらの関与が指摘されており,これらのゲノム変化をがんの個性化診断のためのバイオマーカーとして用いる試みも行われている.

 このような背景のもと,本稿では腫瘍マーカーの概念を血清マーカーのみではなく,遺伝子産物あるいはゲノム変化そのものにまで広げることで,腫瘍マーカーの今後の可能性について考えてみたい.

保険診療上考慮すべき腫瘍マーカーの使い方

著者: 木村英三 ,   落合和徳

ページ範囲:P.1388 - P.1391

はじめに

 腫瘍マーカーは主に悪性腫瘍の診断,治療効果判定などに臨床応用されるが,医療保険を適用する場合,かなり厳しい制限があり,診療報酬点数は年々引き下げられているのが現状である1).本稿では,日常臨床で腫瘍マーカーを有効にかつ経済的に利用するために必要な保険診療上の要点と注意すべき点を述べる.

連載 カラーグラフ・知っていると役立つ婦人科病理・74

What is your diagnosis ?

著者: 清川貴子 ,   濱田智美

ページ範囲:P.1331 - P.1333

症例 : 48歳,女性

 水様性帯下が持続し,子宮頸部が腫大していた.繰り返し行われた生検では悪性所見を認めなかったが,単純子宮全摘術が施行された.写真は摘出子宮である(頸部には入割と検体採取による人工的変化が加わっている).

 1.診断名は何か.

 2.病理学的特徴は何か.

 3.主な鑑別診断は何か

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・5

卵巣出血をきっかけとして発見された卵黄嚢腫瘍(yolk sac tumor)

著者: 松田壯正

ページ範囲:P.1393 - P.1395

症 例

 患 者 : 10歳代後半,女性.初経11歳,月経周期20日目.未経妊・未経産.

 主 訴 : 2~3日前より左下腹痛があり,12月20日に消化器内科を受診した.

 既往歴・家族歴 : 家族歴に特記事項なし.

 現病歴 : 経腹エコーで卵巣腫大が観察されたため産婦人科に紹介された.

 現 症 : 紹介時,意識清明,血圧120/76 mmHg,体温36.8℃,脈拍60回/分・整.身体診察上,左下腹部に軽い圧痛があるが,嘔気・嘔吐はなかった.白血球数6,320/ml,ヘモグロビン13.2 g/dl,CRP0.3 mg/dl以下と異常を認めなかった.妊娠反応は陰性であった.経腟エコー所見を示す(図1).

イラストレイテッド産婦人科小手術・4

―【穿刺】―ダグラス窩穿刺

著者: 河井通泰

ページ範囲:P.1398 - P.1401

1 はじめに

 骨盤腔内の貯留液の性状,種類を調べるために行う検査法の1つがダグラス窩穿刺である.近年,MRIを用いて非侵襲的に診断する方法が登場してきている.しかしダグラス窩穿刺は慣れれば短時間で安価に,そして安全に施行できる方法であり,日常頻用する検査法である1).内診台に上がったときの骨盤内の局所解剖を立体的に把握しておく必要がある.

病院めぐり

兵庫県立成人病センター

著者: 西村隆一郎

ページ範囲:P.1402 - P.1402

兵庫県立成人病センターは昭和59年に県立がんセンターを母体として明石市に設置されました.病床数400床(婦人科50床)の厚生労働省臨床研修指定病院ならびに日本医療機能評価機構認定病院で,兵庫県におけるがん医療の中核・拠点病院となっています.全医師数は90名,うち婦人科のスタッフ数は6名(専門医5名)で,手術療法,放射線療法,化学療法などによる集学的治療を行っています.標準的治療を基本としますが,臨床試験にも積極的に参加しています.治療法の選択に際しては,その有効性や副作用についての最新情報を呈示するともに,当センターでの5年生存率などの治療成績を公表して,インフォームド・チョイスに努めています.また,20年前からすべてのがん患者の臨床データをコンピュータ管理し,がん治療で最も重要な治療効果の客観的評価や責任ある予後管理を心掛けています.2004年の新規がん患者数は浸潤子宮頸がん117例,子宮体がん78例,卵巣がん30例で,手術件数は年間462件でした.

 頸部上皮内腫瘍(CIN)の若年化傾向から,妊孕能の温存を望む患者さんに対しては光線力学療法(PDT)による機能温存治療を1999年から導入しています.PDTは従来のレーザー治療とは異なり,頸部を切除することなくCIN病巣を選択的に治療する方法で,すでに100例以上の患者で約94%の治癒率を得ています.一方,局所進行頸がんに対しては手術の根治性を高めるために術前化学療法(NAC)を行っています.NACは白金,タキサン,イリノテカンなどを組み合わせて,約1か月の短期間で行っています.また,子宮体がんと卵巣がんに対しても広汎な手術と化学療法を積極的に導入しています.術後の化学療法は患者さんのQOLを考慮して,なるべく外来通院で行うようにしており,1週間に約40人が外来化学療法を受けておられます.

