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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科60巻9号

2006年09月発行

雑誌目次

今月の臨床 PCOS─新たな視点

PCOSの概念を再考する

著者: 竹内亨 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.1149 - P.1153

はじめに

 1935年,SteinとLeventhal1)は,両側卵巣の多嚢胞性変化,月経異常(無月経や希発月経),多毛,肥満を主徴とする疾患をStein-Leventhal症候群として報告した.これが現在の多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)の概念の起源となっている.1964年,Stein2)は,卵巣の楔状切除術を施行することにより患者の95%に月経周期が回復し,85%が妊娠することを報告した.このことからStein-Leventhal症候群は卵巣自体に異常があるのではないかと推測されるに至った.その後,Stein-Leventhal症候群と思われる多くの症例が分析された結果,臨床症状は症例ごとに異なるが卵巣の形態学的所見は共通していることより,これらの病態を呈する疾患群は総称してpolycystic ovarian disease(PCOD)と呼ばれるようになった3, 4).それ以降,内分泌学の進歩に伴いホルモン測定が普及するとLHの過剰分泌や高アンドロゲン血症も判明し,男性化徴候,不妊,月経異常,肥満など多様な症候を呈し,病態も一元的には説明できないため症候群として扱われるようになった.

 PCOSの診断基準は,国により微妙な相違があり,また時代とともに修正されている.これはPCOSの病像自体に人種差があり,どの症候を重視するかで異なることが一因となっている.欧米では多毛症の頻度が高いため高アンドロゲン血症が重視される傾向がある.1990年に米国NIHで開催された会議においてPCOSの定義をアンドロゲン過剰症(ほかの内分泌疾患を除外),無排卵の2項目とした.その後,2003年にロッテルダムで開催された欧米のワークショップにおいて,その定義は希発排卵あるいは無排卵,アンドロゲン過剰症,多嚢胞性卵巣の3項目のうち2項目を満たすものと変更された5).現在本邦では,月経異常,LHの異常高値(FSH正常値),多嚢胞性卵巣が必須項目となっているように,まだ世界的にその定義は完全に統一されていないのが現状である.詳細については診断基準の稿を参照されたい.

 一般的に排卵障害は,視床下部性,下垂体性,卵巣性というように原因部位別に分類可能であるのに対し,PCOSでは主要な病変部位がいまだに不明であるため従来の分類パターンに当てはめることができない.しかし,PCOSに関する研究は多方面からその病因論に迫るものが進行中であり,そのメカニズムの詳細が次第に解明されつつある.従来,中枢機能の異常説,卵巣と副腎の酵素異常説,遺伝子異常説などが提唱され,そして最近ではインスリン抵抗性の関与などが注目されている.PCOSのメカニズムについて多くの研究成果が報告されているが,本稿では異常が推測される項目を整理し病態を中心に再考してみたい.

PCOSの診断基準―日本の基準は欧米とどこが違うのか

著者: 福田淳 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.1154 - P.1159

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は産婦人科分野では高頻度にみられる内分泌疾患であるが,原因がいまだ明らかではないこと,またその病態も多様であることから診断基準そのものが普遍的なものには至っていない.さらに,最近ではインスリン抵抗性の問題が着目され,全身疾患としての側面からPCOSを捉えようとする動きもあり,診断基準の見直しについても言及されてきている.本稿では日本と欧米における診断基準について,その違いと問題点について概説する.

 PCOSは1935年にSteinとLeventhal1)により,卵巣腫大,男性化徴候,無月経,肥満を症候とする疾患概念としてはじめて報告された.以降,その病態や病因についてさまざまな検討がなされ,内分泌学的には高LH血症,高アンドロゲン血症を示し,卵巣では多くの閉鎖卵胞を含む卵巣腫大,白膜肥厚が認められることが示されている.最近ではインスリン抵抗性の合併頻度が高いことも報告2, 3)され,1つの重要な病態として着目されてきている.

