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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科6巻7号

1952年07月発行

雑誌目次

原著

胞状奇胎の統計的觀察

著者: 河田英夫 ,   河田謙二

ページ範囲:P.285 - P.288

第1章 緒言
 胞状奇胎はそれ自體が妊婦を危地に陥れる惡質の疾患であるが,又續いて惡性絨毛上皮腫を發生して危險を倍加するので,一刻も早く確實に診斷し,適切な虚置を講ぜねばならない。最近内分泌學の進歩により,比較的容易に上記の悩みが解決される様になり,豫後は著しく向上しつゝある。
 次に我教室に於て,昭和9年より昭和25年に至る(1934〜1950)満17年間に經験した56例の胞状奇胎に就いて臨床的観察を總括し,諸氏の批判を仰ぎたい。

初乳の臨床的及び細胞學的觀察

著者: 安武豊志男

ページ範囲:P.288 - P.294

第2項中性多形核白血球
 1.乳汁内所見 多數のプレパラートによる塗抹標本に見る中性多形核白血球(以下N白血球と略す)は概ね縮小型のものが多く核濃縮 染色質濃染に陥つてクロマチンの核紋理は不明となり,時に膨大型のものではCo—ntourさえも認められない事が多い。原形質内中性嗜好顆粒もGiemsu, Mag—でGiemsaの染色でも染色される事は稀である。核は2分葉以上の所謂成熟型のみで通常の血液塗抹標本にみる如き鮮明像を呈するものは少い。これらは胞體内に脂肪滴の痕跡を染別することはできないがNadi反應及びPeroxydase反應は明かに證明する。今數10枚のプレパラートにつき核紋理も顆粒も鮮明で最も原型を保持しているものを撰び,血液塗抹標本と比較するに細胞體は恰も偽足様突起を出してアメーバ様運動の様相のまゝ固定染色されたものが屡々認められる。Leidenfrost氏現象を呈する銅板上で固定した後Ehrli-ch氏染色による中性顆粒の表出は鮮明に證明できる。フオルマリンガス或はアルコール固定による場合は細胞質内に單に1コの小なる空泡を有するものから大小種々なる數コの空泡を有するもの迄存在し時には初乳小體の一型を彷彿せしむるものまで混じている。乳汁にTürk氏液を加えると細胞體及びその分葉核は鮮明に表出される。ズダーンIII液を更に添加すると細胞質内脂肪滴を染別でき,前記固定油による室泡が脱脂脂肪滴と分る。

月經初潮年齢に及ぼせる第二次大戰の影響に就て

著者: 橋口近義 ,   橋口精範 ,   長尾武 ,   長尾ミト子

ページ範囲:P.295 - P.298

1 緒論
 第二次世界大戰は我が國未曾有の大事件であつて,百般に影響を及ぼして居るが,就中國民の體位體質に及した影響は誠に甚大である。
 著者等は既に兒童體位に及ぼせる今次大戰の影響1)2)3)に就て調査を開始し報告して居るが,これらの體位計測に現れた観的影響と平行して器質的の影響を何らかの形で知ろうとして,數年前より月經初潮年齢に及ぼした第二次大戰の影響に就て觀察した。この企圖は既に昭和23年に始められたが,何分にも正確な材料の人手が困難であつた爲に今日に及んだ。

吾が教室に於ける過去6カ年間の人工妊娠中絶に就て

著者: 松山文生 ,   藤田長利

ページ範囲:P.299 - P.302

 最近,多子を望まぬ爲と,優生保護法の理解普及にょつて妊娠の人工中絶は急に増加して來たが他面その危瞼例も屡々報告されるに及んだ。そこで吾々は,當教室の長崎本院及び諫早分院に於いて,昭和21年始めより同26年末までの6ヵ年間の人工妊娠中絶,676例に就て調査した。當教室の多賀の昭和7年より同16年末に至る10ヵ年間の調査に於て,人工中絶は217例を示しているが,23年以降,著しく増加しているのは,同年9月11日から施行された優生保護法の適用によるものと思われる。21年22年に例數が少なかつたのは,戰災による施設不備の爲と考えられ,又,17年より20年の間の調査が,戰災燒失の爲不可能であるのは,殘念である。

腟式マドレーネル手術の1次成績について

著者: 中島淸 ,   深尾功 ,   佐藤泰三 ,   野久保泰德

ページ範囲:P.302 - P.305

I.緒言
 戰後,國民生活の窮乏化に伴い,人工妊娠中絶及び優生不妊手術を施行する機會が一般に増加して居り,之等に關する報告も多数に見られる。我が川口市民病院でも昭和23年頃から前部長加藤騰藏博士指導の下に,主として人工妊娠中絶と同時に腟式マドレーネル手術を試み,今日迄に相當數に達したので,以下其の成績の大要を述べて大方の批判を仰ぎたいと思う。
 元來優生手術殊にマドレーネル手術は非妊時に行う方が有利とされているが,余等は患者の希望及び経濟的其他種々な理由から,殆ど總ての場合人工妊娠中絶と同時に而も腟式に施行しており,昭利24年1月から27年1月迄の間に,224例に達した。今之を妊娠月數別に分けると第1表に見るように妊娠3ヵ月迄のものが最も多く,合計139例(62%)となる。尚妊娠8ヵ月の2例でも,腟式子宮下部横切開術と腟式マドレネール手術とを併用することが出來た。

