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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科59巻9号

2005年09月発行

雑誌目次

今月の臨床 胎児疾患の管理─胎内治療の時代を迎えて

胎児治療─最近の動向

著者: 千葉喜英

ページ範囲:P.1202 - P.1205

胎児治療の社会的認知

 社会的認知や医療経済的認知なくして,新しい医療が定着・普及するはずがない.胎児輸血がLiley1)により発表されたのは1963年であり,わが国では1966年に金岡ら2)により発表された.以後40年の歳月が流れたにもかかわらず,わが国において,胎児輸血は社会的にも医療経済的に認知されていない.米国では年間500件程度行われている3).わが国では胎児輸血は未だに,医師の裁量のみによって実行される研究的,実験的医療である.しかしあまりにも歴史が古い技術なので,いまさら高度先進医療と呼ぶこともはばかれる.確かに,わが国の人口やRhD因子陰性率から考えると,RhD因子にかかわる胎児輸血の適応例は年間数例にすぎない.少なければ医療保障は容易に行えるはずであり,不規則抗体に起因する胎児貧血やパルボB─19による貧血など,ほかにも胎児輸血の適応はある(図1)4)

 突破口が1つ開けた.医療機関を指定して,医療経済的に認知する高度先進医療に2種類の胎児治療が指定された.いずれも国立循環器病センターと筑波大学附属病院での承認である.1つは胎児尿路─羊水腔シャント術で平成16年12月より認められた.適応症は,Prune─Belly症候群などの胎児閉塞性尿路疾患である.2つ目は胎児胸腔─羊水腔シャントチューブ留置術で平成17年4月より認められた5)

胎内治療の適応と実際

閉塞性尿路疾患

著者: 中田雅彦 ,   杉野法広

ページ範囲:P.1207 - P.1211

はじめに

 胎児超音波検査の進歩と普及は,胎児期の閉塞性尿路疾患の診断に寄与しただけでなく,その出生後の経過観察の結果より,小児期の腎不全の成因の1つとして同疾患をクローズアップすることとなった.閉塞性尿路疾患に対する胎児期の介入が,生存率を向上させるだけでなく,出生後の透析の導入や腎移植適応症例を減ずることになれば,その意義はきわめて深い.閉塞性尿路疾患に対する胎内治療が報告されて以来20年以上が経過した現在,改めて同疾患に対する胎児期の介入やその方法について再考する時期に差しかかってきていると思われる.

胎児水腫・腔水症

著者: 佐藤昌司

ページ範囲:P.1213 - P.1219

はじめに

 胎児水腫は,胎児の皮下浮腫,胸・腹水ならびに心嚢液貯留を主徴とする症候群の総称であり,母児間血液型不適合妊娠に起因する免疫性胎児水腫(immunologic hydrops fetalis : IHF)と,それ以外の原因による非免疫性胎児水腫(non─immunologic hydrops fetalis : NIHF)に大別される.胎児水腫と腔水症はしばしば混同される名称であるが,Potterの定義1)に従えば前者は皮下浮腫に腔水症を伴う状態であり,一方,後者は体腔への水分貯留をきたした状態に対する症候名として区別される.

不整脈,心不全

著者: 前野泰樹

ページ範囲:P.1220 - P.1225

はじめに

 胎児の心疾患により心不全をきたすものでは胎児水腫となり,進行すれば胎内死亡をきたすことが知られている.心不全をきたす原因には種々のものがあるが,そのなかには不整脈,特に頻脈や貧血に伴う高心拍出性心不全のように胎内治療の有効性が証明されているものもあるため,心不全の原因を精査し,その原因に的確な治療を行うことが重要となる.胎児の疾患による2次的な心不全に対する治療は他稿にて解説されているため,本稿では,不整脈とそのほかの心臓の1次的な異常による心不全についての治療について解説する.

