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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科60巻5号

2006年05月発行

雑誌目次

今月の臨床 早産─予防と対策

早産における子宮頸管熟化の機序

著者: 佐川典正

ページ範囲:P.721 - P.727

はじめに

 妊娠中,子宮体部は伸展・増大しなければならないが,子宮頸部は硬く安定していなければならない.しかし,分娩時には子宮体部は収縮し,子宮頸部は軟化・開大する必要がある.このように,子宮体部と頸部とは一見逆の変化をするようにみえるが,その変化が同じ因子によって調節されているものも多い1).ヒトの分娩発来機構にはIL─1などのサイトカインが重要な役割を果たしていることが明らかになりつつあるが,頸管熟化過程においてもサイトカインはkey moleculeとしてさまざまな過程に関与している.本稿では,正期産との対比のなかで早産における頸管熟化の機序を考察する.

早産における子宮収縮の機序

著者: 熊澤恵一 ,   木村正

ページ範囲:P.728 - P.733

はじめに

 早産は児の生命を危機にさらし,あるいは脳性麻痺などの後遺症を引き起こし,かつ完全なる予防,治療がが不可能な,きわめて重要な疾患である.また,近年増加傾向にある.先進国では早産の頻度は全分娩の5~10%にも上る.わが国の早産率は,ほかの先進国に比べ低く,全分娩の5%である.厚生労働省の人口動態統計によると,妊娠32週から36週までの早産は1980年の3.6%から2002年の4.7%まで増加し,妊娠28週から31週までの早産は0.4~0.5%と微増している.妊娠28週未満の超早期早産も0.13%から0.23%と漸増している.周産期医療の進歩により,人工早産が増加していること,不妊治療後の多胎妊娠なども,この増加の一因となっている.

早産と細菌性腟症

著者: 大槻克文 ,   中山健 ,   岡井崇

ページ範囲:P.735 - P.739

はじめに

 細菌性腟症は後期の流産,早産と強く関連していると報告されている.しかしながら,因果関係を認めるものの,妊娠中の細菌性腟炎の管理方法についての一定の指標が存在しないのが現状である.ここでは早産予防の観点から,妊婦の細菌性腟症を取り巻く問題点と管理の必要性の有無,およびその方策の要点について述べる.

早産と絨毛膜羊膜炎

著者: 金山尚裕

ページ範囲:P.740 - P.743

はじめに

 絨毛膜羊膜炎の発生ルートとしては,頸管炎が卵膜主体に上行波及すると前期破水が起こり,子宮筋,脱落膜主体に炎症が進展すれば切迫早産が発生すると考えられる.絨毛膜羊膜炎の炎症性細胞が羊膜の線維層のコラーゲンを分解すると卵膜の脆弱化をきたし前期破水となり,また頸管炎から子宮筋,脱落膜に炎症が波及すると脱落膜のマクロファージや子宮筋細胞からさまざまな子宮収縮物質が産生され子宮収縮が惹起される.絨毛膜羊膜炎による炎症反応が早産時の臨床像を形成することが明らかになってきた.そして最近早産はintrauterine inflammatory response syndrome(IUIRS),fetal inflammatory response syndrome(FIRS)という概念で包括されるようになってきた.早産管理においても抗炎症対策の重要性が叫ばれるようになってきた.病理学的に絨毛膜羊膜炎が進行するにつれ早産率,胎児死亡率が高まる1).絨毛膜羊膜炎をいかにコントロールするかが早産管理のポイントである.

早産リスク因子の評価

著者: 平野秀人 ,   細谷直子 ,   清水大 ,   熊澤由紀代 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.745 - P.749

はじめに

 早産のリスク(度)を知ることは,その後の妊娠管理において重要である.スクリーニングによって,早産を未然に防ぐことが可能なこともある.また,切迫早産徴候を呈した症例が早産に至るかどうか,どれくらい妊娠期間を延長できるかについて評価することもきわめて重要である.なぜなら,NICUのある高次医療施設への搬送が必要かどうかを判断する根拠にもなるからである.本稿では,純粋なスクリーニングと早産徴候を有する場合に分けて,早産のリスク評価について,主に文献を引用し解説する.