海老名総合病院

著者: 佐々木茂

ページ範囲:P.1403 - P.1403

海老名総合病院は神奈川県のほぼ中央に位置する海老名市に昭和58年(1983年)に開設され,以来,海老名市をはじめ周辺の綾瀬市,座間市などを含む地域の急性期医療を担当する中核的総合病院の1つとして機能を果たしている.特に救急医療については開設以来二次救急医療を担当し,年間15,000件を超える救急患者の治療を行うと同時に,地域の救命救急士の指導,育成にも力を入れ,救急医療体制の充実に協力している.平成10年度より医師の厚生労働省指定臨床研修指定病院(主病院)となり,平成15年には医師卒後研修必修化に伴い管理型臨床研修病院として指定され,現在1学年6名,2学年5名の計11名が臨床研修に励んでいる.

 病床数は425床,標榜科目は20科で,日本医療機能評価機構認定医療機関でもある.もちろん,日本産科婦人科学会専門医制度卒後研修指導施設として産婦人科専門医研修の指導にも当たっている.産婦人科では常勤医師5名(うち2名は大学からの派遣医師),非常勤医師9名で診療を担当している.

婦人科超音波診断アップグレード・18

骨盤内炎症性疾患の超音波所見

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.1405 - P.1414

1 はじめに

 骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease : 以下,PIDと略)は,子宮内膜炎,子宮筋層炎,卵巣・卵管炎,卵巣・卵管膿瘍,骨盤腹膜炎,ダグラス窩膿瘍などの女性の子宮頸管より上部の内生殖器に発生する炎症性疾患の総称であり1, 2),米国では生殖年齢中に10人に1人が罹患し3),毎年100万人近くの患者が発生するとの報告4)がある.卵管炎による卵管の損傷は25~35%に女性不妊をもたらすとの報告5)があり,子宮外妊娠や慢性骨盤痛の原因にもなり得る.病原菌としては,クラミジアや淋菌などの性感染症起因菌が多いが,腟内常在菌(嫌気性菌,腸内グラム陰性桿菌,G.vaginalis, Streptococcus agalactiae, Haemophilus influenzae)も関係し,いくつかの例ではサイトメガロウイルス,M.hominis, U.urealyticumも原因となり得るとされる1).また関連疾患として,さらに腹腔内に感染が進行すると肝周囲炎を合併し,Fitz─Hugh─Curtis症候群(以下,FHCと略)が発生する場合がある.

 一般的に,PIDの診断における超音波の特異度は高いが,感度については必ずしも一定の見解が得られていない.しかし,腹腔鏡によらず低侵襲に繰り返し施行可能な利点は大きいと考え,今回はPIDおよびFHCの超音波所見についても検討してみたい.

症例

妊娠に合併した化膿性肝膿瘍の1例

著者: 伊藤雅之 ,   山内延広 ,   水田正能 ,   守谷誠

ページ範囲:P.1417 - P.1420

はじめに

 化膿性肝膿瘍は発熱,右季肋部痛,肝腫大を三主徴とする比較的稀な疾患である.高齢者に多く,妊娠に合併することはきわめて稀で,これまで国内外に数例の報告例があるのみである1, 2).今回,妊娠12週に化膿性肝膿瘍を合併した1例を経験したので報告する.

臨床経験

腹腔鏡第1トロッカー挿入におけるエクセルを用いた安全なダイレクト法の手技

著者: 北正人 ,   岡田悠子 ,   辰本幸子 ,   志馬裕明 ,   中村光彰 ,   山田聡 ,   小島謙二 ,   星野達二 ,   伊原由幸

ページ範囲:P.1421 - P.1426

はじめに

 婦人科腹腔鏡下手術の手技に伴う事故では,最初のトロッカー挿入時に発生するものが多く1~3),腹腔鏡手技のうち,最も注意が必要な段階の1つである.そのため,このトロッカー挿入に対して従来よりさまざまな工夫・器具の開発が行われてきている.トロッカー穿刺法は,トロッカー挿入前に小開腹を行うオープン法と,開腹を行わないクローズド法に分類される.クローズド法は,通常,まず気腹針で第1穿刺後,気腹し,そののちトロッカーで再穿刺するが,気腹針を使用せずトロッカーで直接第1穿刺を行う方法をダイレクト法と称している.オープン法はクローズド法に比べ手技が煩雑であり,創が大きい代わりに腹腔内臓器の損傷が少ないといわれていたが,クローズド法,特に気腹針を用いないダイレクト法が開発され,その安全性が認められるようになっている.ダイレクト法は最初は鋭利な先端のトロッカーを用い,穿刺時の触感のみで盲目的に穿刺を行うブラインド法のみであったが,先端が鈍性のトロッカーが用いられるようになり,また先端が透明なトロッカーも開発され,鋭的な損傷を起こさずにスコープによる透見・直視下に穿刺が行えるようになった3~11)

 本稿では,エクセル(旧品名オプティビュー,ジョンソン・エンド・ジョンソン)を用いたダイレクト法の具体的な方法について述べる.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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