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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科61巻12号

2007年12月発行

雑誌目次

今月の臨床 不妊診療─現在の課題と将来展望

不妊治療と女性のエイジング

著者: 久保春海

ページ範囲:P.1434 - P.1439

はじめに

 わが国の少子化傾向は昨年(平成18年)やや改善して3万人くらい総出生児数が増加したというものの,すでに特殊出生率は1.32と安定した人口が維持可能とされる2.3を大きく下回っている.これには社会的要因として,女性の意識改革,社会進出に伴う晩婚,未婚,非婚,および結婚しても晩産,未産,非産などの傾向が大きく関与している.非婚,非産はリプロヘルス・ライツによって保障された権利であり,個人の幸福追求権として,基本的人権の範疇に入るのであろうが,晩婚,未婚および晩産,未産の場合,生殖可能期間(15~45歳)といわれる30年間の全期にわたって生殖可能と考えられやすいが,安全生殖年齢限界(通常35歳)が医学的に証明されており,これを超えた年齢での生殖行動は,いわゆる社会性不妊(加齢に伴う不妊)に陥りやすい(図1).

ARTに移行する前に行うべき内視鏡検査・手術

著者: 立花眞仁 ,   村上節

ページ範囲:P.1440 - P.1445

はじめに

 昭和61年以来,日本産科婦人科学会では体外受精・胚移植などの生殖医学の臨床実施に関して登録報告制を敷いている.平成17年度の報告によれば登録施設数は627に及び,年間116,604周期のART治療が行われて,年間18,168人の児が出生しており,本邦での累積出生児数は135,757人にのぼる.これを支えるのは,627を数える多数のART登録施設であり,これが本邦における不妊症診療の大きな特徴である.これらの施設の多くは内視鏡手術の設備を持たない小規模施設と考えられ,目覚しく発展し続けるART技術や昨今の女性の社会進出,晩婚化などの社会的な要因と相俟って,不妊治療は従来の妊孕性を回復させるmacroscopicな治療から直ちに結果を求めるmicroscopicな治療であるARTにシフトしてきている.しかしながら,医療介入は必要最小限とするのが医療の原則であり,不妊症診療においては可能であれば自然妊娠をはかるのが望ましいのは明らかである.

 本稿ではARTに移行する前に施行しておきたい内視鏡検査・手術について,原因不明不妊症と原因別疾患群(子宮内膜症,卵管閉塞,卵管留水症,多嚢胞性卵巣症候群,子宮筋腫,子宮内膜ポリープ,子宮奇形)に対して自他の知見を交えて紹介し,現在の課題と将来の展望を考えてみたい.

多胎妊娠の防止法

1.排卵誘発法

著者: 松崎利也 ,   水口雅博 ,   苛原稔

ページ範囲:P.1446 - P.1451

はじめに

 性腺刺激ホルモンを使用した排卵誘発,体外受精─胚移植を中心とした生殖補助医療技術の進歩により,不妊治療の成績は飛躍的に向上した.一方,多胎妊娠の発生率は1960年代半ばから上昇し始め,ゴナドトロピン製剤が健康保険採用になった1970年代半ば,さらにIVF─ETが始まった1980年代後半から急速に上昇した.多胎妊娠は,母体の合併症や早産児出生などの医学的な問題に加え,患者,家族の精神的,経済的負担や新生児医療体制への過剰な負荷などの問題を引き起こしており,今なおわれわれ産婦人科医が克服すべき重要課題である.本稿では多胎妊娠を予防するための排卵誘発法について解説する.

2.ART

著者: 柴原浩章 ,   橋本祐子 ,   菊池久美子 ,   平野由紀 ,   高見澤聡 ,   鈴木光明

ページ範囲:P.1453 - P.1457

はじめに

 本邦においては,昭和58年に体外受精・胚移植(in vitro fertilization─embryo transfer:以下,IVF─ET)が臨床導入され四半世紀が経過し,以来生殖補助医療(assisted reproductive technology:以下,ART)による累積出生児数は135,757名に到達した.最近の平成16年のARTを用いた「治療法別出生児数および累積出生児数の報告」1)によると,IVF─ET,卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:以下,ICSI)─ET,および凍結胚移植により,各々6,709名,5,921名,5,538名,合計で18,168名が出生し,同年の出生児65名に1名がARTにより誕生するに至っている.