子宮頸管長計測による早産の予知

著者: 秦利之 ,   秦幸吉

ページ範囲:P.750 - P.755

はじめに

 従来,妊娠中の子宮頸部の評価は視診,内診によるものであり,内子宮口から外子宮口に至る子宮頸管全体の長さを含めた子宮頸部全体の評価,また外子宮口が閉鎖している場合には内子宮口が開大しているか閉鎖しているかの診断などは不可能であった.経腟超音波法の導入により子宮頸管長(以下,頸管長),内子宮口の形態などの視診,内診では捉えることのできない妊娠中の子宮頸管に起こる変化が客観的に評価できるようになってきた.その結果,現在では,頸管長短縮かつまたはfunnelingが早産を示唆する所見であるとされている1).しかしながら,頸管長短縮が認められる症例に対する早産予防としての頸管縫縮術などの医療的介入の有効性に関しては,統一した見解には至っていない2)

 本稿では,まず経腟超音波法による頸管長計測と早産の関連について解説し,子宮頸管長短縮,funnelingが認められた症例に対して,医学的介入の適応,有効性などに関する見解について,現在までに明らかになっている事項について解説を行うことにする.

妊婦指導と早産予防

著者: 宮内彰人

ページ範囲:P.756 - P.759

はじめに

 周産期医療において,われわれが現在取り組むべき最も重要な課題の1つは早産の予防である.早産の病因やリスク因子については永年にわたる研究から多数指摘されているにもかかわらず,これらの因子が多岐にわたり,相互に関連し合うため,早産の予知や予防に十分活かされているとはいい難い.

 従来,母親学級として知識普及の講義型集団指導を中心に行われてきた妊婦指導であるが,最近は妊婦に応じた指導内容の個別化がなされ,自己啓発のための問題提起型個別指導へと改良されてきている.早産予防のための妊婦指導も,個別にリスク因子を把握し,生活指導を行うべきである.

 本稿では,従来,早産のリスク因子として考えられているもののなかから妊婦指導に必要なものを取り上げ文献的に考察するとともに,日本赤十字社医療センターでの早産予防を目的とした妊婦指導の取り組みについて紹介する.

切迫早産の管理

著者: 松田秀雄 ,   川上裕一 ,   芝崎智子 ,   高橋宏典 ,   吉田昌史 ,   古谷健一

ページ範囲:P.760 - P.765

切迫早産の定義

 日本産婦人科学会編「産科婦人科用語集」によると,切迫早産とは,「妊娠22週以降37週未満に下腹痛(10分に1回の陣痛),性器出血,破水などの症状に加えて,外測陣痛計で規則的な子宮収縮があり,内診では,子宮口の開大,子宮頸管の展退などが認められ,早産の危険性が高いと考えられる状態」と定義される.米国では「妊娠37週未満において,子宮頸管の短縮,または1 cm以上の開大,または80%以上の展退を伴う,周期的(4回/20分または8回/60分以上)で疼痛を伴う子宮収縮」と定義され1),子宮頸管の変化を伴わない子宮収縮は「前期子宮収縮(premature uterine contractions)」や「偽陣痛(false labor)」と呼び,「切迫早産」と区別することになっている.

切迫早産の病因

 図1に示すように,切迫早産は子宮平滑筋機能の妊娠変化を前提にして,多くの生理活性物質が子宮筋に作用することによって惹起される病的な子宮収縮,早期の陣痛発来と考えられる.

前期破水への対応

著者: 中井祐一郎 ,   山枡誠一 ,   橘大介 ,   西原里香 ,   岩永直子 ,   西尾順子 ,   今中基晴 ,   石河修

ページ範囲:P.766 - P.769

はじめに

 前期破水の管理は,その発症時期によって大きく分けられる.正期産期,もしくはそれに準じることができる35~36週以降とそれ以前の早期産期とでは,当然考え方も取り扱いも変わるのは明らかである.本稿では後者,すなわちpreterm premature rupture of membrane(pPROM)に限定して議論を進めることとする.

 pPROMの問題点は,生理的妊娠のあるべき姿である正期産期における経腟分娩というゴールへ至る過程に対する障害として発生する諸問題,すなわち子宮収縮によって発生する早期産,卵膜の破綻から進行する母児への細菌感染の影響,胎動に必要な空間の保持や臍帯への生理的緩衝に重要な羊水量の減少の影響が挙げられる.また,早期産によって発生する長期的問題としての児の発達に関する問題1)や医療経済的視点2)も忘れてはならない.

