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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科6巻2号

1952年02月発行

雑誌目次

綜説

子宮腟部糜爛の成因特にその病理組織的考察

著者: 樋口一成

ページ範囲:P.45 - P.48

 婦人科の臨床上,屡々子宮腟部,外口の上唇或いは下唇又は兩唇に亘つて赤色時に暗赤色の稍々光輝のある表面が粗糙な組織の存在が認められる。我々はこれを腟部糜爛(Erosio portionis)或いは簡單にErosionと名付けている。本症の存在は,それが輕微な場合には何等自覚症状を伴わない事もあるが,又所謂帶下の増量を來し,時には接觸時この部から出血して日常生活を不愉快ならしめ,尚これに關連して諸隣接部位の疾患を誘發する場合もあり得る。故に臨床家としては或程度以上の本症の存在を看過すべきではなく,これに對して治療行爲に出るのが當然であると考える。特に注意すべきは,この部が癌腫の好發部位でもあり,且つその初期像と本症との鑑別は,肉眼的には不可能な場合があり,又結核性炎,梅毒性潰瘍の發現部位でもあるので,本症それ自體は,重要疾患とは認め難いとしても,類症鑑別の観貼からその成因を老察するのも強ち意義なしとは考えられないので,此處にその私見を記述してみる。
 一般に婦人科關係のみでなく,他科に於ても糜爛と云う名稱は被覆上皮〜重層扁平上皮の缺損を意味している。

Mainini妊娠反應の本態

著者: 古賀康八郞 ,   吉田雄三

ページ範囲:P.49 - P.51

緒言
 1847年Carloz Galli Mainini が雄蟇(Bufo a—renarum Hensel)に妊婦尿を注射して数時間後こその尿中に多数の精子を排泄することを妊娠反應に應用して以來各地に棲む種々の兩棲類無尾目動物によつて追試され,迅速,確實,簡易であり,性腺刺戟ホルモンの定量も出來るので我國でも廣く應用される様になつた。
 本反應の本態についてMaininiは妊婦尿中に存する性腺刺戟ホルモンが蟇睾丸に作用して精子の増殖を來すことにょると簡單に説明している外詳細な報告を見ない。

原著

腟塗抹標本による子宮癌早期發見例—附,正常組織と癌組織との本質差

著者: 川中子止善 ,   山本浩

ページ範囲:P.52 - P.58

 組織細胞所見による子宮癌の早期發見並びに診斷上,細胞分裂の有無は極めて重要な所見である。と云うのは正常子宮腟部粘膜上皮に細胞分裂像を認めることは殆んど無いが,癌腫化せる組織には常に見受けられる。之れは癌組織と正常組織とを比較した場合一見して解る相違で,他の相違は皆之れに附隨して起るものである。從つて分裂像の有無が癌腫か否かの分岐點となる。これは癌腫の本質に觸れる重大な問題で,我々の考えは次の如くである。
 正常組織の成長と分割正常組織と云つても茲では其の範圍を子宮腟部粘膜の重層扁平上皮だけに限る。腟部上皮も他の多くの體細胞組織と同様上皮細胞の分裂は個々別々に随時行われるのでは無く,集團的に統制され一日の内の或る一定した時刻,多くは夜間一齊に行われる。分裂に要する時間は凡そ15分から30分以内の短時間で終る。我々が正常組織の細胞分裂に殆んど遭遇出來ないのは,細胞分裂の時刻と組織片探取時刻とが旨く一致しない爲である。

人排卵誘發に關する研究—(1)無月經及び機能性子宮出血例

著者: 小林隆 ,   高木繁夫

ページ範囲:P.59 - P.64

〔1〕緒言
 人工的任意排卵誘發が婦人科ホルモン療法の適應症の上で占める意義に關しては改めて論するまでもない。腦下垂體卵巣系の反應機序が判明するにつれ,性腺刺戟ホルモンの臨床應用に關して幾多の研究を見るに至つたが,人間では囓歯類と異って遙かにその反應機序が復雑し,加えて研究上の困難と相俟ち現在尚其の成績に關しては満足すべき状況にあるとは云えない。併しながら一部には長谷川教授(昭和12年)のメトロパチーに對する妊婦血液輸血やDavis,Koff (1938),Siegler,Fein (1939),Hamblen,Davis (1945)等に始まる妊馬血清療法及びone-two cyclic treatment等によつて人工的排卵に成功し,その卓越性が認められたものもある。但し後者に就てはその效力を否定し(Hamblen),剰へ該療法後稍々もすると發生することのある向性腺刺戟毒や抗ホルモン性物質,アレルギーアナフィラキシー等の問題に鑑み其の濫用を強く戒める者(Aberbaul,Leathem)もあり,依然純粋且つ強力無害な性腺刺戟ホルモン療法への探求が續けられて來た。