 さらに,国内でIVF─ET導入初期のころに誕生した女性が,最近自然妊娠により健康な児を出産したとの報道もあり,ARTという治療法は本邦の不妊症診療の場において着実に浸透してきている.

 このようなARTの日進月歩の治療技術の向上は,それ以外では妊娠できる可能性がない不妊症患者の治療に大いに貢献してきた.しかしながらその反面,これらの治療の成果と表裏一体の関係として,多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群などの合併症の発生率上昇という問題が生じ,特に前者は社会問題化している.

 そこでARTによる多胎妊娠発生率を低下させることだけを目的とするならば,移植胚数を制限して余剰の胚を凍結保存するという単純な戦略が有効であることは明らかである.しかしながら不妊症に悩むカップルは,妊娠率を低下されてまで多胎妊娠を避けてほしいとは現実的に希望しない.特に妊娠成功が低率であることが明らかな高年齢女性においては,移植胚数の制限による妊娠率低下の可能性に配慮すべきである.すなわちARTによる多胎妊娠発生予防策を講じる場合,ART治療の質的低下,換言すれば妊娠率低下を招くことは決して許容されない.

 そこで本稿では,「ARTによる多胎妊娠の防止法」というテーマに対し,妊娠率を低下させず,多胎妊娠の発生率を最小にする診療戦略を考案してきたわれわれの研究成果を中心に解説する.

非配偶者間人工授精の現状と課題

著者: 久慈直昭

ページ範囲:P.1459 - P.1463

はじめに

 50年以上行われている非配偶者間人工授精(AID)では,生まれた子供の多くが成人に達し,偶然あるいは親がその事実を話して自分がAIDによって生まれたことを知った子どもたちのなかに,提供者のことを知りたいと思う子どもたちが出てきている.ここでは近年世界中で議論がなされている,生まれた子供に治療の事実や提供者の情報を伝えるべきか否かという問題について,これまで海外で得られたデータを基に筆者なりの考察を試みる.

卵巣組織凍結保存への展望―若年女性がん患者における女性としてのQOL向上を志向して

著者: 鈴木直 ,   石塚文平

ページ範囲:P.1464 - P.1469

はじめに

 近年,乳がんや子宮がんなどの若年女性がんの罹患率が上昇傾向を示している.化学療法や放射線療法はがん細胞のみならず正常細胞にまで影響を及ぼすことから,若年女性がん患者は卵巣機能不全などの副作用により生殖機能が失われることが多い.抗がん剤による卵巣機能不全は,稀発月経や無月経また無排卵症を呈し,化学療法誘発性無月経と称されており,その発生頻度は患者の年齢,抗がん剤の種類,抗がん剤の投与量などに依存すると考えられている.若年女性がん患者における抗がん剤による化学療法後の卵巣機能維持は,妊孕性温存という観点のみならず女性としてのQOL保持に欠かせないものとなり,化学療法施行前に卵子あるいは卵巣組織を体外に摘出し凍結保存する試みが,基礎的に臨床的に世界各国で検討されてきた.近年,欧州で若年女性血液腫瘍患者の卵巣組織を凍結後自家移植し,生児を得たとする報告が続いている.

 本論文では文献的考察を中心として,当院産婦人科学教室の基礎的研究成果の一部も加えて,若年女性がん患者に対する女性としてのQOL向上を志向した,卵巣組織凍結保存に関する知見の一端を述べる.

男性不妊症の治療―射精障害・勃起障害のストラテジー

著者: 岩本晃明 ,   松下知彦

ページ範囲:P.1471 - P.1477

はじめに

 男性不妊症外来において勃起障害や射精障害(無精液症/精液減少症・逆行性射精)を訴える症例は必ずしも少なくない.平成10年に行われた旧厚生省厚生科学研究白井将文班1)によって行われた本邦での初の男性不妊症実態調査によれば,男性不妊症829例中勃起障害は172例(20.7%)を占め5人に1人ということになり,男性不妊の原因として重要な位置を占める.Sigmanら2)によれば,2,122例の男性不妊症の評価によって射精障害,EDを合わせても2.4%と低頻度であった.因みに筆者らの前任地聖マリアンナ医科大学病院の男性不妊外来の19年間の頻度は1,686例中73例(4.3%)であった.本稿では射精障害,勃起障害についてその原因と治療の戦略を解説する.