早産分娩の取り扱い方

著者: 村越毅

ページ範囲:P.771 - P.775

はじめに

 早産の分娩においては,満期分娩と異なり小さく未熟な児(時に発育遅延や胎盤機能不全で予備能力の非常に少ない児)の分娩であることから,通常の経腟分娩や帝王切開とは異なる判断と工夫が必要になってくる.特に超低出生体重児における分娩は,帝王切開においても厚く伸展していない子宮壁の切開が必要であり,胎胞脱出や陣痛が始まっているときなど状況に応じてさまざまな工夫が必要である.経腟分娩か帝王切開かの判断においては施設のNICUの状況により週数体重などの基準が若干異なるが,本稿においては当センターでの基準を中心に経腟分娩および帝王切開での分娩取り扱いの工夫について解説する.

早産における母体管理(身体的,精神的ケアなど)

著者: 田中政信 ,   前村俊満 ,   八尾陽一郎

ページ範囲:P.776 - P.779

はじめに

 早産を予防,治療し,減少もしくはなくすることは,周産期医療の最終目標の1つである.近年,医療機器・技術などの向上により診断法・治療法が発展し,早産の予防,診断,治療および低出生体重児や未熟児などに対する治療は急速に進歩している.

 早産のメカニズムや原因,予防,予知,治療などの詳細は他稿を参照していただき,本稿では早産における母体管理,特に身体的,精神的ケアなどについて述べる.

早産児の予後と問題点

著者: 埴田卓志 ,   松田直 ,   渡辺達也 ,   岡村州博

ページ範囲:P.780 - P.783

はじめに

 人工肺サーファクタントや高頻度人工換気を始めとする新生児集中治療の進歩により早産児の救命率が近年著しく向上したにもかかわらず,その予後に大きな影響を与えている脳室周囲白質軟化(periventricular leukomalacia : 以下,PVL)や慢性肺疾患(chronic lung disease : 以下,CLD)に対する予防戦略はいまだ確立したとはいいがたい.むしろ,成育限界に近い早産児の救命率上昇に伴ってPVLやCLDの発症率は増加傾向にあると考えられ,こうした合併症の管理はこれからの周産期医療を展望するうえで大きな課題となっている1, 2)

 一方,早産の主たる原因である絨毛膜羊膜炎(chorioamnionitis : 以下,CAM)が胎児に全身性炎症反応(fetal inflammatory response syndrome : 以下,FIRS)を引き起こし,これが出生後の早産児に合併するPVLやCLDの発症や重症化と密接に関連していることが知られている3).そのため,近年ではCAMを伴った切迫早産に対して児の予後を改善するために最適な娩出のタイミングを判断すべきであるという考え方が主流となってきている4).しかし,実際には娩出前にCAMやFIRSの進行度を正確に把握する方法が確立していないため,どのタイミングで娩出することが児の予後改善につながるのか,その判断に苦慮することも稀ではない.

 本稿では,このような問題に対してわれわれの施設で実施した臨床研究のデータを呈示し,CAMやFIRSと関連する新生児期の合併症の予防について論じたい.

連載 産婦人科エコー 何を考えるか?・4

胎児項部の肥厚・浮腫像

著者: 竹内久彌

ページ範囲:P.717 - P.719

妊娠12週の外来超音波診で胎児項部にNTがみられたとして精査の依頼があった症例である.

 ここには,妊娠14週0日に行われた初回精密超音波検査の経腹超音波による胎児矢状断像を示した.一見して項部を中心に後頭部から背部に至る皮膚の浮腫状の肥厚が認められ,それはさらに頭頂から前額部にまで至っている.肥厚が最も著しい項部では皮下組織内に小嚢胞像が認められるが,これはリンパ管腫のような腫瘤性嚢胞形成を考えるのではなく,皮下浮腫内の液体貯留像としてよい.元来,NT(nuchal translucency)と浮腫との間の画像における厳密な区別は困難とされており,約2週間前にはこれが完全な“抜け”を示していてNTと読影されていたとしても不思議ではない.しかし,現状では浮腫状肥厚が項部にとくに厚くみられ,広範囲に及んでいることから,いわゆるNTとはしないで,むしろ胎児水腫に近いパターンと考えるべきであろう.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・10

卵巣腫瘍と見誤った非閉塞性膀胱憩室の1例

著者: 小笹宏

ページ範囲:P.785 - P.788

症 例

 患 者 : 10歳代半ば.初経11歳,月経周期35日,未経妊

 主 訴 : 卵巣嚢腫疑いにて紹介され受診した.

