文献詳細
今月の臨床 ART 2006
ARTの健全な発展のために
文献概要
はじめに
1978年にルイーズ・ブラウンが誕生したとき,「試験管ベビー」(今日的にはほとんど死語となっているが,差別的ニュアンスを持つこの言葉が当時は一般的に用いられた)の数がわずか四半世紀のうちに数多くの国において出生する児の1~2%を占めるようになろうとは,パトリック・ステプトーとボブ・エドワーズも想像しなかったに違いない.いまや体外受精胚移植(IVF─ET)に代表されるART(assisted reproductive technology)は,ヒト生殖のあり方の1つとして確立したといって過言でない.
しかし,ARTに関連する多くの問題が,この間に解決されたわけではない.ARTの発展に伴って出現した多くの課題,例えば多胎妊娠の増加は,早産未熟児治療に費やされる医療費や医療施設整備,さらには子育てに対する社会的援助の必要性につながるように,単に医学的対応の問題だけでなく,社会的な課題と密に連関してきた.また,わが国において,少子化という形で端的に顕在化している家族や社会についての価値観の多様化は,結果であるか原因であるか議論の余地があるものの,20世紀第4四半期においてARTの進展と世界的に同時進行した表裏一体の事象というべきであろう.
本稿では,わが国と世界のART動向を,いくつかの視点から概括し,わが国における眼前の問題を解決するための手がかりを抽出することを試みる.なお,具体的な数字として取り上げる外国データは,ARTに関する統計が整備された英国と北欧各国,さらに米国となることをお許し願いたい.
1978年にルイーズ・ブラウンが誕生したとき,「試験管ベビー」(今日的にはほとんど死語となっているが,差別的ニュアンスを持つこの言葉が当時は一般的に用いられた)の数がわずか四半世紀のうちに数多くの国において出生する児の1~2%を占めるようになろうとは,パトリック・ステプトーとボブ・エドワーズも想像しなかったに違いない.いまや体外受精胚移植(IVF─ET)に代表されるART(assisted reproductive technology)は,ヒト生殖のあり方の1つとして確立したといって過言でない.
しかし,ARTに関連する多くの問題が,この間に解決されたわけではない.ARTの発展に伴って出現した多くの課題,例えば多胎妊娠の増加は,早産未熟児治療に費やされる医療費や医療施設整備,さらには子育てに対する社会的援助の必要性につながるように,単に医学的対応の問題だけでなく,社会的な課題と密に連関してきた.また,わが国において,少子化という形で端的に顕在化している家族や社会についての価値観の多様化は,結果であるか原因であるか議論の余地があるものの,20世紀第4四半期においてARTの進展と世界的に同時進行した表裏一体の事象というべきであろう.
本稿では,わが国と世界のART動向を,いくつかの視点から概括し,わが国における眼前の問題を解決するための手がかりを抽出することを試みる.なお,具体的な数字として取り上げる外国データは,ARTに関する統計が整備された英国と北欧各国,さらに米国となることをお許し願いたい.
参考文献
1)CDC reproductive health : 2002 assisted reproductive technology success rates : National summary and fertility clinic reports http://www.cdc.gov/reprodutivehealth/ART02/index.htm
2)Patients’ guide to IVF clinics 2002. HFEA, London 2004 http://www.hfea.gov.uk
3)Legislation on Biotechnology in the Nordic Countries/An Overview. Nordic Committee of Bioethics, 2003
4)Assisterad befruktning 2002 Sveriges officiella statistik, 2004
5)上杉富之(編) : 現代生殖医療.世界思想社,2005
6)石原 理,出口 顯 : 提供配偶子を用いる生殖医療の北欧における事情.産科と婦人科71 : 938─944, 2004
7)石原 理 : 生殖補助医療に関する会告.産婦人科の世界56(春季増刊号): 35─42, 2004
8)石原 理,出口 顯 : 生殖医療をめぐる最近の話題─第三者配偶子を用いる治療の法的規制について.産婦人科治療90 : 1─6, 2005
9)石原 理 : 生殖,補助医療の規制─ガイドラインか法規制か,それとも?医学のあゆみ213 : 175─178, 2005
10)石原 理,岡垣竜吾,梶原 健 : 海外における卵子提供プログラムとその問題点.産科と婦人科72 : 1251─1258, 2005
掲載誌情報