臨床婦人科産科60巻3号

2006年03月発行

今月の臨床 妊婦と胎児の栄養管理 妊婦の体重管理

妊婦の体脂肪・体水分の動態

著者： 上田康夫¹

所属機関： ¹兵庫県立柏原病院産婦人科

ページ範囲：P.257 - P.263

はじめに

　筆者が産科医になって最初に手にした教科書「産科学提要」^1）には，妊婦体重に関して，「妊娠末期には非妊時の8～10 kg増しとなる．妊娠8か月以降，1週間に500 g以上の体重増加のあるものは水の異常貯留を考えねばならぬ．すなわち，妊娠中毒症の可能性がある」という簡潔な記載があり，これがこれまでの妊婦健診での体重評価の基本になってきた．実際に多くの産科医は母体体重増加を妊娠初～中期には太ること（体脂肪増加 : 肥満），後～末期にはむくみ（体水分増加 : 浮腫）の指標として巧妙に使い分けているものと思われる．また，われわれは「体重増加過剰と妊娠中毒症の関連性」をしばしば妊婦に指導するものの，その体重増加の成分を正確に把握しているわけではない．妊娠中毒症診断基準から浮腫が除外された現在も，やはり体重は妊娠中毒症（妊娠高血圧症候群）に関連しているのであろうか．

参考文献

1）東條伸平 : 産科学提要．金原出版，p95, 1976

2）阪本要一 : 体脂肪測定装置．総合臨床47 : 2918─2924, 1998

3）Kyle UG, Bosaeus I, DeLorenzo AD, et al : Bioelectrical impedance analysis─ part 1 : review of principles and methods. Clinical Nutrition 23 : 1226─1243, 2004

4）Kyle UG, Bosaeus I, DeLorenzo AD, et al : Bioelectrical impedance analysis─ part II : utilization in clinical practice. Clinical Nutrition 23 : 1430─1453, 2004

5）上田康夫，丸尾原義，足高善彦，他 : 胎児部分重量補正を加えた生体インピーダンス法による新しい母体体脂肪測定法．産婦進歩55 : 167─177, 2003

6）上田康夫，丸尾原義，足高善彦 : 生体インピーダンス法を用いた妊婦体成分の検討と体水分量・体脂肪比の妊娠浮腫評価への応用．日産婦誌54 : 799─808, 2002

7）上田康夫，丸尾原義，足高善彦，他 : 正常および妊娠中毒症妊婦での母体体脂肪・体水分の動態分析─胎児部分重量補正を加えた生体インピーダンス法による検討．産婦進歩56 : 275─286, 2004

8）Lederman SA, Paxton AP, Heymsfield SB, et al : Maternal body fat and water during pregnancy : Do they raise infant birth weight？Am J Obstet Gynecol 180 : 235─240, 1999

9）Kopp─Hoolihan LE, van Loan MD, Wong WW, et al : Fat mass deposition during pregnancy using a four─component model. J Appl Physiol 87 : 196─202, 1999

10）関　博之 : 9．浮腫，異常体重増加．産婦人科診療　症候から診断，治療へ．産と婦11 : 239─243, 2003

11）丸尾原義，上田康夫，足高善彦，他 : 妊娠高血圧症候群の病型と体重，体組成変化に関する検討．日本妊娠高血圧学会雑誌12 : 143─144, 2004

12）丸尾原義，上田康夫，足高善彦，他 : 新しい母体体組成測定系による妊娠中毒症での母体体脂肪，体水分動態の検討．日本妊娠中毒症学会雑誌11 : 186─187, 2003

13）上田康夫，丸尾原義，足高善彦，他 : 新しい視点からの母体体重管理─妊娠中期でのチェックポイントと妊婦体脂肪計を用いたその質的分析．日産婦栄代誌10 : 9─12, 2004

14）上田康夫，丸尾原義，新谷　潔 : 母体体重管理のプロスペクティブな指標としての妊娠16週体重増加量の意義に関する研究．日産婦誌53 : 980─988, 2001

15）上田康夫，丸尾原義，足高善彦 : 妊娠中期の至適母体体重増加量に関する検討．産と婦70 : 515─521, 2003

16）上田康夫，丸尾原義，足高善彦，他 : 現行母体至適体重増加基準の妥当性に関する研究─1988年からの15年間における母児体重の変遷からの再評価．産婦進歩57 : 121─130, 2005

17）上田康夫，丸尾原義，足高善彦，他 : 母体至適体重増加量の新しい基準に関する考察．日産婦栄代誌11 : 68─69, 2005