 既往歴 : ダウン症候群,VSD手術(生後4か月,1歳2か月)

 現病歴 : 最終月経は1月30日より6日間(通常通り).2月10日,数日来の軽度腹痛のため近くの小児科医を受診した.経腹エコーにて卵巣嚢腫が疑われ,2月13日,当科に紹介され受診した.

 現 症 : 受診時,腹痛は消失しており,訴えは特になかった.外診上,腹部に腫瘤を触知せず.

 経直腸エコーにて,右付属器領域に約5×6 cmの二房性,左付属器領域に直径約3 cmの単房性の嚢腫を認め,卵巣嚢腫が疑われた(図1).壁の不規則な肥厚や充実性部分など悪性を示唆する画像所見を認めず,機能性嚢腫の可能性も考え,MR検査を予約のうえ暫時フォローとした.MR検査当日(2月22日),前回心臓手術によるワイヤー遺残の可能性が判明し,MRを中止しエコーによるフォローとした.3月29日,1回目のフォロー受診時,形態変化を伴う明らかな腫瘤の増大を認めた.卵巣嚢腫の悪性転化を念頭に置き,同日,緊急施行したCT検査所見およびエコー所見を検討したが,悪性を示唆する画像所見を認めず(図2),また嚢腫内出血,浮腫,捻転に伴ううっ血,感染などほかの嚢腫増大要因は否定的であった.腫瘤増大の原因についていささか疑問が残ったものの,腫瘍性卵巣嚢腫と診断し,手術治療の方針とした.同日測定の腫瘍マーカーは,CA125 13U/ml,CA19─9 5U/ml未満,AFP 3.0 ng/ml以下と正常値であった.

Estrogen Series 67

ホルモン補充療法と子宮内膜癌 英国Million Women Studyの結果

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.791 - P.791

エストロゲン単剤の使用は子宮内膜癌を増加させることが立証されている.そのため,エストロゲン(E)による内膜増殖作用に拮抗するためにプロゲステロン(P)が併用(combined HRT)される.併用の方法には,連続的にEとPを組み合わせて使用するもの(continous combined therapy)と,周期の前半にEを使用し,周期後半にPを付け加えるcyclic(周期的)combined therapyとがある.この調査ではE単剤,E+P continuous,E+P cyclicの3種とHRTを使用していないnever usersとを比較検討した.また,ヨーロッパで使用されているTiboloneというエストロゲン製剤の使用も調査対象とした.このTiboloneは米国や日本では未承認のもので,したがって使用されていない.

 英国のMillion Women Studyは大規模調査で,対象人口は716,738名の更年期後女性である.そのうちの320,953名(45%)は現在または過去のHRTの使用者である.追跡期間は3.4年で長いとはいえない.

イラストレイテッド産婦人科小手術・8

―【婦人科小手術】―外陰部コンジローマの手術(切除・焼灼術)

著者: 大本裕之

ページ範囲:P.792 - P.795

1はじめに

 ウイルス性疣贅はヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus : HPV)が皮膚および粘膜上皮細胞に感染して起こる良性腫瘍であり,臨床病型の1つとして,尖圭コンジローマが知られている.近年,HPVが子宮頸癌や皮膚癌からも検出され,HPV感染症や発癌の問題を考えながら診療に当たる必要性が指摘されている1, 2).したがって,治療に当たっては,疣贅発症のメカニズムや自然史などHPV感染症の特徴を理解して行うことが大切である.

 産婦人科臨床で遭遇する外陰部の“いぼ”である尖圭コンジローマはHPV 6や11型による感染が主な原因とされている.本来ウイルス感染症の治療は薬物療法が主体であるが,本疾患に対する特異的抗ウイルス剤や特効的治療法はなく,異なった作用機序の治療法を種々選択しているのが現状である(表1)3).今回はテーマである手術療法に限って,最近の皮膚科学的,ウイルス学的知見も交えて,当科で行っているループ電気外科切除法(loop electrosurgical excision procedure : LEEP)による治療を中心に述べる.