症例研究

卵管結紮後の卵管水腫に莖捻轉を起した1例

著者: 中川和光

ページ範囲:P.306 - P.307

 吾人は日常卵巣腫瘍莖捻轉に遭遇するが,臨床上これと同一の症状を有し,その鑑別に困難を來たす卵管水腫莖捻轉は,その症例が少い,即ち國の内外を通じ,その報告数120余に過ぎない。殊に茲に報告せんとする本症例はMadlener氏手術後に,卵管水腫を發生し,それが莖捻轉を招來したものであつて,Madlener氏手術が普遍化し,なおMadlener氏手術後にも妊娠すると云う事が,問題にされて居る今日,一層報告の意議が存するのではなかろうか。

Arrhenoblastomの1例

著者: 坂元宇之助 ,   坂元三一 ,   坂元正一

ページ範囲:P.308 - P.311

 1905年Ludwig Pickに依りAdenoma tubularetesticulare ovariiと呼ばれ,後1930年R. Meyerに依つてArrhenoblastoma ovariiと命名された本腫瘍は,周知の如く睾丸類似の組織を有し,成熟婦人に奇異な男性化徴候をもたらすものであるが,從來其の報告は極めて少く,Novak等の云う、如く現在迄約120〜130例程度に過ぎず,本邦でも慈恵大,名大,及び未發表ではあるが昭和18年東大の各1例あるのみで極めて稀な特殊腫瘍である。余等は今回測らすも其の1例を經験し得たので以下其の概要を報告する。

診療室

Estradiol-benzoate結晶浮游注射液の臨牀的應用價値

著者: 藤井吉助 ,   相原康之助

ページ範囲:P.312 - P.317

 現在我々が使用する女性發情物質の種類は多い。これを大別すると,天然型と合成型と分けることが出來る。天然型には,卵巣で實際に分泌される分泌型(Secreted Form)とも稱すべきEs—tradiol或はDi-hydroxy estrinがある。又天然型には尿中に排泄される排泄型(Excreted Form)ともいうべき(1) Estriol或はTrihydroxy estrinと(2) Estrone或はKeto-hydroxy estrinがある。
 從來日本で一般に臨床的に使用されていた天然型の女性發情物質は,排泄型のEstroneであつた。然し成るべく生理的に,効果的に,女性發情物質を臨床上に使用しようとするには,自然的な分泌型のFstradiolを使用した方が良いことは當然であろう。Estroneを人體に使用しても,臓器に作用する時は,Estradiolに變つているのではないかとも考えられるのである。事實EstradiolはEstroneに比して,その有效最少量は,より少量である。そういうことからだんだん女性發情物質の臨床的應用としては,Estroneの型よりはEstradiolの型の方がより多く用いられるであろう。

腟内容塗抹標本所見より見た各種Estrogenの比較観察,特にEstrogenの子宮腟内注入効果に就いて

著者: 竹內美奈子

ページ範囲:P.317 - P.321

緒論
 先に私は,エチニールエストラヂオールの經口投與による効果に就いて發表したが(日婦會誌3巻7號),今回はエストラヂオールの効果に就いて観察して見た。衆知の如く,エストラヂオールは尿中排泄型エストロンの原基とせられ,Doisy(1935)によつて豚の卵巣から見出され純結晶として得られたものである。この効力を持續的たらしめるためにベンツォアートが作成せられた。私は今回,安息香酸エストラヂオール浮游液の試供品を得たので之を臨床上に應用してその効力を検査して見た。尚おエストロン,エストラヂオール,エチニールエストラヂオールの構造式は次の如し.

産婦人科領域に於ける開腹術後療法に關する研究補遺—その一 全國病院による調査成績

著者: 內野久 ,   村山文子 ,   水野哲義 ,   吉濱善述

ページ範囲:P.322 - P.324

 私等は産婦人科手術後,患者の苦痛を最小限にし且,經過豫後を良好にする,最も合理的な術後療法という目的のもとに,基礎的研究と共に臨床的観察を行い術後療法の改善に努めて來たが,本篇に於ては,その成績發表の前楷として,全國89クリニツク,病院に依頼した56の返答から括めた結果を記述してみる。尚文献に術後療法埋没縫合等の業績發表がみられるクリニックからの豫期した返答がなかつたのは遺憾である。