不妊・不育の遺伝カウンセリング

著者: 黒瀬圭輔 ,   竹下俊行

ページ範囲:P.1478 - P.1481

はじめに

 近年,生殖補助医療技術は,体外受精とその関連技術の開発と普及により急速な進歩をとげている.また,遺伝医学においても分子遺伝学,細胞遺伝学などの分野に大きな進歩がみられ,特に1990年代からのヒトゲノム研究および遺伝子解析技術の発展は目をみはるものがあった.そして,その接点として生殖医療の現場では,遺伝子診断,染色体検査などの遺伝学的検査が積極的に行われるようになってきた.一般に遺伝学的検査においては,一生涯変化しない個人の遺伝情報を対象としているため,検査を実施するときの十分なインフォームド・コンセント,遺伝学的情報の保護,検査に使用した生体試料の管理,検査前後の遺伝カウンセリングなどを実施することが望ましいといわれている.本稿においては,不妊・不育の遺伝カウンセリングにおけるインフォームド・コンセントの要点,臨床遺伝専門医へのアクセス方法などについて述べる.

不妊治療と遺伝子異常―ARTで認識すべき遺伝子異常

著者: 栁田薫

ページ範囲:P.1482 - P.1487

はじめに

 体外受精(IVF)をはじめ卵細胞質内精子注入法(ICSI)などの生殖補助医療(ART)の歴史はまだ浅い.ICSIによって世界で最初に誕生した子供たちでも15歳であり,DAZが欠失している遺伝情報を持つ無精子症の父親から誕生した年長の男の子では13歳である.ARTの実施によって,誕生する子供にもたらされる遺伝子異常の調査は玉手箱の蓋が開けられたばかりである.

 近年,そのような遺伝子異常とともにゲノムインプリンティング遺伝子群の異常とARTとの関連性が議論されている.ARTが原因となっていると考えられているインプリンティング関連疾患としては,Prader─Willi症候群(PWS)やAngelman症候群(AS)などがある.この稿ではインプリンティング異常とARTとの関連について解説する.

着床前診断の現状と展望

著者: 杉浦真弓

ページ範囲:P.1488 - P.1491

はじめに

 1990年,Handysideらが最初の着床前診断を報告し,2005年には本邦でも着床前診断が始まった.これは体外受精後の受精卵が8~16分割したころに1~2割球を生検して,“非罹患胚”と診断された受精卵を子宮内に胚移植する技術である.筋ジストロフィー,ハンチントン病などの遺伝子疾患に罹患した胎児を回避する目的で行う場合と,不妊症・不育症患者において生児獲得のために行う場合と大きく分けて2通りの適応がある.

 この技術には,①受精卵を操作廃棄することに対する生命倫理的問題,②障害を持つ人たちからの優性思想であるとの批判,③自然妊娠が可能な人に対して体外受精を行う,といった問題があると考えられる.出生前診断や生殖医療技術については技術が先行して倫理的議論があまりされないまま進んできた歴史的背景がある.日本産婦人科学会はこのような批判を考慮して1998年に「着床前診断に関する見解」を作成し,重篤な遺伝性疾患に限って,申請された疾患ごとに審査して認可することを定めた.現時点で均衡型転座を持つ習慣流産患者,Duchene型筋ジストロフィー,筋強直性ジストロフィーを含む31例が承認されている.ここでは当院から申請した筋強直性ジストロフィー,相互転座を持つ習慣流産患者を中心として着床前診断の現状を解説する.

減胎手術の必要性と問題点

著者: 宮崎豊彦

ページ範囲:P.1492 - P.1495

はじめに

 多胎妊娠は不妊治療の副作用と考えられ,苛原1)の調査においても3胎以上の多胎妊娠の発生原因は体外受精・顕微授精によるものが66%,排卵誘発によるものが31%,さらに4胎以上の多胎妊娠の発生原因の100%が不妊治療であると報告されている.また,胎児数が増加するにつれ周産期の問題点が増加することはよく知られている2).多胎妊娠が発生した場合,患者はすべてのリスクを受け入れそのまま妊娠を継続するか,妊娠の継続を諦め中絶手術を行うか,あるいは周産期のさまざまなリスクを減らして妊娠を継続するために減胎(減数)手術を行うか,という選択を迫られる.

 医学的には減胎手術は早産にかかわるリスクを減らすことが明らかになっており3),意味のある治療法であると考えられるが,一方で,後述する倫理的問題点があり,実施に当たっては論議のあるところである.本稿では,本手術の実際とその問題点につき概説する.