パルボウイルス感染症

著者: 松田秀雄

ページ範囲:P.1227 - P.1231

はじめに

 これまで,パルボウイルスB19による重症胎児貧血・胎児水腫の治療には子宮内輸血が施行されてきた.しかしながら,治療行為がもたらす利益が常に治療行為自体のリスクを上回っているかどうかについては十分なエビデンスが確立しているとはいい難い1).母体にガンマグロブリン点滴を施行した報告が1例あるが,胎盤をうまく通過して胎児に到達し効果を現しうる至適投与量は不明で,大量投与に伴う費用対効果が問題となる2)

 われわれは妊娠20週で紹介されたB19による胎児水腫症例において抗パルボウイルスB19抗体高力価ガンマグロブリンを胎児腹腔内に投与(globulin injection into fetal peritoneal cavity : GIFPeC)し,治療効果を,①ドプラ超音波による胎児中大脳動脈収縮期最大血流速度(MCAPSV),②母体および胎児のB19─DNA定量の治療前後における経時的推移,③母体B19─IgG/IgMの推移により判定した.MCAPSVは短期間で明らかに低下し,胎児水腫は消失した.胎児腹水におけるB19─DNAは著明に低下した.一方,母体のB19─DNA,B19─IgG/IgMは短期間に変化しなかった.このことから,GIFPeCは一定の治療効果をもつことが明らかとなった.

 症例を詳述するとともに,胎内治療としてのGIFPeCの可能性について考察を加えたい.

頸部水滑液腫

著者: 川俣和弥

ページ範囲:P.1233 - P.1237

はじめに

 水滑液嚢腫(cystic hygroma)は先天奇形の液体貯留で,頸部,腋窩,肩の周りにみられることが多い.組織学的には良性のリンパ管腫(lymphangioma)の形態をとり,数個または多数の嚢胞状の拡張したリンパ管または空間の限局集団で,管腔は内皮細胞により覆われ,リンパ液で充満している1, 2).胎生早期の先天的なリンパ管系の形成異常により生じるとされている.

 胎児期,特に第2三半期に発見されるリンパ管腫は非常に予後が悪く,後頸三角に認められることが多い.これに対し,第3三半期に発見される孤発性のリンパ管腫は前頸三角に認められ,比較的予後は良好である.

 胎児期に発見されるcystic hygromaの例では60%以上の染色体異常を合併し,そのほかの合併奇形も認められることが多い(表1)3~5)

双胎間輸血症候群

著者: 村越毅

ページ範囲:P.1239 - P.1243

はじめに

 双胎間輸血症候群(twin─to─twin transfusion syndrome : TTTS)は一絨毛膜二羊膜(monochorionic diamniotic : MD)双胎の10~20%に引き起こされる特徴的な疾患であり,早期発症型の予後はきわめて不良である1~4).MD双胎の共通胎盤による吻合血管を通じて引き起こされる両児間のアンバランスな血流移動が原因と考えられており,供血児(donor)では,慢性的な血液の供給により循環不全を引き起こし,貧血,低血圧,尿量減少(乏尿),羊水過少,胎児発育不全,腎不全を主症状とする.一方,受血児(recipient)では,反対に慢性的な容量負荷により,多血,高血圧,尿量増加(多尿),羊水過多,胎児体重増加,心不全,胎児水腫を主症状とする.いずれの児も最終像は胎児死亡であり,生存児の神経学的後遺症の頻度も高い.従来から行われている羊水除去による治療ではTTTSの原因を取り除くことができず,羊水過多による早産・破水を防ぎ妊娠週数を延長することが目的となり,その成績も生存率37~78%,神経学的後遺症10~25%と不十分であった1~4)

 胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(fetoscopic laser photocoagulation for TTTS : FLP)はTTTSの原因である胎盤での吻合血管を胎内で除去するという本質に迫る治療であり,1990年にDe Lia5)により最初に報告されてから欧米を中心にさまざまな報告6~8)があり,現在は生存率・神経学的後遺症ともに羊水除去に比較して優れた治療であると考えられている9, 10).本邦では1992年に名取ら11)により第1目例が報告され,2002年から村越ら12~14)により本格的に開始された.現在は当センターを含め4施設(聖隷浜松病院総合周産期母子医療センター13),国立成育医療センター15),山口大学病院,新潟大学病院)において同一プロトコールで治療を実施している.本稿では,TTTSの診断およびFLPの適応・要約,治療の実際と成績について解説する.