速報

ポステロール(脳下垂體後葉製剤)の産科的應用

著者: 渡邊行正 ,   丹淸人

ページ範囲:P.325 - P.328

緒言
 腦下垂體後葉製剤が子宮収縮止血法の強く要請される産科臨床に於て,麥角製剤と共に必需藥品の双壁をなす事は改めて述べる迄もない處で,本剤の主要素Oxytocinの子宮平滑筋に封する選擇的収縮作用の極めて優れている事も既に幾多諸家の臨床報告に明かな處である。從來本剤の産科的應用は主として妊娠産褥子宮に對して収縮増強の求められる總ゆる症例就中子宮弛緩,微弱陣痛に最も賞用されるが更に又他剤との併用による陣痛誘發,分娩誘導にも廣く應用されている。
 此度武田藥品工業株式會社よりボステロール(腦下垂體後葉製剤0.5竓,5單位)の試供を受け分娩期陣痛檜強に使用し認むべき効果を得,更に人工流早産に應用し同様良好な成績を収め得たので茲に報告する。

松原反應による子宮腟部癌早期發見例

著者: 川中子止善

ページ範囲:P.328 - P.329

 本例は40歳,2回經産,約半年前より接觸出血を認む。内診では子宮腟部糜爛以外著變なし。審査切除標本では子宮腟部重層扁平上皮の非定型性増殖と支柱組織の炎症性變化を認めたが,末だ癌と決定する迄に至らなかつた。然るに松原反應は強陽性に現われた。患者の配偶者は外科醫で日頃の經験から松原反應の診斷價値を充分認識して居つた上先輩等の意見も斟酌し,當時婦人科の方では未だ治療方針を決定する迄に充分考えが熟さなかつた際であつたにも不拘,患家の要望に基づき.或る病院で手術した。手術は右側卵巣を残し單純子宮全剔除を行つたが,淋巴腺の腫脹は何處にも見出せなかつた。術後の經過は至極順調で間もなく元の健康を取戻した。
 手術後子宮口に接した腟部糜爛面から探取した組織標本検査の結果は前回と略同様で結局炎症による子宮腟部假性糜爛が主なる病變で,俄に癌と斷定は下し難いと云う結論に落着した。こうなると松原反應の陽性が聊か疑問視される羽目に陥りかかつた丁度その折,私は夫君から上述の如き初發徴候發生當初以來からの精しい經過を聞き,又標本も鏡検させて貰つた。

エストロゲンの甲状腺剔除細胞抑制効果について

著者: 石原力

ページ範囲:P.329 - P.332

 甲状腺を手術的に剔除するか,放射性ヨード(I131)で破壊するか,或はthiouracilを投與すると,それから分泌されるホルモンであるthyro-xineの血中濃度が下り,これを調節しようとして何等かの機序によつて,下垂體前葉から甲状腺に作用するホルモン,即ちthyrotropinの分泌が増加する。この様な調節機序をUotila(1940)は基本的向甲状腺分泌リズムbasic thyrotropic secretory rhythmと稱し,Hoskins(1949)は補助機序servo mechanismと呼んだ。それを下垂體前葉について形態學的に追究すると,特にラツテに於て,α細胞の減少と甲状腺剔除(以下甲剔と略記する)細胞(板野1937)Thyreoidektomiezellen(Satwornitzkaja 1926),thyroidectomycells(Zec kwer 1935)という特殊細胞の出現とが認められる1)。この細胞は空胞形成β細胞であつて,その鹽基好性顆粒から形成されるkolloid様室胞内のhyalin物質こそthyrotropinに他ならないという想像も可能であろう。なおここにいうα或はβ細胞とは,Bailey(1928)の提唱によつたもので,Schönemann(1892)以來酸好性或は鹽基好性細胞と稱せられて來たものであるが,こり從來の名稱は適當ではない。

絨毛性性腺刺戟ホルモンの乳汁分泌促進効果に關する一検討

著者: 松本淸一 ,   新村唯一

ページ範囲:P.332 - P.333

 乳汁分泌機能は下垂體前葉から分泌される乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)によつて促がされることは周知の事實であるが,此の他に乳汁分泌を促進するホルモンがあるかどうかに就ては,尚明かにされていない。最近赤須,大谷(1951)は人の正規胎盤からVan Dyke氏變法で抽出した絨毛性性腺刺戟ホルモンを乳汁分泌不全褥婦に注射した所,38例中26例(70.2%)に著効を見,又分娩直後授乳を停止させて乳汁分泌滅少,乳腺組織の退行變性を來たさせた經産家兎に本ホ」を連續注射すれば乳汁分泌も組織像も恢復し,分娩後授乳停止家兎に直ちに本ホ」を連續長時日注射すると,乳汁分泌機能及び組織像が長く分娩直後に近似した状態を維持することを認めた。從來妊娠中には乳腺は發育増殖するが,乳汁分泌は起らず,分娩が終了すると乳汁分泌が發來するとゆう事實に關して,胎盤から乳汁分泌を抑制する物質が出されるためであろうとゆう見解もあり,胎盤から分泌される絨毛性性腺刺戟ホ」が乳汁分泌を促がすとゆうことは,かゝる見解とは相反する。而し一方に於いて絨毛性性腺刺戦ホ」は黄體刺戟ホ」を主體とするホルモンである(Brown&Brad—bury 1947, Brown 1950)とする説があり,又黄體刺戟ホ」はプロラクチンと同一のホルモンである(Evans等.1941)とされていることを考慮すると,絨毛性性腺刺戟ホ」にプロラクチンと同様な作用が認められることも考え得る。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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