卵子提供,代理懐胎(IVFサロガシー)の実態と展望

著者: 石原理 ,   梶原健 ,   出口顯

ページ範囲:P.1496 - P.1501

はじめに

 日本産科婦人科学会は,その見解(会告)で体外受精などの生殖医療を夫婦間に限定しており,わが国においては第三者に由来する配偶子(卵子または精子)や胚,あるいはIVFサロガシーなど第三者の関与する生殖医療の施行をすべて排除している.1983年にこの会告のオリジナルが発表されてからすでに四半世紀が経過したが,この間実質的な変更はされていない.このため,現時点で,特に配偶子提供について完全に禁止されている状況は,国際的な比較をするとかなり異例にみえる.

 しかし一方,ほとんどの先進国において,第三者の関与する生殖医療などに関連する法律,あるいは(および)親子関係を規定する法律の整備がすでに完了しているという現実がある.つまり,これらの法律による定義づけや規制のまったく存在しないわが国は,現在のところ米国と並んできわめて例外的な国となっていることも忘れてはならない(ただし,米国は州レベルでの法規制がある).厚生科学審議会生殖補助医療部会は,2003年に匿名の第三者からの提供に限って,提供配偶子を認めるという報告書を提出しているが,法制化の目処は2007年7月現在ない.いずれにしても,現実に存在する第三者の関与する生殖により産まれた子供たちの法的地位は,親子の規定を定めた『親子法』のない日本においては,かなり不安定といわざるを得ない.

 海外における卵子提供の状況について,筆者は以前にも詳細に報告した1).そこで本稿では,海外における第三者のかかわる生殖医療についてその後の変化を報告し,さらに現状に至る経緯を明らかにして,日本における第三者のかかわる生殖医療についての今後の動向を展望することを試みる.

連載 産婦人科MRI 何を考えるか?・6

巨大腹部腫瘤の1例

著者: 山岡利成

ページ範囲:P.1429 - P.1432

 2か月前より腹部膨満感,1か月前より不正出血を認め,食思不振,体重減少も出現したため来院した54歳の女性.

病院めぐり

JA静岡厚生連静岡厚生病院

著者: 田中一範

ページ範囲:P.1506 - P.1506

 JA静岡厚生連静岡厚生病院は,JR静岡駅(「ひかり」が1時間に1本停まります)で下車,北西方向1.8kmにあります.平成18年4月より筆者と中山(ともに京都府立医科大学出身)が赴任し,一時閉鎖していた産婦人科を再開いたしました.

 産科においてはVolson730 Expertを用い,好評を得ています.一方,婦人科においては漢方療法なども積極的に行っています.現在,外来患者数は1日平均50人で,多い日は80人を超えます.これに加え,厚生連のがん検診業務も行っています.入院患者数は20人程度です.平成18年4月から19年9月末までの18か月の診療実績は,分娩数216件,手術件数390件で,内訳は婦人科開腹64件,腟式62件,ラパロ110件,TCR17件でした(CSは分娩,手術両方に含まれる).最近は,分娩数は月15~20件程度(制限をかけています),手術数は月20~30件程度で推移しています.

磐田市立総合病院

著者: 中島彰

ページ範囲:P.1507 - P.1507

 当院は,静岡県磐田市にある市民病院です.磐田市といえば何といってもJリーグのジュビロ磐田が全国区で,最近ではラグビーでもヤマハ発動機ジュビロが活躍しており,まさにスポーツで有名なところです.しかし,実際はヤマハ発動機をはじめとする大企業の施設が多くあり,“企業の街”といったところです.当院は平成10年に市の中心部より現在の北部に移転し,500床の総合病院となりました.

 産婦人科は開院当初より診療を開始しており,まず周産期の分野では小児科をはじめとする各科と連携し,小さいながらもNICUを持ち,正常妊娠・分娩だけでなく合併症妊娠・分娩の管理も行っています.また,婦人科の分野でも地域の中核病院として悪性疾患の手術・化学療法・放射線療法や良性疾患の各種治療を積極的に行っています.しかし,不妊症に関しては当院の近郊に体外受精など高度不妊治療の可能なプライベートホスピタルが2件あり,高度治療はそちらにお願いし,入院の必要な合併症や妊娠後は当院で管理しております.