TRAP sequence

著者: 天野完

ページ範囲:P.1244 - P.1247

はじめに

 TRAP sequence(twin reversed arterial perfusion sequence)1)は35,000妊娠に1例あるいは1絨毛膜双胎の1%にみられる稀な病態で,動脈─動脈吻合を介して健児(pump twin)の臍帯動脈血流が逆行性に無心体(acardiac twin)を還流する.羊水過多の合併頻度が高く早産となるリスクに加え,健児が高拍出性心不全に陥れば周産期予後はきわめて不良である.頻回の羊水除去やジゴキシン,インドメサシンによる薬物療法の効果は限られるため,外科的胎内治療が行われるようになった.

胎児外科手術─今後の展望

横隔膜ヘルニア

著者: 千葉敏雄

ページ範囲:P.1249 - P.1257

はじめに

 胎児治療はいまだ発展途上のものとはいえ,2020年までには胎児診断とともに,日常的診療行為の1つになることが予測されており(米国NIH, 1999),今後急速に発展することが確実と考えられる.先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia : CDH)は,胎児外科治療の対象疾患として当初よりその中心的課題の1つであった.胎児期に診断されるCDHには,周産期予後が明らかに不良なものが存在する.その管理方針についてはいまだ多くの議論があり,今回はCDH胎児期管理における最近までの経過と現況について考えてみたい.特に,重症CDHに対する胎児期手術,近年再検討されている内視鏡的胎児気管閉塞術(endoscopic fetal tracheal occlusion)については,その臨床的意義,生理学的背景,今後の方向を含め述べてみたい1~5)

肺腫瘍

著者: 松本直 ,   田中守 ,   吉村泰典

ページ範囲:P.1258 - P.1263

はじめに

 先天性嚢胞状腺腫様肺奇形(congenital cystic adenomatoid malformation of the lung : CCAM)や気管支肺分画症(broncho plumonary sequestration : BPS)などの胎生期より認められる肺腫瘍は,今日においては比較的予後良好な疾患に位置づけられている.その一方で,稀ではあるが腫瘍の圧迫に伴う胎児水腫や肺低形成により,子宮内胎児死亡,新生児死亡に至る予後不良症例も認められる.本稿では胎児肺腫瘍のなかでも特に頻度の高い疾患であるCCAMを中心に,疾患の概念ならびに胎児治療を含めた管理方針について概説する.

仙尾骨奇形腫

著者: 津﨑恒明

ページ範囲:P.1264 - P.1267

はじめに

 仙尾骨奇形腫(sacrococcygeal teratoma : 以下,SCT)は小児奇形腫の代表的疾患で,全奇形腫の23~41%を占め,出産40,000に1例の頻度とされる.女児に多く,組織学的には成熟奇形腫が最多(63%)であるが,悪性奇形腫群腫瘍も25%存在する1)

 SCTは仙尾部や仙骨下端から発生し,発育様式は,①骨盤外に突出する後方発育型(Altman I型)が最も多く,②骨盤内外に連なる亜鈴型(Altman II型およびIII型)が次いで多く,③骨盤内のみの前仙骨型(Altman IV型)は比較的少ないとされる1).自験例は後方発育型(Altman I型)と超音波診断したが(図1),のちの手術時所見ではAltman II型であった.

脊髄髄膜瘤

著者: 夫律子 ,   夫敬憲

ページ範囲:P.1269 - P.1273

脊髄髄膜瘤とは

 二分脊椎(spina bifida)といわれるなかには,開放性(顕在性)二分脊椎と潜在性二分脊椎がある.胎児期から出生後において通常「二分脊椎」と称されているのは開放性(顕在性)二分脊椎のことである.さらにこの開放性二分脊椎にもいくつかの分類がなされている.脊髄神経が脊柱管内にとどまっている髄膜瘤と異なり,脊髄髄膜瘤は,脊髄神経が脊柱管から外方に出ている状態である(図1).これまで胎児期における二分脊椎ということばが,開放性二分脊椎,あるいは脊髄髄膜瘤のことを指し示す用語として用いられてきていたが,誤解を避けるため,本稿ではすべて脊髄髄膜瘤という言葉を使用することとする.