PCOSの病因

1.インスリン抵抗性

著者: 岩下光利

ページ範囲:P.1161 - P.1165

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)にみられるインスリン抵抗性,すなわち高インスリン血症はPCOSの病態の1つというだけでなく,PCOSの発症そのものに深くかかわっていることが明らかとなってきた.肥満はインスリン抵抗性を伴うが,肥満を合併したPCOSは肥満だけの症例よりインスリン抵抗性が強く,非肥満のPCOSでもインスリン抵抗性がみられる1, 2).これらのことから,PCOSのインスリン抵抗性はPCOSに本質的な病態であると考えられるようになった.本稿では,インスリン抵抗性からみたPCOSの病態を最近の知見を交えながら解説する.

2.高アンドロゲン血症

著者: 田嶋公久 ,   小辻文和

ページ範囲:P.1167 - P.1171

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)の定義は,時代,地域により必ずしも一致をみないが,近年,特に欧米では高アンドロゲン血症が病態の指標として重視されている.

 PCOSでは,副腎と卵巣の両方でアンドロゲン産生の増加を認めるが,本稿では卵巣のアンドロゲン産生細胞である莢膜細胞に焦点を置き,莢膜細胞の機能異常の観点からPCOSの病態生理を概説する.まず正常卵巣における莢膜細胞とアンドロゲンの働きを示したのち,PCOSにおけるアンドロゲン産生異常について最近の知見を述べる.

PCOSの診断と治療

1.診断の進め方

著者: 杉野法広

ページ範囲:P.1172 - P.1175

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は,視床下部-下垂体-卵巣系の異常だけでなく,インスリン抵抗性,耐糖能異常,高アンドロゲン血症,副腎系の異常など多彩な病態を呈する症候群である.1つの異常をトリガーとしてすべての病態が引き起こされる機序を未だ説明できない複雑な疾患群である.さらに,診断基準のうえで,欧米のPCOSと本邦のPCOSとは合致しないこともあり,疾患概念に混乱を招いてきた経緯もある.欧米と本邦で診断基準が異なるのは,頻度が高い症状や検査所見が一致しないことが大きい原因の1つである.しかし,2003年に欧米の診断基準に卵巣における多数の卵胞の嚢胞状変化が取り入れられるようになり,違いはアンドロゲン過剰状態(hyperandrogenism)だけとなっている1).この高アンドロゲン血症もインスリン抵抗性による二次的なものであると指摘する報告もある.実際PCOSの治療において,インスリン抵抗性改善薬の有効性が報告され,PCOSの病態におけるインスリン抵抗性の関与も最近ますます重要視されてきている.

 PCOSの患者が,視床下部-下垂体-卵巣系の異常,インスリン抵抗性,耐糖能異常,高アンドロゲン血症,副腎系の異常のすべての病態を呈するとは限らない.診断基準にしたがい,単にPCOSと診断するのではなく,PCOSの診断に当っては,これら多彩な病態のなかでどの病態を呈しているかを把握することが以後の治療や管理を進めていくうえで重要である.

2.基本的な治療の考え方

著者: 本田律生 ,   大場隆 ,   岡村均

ページ範囲:P.1177 - P.1179

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は無月経や希発月経などの月経異常や不妊の原因であるばかりでなく,インスリン抵抗性や耐糖能異常,脂質代謝異常を伴うことが注目されている.2003年のロッテルダムでのPCOSに関するカンファレンスにおいても,PCOSは高アンドロゲンと多嚢胞性卵巣を伴った卵巣機能障害を示す症候群であり,臨床所見として月経異常,高アンドロゲン血症,肥満,インスリン抵抗性や高LH血症を伴い,2型糖尿病や心血管障害のリスクを高める病態であると理解されている1).日本における本症候群の診断基準では,アンドロゲン過剰の考え方は中心的なものではなく,またインスリン抵抗性の概念も取り入れられてはいない.近年,本症候群をインスリン抵抗性症候群の1つとして捉える見方があり,臨床症状の改善を目的にインスリン抵抗性改善薬の投与が行われ,その有用性の報告が多数なされている.

 本稿では,PCOSの治療に対する基本的な考え方について,インスリン抵抗性への対応の考え方を中心に概説する.