OBSTETRIC NEWS

Evidence based medicine:満期前破水に子宮収縮抑制剤使用は必要か?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1508 - P.1509

■はじめに

 最近,米国産婦人科学会から満期前破水の管理に関する技術情報が発表された.満期前破水例は早産の大きな原因となり,新生児不良転帰の原因となるため,その取り扱いに苦慮させられる.残念ながら,新しい「武器」は見当たらない.このコーナーでも何回か満期前破水の管理を取り上げたが,再度,ここで証拠に基づく満期前破水の管理を取り上げる.

 満期前破水例は,産科的管理や臨床的な個々の状況とは関係なく無治療の状態だと,ほとんどは1週間以内に分娩となる.破水時の妊娠週数が早ければ早いほど,破水から分娩までの期間が長くなる.満期前破水例では,臨床的に明らかな羊水感染が13~60%に認められる.感染の頻度は妊娠週数が早いほど高率となる.胎盤早期剥離の合併率は4~12%であるが,重篤な母体続発症は稀である.最も深刻な続発症は胎児の未熟の問題である.特に,肺の未熟の問題が最も一般的な合併症である.また,子宮内感染は児の神経学的発達障害のリスク増加と関連がある.

 適切な遂娩時期は,児の未熟性と肺の成熟度の比較で決定される.妊娠32~33週になると,胎児の未熟の程度は低くなるので,羊水による胎児肺成熟度検査で肺の成熟が確認されれば,誘発分娩とする.肺成熟が確認されなければ待機的管理のほうが利点がある.妊娠32~33週の満期前破水例に対する副腎皮質ホルモンの有効性は十分に検討されていないが,副腎皮質ホルモン使用を勧める専門家もいる.しかし,絨毛膜羊膜炎のリスクが増加するので,妊娠34週以降の母体への副腎皮質ホルモン投与は勧められない.妊娠34週以降は遂娩が望ましい.

 妊娠24~31週までは,母児に禁忌がなければ待機的管理が行われるべきである.その場合に母体への抗生物質投与は破水から分娩までの期間を延長させるという証拠があるので,抗生物質を使用する.また,1コースだけの副腎皮質ホルモン母体投与も新生児罹患を減少させるうえで有用である可能性がある.

 母体体温上昇(38.0℃以上)は感染を示唆するが,さらに子宮圧痛と胎児頻脈が加わると,よりいっそう感染の可能性が高くなる.白血球数は,ほかに感染徴候がない場合は非特異的である(特に副腎皮質ホルモンを使用している場合).

最近の研究では,頸管長が1~10mmの場合に7日以内に分娩となる率は83%というデータがある(30mm以上の場合は18%).しかし,この研究は小規模(24例と17例)で,信頼度は高くない.

Estrogen Series・78

Polycystic ovary syndromeまたはPCOS

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1510 - P.1511

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome :PCOSと略す)は,米国では15人に1人の割合(6.6%)で起きるとされている.その原因は不明であるが,遺伝的素因(autosomal─dominant)が重要な役割を演ずると考えられている.したがって,PCOS患者の姉妹や娘の50%は理論的にPCOSを持つ可能性がある.

 PCOS患者の大部分は不規則な月経,男性化/多毛症,不妊症などにより発見される.

 PCOSの多くには高インスリン血症,インスリン抵抗,耐糖能低下などがみられるが,それは患者の肥満やBMIとの関連が高い.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・28

二度にわたり外陰部に発生した平滑筋腫瘍の1例

著者: 古川美樹 ,   向田一憲 ,   伊東宏絵 ,   藤東淳也 ,   井坂惠一

ページ範囲:P.1515 - P.1517

症例

 患者:23歳(初診時),0経妊・0経産

 主訴:月経不順,過多月経,貧血様症状

 現病歴:子宮筋腫の診断にて紹介され受診した.来院時3.6cmの粘膜下および6cmの筋層内筋腫を認めた.GnRHa療法後,1993年3月に粘膜下筋腫に対し,第1回目の子宮鏡下筋腫切除術(TCR)を施行し,粘膜下筋腫を切除した.

 その後,再度過多月経にて当院を受診し,超音波,子宮鏡にて粘膜下に突出する6cm大の筋腫を認めたため,1993年8月,2回目のTCRを施行した.1994年1月,重症貧血と残存したと思われる1cm大の筋腫を認めたため,3回目のTCRを施行した.

