臨床婦人科産科60巻2号

2006年02月発行

今月の臨床 子宮内膜症の新しい治療戦略

がん化への対応

腹膜病変のがん化

著者： 中原健次¹ 早坂直¹ 倉智博久¹

所属機関： ¹山形大学医学部発達生体防御学講座女性医学分野（産科婦人科学）

ページ範囲：P.140 - P.143

文献概要

はじめに

　近年，子宮内膜症（以下，内膜症）の腫瘍的性格が認識されるようになってきている．卵巣内膜症性嚢胞（以下，チョコレート嚢胞）からの癌発生率が0.7％程度ということは，年代・地域を問わず共通認識となっている_{1, 2）}．近年では，経腟超音波検査の発達とともに，正常卵巣，卵巣嚢胞，卵巣嚢腫，そして卵巣の腫瘍性変化がより詳細に把握できるようになったが，それでも同様の数値であることは興味深い．

　チョコレート嚢胞の悪性化とは別に，腹膜上の内膜症病変の悪性化を含め，腹膜腫瘍が指摘され報告されてきた（表1）．腹膜腫瘍は，しばしば卵巣癌（ときには非定型的所見としながらも）の術前診断を受けながら，開腹時に卵巣そのものは正常所見であったり，あるいは卵巣が原発とは思われないような外部からの浸潤の形式を取り，結果的に腹膜の病変が主体であることもある．今回のテーマは内膜症から生じた腹膜癌であるので，その点に絞ってまとめてみたい．チョコレート嚢胞を中心にした論文は多いが，腹膜内膜症から発生した癌をまとめた論文は少なく，またデータの解釈も注意を要する．

　理解が得られやすいように，項目を設定して，それに沿ってまとめてみたい．その際，できるだけ腹膜癌についてのデータのみを抽出して記述するが，それが困難な場合は，チョコレート嚢胞を中心とした記述かどうかなど明確にしていきたい．

参考文献

1）Mostoufizadeh M, Scully RE : Malignant tumors arising in endometriosis. Clin Obstet Gynecol 23 : 951─963, 1980

2）小林　浩 : 子宮内膜症から発生する卵巣腫瘍の診断と治療．産婦実際53 : 879─885, 2004

3）Lauchlan S : The secondary mullerian system. Ocstet Gynecol Surv 27 : 133─146, 1972

4）Sampson J : Endometrial carcinoma of the ovary, arising in endometriosis tissue in that organ. Arch Surg 10 : 1─72, 1925

5）Scott R : Malignant changes in endometriosis. Obstet Gynecol 2 : 283─289, 1953

6）Stern RC, Dash R, Bentley RC, et al : Malignancy in endometriosis : Frequency and comparison of ovarian and extraovarian sites. Int J Gynecol Pathol 20 : 133─139, 2001

7）Modesitt SC, Tortolero─Luna G, Robinson JB, et al : Ovarian and extraovarian endometriosis─associated cancer. Obstet Gynecol 100 : 788─795, 2002

8）Zanetta GM, Webb MJ, Li H, et al : Hyperestrogenism : a relevant risk factor for the development of cancer from endometriosis. Gynecol Oncol 79 : 18─22, 2000

9）Heaps JM, Nieberg RK, Berek JS : Malignant neoplasms arising in endometriosis. Obstet Gynecol 75 : 1023─1028, 1990

10）澤加奈子，長野浩明，尾崎嘉一，他 : 子宮内膜症から発生した腹膜類内膜腺癌の1例．日産婦東京会誌47 : 199─202, 1998

11）西浦理佳，田中正人，早川滋彦，他 : 腹膜子宮内膜症より発生した類内膜腺癌の1例．日産婦誌53 : 1721─1724, 2001