3.外科的治療

著者: 宇賀神奈月 ,   林和俊 ,   深谷孝夫

ページ範囲:P.1181 - P.1183

はじめに

 1935年,SteinとLeventhalが多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)症例で卵巣部分切除を行ったところ正常月経周期の回復と妊娠成立が認められたと報告した1).その後「卵巣楔状切除術」2)として広く知られるようになったが治療効果は一時的であり,術後癒着をきたすことや薬物による排卵誘発法が開発されたことでほとんど行われなくなっていった.しかし近年,腹腔鏡下手術の普及に伴いこの卵巣楔状切除術に代わる新たな外科的治療法として腹腔鏡下卵巣多孔術(laparoscopic ovarian drilling : LOD)が行われるようになった.また最近では経腟的腹腔鏡下卵巣多孔術(transvaginal hydrolaparoscopic ovarian drilling)についての報告もなされており3),より低侵襲な方法によりに排卵を回復させる工夫が進んでいる.

PCOSの長期予後─新たな問題点

1.生活習慣病(糖尿病,循環器疾患)

著者: 内田浩 ,   吉村泰典

ページ範囲:P.1185 - P.1189

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)患者における糖尿病・循環器疾患の長期予後に関して,対照群よりも高い罹患率を示す報告が増えている.それに伴い,PCOSをメタボリックシンドロームの一表現型,あるいは類縁症候群として捉える傾向が強まっている.これはSteinとLeventhalにより1935年に生殖器系の症候群としての概念が提唱されてから70年を経て,PCOSをより広範囲に,全身臓器に影響する症候群の一部として捉え直すという,大きなパラダイムシフトである.

 本邦のPCOS診断基準が,高アンドロゲン血症を重視する欧米のPCOS診断基準とは様相を異にするのは,高アンドロゲン血症の占める割合の多寡という患者集団における人種間の差を根源としている.しかしながら,人種間による症状の特徴的な差異も表現型の多様性として認識し,多臓器症候群として探求することは,PCOSの病因を探るうえできわめて有意義である.

 本稿ではPCOS患者の糖尿病・循環器疾患の長期予後を,その病因論も含め,インスリン抵抗性に基軸を置くメタボリックシンドロームと関連させて概説する.

2.PCOSと肥満(体脂肪分布異常)

著者: 堂地勉

ページ範囲:P.1191 - P.1195

はじめに

 肥満が高血圧症,糖尿病,高脂血症,動脈硬化症などの内分泌・代謝異常を伴いやすいことはよく知られている.しかし,肥満の程度とこれらの異常の発生頻度や重症度は必ずしも相関しない.肥満が体脂肪組織の過剰な蓄積であると定義すれば,その蓄積の絶対量(肥満度)よりも,蓄積部位の異常(体脂肪分布の異常)がさまざまな内分泌・代謝異常と関連して重要であることが明らかになりつつある.肥満と体脂肪分布異常は類似するが,厳密には異なる.欧米では体脂肪分布をbody fat distributionと呼び,肥満とは明確に区別している.さらに近年では,上半身型体脂肪分布(内臓脂肪型体脂肪分布)に高脂血症,高血圧症,耐糖能異常などを伴う内分泌代謝異常はmetabolic syndrome(内臓脂肪症候群)と呼ばれるようになった.

 肥満と関連する婦人科疾患には多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)がある.しかし,PCOSは肥満よりも上半身型体脂肪分布が特徴的である1).PCOSの治療上の問題点には,(1)クロミフェンに抵抗を示す,(2)ゴナドトロピン(Gn)療法で卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が起こりやすい,(3)Gn療法により多胎妊娠が発生しやすい,などがある.これらの問題点は,排卵誘発法の工夫や凍結胚移植などの導入により解決されようとしている.ここでは,PCOSのもう1つの問題点である,(4)「PCOSは長期的には生活習慣病に進展しやすい」ということについて,体脂肪分布異常と関連させて概説する.

