文献詳細
文献概要
今月の臨床 妊産婦と薬物治療─EBM時代に対応した必須知識 Ⅱ.妊娠中の各種疾患と薬物治療 1.日常的な突発疾患の治療と注意点
[腎・泌尿器系疾患] 腎盂腎炎
著者: 伊庭敬子1 松尾重樹1 松本雅彦2
所属機関: 1大阪市立総合医療センター産婦人科 2都島保健センター
ページ範囲:P.448 - P.449
文献購入ページに移動妊娠時には,増大した子宮による圧迫で,腎盂尿管の拡張がみられやすい.また胎盤より多量に分泌されるプロゲステロンの作用で膀胱の平滑筋が弛緩し,残尿がみられるようになるため,尿路感染症の頻度が上昇する.妊婦の5~10%に無症候性細菌尿がみられ,妊婦の約1~2%では上行性感染を起こし腎盂腎炎に進行する1).右側に多いが,両側性の場合もある.右側に多い理由としては,妊娠子宮が右旋,右傾すること,左側尿管はS状結腸により圧迫が軽減されること,直接,下大静脈へ還流する右卵巣静脈が妊娠中に拡張するため右尿管が圧迫される,などが挙げられる2).起因菌は膀胱炎と同様にグラム陰性桿菌が主で,特にEscherichia coliが主で約80%を占め,Klebsiella pneumoniaeやProteus mirabilisがこれに続く3).
症状は発熱,悪寒,全身倦怠感,罹患側の腰痛,残尿や排尿時痛などの膀胱炎症状,さらには悪心,嘔吐などの消化器症状を呈することもある.これらの症状に加え,肋骨脊柱角(CVA)の叩打痛を認めれば,本疾患を強く疑う.尿沈査で多数の白血球と細菌がみられ,血液検査で白血球増多,CRP上昇などの炎症所見を認めることで診断される.尿培養はもちろん,急性腎盂腎炎の約15%に菌血症を合併することから,血液培養の検査も必須である.重症例では,母体はエンドトキシン血症~ショック,呼吸窮迫症候群(ARDS),溶血性貧血などを併発し4),胎児の子宮内発育遅延,胎児死亡の原因となりうる.治療の時期を逸しなければ母体予後はおおむね良好であるが,妊娠中は尿の停滞が起きやすいため重症かつ治療抵抗性となり,腎機能低下をきたすこともある.全身の合併症として,糖尿病がある場合は重症化,再発に注意し,治療抵抗性の場合は尿管結石などによる尿路閉塞の存在を念頭に起き検査を進める.
参考文献
掲載誌情報