 脊髄髄膜瘤例のほとんどすべての例でキアリII型奇形がみられる.キアリII型奇形を図21, 2)に示す.神経管閉鎖不全が生じたために髄液が脊髄髄膜瘤から羊水中に流出し,頭蓋は縮小する.脳は成長するが頭蓋が縮小するため,そのしわ寄せが後頭蓋窩に生じ,大槽は消失し,小脳は下方へ落ち込む.さらに中脳水道や第4脳室は延長,狭窄を強いられ,そのために脳脊髄液の流出不良が起こり,二次的に脳室拡大,水頭症が生じる.

連載 カラーグラフ・知っていると役立つ婦人科病理・73

What is your diagnosis ?

著者: 濱田智美 ,   清川貴子

ページ範囲:P.1199 - P.1201

症例 : 29歳,女性

 卵巣腫瘍の診断のもと,右付属器切除術を施行された.術中腹水細胞診は陰性であった.術前,明らかなホルモン症状は認められなかった.

 1.Fig1~3から考えられる診断名は何か.

 2.鑑別すべき診断は何か.

婦人科超音波診断アップグレード・17

産褥期間の子宮の超音波所見―胎盤遺残を中心に

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.1275 - P.1286

1 はじめに

 産褥期間は,日本産科婦人科学会編集による『産科婦人科用語集・用語解説集』1)(以下,日産婦用語集と略)では分娩が終了してから妊娠・分娩に伴う母体の生理的変化が非妊時の状態に復するまでの期間をいい,本邦では通常6~8週間とされている.国際的な産褥期間の定義はないが,第10回国際疾病分類(ICD─10)では,妊産婦死亡を妊娠中または分娩後42日以内における死亡と定義しているため,国際統計上では42日間ということになると思われる1).また,日産婦用語集では分娩24時間以内の異常出血を産褥早期出血,分娩24時間以後の産褥期の異常出血を産褥晩期出血と定義している.Leeら2)は,3,822例の分娩例において分娩後3週間以内の異常出血(薬物投与,外科的処置を要したもの)を示したのは58例(1.5%)であり,腟壁,頸管裂傷であった2例を除いた56例の時間的な内訳は,分娩後4時間未満の出血が5例(8.9%)(5/56例),4時間以上~24時間未満が24例(42.9%)(24/56例),24時間以上~4日未満が18例(32.1%)(18/56例),4日以上~7日未満が2例(3.6%)(2/56例),7日以上が7例(12.5%)(7/56例)であったと報告している.

 産褥期間の子宮(以下,産褥子宮と略)の超音波診断についての報告はあまり多くはない.産褥期に超音波を施行する理由としては,大量出血例や長期出血持続例に対する原因検索,胎盤遺残,絨毛性疾患,子宮筋腫,卵巣腫瘍などの診断や経過観察,帝王切開術後の子宮創部の観察などが挙げられる.特に,胎盤遺残の診断がなされれば不用意な処置による大量出血の危険性を回避できる可能性や,将来の出血に対しての対策を検討することができる.また卵膜,脱落膜遺残のみのケースでは経過観察のみでも自然排出が期待できる場合もあり3, 4),不要な処置を避け得る可能性もある.欧米では胎盤遺残の頻度は3.9~9%との報告5~9)があり,現在,保健適用はないものの産褥子宮の超音波診断の臨床的意義は大きいものと考えられるため,今回は産褥子宮の超音波所見,主に胎盤遺残を中心に検討してみたい.

イラストレイテッド産婦人科小手術・3

―【麻酔と切開】―し開創傷の再縫合

著者: 有吉和也 ,   齋藤俊章 ,   塚本直樹

ページ範囲:P.1290 - P.1293

1 はじめに

 術後の創し開には,創感染,血腫,創にかかる外力(引っ張り,肥満,嘔吐,咳,腹水貯留などの腹圧の上昇),全身の状態(低栄養,糖尿病,高齢者など),手術手技などさまざまな原因が関与する.縫合創は一般に2週間経過すると強固に結合し,外力によるし開は稀である.

