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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科60巻1号

2006年01月発行

文献概要

OBSTETRIC NEWS

Vasa previa(前置血管): 周産期死亡をほとんど予防できるか?

著者: 武久徹1

所属機関: 1武久産婦人科医院

ページ範囲:P.92 - P.95

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胎児血管が胎盤や臍帯に支持されず頸管上部で胎児先進部以下の胎児膜を横切って走行する例を前置血管という(OG 103 : 937, 2004).前置血管には,臍帯の卵膜付着(velamentous cord insertion)がある場合(タイプ1)と二葉胎盤または副胎盤の間の卵膜の表面に血管走行がある場合(タイプ2)の2つのタイプがある(OG 18 : 109, 2001).前置血管があると,破水時に前置血管の血管も破れる.満期胎児の総血液量は約350 mlと少量(OG Surv 54 : 138,1999)なので,比較的少量の失血でも胎児に悲惨な続発症が発生する.さらに産科医が失血を母体からのもので産徴と誤解し対応が遅れ,胎児死亡のリスクが増大する.発生頻度は前置血管は1例/2,500例,臍帯の卵膜付着は単胎妊娠では1例/3,000例,双胎妊娠では最高10%,三胎妊娠では50%以上である(J Reprod Med 26 : 577─580, 1981).分娩前に診断されなければ周産期死亡率は70~90%である.前置血管の発生頻度が1 : 2,500で周産期死亡率が50%と仮定すると,5,000人に1人の児が前置血管破裂で死亡する.前置血管の周産期死亡率は未破水例では50~60%,破水例では75%である(J Reprod Med 27 : 295, 1982).双胎妊娠では第一児はほぼ100%,第二児は胎盤血管吻合のため55%である(J Reprod Med 27 : 295, 1982).臍帯の卵膜付着は胎児奇形との関連があり,25%に達するという報告がある(OG56 : 737, 1980).前置血管が破水前に診断され任意の帝王切開が行われれば児を失う率は有意に減少する.経腟超音波とカラードップラーをリスクのある妊婦全例に使用すれば,周産期死亡原因としての前置血管を排除できる可能性ある.前置血管破裂は稀だが未だに満期の胎児生存を脅かす疾患の1つである(OG Surv 54 : 138,1999).産婦人科医がもし分娩前の超音波検査採用で診断し,妊娠36~37週で任意の帝王切開を行えば前置血管合併例の10人中の9人までの児の死亡は予防できる可能性がある.

 最近,OyeleseらはVasa Previa Foundation(87例)と多国間6施設(米国4,イスラエル1,英国1)(68例)からの前置血管155例を対象に分娩前診断の重要性を検討した.双胎妊娠7例が含まれていた.二葉または副胎盤合併例が52例(32%)であった.分娩時平均妊娠週数は分娩前診断ができた例は妊娠34.9+2.5週,分娩前診断ができなかった例は妊娠38.2+2.1週であった(p<0.001).分娩前診断ができなかった例の94%に分娩中の出血がみられた.周産期死亡は36%であったが,分娩前に診断できた例のほうが分娩前に診断できなかった例に比較し新生児転帰は有意に良好であった(表1).児生存の予知に有意に関係がある因子は,分娩前診断(オッズ比102.9 : 95%信頼区間16.2~638.3)と分娩時妊娠週数(オッズ比0.77 : 95%信頼区間0.64~0.93)であった.今回の研究でも,分娩前診断ができたか否かが児生存にきわめて重要であることが確認された.児生存率は分娩前診断ができた例では96%以上であったが,分娩前診断ができなかった例では半数以上の児が死亡した.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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