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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科61巻10号

2007年10月発行

雑誌目次

今月の臨床 ここまできた分子標的治療

分子標的治療とは―抗がん剤とはどこが違うのか

著者: 曽根三郎 ,   富本秀樹 ,   兼松貴則 ,   柿内聡司

ページ範囲:P.1218 - P.1223

はじめに
 がんは遺伝的な要素もあるが,環境的な要因が働いて,10年,20年をかけてゆっくり増殖し遠隔臓器へと転移してくる慢性疾患として考えられる.診断時,微小がんの転移がすでに起こっているために多くは予後が悪い.したがって,進行癌に対する治療として,原発がんの制御だけでなく,がん転移機構に着目し,がん進展にかかわる分子を標的に制御する戦略ががん克服による長期生存期間の延長をはかるうえで非常に重要なアプローチとなっており,難治性腫瘍とされている慢性骨髄性白血病,乳がん,腎がん,大腸がん,肺がんなどで分子標的治療は大きな成果を上げている.最近の分子標的薬の臨床と今後の展開も含めて概説したい.

分子標的治療のターゲット

1.細胞増殖

著者: 二村友史 ,   井本正哉

ページ範囲:P.1224 - P.1229

はじめに
 1980年代,遺伝学を基にした生物学の躍進によりがん遺伝子が続々と同定され,さらにその遺伝子産物の多くが細胞増殖シグナル伝達分子のホモログであることが明らかになっていくにしたがい,がんの進展には正常な細胞増殖機構を制御しているタンパク質(プロトオンコジーン)の発現量や構造異常(がん遺伝子)が密接に関連していることが示された.その結果,がん遺伝子産物や細胞増殖シグナル伝達分子を標的とする“分子標的薬”は,従来の細胞傷害性の抗がん剤とは異なり優れた選択性が期待できると考えられるようになった.
 ポストゲノム時代に突入した今,分子標的志向の創薬研究は,マイクロアレイによる新たな腫瘍マーカーの探索やケミカルゲノミクスを駆使した全タンパク質機能の解析により,疾患原因因子の網羅的同定とそれらを標的とした薬剤開発を目指すいわゆる次世代ゲノム創薬へと発展している.本稿では,細胞増殖を阻害する標的としてプロテインキナーゼ,ファルネシルトランスフェラーゼ,プロテアソーム,分子シャペロン,ヒストンデアセチラーゼに注目し,それぞれに対する分子標的薬の開発状況を概説する.

2.浸潤・転移

著者: 櫻井宏明 ,   小泉桂一 ,   済木育夫

ページ範囲:P.1230 - P.1233

はじめに
 癌転移は決してランダムに起こるわけではなく,癌細胞は絶えざる遺伝子変異を伴い,不均一な細胞集団から転移に好都合な細胞形質(増殖性,薬剤感受性,浸潤能,形態,免疫原性など)を獲得し,さらには宿主の淘汰圧から逃れることにより首尾よくこれらの過程を突破したきわめて少数の癌細胞により形成される.転移研究を関連分子の探索や同定に方向づけさせたきっかけは,Liotta1)が提唱した“癌細胞の基底膜浸潤の3段階説”であろう.多段階の転移形成過程における浸潤のステップは,とりわけ血行性転移の場合において,癌細胞が血管内への侵入と血管外への脱出の際に必要であり,癌細胞の基底膜への接着,分解,移動の連続する3つの段階に分け,それぞれに複数の特有の分子群が浸潤を完結させるために関与している.癌細胞が原発部位と異なる遠隔臓器に転移巣を形成するためには,原発部位における癌細胞の増殖と発現形質の多様化を経たのち,(1)原発腫瘍からの癌細胞の離脱と周辺組織への浸潤,(2)脈管内への侵入,(3)脈管内での移動と癌細胞と宿主免疫細胞との相互作用,(4)転移先の標的臓器の脈管内への癌細胞の着床,(5)脈管外への脱出,(6)転移先組織への浸潤と増殖といった転移カスケードと呼ばれる複雑な過程を経なければならない.近年,in vivoモデルの開発や分子生物学的手法が進歩し,それぞれの過程で生じている生物学的現象を担う分子や,それらが相互に影響し合うメカニズムが明らかにされつつある2).また,最近話題になっている転移前ニッチ(premetastatic niche)などの宿主側の役割についても研究が進展している.
 そこで,非常に多岐にわたる癌転移研究の成果のなかで,本稿ではすでに臨床応用段階にある受容体型チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinase : RTK)と,今後の応用が期待されるケモカイン/ケモカイン受容体について概説し,今後の癌転移治療の確立に向けて考察を加えたい.

