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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科61巻4号

2007年04月発行

雑誌目次

ここが聞きたい105例の対処と処方 I 周産期

【つわり,妊娠悪阻】1.悪心,嘔吐などの症状がひどくなり,体重が5 kg以上減ってしまった妊婦です.

著者: 柳下正人

ページ範囲:P.347 - P.349

1 診療の概説

 「つわり」とは,全妊婦の50~80%に認められ,妊娠5~6週ごろより,早朝の空腹時を中心に悪心・嘔吐・食欲不振などの消化器症状が出現し,通常は妊娠12~16週ごろに自然軽快する病態である.「妊娠悪阻」とは「つわり」が重症化し,食事摂取量不良と頻回の嘔吐による栄養障害のため,電解質バランスの異常,5%以上または5 kg以上の体重減少,ケトーシス,肝・腎・神経系など臓器障害をきたすものであり,全妊婦の0.1~0.35%程度に認められる 1)

 成因は今なお不明であるが,hCGの嘔吐作用,hCG上昇による甲状腺機能亢進,エストロゲンおよびプロゲステロン分泌亢進による消化管蠕動運動低下などの内分泌的要因,また精神医学的素因や母体の社会的環境変化への不適応などが関与していると考えられている 2)

【切迫流産】2.流産徴候がみられる妊娠12週未満の妊婦です.

著者: 柳下正人

ページ範囲:P.350 - P.351

1 診療の概説

 切迫流産とは性器出血や下腹部痛が認められるものの,胎児が生存している可能性が高く,妊娠継続の可能性のある状態を示し,12週未満を初期(切迫)流産,12~21週を後期(切迫)流産と定義している.症状としては,性器出血,下腹部痛,腰痛,下腹部緊満感などが認められる.全妊婦の20%前後に以上のような症状が認められるが,流産に至るのはその半数といわれる.全妊娠の約15%が流産することがよく知られているが,妊娠週数が早いほど流産率は高く,90%が妊娠12週未満の初期流産である.

 流産の原因は表1のように多岐にわたる.流産胎児の約60%に染色体異常が認められることはよく知られている 1)

【切迫早産】3.子宮口が開大するほどではないが,繰り返す子宮収縮がみられる妊婦です.

著者: 柳下正人

ページ範囲:P.353 - P.355

1 診療の概説

 切迫早産とは,明らかな母体・胎児の疾患がないにもかかわらず,陣痛が起こり,その結果突然に早産,前期破水に進行することと定義されている.頸管無力症,絨毛膜羊膜炎などに起因するとされる.頻度としてはおよそ4~8%といわれるが,近年増加傾向にある.

 原因としては,細菌性腟症から子宮頸管炎,絨毛膜羊膜炎に進行し子宮収縮が起こることや1),頸管無力症も原因となる.診断としては,内診所見で経時的に子宮口が開大し,頸管が熟化し短縮していくことが,子宮収縮の自覚症状や圧迫感,帯下の増量などのほかの切迫徴候よりも早産の予知には最も重要である.

 薬剤は,まず一般細菌を対象として,抗菌スペクトルの広い薬剤で,子宮内感染,付属器炎に適応を有する薬剤を選択する.通常,徒歩で来院してくる軽症例では,抗生剤の経口投与のみで軽快することが多い.この場合,軽快しても必ず再診させて,臨床所見と起炎菌を確認することは重要である.なぜなら,クラミジア,淋菌などでは選択する薬剤が異なり,それを放置することにより,慢性の付属器炎や卵管性不妊を生じる可能性があるからである.

【GBS感染症】4.妊娠中の培養検査で,B群溶血連鎖球菌(GBS)が陽性と出た妊婦です.

著者: 柳原敏宏

ページ範囲:P.357 - P.359

1 診察の概説

 B群溶血連鎖球菌(GBS)はStreptococcus agalactiaeのことであり,腟・会陰・直腸の常在菌である.一般的に成人の約1/3に腸管内保菌者が存在し,妊婦の腟・会陰から10~15%から検出される.妊婦が腟内にGBSが保菌してもほとんど症状のない場合が多いが,近年糖尿病などの基礎疾患のある場合の発症が問題となっている.また,GBS単独の腟炎ではなく,ほかの細菌との混合感染による場合にはpreterm PROMや流早産の原因になる場合もあるとされている.一方,子宮内胎児には影響ないとされているが,PROMや絨毛羊膜炎の原因がGBSである場合には,上行性の胎児感染も注意が必要である.