3.悪性腫瘍─特に子宮体癌

著者: 藤井亮太 ,   牧野田知

ページ範囲:P.1197 - P.1199

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は,両側卵巣が多数の嚢胞を形成し腫大する形態学的な変化と,排卵障害,エストロン/エストラジオール比高値,LH基礎分泌値上昇,高アンドロゲン血症などの内分泌学的な異常により主に定義される疾患である.PCOSでは,不妊,肥満,多毛などの代表的な症候に加えて,糖尿病,高血圧,遺伝素因などの合併をしばしば伴うことが知られており,これらは女性に発生する悪性腫瘍のいくつかでみられる疫学的特徴とオーバーラップしている.このことから,本疾患と悪性腫瘍との関係について言及した報告がこれまでに数多くなされてきている.本稿では,PCOSと代表的な悪性腫瘍との関連について,特に子宮体癌を中心に概説する.

PCOSに関連した新しい分子,遺伝子

1.アディポネクチン,グレリン

著者: 河野康志 ,   楢原久司

ページ範囲:P.1200 - P.1205

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は排卵障害をきたし,不妊症の原因として重要な疾患である.そのなかにはインスリン抵抗性が認められる症例が存在することから,代謝性疾患と関連することが知られている.近年,肥満や糖代謝に関連した分子がいくつかクローニングされており,その役割が解明されつつある.本稿では,PCOSとインスリン抵抗性に関連した分子としてアディポネクチンおよびグレリンについて述べる.

2.レプチン

著者: 由良茂夫 ,   佐川典正 ,   藤井信吾

ページ範囲:P.1206 - P.1209

はじめに

 近年,多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)の病態形成に耐糖能障害が関与することが注目され,肥満や高アンドロゲン血症などのPCOS発症要因とインスリン抵抗性の関連の分子機序が検討されるようになってきた.本稿では,肥満や耐糖能障害の発症に深く関与し,さらに生殖機能の発現に必須の役割を果たしているレプチンが,PCOSの病態にどのように関与するか,現在までの知見を概説する.

3.遺伝子異常

著者: 池田禎智 ,   中村和人 ,   峯岸敬

ページ範囲:P.1210 - P.1213

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は性成熟期の女性において比較的高頻度に認められる内分泌疾患であり,種々の代謝異常との関連性も知られている.その発症は複数の遺伝的要因と環境的要因によるとされているが,いまだ明らかになっていない.遺伝的要因としてアンドロゲンをはじめとするステロイドの合成や糖代謝,卵胞発育などにかかわる遺伝子について種々の報告がなされているが,現在のところ一致した見解は得られていない.その理由として,(1)PCOSはその臨床症状として排卵障害に伴う不妊症を呈するため疾患を持つ家系の存続が難しく,遺伝的解析に限界があること,(2)PCOSの臨床像が一様ではなく解析の対象となる集団の設定が困難であり,それぞれの施設が独自の基準で症例を収集し解析していること,(3)表現型が女性にしか現れず,男性におけるそれは不明であること,(4)調査対象に人種や民族間の差があることなどが挙げられる.このような現状を鑑みたうえで,本稿ではいままでに報告されたPCOSのさまざまな遺伝的要因について主に概説したい.

連載 産婦人科エコー 何を考えるか?・8

胎児腹部の嚢胞性腫瘤像─腎の嚢胞化

著者: 竹内久彌

ページ範囲:P.1145 - P.1147

 妊娠20週の妊娠中期超音波スクリーニングで,胎児腹部の腎レベルの横断面にいくつもの嚢胞像がみられたとして,直ちに精検を求められた症例である.

 嚢胞が描出された腹部横断面,すなわち両側腎が描出されるはずの断面をここに示した.脊柱(1)の左側,通常なら左腎の横断面が描出されるべきところに大小いくつかの嚢胞を含む腫瘤像(矢印)がみられる.腫瘤自体の被膜構造は明らかでなく,腹膜も描出されていない.さらに,腎であれば認められるべき腎盂・腎杯の形態や腎実質を同定できず,この腫瘤が腎を発生源としたものであるか否かを特定する材料に乏しい.しかし,位置的に腎を考えて矛盾がなく,腎の形態をほかに描出できないことから,この嚢胞性腫瘤を腎としてよいものと考えた.このような腎自体の嚢胞化が起こる病態として最初に考えるのは多嚢胞性異形成腎(multicystic dysplastic kidney : MCDK)である1)