3.血管新生

著者: 渋谷正史

ページ範囲:P.1234 - P.1239

はじめに
 癌を中心とする多くの疾患において,病的血管新生が悪性化に重要な役割を果たすことが明らかになってきた.1970年代,米国のFolkman博士は固形癌が血管に強く依存して増殖することを示し,「癌の血管新生阻害療法」を提唱した.血管新生には種々の因子が関与するが,そのなかでもVEGF(vascular endothelial growth factor : 血管内皮増殖因子)とその受容体は中心的役割を果たす1, 2)(図1).これらの事実を背景に,病的血管に対する多くの分子標的治療が試みられ,2003年,ついに抗VEGF中和抗体(Avastin)が直腸・大腸癌患者の生存期間を著しく延長させることが明らかにされた3).2007年現在,抗VEGF中和抗体は直腸・大腸癌患者と肺腺癌患者に,低分子チロシンキナーゼ阻害剤は腎癌患者に,薬剤として承認されている.一方,VEGF─C/D─VEGFR3はリンパ管新生を制御しており,この系に対する阻害剤も癌転移抑制剤として期待されている4).本稿では,VEGFとVEGF受容体系の概略を述べたあと,血管の分子標的療法の現状と将来を考察してみたい.

分子標的治療とトランスレーショナルリサーチ

著者: 坂本優 ,   岡本三四郎 ,   三宅清彦 ,   小屋松安子 ,   秋谷司 ,   中野真 ,   天神美夫 ,   田中忠夫

ページ範囲:P.1240 - P.1251

はじめに
 基礎研究で得られた成果を臨床に応用する際の橋渡し研究が,探索的臨床研究(トランスレーショナルリサーチ)である.一方,分子標的治療の開発と臨床応用には,以下の一連のステップが必要である.すなわち,がんの増殖,血管新生,転移などにかかわる重要な分子を発見し,それらの分子標的に特異的な抗体や低分子化合物を作成し,まず基礎的に腫瘍細胞のみの増殖を抑制し,正常細胞に悪影響を与えないかどうか,抗腫瘍効果,血管新生抑制作用,転移抑制効果などの前臨床試験で十分に検討したのちに,分子標的薬の有効性と副作用を検討するための製薬メーカー主導,場合により医師主導の第I/II相臨床試験を行う.最終的には,製薬メーカーが医薬品としての承認を申請することになる.
 トランスレーショナルリサーチは,分子生物学の基礎研究成果を治療に応用(translate)するための研究であり,研究のステージの視点からは純粋の基礎研究は含まれず,ヒトへの応用を意図した段階からの研究と考えられる.したがって,そこには前臨床研究と臨床研究が含まれる.
このように,分子標的薬が医薬品として承認されるためのステップとして,トランスレーショナルリサーチは非常に重要な意義があり,政府もトランスレーショナルリサーチの推進に力を入れている. 本稿では,分子標的治療の概要,抗がん剤との比較,分子標的薬の分類,現在使われている分子標的治療薬,トランスレーショナルリサーチの進め方,現在進行中の臨床試験などについて述べる.

分子標的治療の臨床応用

1.卵巣癌

著者: 森重健一郎

ページ範囲:P.1252 - P.1255

卵巣癌における分子標的治療のターゲット
 卵巣癌においては一般にその発癌や癌の増殖に責任を持った特徴的遺伝子変異や遺伝子増幅はない.よって,治療としてターゲットとなり得る分子を同定することも困難である.ターゲットの同定はまず予後を決定付ける分子を同定し,実験動物でその分子を抑制または刺激する治療を行って,予後を検討することで行われる.しかし,最後は卵巣癌患者でその効果が確認されなくてはならない.例えば,乳癌でHER2が予後を決める重要な因子であることが見出され実験的にも確かめられたうえで,最後は臨床的に乳癌患者においてHER2を抑制することの有用性が確認された.分子標的になりうる候補分子は卵巣癌においてもいくつかあるが,分子標的治療としてはまったく未発達で,未だ臨床的に確立されたものはない1)
 表1に卵巣癌における候補分子をまとめた.