 GBS保菌妊婦からの出生児のうち36~58%でGBSが検出されるが,このうち1%前後が発症する.全妊娠から計算すると,米国では新生児1,000人に1~3人とされており,本邦では発症率は米国に比較すると非常に低く,1,000人に対して0.05~0.2人が発症する.

【子宮頸管熟化不全】5.分娩誘発の目的で入院した子宮頸管熟化不全の妊婦です.

著者: 柳原敏宏

ページ範囲:P.360 - P.361

1 診察の概説

 子宮頸管熟化不全とは,正式な定義は存在しないが,臨床的な概念として,分娩時期に至っても子宮頸部における分娩準備が整ってない状態である.子宮頸部は妊娠初期から中期においては,子宮の増大と内圧の増加に対し,その硬度の維持と頸管長を保持することにより支持組織として正常の妊娠経過を支えている.子宮頸部の分娩の前段階とは,頸部の結合組織が軟化し伸展性を持ち,さらに子宮体部の収縮の増加と児頭の下降により頸部は挙上され,頸管の短縮(展退)と開大を起こすことをいう.子宮頸管熟化不全とは,これらの変化が欠如または遅延した状態を示す.子宮頸部が妊娠週数によって変化する現象についてさまざまな研究が行われており,子宮頸部は主に結合組織で形成されているが,好中球浸潤などにより,硬いI型コラーゲンが減少し,軟らかいIII型コラーゲンが主体になることも1つの要因とされている.

 診断基準も学会などによる正式なものは存在しないが,主にBishop scoreによって診断されている.妊娠37~38週で2点以下,妊娠39~40週で4点以下の場合には子宮頸管熟化不全が示唆され,有意に過期妊娠・遷延分娩が多いとされている.

【子宮復古不全】6.出血量が多い子宮復古不全の妊婦です.

著者: 柳原敏宏

ページ範囲:P.362 - P.363

1 診察の概説

 子宮復古とは,妊娠により増大した子宮が非妊時へ復帰する過程を意味する.通常4~6週で子宮のサイズは非妊時に戻り,内膜機能も6~8週で回復する.この過程が障害されたものを子宮復古不全と呼ぶ.正常産褥における子宮サイズの変化は,産褥3日目で臍下3横指前後であり,7日目には恥骨結合上縁の高さとなる.約4週間で妊娠前のサイズに復帰する.悪露の正常産褥の経過は,赤色悪露が3日間,それ以後褐色悪露となり,2週間で黄色悪露,3週間で白色悪露となる.

 診断は,産褥の日数に比較して,大きく軟らかい子宮の触知と出血の持続(間欠的なものも含める),または血性悪露の持続と増加を認める場合に子宮復古不全とする.しかし,極端に悪露が少ない場合には帝王切開後などの子宮口早期閉鎖による異常の場合がありうる.また,子宮内感染が関与している場合には悪臭のある悪露を認める.原因は表1に示したが,最も多い原因は胎盤・卵膜片遺残である.また,子宮内感染の有無が重要であり,感染は子宮収縮を妨げる重要な要因であるうえに取り扱いも異なるため,注意が必要である.感染徴候がある場合には必ず治療開始前に子宮腔内の悪露培養を行い,起炎菌に対する抗生剤の感受性を確認する.

【産褥乳汁分泌の調整】7.中期流産手術が無事終了した患者です.退院の翌日から乳房の緊満があり,乳汁の分泌がみられます.

