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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科61巻12号

2007年12月発行

今月の臨床 不妊診療─現在の課題と将来展望

多胎妊娠の防止法

2.ART

著者: 柴原浩章12 橋本祐子12 菊池久美子12 平野由紀12 高見澤聡12 鈴木光明12

所属機関: 1自治医科大学医学部産科婦人科学講座 2自治医科大学附属病院生殖医学センター

ページ範囲:P.1453 - P.1457

文献概要

はじめに

 本邦においては,昭和58年に体外受精・胚移植(in vitro fertilization─embryo transfer:以下,IVF─ET)が臨床導入され四半世紀が経過し,以来生殖補助医療(assisted reproductive technology:以下,ART)による累積出生児数は135,757名に到達した.最近の平成16年のARTを用いた「治療法別出生児数および累積出生児数の報告」1)によると,IVF─ET,卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:以下,ICSI)─ET,および凍結胚移植により,各々6,709名,5,921名,5,538名,合計で18,168名が出生し,同年の出生児65名に1名がARTにより誕生するに至っている.

 さらに,国内でIVF─ET導入初期のころに誕生した女性が,最近自然妊娠により健康な児を出産したとの報道もあり,ARTという治療法は本邦の不妊症診療の場において着実に浸透してきている.

 このようなARTの日進月歩の治療技術の向上は,それ以外では妊娠できる可能性がない不妊症患者の治療に大いに貢献してきた.しかしながらその反面,これらの治療の成果と表裏一体の関係として,多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群などの合併症の発生率上昇という問題が生じ,特に前者は社会問題化している.

 そこでARTによる多胎妊娠発生率を低下させることだけを目的とするならば,移植胚数を制限して余剰の胚を凍結保存するという単純な戦略が有効であることは明らかである.しかしながら不妊症に悩むカップルは,妊娠率を低下されてまで多胎妊娠を避けてほしいとは現実的に希望しない.特に妊娠成功が低率であることが明らかな高年齢女性においては,移植胚数の制限による妊娠率低下の可能性に配慮すべきである.すなわちARTによる多胎妊娠発生予防策を講じる場合,ART治療の質的低下,換言すれば妊娠率低下を招くことは決して許容されない.

 そこで本稿では,「ARTによる多胎妊娠の防止法」というテーマに対し,妊娠率を低下させず,多胎妊娠の発生率を最小にする診療戦略を考案してきたわれわれの研究成果を中心に解説する.

参考文献

1)斎藤英和:平成17年度倫理委員会登録・調査小委員会報告.日産婦誌58:1554-1579,2006
2)大口昭英:双胎妊娠の特徴-単胎との比較において.双胎妊娠・分娩管理マニュアル,(監)佐藤郁夫,(編)松原茂樹.産婦人科の実際 別冊,金原出版,pp28-30,2005
3)水口弘司:多胎妊娠に関する見解.日産婦誌48:11,1996
4)日本生殖医学会ホームページ:http://www/jsrm.or.jp/
5)柴原浩章:ARTによる多胎妊娠発生予知と移植胚数の減少に向けて.日産婦誌59:1787-1796, 2007
6)Shibahara H, Suzuki T, Tanaka Y, et al:Establishment and application of criteria for elective transfer of two ggod-quality embryos to reduce high-order multiple pregnancies. Reprod Med Biol 1:23-29, 2002
7)Suzuki T, Shibahara H, Hirano Y, et al:Randomized study comparing day 2 versus day 3 elective transfer of two good-quality embryos. Reprod Med Biol 3:99-104, 2004
8)Shibahara H, Hirano Y, Okajima T, et al:Establishment of criteria for elective single embryo transfer at day 2 or day 3 by analyzing cases with successful implantation of all embryos transferred. J Obstet Gynaecol Res 33:501-505, 2007
9)Bergh C:Single embryo transfer:a mini-review. Hum Reprod 20:323-327, 2005
10)Gerris L:Single embryo transfer and IVF/ICSI outcome:a balanced appraisal. Hum Reprod Update 10:1-17, 2004
11)Martikainen H, Tiitinen A, Tomas C, et al:One versus two embryos transfer after IVF and ICSI:a randomized study. Hum Reprod 16:1900-1903, 2001
12)Thurin A, Hausken J, Hillensjo T, et al:Elective single-embryo transfer versus double-embryo transfer in in vitro fertilization. N Engl J Med 351:2392-2402, 2004
13)Pandian Z, Bhattacharya S, Ozturk O, et al:Number of embryos for transfer following in-vitro fertilization or intra-cytoplasmic sperm injection. Cochrane Database Syst Rev 18(4): CD003416, 2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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