2.子宮体癌

著者: 加藤聖子

ページ範囲:P.1257 - P.1261

はじめに
 子宮体癌は最近増加している癌の1つである.1970年代には,子宮がんの約10%であったが,2002年には47%となっている.
 最近の分子生物学手法の進歩に伴い,癌は遺伝子の病気であることが知られている.子宮体癌においても,その発生に関与する遺伝子・シグナル伝達系の報告が蓄積され,発生機構が明らかになりつつあり,分子標的薬の適応となる疾患の1つであると考えられる.

3.HPVを分子標的としたワクチン開発

著者: 井上正樹

ページ範囲:P.1262 - P.1269

はじめに

 子宮癌は古くから性行為との関連が疑われ媒体となる種々のものが想定され検証されてきたが,実証には至らなかった.20世紀後半の分子生物学の技術的進歩を背景として1983年,zur Hausenらによって子宮頸部癌組織にHPV(human papillomavirus)16型ゲノムが高率に存在することが報告され,原因ウイルスとして急速に注目された1).そして,多くの研究者がHPV研究に参画し,疫学研究や分子レベルの基礎研究が進められHPVが子宮頸癌の原因ウイルスであることが明確になった2).今日,これらHPV研究の成果は臨床現場で生かされようとしている.がん検診への導入やワクチンの開発である.子宮頸部癌の撲滅が現実のものとなりつつある.医学の進歩による素晴らしい成果といえよう.

4.乳癌

著者: 坂本康寛 ,   石岡千加史

ページ範囲:P.1270 - P.1275

はじめに
 乳癌は固形癌のなかで薬物療法に対する感受性が最も高い腫瘍の1つであり,内分泌療法薬および化学療法薬に対する標準治療が早くから確立していた.乳癌は分子標的治療薬に対する感受性も高く,HER2陽性転移性乳癌に対するtrastuzumabが固形癌に対する初めての分子標的治療薬として承認された.Trastuzumabの有効性はHER2陽性乳癌の補助療法においても示されたほか,その後,複数の分子標的治療薬が登場し,転移性乳癌に対して有効性が示されている.本稿では,乳癌に対する最新の分子標的治療薬の臨床試験成績についてtrastuzumab,bevacizumab,lapatinib,sunitinib,TSU─68に焦点を絞り概説する.

5.大腸癌

著者: 山本浩文 ,   関本貢嗣 ,   門田守人

ページ範囲:P.1276 - P.1281

はじめに
 現在大腸癌の治療に利用される化学療法剤としては,5-FU,l-LV,CPT-11(irinotecan),L-OHP(oxaliplatin)の4剤が主であり,通常l-LVは5-FUのbiological modulatorとしてセットで使用される(表1).多くの臨床試験の結果から,5-FU/LVはCPT-11やL-OHPと組み合わせて多剤併用療法(FOLFOX,FOLFIRI,IFL)として利用されるようになった(表1).大腸癌に対する分子標的治療薬としてすでに臨床効果の認められているものは,抗EGFR(epidermal growth factor receptor)抗体と抗VEGF(vascular endothelial growth factor)抗体の2つが代表的であるが,これらの分子標的治療薬も多くの臨床試験の結果,従来の多剤併用療法との組み合わせで臨床の場に登場した.本稿ではこれら2つの分子標的薬について臨床試験の結果を中心に紹介する.

6.肺癌

著者: 秋田弘俊

ページ範囲:P.1282 - P.1287

はじめに
 上皮成長因子(EGF)受容体阻害薬,血管新生阻害薬,マルチターゲット・チロシンキナーゼ阻害薬をはじめとする分子標的薬の臨床開発によって,肺癌,特に非小細胞肺癌の薬物療法に新しい時代が到来している.新規分子標的薬の臨床開発とともに,分子標的薬を初回治療およびセカンドライン以降の治療の治療戦略にどのように組み込むか,特定の分子標的薬を投与すべき患者群を同定し適切な患者のもとに適切な薬剤をいかにして届けるか,といった研究が進行している.