今次大戰が月經に及ぼした影響の統計的観察

著者: 橋川正

ページ範囲:P.64 - P.67

緒言
 昭和12年より8年間に亘る今次大戰が月經に如何なる影響を及ぼしたかを知る爲に戰争初期,極期,敗戰後の3期に分けて本學病院外來患者ヵルテ(此等の大部分は名古屋市内及近郊)に就いて調査を行つた。昭和15年以前のカルテは戰災焼失したので昭和16年度患者6756名昭和19年8月1日より翌20年7月31日迄の1年間2525名及び昭和21年度6513名の患者中より数え年16歳から45歳の間即ち成熟した婦人に就て調査した。此等のカルテは戰時中の多忙人員不足のため.初潮年齢は數え年を以て記載し月經時随伴症状の下腹痛の中に下腹痛,下腹索引痛,腹痛等を含めて記載してある事等の爲に詳細に分類する事が出來ないことを遺憾とする。

男女共學と初經來潮期との關係に就いて

著者: 山尾悟 ,   藤田長利

ページ範囲:P.68 - P.69

 月經は性熟婦人の外兆であり,初經の來潮する時期に關しては,月經の性状と共に種々論ぜられて來た。周知の如く,月經は内分泌刺戟とそれに對する反應として生するものであるが,初經が來潮するには一定の年齢的範圍を保つとは云え,個人的な差違を有している。所謂無月経を招來する純醫學的な疾患が思春期に存在すれば,一時的に或は永久的に,初經の來潮を遅延せしめる結果になるであろう。然し,この點は一應擱くとして,之に對し,社會環境が初經の來潮に作用することに就いては,種々,報告されている。文献上には氣候,地域,人種等によると思われる初經期の差違は,殆んど一致して認められている様であるが反對者もある。職業,教育,生活程度,環境,遺傅等に起因すると思われる差違に就いては一定の説を有しないのである。
 戰後,松本,山田,原氏等は,初經期の遅發を報告しているが,之が日本婦人の趨勢であるか,將又今次大戰の一産物であるか,その斷定に苦しむのであるが,所謂戰時無月経が,榮養の變化,肉體の過勞,精神負擔等に原因するとすれば,或は初經期の遅發も,戰爭の影響と充分考えられる。

症例研究

腹壓(分娩)に依る腸管皮下破裂の1例

著者: 高松正 ,   村上武志

ページ範囲:P.70 - P.71

 直達外力及介達外力による腸管破裂例は我々の屡々經験する所であるが,腹壓の急激なる變化,即ち怒責或は重き荷物を擧上せんとして腹部に力を入れた時等に腹壓の急激なる上昇を來し,腹管の皮下破裂を來した例は稀である。然も女子の分娩時に於ける本症例は我々の渉獵せる文献には見あたらない。
 私等ば15年前に蟲垂炎の手術を受けた患者に於て,分娩による腸管破裂を來した稀な症例に遭遇したので,その概略を報じ大方諸賢の御参考にしたいと思う。

異常経過をなしたる卵巣僞粘液性嚢腺腫の3例

著者: 田中益雄

ページ範囲:P.72 - P.75

緒言
 卵巣嚢腫中良性のもので旺盛な増殖性を有するものは僞ムチン嚢腫と漿液嚢腫であり腺様の構成をもち内腔に分泌物がたまり腺腔が次々と新しくつくられ多房性となり各房の隔壁が消失して更に大きな室に合流割面が蜂の巣のように大小多数の室に分たれるようになる。僞ムチン嚢腫は増殖力が特に強く無限に發育し,腹部一杯を占める所謂巨大嚢腫となるが増殖は一般に緩慢である。私は最近21歳未婚者で小児頭大の僞ムチン嚢腫が3ヵ月後全重量10kg即ち妊娠子宮より發育速度の強度な症例を經験したので報告する(症例第1)
 卵巣有莖嚢腫の自然破裂は比較的稀有なるものである。一般に破裂は外傷性のもの多く,其の原因として衝突腹部の打撲墜落鉗子分娩時に粗暴なる觸診交接等擧げらる。自然破裂は經過中嚢腫壁の病的變化例えぱ脂肪變性壞死嚢腫内容増加による内壓の上昇腹壓の上昇又比較的屡々莖捻轉により誘發せられるものであるが,私は最近18歳未婚の處女に何等誘因と思われるものなく僞ムチン嚢腫の自然破裂に依り腹水を伴う急性腹膜炎の症状を呈した症例を經験したので報告する(症例第2)

心音の變化を實験せる半頭兒の1例

著者: 藤島隆

ページ範囲:P.75 - P.77

緒言
 頭蓋及腦の發育異常として比較的屡々遭遇するのは,無頭兒及半頭兒である。その分娩前の診断は必しも不能ではないが,困難なものである。私は偶々函館市に於て牛頭見の1例を經験し,分娩後の兒について,興味ある實験を行い,勝氏心音の變化・ネグリー氏痙攣性胎動が有力な診断根據となるものと考え,ここに追加報告する。