 し開創の多くは創感染が関与し,術後5~8日に発症することが多い.術中および術後に起こった細菌の増殖により,主に皮下組織に感染を生ずる.清潔手術,あるいは汚染があっても最小限である手術(clean or contaminated operation)の創感染率は2~5%といわれているが,膿瘍などの感染を伴う手術や,消化管切除を伴う手術など準汚染手術または汚染手術(contaminated or dirty operation)においては,さらに高率に創感染を生ずる1).本稿では,婦人科手術に伴う手術創のし開に対する治療,再縫合について述べる.

病院めぐり

京都市立病院

著者: 岩破一博

ページ範囲:P.1294 - P.1294

京都市立病院の前身は明治15年に設立された伝染病対策病院で,昭和40年,京都市中央市民病院と市立京都病院を統合し,現在の地(西大路五条)に設立されました.病床数は586床で,産婦人科は39床です.平成4年には新棟の完成,オーダリングシステムを導入し,平成11年にはシステムが更新され,高度専門的医療の充実を目指しています.自治体病院として行政的医療である感染症医療,小児救急を含めた救急医療も行っており,「市民に信頼され,安心できる,心のこもった医療を提供します」という理念を掲げ,患者さんの目線に立った,満足度の高い医療サービスに取り組んでいます.平成17年には日本医療機能評価機構認定病院に認定されました.京都大学と京都府立医科大学の人材を主体に,創立時からバランスの取れた病院運営が行われています.1患者,1 ID・1カルテを取り入れていた病院はその頃の日本では珍しい存在で,プラスチックカードの診察券を使い始めた日本最初の病院でもあります.

 産婦人科の診療体制は,外来は3診制(新患,再来,妊婦健診)で平均80名の患者さんを診察し,午後2時よりコルポ診,子宮内視鏡,HSGや超音波検査などを中心に診療しています.入院病床は39床で,産科は20床,小児科管理の未熟児室10床が隣接し,周産期救急医療体制のもと可能な限り母体搬送も受け入れています.分娩数は減少傾向にあり年間約300件で,帝王切開術は約20%です.夫の立ち会い分娩を行っています.婦人科は19床で,良性の開腹術が年間約100件,悪性腫瘍の手術は広汎子宮全摘や拡大子宮全摘など子宮,卵巣を合わせて約30件あり,子宮頸癌症例(CIS,CIN含む)での円錐切除やAT,VTが約20件です.良性疾患に比し悪性腫瘍関連の手術が比較的多く,最近は子宮体癌が増加しています.また,積極的に腹腔鏡下手術も行っています.婦人科腫瘍の治療として化学療法を積極的に行っていますが,2003年4月より新しい腔内照射装置(イリジウム192を線源とするマイクロセレクトロン)が導入され,放射線治療症例の紹介も増えています

―りんくう総合医療センター―市立泉佐野病院

著者: 光田信明

ページ範囲:P.1295 - P.1295

りんくう総合医療センター市立泉佐野病院は,平成9年10月,関西国際空港対岸のりんくうタウンに「21世紀の新しい医療」を目指して新しくスタートしました.併設の大阪府立泉州救命救急センターは大阪府南部地域における三次救急医療施設として機能しています.市立感染症センターは輪入感染症を水際で食い止める防疫体制をとっており,全室隔離病室(10床)で,病原菌の拡散を防ぐためセンター全体を陰圧対応にし,うち2病室は高度安全病室になっています.

 現在,市立病院には23科が標榜されています.それぞれが独立ではなく,臓器・疾患別に心臓センター,腎・泌尿器センター,血液センター,周産母子センター,脳神経センター,消化器センター,呼吸器センターとして機能しています.したがって,集学的診療体制が24時間可能となっています.さらに,日本医療機能評価機構認定病院からの認定も受けています.

Estrogen Series 65

「イソフラヴォンを含む大豆蛋白が有する更年期女性における知的活動,骨ミネラル密度,および血漿脂質に及ぼす影響 : ランダムコントロール研究」-JAMA誌よりの要約

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1296 - P.1296

大豆などに含まれる植物性のエストロゲンはphytoestrogenと呼ばれ,その成分にはイソフラヴォン(isoflavon)と総称されるdaidzein, gluceteinなどのエストロゲン受容体と結合し,エストロゲン作用を発揮する物質を含む.最近では大豆を原料としたサプリメントが更年期症状に効くとのふれ込みで一般に広く販売されているのは周知のごとくである.これらの大豆製品には本当に治療効果があるのであろうか.われわれは患者から日常的に質問を受けることが多く,明確な返答をすることは必ずしも容易ではない.