分子標的治療の将来展望

著者: 前川麻里 ,   西尾和人

ページ範囲:P.1289 - P.1293

はじめに
 近年,多くの分子標的薬が開発されそのいくつかはすでに臨床の場に導入されている.分子標的薬は小分子化合物と大分子化合物(抗体など)の2種類に分類され,がん細胞の無秩序な増殖,浸潤,転移に関する分子を標的としている.また最近,多標的阻害薬も開発されてきており,多様性に富むようになるであろう.
 一方,分子標的薬の臨床試験がはじまり,当初予想していたような生物学的至適投与量の決定は簡単ではなく,従来の細胞傷害性薬剤と同様の最大耐用量の決定により投与量が決められることも多く経験される.また,有害事象についても当初に想定もしていなかったような副作用の出現により,その予測のためのバイオマーカー研究が,特にわが国において重要であると認識されている.また,長期間にわたる投与例があり,その間に生じる獲得耐性は,細胞傷害性の耐性と同様に大きな臨床的課題になっていると考えられる(表1).

連載 産婦人科MRI 何を考えるか?・4

偶然発見された腹部腫瘤

著者: 山岡利成

ページ範囲:P.1213 - P.1216

 婦人科検診にて偶然下腹部腫瘤を指摘された25歳の女性.T1強調像,T2強調像で内部の多彩な信号を呈する腫瘤が認められる.多彩な信号パターン(stained glass appearance)から診断を絞り込むことは可能であろうか.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・26

腹膜炎様症状を呈し再手術を要した子宮内膜症術後出血の1例

著者: 古澤嘉明

ページ範囲:P.1296 - P.1299

症例

 患者:34歳,3経妊・3経産
 主訴:膀胱刺激症状,発熱
 既往歴:月経困難症にて入院歴あり.
 現病歴:月経困難症にて当科を受診した.内診,超音波およびMRI検査にて子宮内膜症,左卵巣チョコレート嚢腫と診断された.月経困難症はときに発熱,腹膜刺激症状を伴い非常に強く,Gn-RHアナログ製剤使用後に腹腔鏡下手術の方針となった.Gn-RHアナログ製剤(酢酸リュープロレリン)を4週間ごと,計6回投与後,腹腔鏡下左卵巣嚢腫摘出術を施行した.
 手術所見:左卵巣は約4cmに腫大し子宮広間膜後葉から仙骨子宮靱帯付近に強固に癒着し,チョコレート様内溶液が認められた.左付属器周囲の癒着はく離後,チョコレート嚢腫カプセルをはく離・摘出し,正常残存卵巣組織に数針の縫合・結紮を行い止血,形成した(図1a,b).手術時間は2時間7分,出血量は20ml,Re-AFS分類は25ポイントであった.
 術後経過:術後経過はおおむね順調であったが,術後4日目の退院時診察にて内診,超音波検査上,左付属器周囲に6cm大のlow echoic massを認め左卵巣周囲血腫と思われた.ダグラス窩,膀胱子宮窩に少量のecho free spaceを認めた.術後出血と考えられたが推定出血量は300ml以下と考えられ,また腹痛は軽度でありバイタルサインに変化がないため保存的に経過観察の方針とした(図2a,b).翌日,血液検査を再検したがHbの低下は認めず,退院,自宅安静の方針となった.
 退院翌日に38℃台の発熱,下腹痛,腰痛にて外来受診し,膀胱刺激症状も認められた.血液検査にて強い炎症徴候を認め,尿検査にて膿尿も認められたため,術後尿路感染疑いにて再入院となった.
 検査所見:WBC 10,600/ml,RBC 315/ml,Hb 9.5g/dl,Ht 29.1%,Plt 25.7/ml,CRP 12.51mg/dlであった.また,尿蛋白(-),尿糖(-),WBC 30~50/1視野,クラミジアトラコマティスIgG,IgAともに陰性であった.

Estrogen Series・77

ホルモン補充療法と卵巣癌

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1301 - P.1301

 今回は英国での大規模調査の結果をご報告したい.英国のMillion Women Studyは95万人の更年期後の女性を対象にホルモン補充療法と卵巣癌発生との関連を調べた.その結果は2007年5月19日のLancet誌に報告されたが,以下はその要約である.
 この調査では848,576人の更年期後女性を対象とし,癌の発生率では5.3年,卵巣癌の死亡率では6.9年の追跡を行った.卵巣癌の相対リスクは年齢と子宮摘出術の有無とにより多層計算した.また,居住地区,社会経済的階層,更年期以後の経過時間,経産数,BMI,アルコール摂取の有無,経口避妊薬使用の有無により修正した.

