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今月の臨床 症例から学ぶ常位胎盤早期剥離 症例から学ぶ
胎盤後面にecho free spaceが観察されたが,母児ともに著変なく経過したあとに典型的な常位胎盤早期剥離を発症した1症例
著者: 森川肇1 水田裕久1 佐道俊幸1
所属機関: 1奈良県立医科大学産科婦人科学教室
ページ範囲:P.152 - P.157
文献購入ページに移動常位胎盤早期剥離とは「妊娠20週以後で,胎児の分娩前に,正常の位置に着床した胎盤が早期に剥離する」ことをいう.1775年にRigbyが前置胎盤とは異なる性器出血として報告したが,のちにCouvelaireが妊娠末期の胎盤早期剥離を報告している.20週以後の性器出血の1.5~3%を占めるとされているが,大部分は原因不明である.常位胎盤早期剥離の発症例には妊娠中毒症の合併が多く,妊娠中毒症の重症度と発生頻度が相関するという.胎盤辺縁部の基底脱落膜での胎盤剥離により出血が始まり,胎盤後血腫を形成するが,次第に大きさが増すにつれて血液が胎盤母体面から卵膜と子宮壁の間を下降し,頸管から腟内へ流出する.多くの場合は頸管が児先進部により閉鎖されているので,外出血量は少なく,巨大子宮留血腫となる.すなわち,外出血は少なくて内出血が多く,外出血と患者の状態が一致しないために,最終的には多量の子宮内出血と胎盤機能障害を引き起こすことになる.したがって,母体の心血管系への影響,剥離部子宮筋層への影響,剥離の度合いによる胎児への影響,さらに合併症として生じた母体の低フィブリノーゲン血症,DIC,腎不全なども加わって,母体および児死亡率が高い(母体死亡率は1~2%,児死亡率は20~50%)1, 2).
筆者らは,妊娠中期に突然の下腹部痛に続く周期的な子宮収縮と性器出血を認めたが,直後には典型的な胎盤早期剥離の症状を示さず,母児の状態が安定していたので経過を慎重に観察していたところ,約1か月後になって典型的な早期剥離の症状を呈した症例を経験したので報告する.
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