 先回のエストロゲンシリーズに続いて,今回ご紹介する論文は,オランダで年齢60~75歳の202名の健康な更年期後の女性を対象に二重盲検ランダムプラセボコントロール試験(double blind, randomized, placebo─controlled trial)を行った研究の結果である.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・4

子宮頸部腺癌の診断困難例の経験

著者: 児玉省二 ,   富田雅俊 ,   海部真美子 ,   笹川基 ,   本間滋

ページ範囲:P.1298 - P.1301

症例①

 患 者 : 50歳代前半,2経妊・2経産,閉経53歳

 現病歴 : 4年前から毎年子宮がん検診を受診していたが,子宮がん検診で細胞診クラスIV(上皮内腺癌の疑い)のため,当科を紹介された.症状はなかった.

症例①の初診時診断

 コルポ診では異常所見に乏しく,組織生検(頸管内)では異常が出なかった.初回細胞診は,筆者自身が細胞像を確認していたので上皮内癌腺癌の疑いとした.

症例

排卵誘発周期における子宮内外同時妊娠に対して腹腔鏡下手術を行った2例

著者: 康文豪 ,   中村博昭 ,   伊庭敬子 ,   新城祥子 ,   中田真一 ,   津田浩史 ,   松尾重樹

ページ範囲:P.1313 - P.1317

はじめに

 子宮内外同時妊娠(heterotopic pregnancy : 以下,HP)の自然排卵妊娠での発生率は約3万例に1例と非常に稀な疾患であると考えられている.しかし,最近の不妊治療における排卵誘発薬の使用や,体外受精・胚移植(以下,IVF─ET)をはじめとした生殖補助技術の普及に伴い,多胎妊娠の増加とともにHPの発生率は増加してきており,排卵誘発周期では約0.3~1%,IVF─ETでは約1~3%と報告1~4)されている.

 今回われわれは,排卵誘発周期におけるHPに対して腹腔鏡下手術を行った2例を経験したので報告する.

原著

変革につながるような出産経験尺度(TBE─scale)の開発─主体的出産経験を定義する試み─

著者: 三砂ちづる ,   嶋根卓也 ,   野口真紀子 ,   竹内正人 ,   菅原ますみ ,   福島富士子 ,   丹後俊郎 ,   榊原洋一 ,   小林秀資

ページ範囲:P.1303 - P.1311

はじめに

 「健やか親子21」が発表され1),より効果的な母子保健のありようについて議論が重ねられている.妊娠,出産については,「安全性と快適さの確保」が主要な課題であり,「妊娠出産に満足する」女性の割合が2010年には100%になることが取り組み目標の1つとなっている.しかし,「快適な出産」「満足のいくお産」とはどういうことか,国際的にもはっきり定義づけはされていない.

 近年では,妊娠・出産にかかわるヘルス・サービスの質を評価する試みとして,出産に対する「満足感」が用いられ,「満足度」といった指標がよく利用されている2~8).しかし,長くお産にかかわっている助産,産科医によると,豊かな出産経験をした女性は,子育てもスムーズであり,自分自身や,子供の体のありようにもより自信を持つようになり,自律的な家族関係への働きかけがみられ,また次の妊娠,出産に対して積極的な態度をとることが多いという9).これは,出産は単に「満足,快適」のみでは測りきれない,心身双方の大きな変革のきっかけになり得ることを示していると思われる.すなわち「満足度」のみではない本質的な身体経験を測定する必要があると考えた.

 本研究では,出産経験を女性が心身ともに変革するきっかけになり得るような重要なライフイベントとして捉える.そして,変革につながるような豊かな出産経験をtransforming birth experience(以下,TBEと表記する)とし,実際にどのような出産経験がTBEになり得るのか定義付けをすることを目指す.本研究では,身体に向き合うような出産経験をした女性の手記,ケア提供者との議論などをもとに,TBEを定義する尺度を作成し,その標準化を試みた.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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