病院めぐり

八尾市立病院

著者: 柳野和雄

ページ範囲:P.1215 - P.1215

 八尾市立病院産婦人科は,昭和25年,市立八尾市民病院発足時からあった診療科で,当時は全科で5診療科,32床の病院でした.初代医長は大阪大学産婦人科より迎え,代々,大阪大学産婦人科出身の多くの先生方が診療に携わられ,当科を引き継いでこられました.平成16年5月に新病院がJR西日本竜華操車場跡に16診療科,380床で開院し,当科は39床,小児科にNICU 3床,未熟児3床を擁する南河内地区における周産期の準拠点病院となりました.

 しかし誠に残念なことに,最新の設備を整えた新病院になって1年も経過しないうちに,大阪大学産婦人科からの派遣が難しくなり,平成17年9月に当科も病棟の閉鎖を余儀なくされました.同じ時期に当地域では残り2か所の総合病院の産婦人科も閉鎖となり,また開業医の先生方も多くが産科診療から撤退され,地域の当科再開への要望が強くなり,平成18年4月,奈良県立医科大学産婦人科を中心として4名の常勤医が着任し,周産期を中心とした診療を再開しました.もっとも,当院の小児科が常勤医8名(専門医6名,そのうち周産期専門医が2名)でNICUの設備を有し,同門の奈良県立医科大学小児科より派遣されていたことが当科再開に大きく寄与したことは言を待ちません.

Estrogen Series・72

20歳代女性の早期閉経

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1216 - P.1216

 今回は25,30,32歳の女性にみられた早期閉経あるいは早期卵巣不全(premature ovarian failure)についての症例報告をご紹介したい.この報告はエチオピアからのものである.以下は抄訳である.

婦人科超音波診断アップグレード・23

卵巣出血の超音波所見

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.1221 - P.1235

はじめに

 日本産科婦人科学会の用語集・用語解説集(2003年)1)によれば,卵巣出血は卵巣からの出血が腹腔内に貯留し,下腹痛を主とした症状を呈する疾患で,卵胞出血と黄体出血に分類される.その成因からみて,卵巣への機械的損傷(過度の外力)によって引き起こされる外因性出血,卵巣の出血性素因に起因する内因性出血,明らかな原因の見いだせない特発性卵巣出血に分類する考え方もある2, 3).女性のほかの下腹痛を示す疾患との鑑別が必要であり,主な鑑別疾患としては子宮外妊娠,卵巣腫瘍茎捻転,骨盤内炎症性疾患(以下,PID),急性虫垂炎,尿管結石などが挙げられる.女性の腹痛の鑑別疾患の1つとして重要で,必ず念頭に置かなければならない疾患である.

 通常,卵巣出血の診断については,臨床症状と検査所見,超音波所見によってなされるが,必ずしも容易でない場合もある.卵巣出血の超音波所見についての詳細な報告は意外に多くない.そこで,今回は卵巣出血の診断に有用と思われる超音波所見について検討してみたい.

症例

卵巣顆粒膜細胞腫初回手術20年後に骨盤腔内に再々発した1例

著者: 朝野晃 ,   高橋尚美 ,   鈴木博義 ,   斎藤俊博 ,   岩本一亜 ,   湯目玄 ,   和田裕一

ページ範囲:P.1237 - P.1240

 症例は54歳で,34歳時に左卵巣顆粒膜細胞腫摘出を行い,臨床進行期はIIa期であった.初回手術12年後に骨盤内に再発し子宮右側の8 cm大の再発腫瘍を摘出した.さらに,初回手術20年後にS状結腸漿膜の3.5×1.7×1 cmの腫瘍と直腸右側の5×3×1 cm大の腫瘍を摘出した.腫瘍は,初回・再発時と同様に顆粒膜細胞腫であった.また,再々発時の検査で右上葉の肺癌を認め摘出した.術後化学療法は行わず,術後12か月現在再発を認めず経過観察中である.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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