病院めぐり

済生会新潟第二病院

著者: 長谷川功

ページ範囲:P.796 - P.796

済生会新潟第二病院は,昭和2年に新潟市の下町である田町に開設された新潟診療所を起源とする.以来増改築を重ね,昭和48年に279床の総合病院となった.さらに平成3年,新潟市近郊の西蒲原郡黒埼町(現 新潟市)の現在地に新築移転し,81万新潟市民の健康を支える450床の中核病院として現在に至っている.平成14年には地域支援病院に指定され,病診連携を積極的に推進している.病診連携登録医は243名(うち産婦人科23名)を数える.

 当院の産婦人科医師は,当院勤続29年の副院長を筆頭に,続く3名は新潟大学での講師経験者とベテラン揃いであるが,反面,平均年齢が49歳と高齢化傾向である.3年目の若手女性医師を加えた計5名で,3診制の外来,50床の病棟での診療を行っている.

筑波学園病院

著者: 田中智子

ページ範囲:P.797 - P.797

筑波学園病院は,北に関東の名峰筑波山を,東にわが国第二の湖霞ヶ浦を控え,中央につくばエクスプレスが走る新しい街“つくば”にある市中病院です.つくば市内にたくさんの総合病院があるなかで,急性期病院,救急告示病院,労災指定病院,臨床研修病院指定・認可病院としての役割を担っており,1日の産婦人科平均外来受診数が125人となかなか忙しい病院であります.病床数は331床(婦人科は,泌尿器科と共有で41床,産科16床)で,標榜科目は27科です.

 産科は完全個室の母児同室で,2005年は35週以降の正常産を中心に548件の分娩がありました.早産や重度の合併症妊娠は扱っていませんが,周産期科長を中心に周辺開業医の周産期救急をお手伝いさせていただいています.婦人科では一般婦人科と腫瘍専門医を中心に一歩踏み込んだ悪性腫瘍を,2005年は手術件数にして498件こなしました.また,不妊治療は専門医が4名に不妊カウンセラー,胚培養士と層も厚く,初期検査から顕微授精まで2005年の1~9月までの各件数は(10月から体外受精室の拡張工事が入り年内休止となりました)体外受精50件,顕微授精49件で,必要時には精巣内精子による顕微授精や凍結精子を使用した顕微授精と,不育症も含めみっちり行っています.

婦人科超音波診断アップグレード・22

絨毛性疾患の超音波所見

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.799 - P.814

1はじめに

 絨毛性疾患とは栄養膜細胞の異常ないし異型増殖により発症する疾患の総称である1).従来より,絨毛性疾患の診断には超音波やMRI,CT,骨盤内血管造影(以下,PAGと略),子宮卵管造影などの画像診断とhCGの測定が用いられてきた.絨毛性疾患の診断における超音波の役割としては,(1)胞状奇胎の診断,(2)胞状奇胎娩出後の子宮腔内遺残,(3)子宮筋層浸潤の有無,部位の判定,(4)侵入奇胎および絨毛癌における子宮,子宮付属器,骨盤内病巣,さらに肝臓,腎臓,脾臓などの実質臓器への転移病巣の検出,(5)治療効果判定,病巣の経時的変化の追跡,(6)カラードプラ,パルスドプラによる腫瘍の性状,血流の状況の判定などが挙げられる2)

 胞状奇胎の超音波診断については,以前は散乱した超音波によりつくられるsnow storm pattern(吹雪状パターン),snow fleck pattern(淡雪状パターン),snow flake,speckling,radiating speckle like pattern,spotted echoなどと表現される像が典型的とされていた3, 4).しかし,近年,経腟超音波が登場し解像度が飛躍的に向上した結果,線状高エコーに囲まれたecho free space像(以下,vesicle echoと略)として胞状奇胎をなす嚢胞化絨毛そのものが描出可能となった3).そして,最近は月経遅延,妊娠反応陽性(市販),不正性器出血などを主訴として比較的早期に受診し経腟超音波が行われるようになり,胞状奇胎の診断もより早期になされるようになってきたところ,従来の典型的像を認める場合は少なくなり,胞状奇胎の超音波診断は新しい局面に入ったといえよう.そこで今回は,絨毛性疾患の超音波像について,特に胞状奇胎の初期像を中心に検討してみたい.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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