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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科59巻7号

2005年07月発行

今月の臨床 月経前症候群と月経痛─どう対応するか

月経前症候群

臨床心理学の視点からみた月経前症候群

著者: 武井祐子1 中村有里2

所属機関: 1川崎医療福祉大学医療福祉学部臨床心理学科 2川崎医療福祉大学大学院医療福祉学研究科臨床心理学専攻

ページ範囲:P.968 - P.971

文献概要

はじめに

 Frankが女性の性周期に伴うホルモン変化と精神機能の変動を結びつけ,premenstrual tensionと名づけて以来,月経前にさまざまな身体症状および精神症状を示す症状について注目されるようになり,Greeneらが月経前症候群(以下,PMS)という名称を提唱し,その後その名称が使用されるようになった.PMSは,月経開始前に数日続く精神・身体症状を示し,月経開始とともに消失する.精神症状とともに多彩な身体症状を示し,精神症状が重度になるほど身体症状も重度になるなど1),精神症状と身体症状が相互に関係した症候群と考えられる.

 そもそも,月経とは「通常約1か月の間隔で起こり,限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的出血」と定義される女性にのみ起こる生理的現象である.月経周期の体験は「女性としての自己」を刺激し,女性に自己の身体・精神・社会的な役割を徐々に認識,受け入れさせ,「女性としての自己」を形成させる2).その一方で,月経困難症を持つ女性は月経時に痛みで苦しまない女性より,より高い不安を抱くことが指摘されており3),女性の5人に1人は月経によってさまざまな身体的・精神的苦痛を経験し,社会生活上,特別な対処を要求され,不利益を被っている.月経によって生じる現象のなかでもPMSの症状やPMSが引き金となって生じる女性の行動は,社会全般に認知されているとはいい難い.しかし,PMS症状の強い女性は月経前によりネガティブな心理状態になっており,実際の生活場面においても心理的なストレス状態に置かれていること4),月経前の女性は,学校の成績や知能検査の結果が低下すること,仕事上のミスや事故が増加すること,犯罪行為や事故が増加することなどが指摘されており5),女性が社会で快適に生活していくためには,PMSの問題を社会全体が理解,対応していく必要があると考えられる.

 PMS症状の軽減をはかるためにはさまざまな試みがなされている.心理療法的なアプローチでは,痛みに対して有効性が確認されている6)認知行動療法が注目されている.また,PMS症状を悪化させる要因としてストレスに注目し,ストレスマネージメントの方法として,睡眠の取り方の工夫,規則的な運動,ヨガや瞑想,リラクゼーションの活用,入浴法や趣味に時間をとること,マッサージなどが提案されている7).また川瀬ら8)は,prospectiveな方法で記録することがPMS症状の自覚に有意義であるとともに,セルフケアの促進をはかることができると考え,PMSメモリーを開発し,有用性を確認している.これらのアプローチは,PMS症状そのものを取り除くのでなく,PMS症状に影響を与える要因に対応したり,月経周期を意識することで自分の症状へのマネジメント能力を高めていくなど,自身がPMS症状に適切な対応をするために必要なサポートは何かを明確にしている点が共通していると考えられる.

参考文献

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21) 島井哲志 : 痛みの認知心理学.現代のエスプリ別冊「病気と痛みの心理」.至文堂,2000

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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