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今月の臨床 安全な産科手術・処置をめざして 分娩後の手術・処置における安全対策
弛緩出血の処置と対応
著者: 児玉由紀1 鮫島浩1
所属機関: 1宮崎大学医学部周産期センター
ページ範囲:P.881 - P.885
文献購入ページに移動これまで一般的には分娩後500 ml以上の出血がある場合を産褥出血とすると定義されてきた.しかし,正常の母体出血量は,経腟分娩では500~600 ml,帝王切開分娩では800~1,000 mlと考えられている.弛緩出血は,産科出血の原因の1つである.
1974年から1978年に至る2,067例の母体死亡調査1)(米国)によると,331例が産褥出血であったと報告された.この331例のなかで114例(34%)が弛緩出血によるものであった.わが国でも,1991~1992年に妊産婦死亡の横断的研究が行われ2),出血による死亡例が219例中86例(39%)であり最も多かった.医療施設で出血性ショックにより死亡した74例のなかでは,弛緩出血が11例(15%)を占めた.
弛緩出血は産科出血の原因の1つである.多くの場合,弛緩出血は分娩の前に予測し得る(表1).巨大児,多胎児,羊水過多など過伸展した子宮は分娩後に子宮弛緩を起こしやすい.双胎の分娩の際には平均1,000 mlもしくはそれ以上の出血がある.また子宮弛緩を起こす吸入麻酔薬が使用されたときにも弛緩出血は起こり得る.
オキシトシンによる分娩誘発・促進でも弛緩出血に注意する.Fuchsら3)は7回以上の多産婦約5,800人を対象に検討し,2.7%に弛緩出血があり,一般妊産婦の4倍であると報告した.また,Babinskiら4)は,弛緩出血の頻度は経産回数の少ない産婦では0.3%に対し,4回以上の経産婦では1.9%であったと報告している.
前回分娩時に弛緩出血の既往がある場合もリスク因子である.
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