 1998年10月,再度貧血様症状にて再受診した.子宮粘膜下と外陰部に筋腫を認めたため,4回目のTCRと外陰部筋腫切除術を施行した.外陰部の筋腫は7.5cm大であった.

 2005年10月,再度外陰部の違和感と貧血様症状を認め外来を受診し,MRIを施行したところ多発性の子宮筋腫と外陰部筋腫を認めた.

 MRI所見:2005年,術前に撮影したT2強調画像で子宮は腫大しており,大小多発している筋腫を認めた(図1).外陰部には径9cm大の腫瘍が認められた(図2).

原著

子宮脱矯正リングペッサリー挿入前後における尿失禁症状と各種検査所見の変化

著者: 加勢宏明 ,   安達聡介 ,   横尾朋和 ,   本多啓輔 ,   西村紀夫

ページ範囲:P.1519 - P.1524

 [目的]子宮脱矯正リングペッサリー(以下,ペッサリー)挿入による尿失禁症状の変化と各種所見の変化との相関を求める.[対象と方法]新規にペッサリーを挿入した18例を尿失禁症状の不良・悪化群10例と良好・改善群8例に分け,背景因子,綿棒試験,経会陰エコーの後部膀胱尿道角,頸部開大の有無,内尿道口移動距離を比較検討した.[結果](1)不良・悪化群でBMIが25.1±2.2と高値であった.(2)ペッサリー挿入前は,内尿道口移動距離が不良・悪化群で10.1±5.0mmと長かった.(3)ペッサリー挿入後は,不良・悪化群で綿棒試験の移動角が16.1±10.5度と大きかった.腹圧負荷時の膀胱頸部開大は不良・悪化群で10例中6例と多くみられた.[結論]肥満と挿入前の長い内尿道口移動がペッサリー挿入後の尿失禁発現の予測因子となる.ペッサリー挿入後の尿失禁発現は,尿道過可動と内因性尿道括約筋不全の双方が関与しうる.

症例

興味ある分娩経過をたどった妊娠40週で胎児の高輝度エコー腸管所見を示した1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充 ,   根岸秀明 ,   木村美帆 ,   森下美幸 ,   田原康夫 ,   越後谷雅代

ページ範囲:P.1525 - P.1529

 今回われわれは,妊娠40週で胎児の高輝度エコー腸管所見を認めた1例を経験した.症例は25歳,主婦,0経妊・0経産で既往歴,家族歴に特記事項なし.2006年4月中旬に分娩希望にて受診し妊娠6週5日であった.その後,特に問題なく経過していたが,妊娠40週0日の妊婦健診時に胎児の高輝度エコー腸管所見が出現していた.翌日に陣痛発来し受診したところ高輝度エコー腸管所見は消失したが,高輝度羊水所見が出現し,母体発熱・炎症所見,180 bpmの胎児頻脈を認め,non─reassuring fetal statusおよび子宮内感染,羊水混濁の診断にて緊急帝王切開を施行した.高度の羊水混濁を認め,児は3,385 g,男児で,アプガースコアは1,3,5分後がそれぞれ6,8,9点であった.臍帯動脈血pHは7.195で児の感染は認めなかった.術後経過は良好で,母児ともに術後6日目に退院した.分娩周辺期に出現する高輝度エコー腸管所見は注意を要する.

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編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.1538 - P.1538

 産婦人科にかぎらず,外科系一般に医師不足が大きな社会問題となってきました.正確には,勤務医不足ですが,その原因が給与を含めた勤務医の待遇の悪さにあるということは一般にも理解されてきたようです.それではその医師を雇用している病院経営はどうかというと,公的病院の7割以上は赤字で,私立も決して楽な経営状況にはありません.もし地域医療を支えている病院であっても独立採算企業とするなら,医療は医師,医療技術職,事務職の3者のチームワークで成り立っているわけですから,病院で働く医師1人当たりの医療収入は当該医師以外にも,少なくとも7~8名以上のコメディカルの給与をもカバーし,なおかつ病院の経常利益で施設や機器の減価償却も負担しなければ成り立ちません.

 では,看護師,薬剤師,検査技師,栄養士,事務職員はじめ病院で働く多種の職能人の給与が高すぎる,あるいは人員が多すぎるのでしょうか.確かに技師や事務職員の中には労働実績と給与が乖離しているものもいるようですが,総体的にはほぼ妥当な範囲にあると思われ,それが赤字の元凶とはいえないようです.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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