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今月の臨床 妊産婦と薬物治療─EBM時代に対応した必須知識 Ⅰ.総論
産科婦人科遺伝外来(妊婦の薬相談外来)の現状
著者: 増田寛樹1 佐藤博1
所属機関: 1新潟大学医歯学総合病院薬剤部
ページ範囲:P.394 - P.399
文献購入ページに移動妊娠とは気付かずに薬を服用した妊婦,あるいは慢性疾患のため服薬しながら妊娠を希望する婦人の奇形児出産に対する不安を解消するため,厚生労働省は2005年度に「妊婦とクスリ情報センター」(仮称)を新設する方針が報じられた(asahi.com : 健康 : 医療・病気,2004/08/18).「妊婦または妊娠している可能性のある婦人には薬を投与しないこと」の情報提供に,行政がメスを入れる姿勢は大いに称賛されるものである.しかしながら,海外ではThe European Network of Teratology Information Services(ENTIS),Teratogenic Effects of Drugs a Resource for Clinicians(TERIS : J.M. Friedman, Janine E. Polifka),Prescribing Medicines in Pregnancy by The Australian Drug Evaluation Committee, Drugs in Pregnancy and Lactation(Gerald G. Briggs, B. Pharm, Roger K. Freeman, Sumner J. Yaffe)などにみられるように,催奇形性に関する情報の収集ならびに薬剤評価システムがすでに構築され,稼働している状況である.
現在,新生児に認められる重篤な先天性異常は,2~3%1)あるいは3.5~5%(Brent and Beckman, 1990 : 精神的発達の遅延や重要な器官の欠損などを含む)であると考えられている.先天性異常の原因は,単一遺伝子,多因子性遺伝,染色体異常および環境要因などに分けられ,環境要因としての感染症および薬剤による先天性異常は,それぞれ全体の3%および1%程度と考えられている.なお,先天性異常の60~70%は原因不明である2, 3).薬剤が胎児に及ぼす影響は少ないと考えられるが,妊婦あるいは妊娠の可能性のある婦人にとって,それは深刻な問題である.妊娠における種々の相談を受ける場として,新潟大学医歯学総合病院(旧 新潟大学医学部附属病院)では,産科婦人科遺伝外来がある.遺伝外来は1973年に開設され,毎週水曜日の午後に診療を行ってきた.遺伝外来を受診するクライアント(妊婦および妊娠前の婦人)は年間90~100例程度であり,そのカウンセリング内容は,(1)妊娠に対する薬剤の影響(26.7%),(2)高齢妊娠(20.8%),(3)前回染色体異常児を主とする先天異常児の出産ならびにその再発に関するもの(13.6%)などである4, 5).薬物に関する相談が多いことから,薬剤師による客観的なカウンセリング実施形態をとるため,1995年3月22日より「妊娠時における服薬による胎児への影響(催奇形性)」に関する情報提供6~8)を,医師と同席して開始した.当時よりこの分野の先発である虎の門病院に教えを請うて以来,現在200例を超えるに至るが,経験例数の少なさを補うのは豊富な経験を持つ産科婦人科遺伝外来の歴史であることは論を俟たない.「妊婦への服薬カウンセリング」に関して後発ではあるが,創意工夫を重ねて,つつがなく現在に至っている.
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