子宮内外同時妊娠の1例

著者: 小笠原忠雄

ページ範囲:P.78 - P.80

 稀に我々が經験する事であるが流産初期を思わしめる少量の出血が長期間繼續し妊娠を繼續する事が困難な時に内容除去術を行い,或は又人工妊娠中絶の爲内容除去術を行つても胎盤組織を認めず,腑に落ちない儘に經過していて,間もなく子宮外妊娠中絶の徴候を來し,茲で初めて合點のゆく事がある。子宮内外同時妊娠は本邦に於ては非常に稀有なもので,その報告例は今日迄に僅か14例にすぎない。茲に余が經験した典型的なる子宮内外同時妊娠の1例を追加したいと思う。

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アメリカ便り

著者: 林基之

ページ範囲:P.81 - P.82

テリンデ教授の手術ぶり
 アメリカには,婦人科手術で特にすぐれていると言われる人は少いらしい。然しジョンスホプキンス大學のテリンデ教授の腟式手術は,特徴があつて,方々から見學に來る人も多く,その手術書も,腟式の部は,よい所が見られる。先づ,彼の最も得意とする腟式子宮剔除術の模様をお知らせする。特に,彼が自慢なのは,更年期を過ぎたり,又は未産婦で腟の狭い場合にも,苦もなく取ると云う事と,筋腫があつて,小兒頭大に近いものも,何とかして,筋腫核をえぐりとり乍ら子宮を小さくして取るということである。
 子宮剔除で,彼が何故に腟が狹く,子宮が垂れて來ないのを,うまくやるかを考えて見るに,問題は彼が創製した鉗子にあるらしい。即ち鈎が先端になく,少し中央に近い所にあつて,細かい歯がほられていて,固く子宮組織を噛むことが出來る。彼が皆に見せてくれたのと同じのを,早速醫療器械屋で求めようとした所18ドルもするので止めたが,確かにつくりが頑丈で,而もしつかりと噛み合される。之なら相當固い組織も確實にはさみうる。法の如く子宮腟部に圓状切開を入れ,前方は膀胱が壓排されて,膀胱膜頸部筋膜が露出するようはがし(之は吾々のやるのと全然同じである)腹膜が見えても之を開かない。腟が狭い場合には此處に達するのに大層困難を感ずる。

空しき香華

著者: 金原一郎

ページ範囲:P.87 - P.87

 昨年の春,慶應の安藤畫一教授の肝入りで,京都の佐伯,東京の木下の兩長老を拙宅へ御招待した時の話。歸りの自動車に乘りしなに,92歳の佐伯先生が81歳の木下先生をかえり見て——さあさあ,お年寄の方からお先へどうぞ——と云つて呵々大笑されたことである。その時お先きへ乘つた木下先生が,ついにお先へ冥土の旅へ行つてしまつたが,その當時はどうして中々の元氣で,若い安藤教授(66歳)など側へも寄せつけない張り切り方であつた。
 最近眼をお患らいになつてから急に元氣がなくなり,筆者が昨年の暮,麹町のお邸に參上した時など,人が樂しみを失うとこうも老い込むものかと,痛感したことである。木下先生の唯一の樂しみと云うのは,醫學辭典の編集であつて,日本醫學會の醫學用語を主とした大辭典の出版は,老先生が一生を懸けての希望であつた。先生はこの仕事の爲めに,ついに眼を患い,眼を患つて編集の樂しみを奪われ,ついに一命をも失うに至つた。

外國文献

家兎眼球中に生育せる人胎盤のホルモンモン分泌

著者: 柴生田潤 ,  

ページ範囲:P.83 - P.86

 現在迄に行われた胎盤の組織培養の成功により,ゴナドトロピンはラングハンス氏細胞から分泌されていることがわかつた。組織培養液中のゴナドトロピン總量はそこに存在するラングハンス氏細胞の數に正比例する。ジンチチウム細胞は組織培養では一寸大きくなるだけですぐに退化してしまうため,エストロゲン及びプロゲステロン産生に關してのジンチチウム細胞の役割は未だ結論に達していない。妊娠10カ月の妊婦の血液及び尿中にエストロン・プロゲステロン及び此等の代謝産物が高濃度に見出されるので,妊娠10ヵ月の胎盤を人體外で生育させることが出來れば,此はジンチチゥム細胞のエストロンプロゲステロン産生の有無を解明するのに極めて望ましいことであろう。しかし組織培養では妊娠10ヵ月の胎盤を生育せんとする試みは全て失敗に歸した。繊維性の組織のみが生育して,ジンチチウム細胞もラ氏細胞も生育しなかつたのである。
 一方今迄に猿,モルモツト,hamster (1種の大鼠)家兎等の眼球内に移植することにより,兩性の正常性器組織,胎盤兒臓器及び良性乃至惡性腫瘍が生育することがわかつている。とすれば妊娠10ヵ月の人胎盤組織の家兎眼球内移植はin vitroの組織培養で結論の出なかつた點に解決を與えるのではなかろうか。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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