病院めぐり

飯田市立病院

著者: 山崎輝行

ページ範囲:P.1302 - P.1302

 飯田下伊那地方は飯田市と下伊那郡14町村で構成され,人口約18万人,長野県最南端に位置し,西は木曽山脈,東は赤石山脈に挟まれ,中央部を天竜川が流れています.飯田市立病院は,一般病床403床,診療科目23科,医師数87名の総合病院として,臨床研修指定病院,新型救命救急センター,地域がん拠点病院,地域周産期母子医療センターなどの指定を受け,地域の基幹病院として活動しています.
 産婦人科は,平成元年4月に信州大学より筆者(山崎)が赴任し開設されました.開設時のスタッフは産婦人科医1名,助産師2名で,手術室の1室を改装して分娩室とし,小児科病棟の1室を間借りしての非常にささやかな産婦人科診療のスタートでした.平成3年4月に待望の常勤医2人体制が実現し,平成4年10月に現在地に病院が新築移転したときに念願の産婦人科病棟もできました.その後,年々マンパワーも充実し,現在は常勤産婦人科医5名(出身大学 : 信州大学3名,群馬大学1名,九州大学1名),非常勤産婦人科医2名,助産師31名の体制で産婦人科の診療を行っています.最近の年間分娩件数は約1,000件,年間手術件数は約500件で,県下でも最大規模の産婦人科施設の1つに成長してきました.

福山医療センター

著者: 徳毛敬三

ページ範囲:P.1303 - P.1303

 福山医療センターは,明治41年に創立された福山衛戌病院を前身とし,昭和20年に国立福山病院に名称変更,昭和41年に現在地に新築移転した歴史ある病院です.その後,平成16年4月に独立行政法人国立病院機構福山医療センターと名称が変更になりました.建物が40年以上経ち老朽化が目立ちはじめ,新築移転もしくは建て替えが叫ばれています.
 当院は,診療科20科,病床数410床(産婦人科病棟55床),医師数73名の総合病院です.産婦人科は,5名の常勤医のうち女性医師は2名です.ここ数年,近隣の総合病院の産婦人科が相次いで休診あるいは閉鎖となったため,当院への紹介患者,救急患者症例が急増していますが,当院の医師の増員はなく,待遇改善は見込めません.

症例

超音波によるplacental lacunaeが診断に有用であった部分癒着胎盤・胎盤遺残の1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充 ,   根岸秀明 ,   木村美帆 ,   森下美幸 ,   田原康夫 ,   越後谷雅代 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.1307 - P.1311

 超音波によるplacental lacunaeにより分娩前に癒着胎盤が疑われた1例を経験した.症例は34歳,1経妊・1経産で,前回の他院での分娩時に部分癒着胎盤,胎盤遺残の既往がある.今回,妊娠24週5日に子宮後壁の底部側にplacental lacunaeを認め,癒着胎盤の可能性を強く疑い経過観察していた.42週2日に自然頭位分娩となり,麻酔下の胎盤用手剥離を施行したところ一部が残存した.総出血量は約2,000mlで,計1,000mlの濃厚赤血球輸血を行った.産褥5日目に母児ともに退院し,分娩後50日目に再入院のうえ遺残胎盤のTCRを施行し,経過は良好であった.癒着胎盤の分娩前の診断により,インフォームド・コンセント,輸血の準備,手術の準備,スタッフのシュミレーションが可能となり,臨床的に有意義である.Placental lacunaeは癒着胎盤の診断に有用な可能性があるものと思われる.

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編集後記

著者: 倉智博久

ページ範囲:P.1320 - P.1320

 この編集後記を書いている今日は,参議院選挙の投票日です.今回の選挙では,年金問題が大きな争点となっています.年金記録の不備は,われわれにとっても重要な問題です.われわれは,大学と関連病院との間で数回の行き来があるのが一般的ですし,留学期間などがありますと,さらに履歴は複雑なものとなります.しかも,大学の中でもわれわれの身分はまことに複雑で,研究生,大学院生,医員,そして助手(助教)以上の正規職員など,社会的にはさまざまな扱いとなる身分を複雑に渡り歩きます.これらの身分で年金の扱いは変わります.
 私も自身の年金記録を調べてみましたが,案の定,間違いがありました.助手の期間の一部が社会保険庁の記録から脱落していました.助手の期間などは共済年金の記録にありますから,簡単に年金の支払いを証明できますが,このようなことがありますと,研究生の期間に未払いとなっていても,「本当に払っていなかったのだろうか?」という疑念が付いて回ります.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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