著者: 下平和久 ,   岡井崇

ページ範囲:P.364 - P.365

1 診療の概説

 乳汁分泌には,妊娠に伴い起こる生理的なものと,それ以外の病理的なプロラクチン上昇によるものとがある.本症例のような中期流産手術後の乳汁分泌は,妊娠に伴う生理的なものである.妊娠中からプロラクチン分泌は亢進しているが,胎盤由来の性ステロイドホルモンによって乳汁分泌は抑制されている.分娩により母体血中性ステロイドホルモンレベルが低下すると,プロラクチンレセプターの増加が起き,プロラクチンの乳房腺房上皮への作用が発現して乳汁の分泌が起きる.さらに産褥期には,児による吸啜刺激により,オキシトシンの放出とともに,ドパミン分泌の低下とプロラクチンの一過性の上昇が起こり,乳汁分泌が促進される.分娩後の乳汁分泌を望まないときは,局所安静とドパミン受容体作動薬の投与によりプロラクチンのコントロールをはかることが必要となる.ドパミン受容体作動薬は下垂体のドパミン受容体に作用してドパミン様作用を示す.これにより,プロラクチンの分泌を抑制して乳汁分泌を抑制する.

【産褥乳腺炎,乳頭亀裂】8.産褥期の発赤,発熱,疼痛を伴う乳腺炎の妊婦です.

著者: 下平和久 ,   岡井崇

ページ範囲:P.366 - P.367

1 診療の概説

 分娩により胎盤の娩出がなされると,母体血中の性ステロイドホルモンレベルが低下する.これによりプロラクチンレセプターの増加が起き,プロラクチンの乳房腺房上皮への作用が発現して乳汁の分泌が起きる.さらに,産褥期には児による吸啜刺激によりオキシトシンの分泌とともに,ドパミン分泌の低下とプロラクチンの一過性の上昇が起こり,乳汁分泌が促進される.

 さらに,「乳汁うっ滞」,「乳管閉塞」から進展して発赤,腫脹,硬結,疼痛などを生じた状態が乳腺炎である.乳腺炎は,うっ滞性乳腺炎(非感染性乳腺炎)と急性化膿性乳腺炎(感染性乳腺炎)に大別される.

【乳児の皮膚疾患】9.接触性皮膚炎,カンジダ症との鑑別が難しいおむつかぶれの乳児です.

著者: 下平和久 ,   岡井崇

ページ範囲:P.368 - P.369

1 診療の概説

 「おむつかぶれ」とは,乳児のおむつを当てている大腿,臀部などの部分にできる皮膚炎の総称である.アンモニア形成によると考えられ,「アンモニア皮膚炎」と呼ばれる場合もあるが,尿や便による化学的な刺激,湿度などの物理的要因,細菌による影響など,複数の原因から成る疾患であると考えられ,「接触性皮膚炎」,「襁褓皮膚炎」ともいわれる.

 これに対し,真菌感染による「乳児寄生菌性紅斑」,黄色ブドウ球菌による「伝染性膿痂疹」,スキンケアの問題とされる「脂漏性湿疹」,皮膚バリア障害と考えられる「アトピー性皮膚炎」などは,一見似た症状を示すが異なる疾患であり,治療法もそれぞれに違うため,適正な診断と管理が求められる.プライマリケアとしては産科医が対処するが,診断に迷うときや治療に難渋するときは,速やかに皮膚科専門医の診断を仰ぐべきであろう.日常臨床では「おむつかぶれ」と「乳児寄生菌性紅斑」の鑑別が最も重要となるため,その点を中心に述べる.

【かぜ症候群(妊娠中)】10.妊娠初期(12週まで)のかぜ症候群の妊婦です.

著者: 澤倫太郎

ページ範囲:P.370 - P.371

1 診療の概説

 かぜ症候群は上気道におけるカタル症状を示すもので,主としてくしゃみ,鼻汁,鼻閉,咽頭痛を主症状とする.さらに病態が進行すると発熱,頭痛,せきなどがみられる.かぜ症候群は,普通感冒,インフルエンザ,咽頭炎症候群,プール熱,ハルパンギーナ,クループがある.主としてウイルス感染が原因となる.その内訳はライノウイルス(30~50%),アデノウイルス(15~20%),コロナウイルス(15~20%),そのほか,マイコプラズマ,クラミジア,細菌(A群溶連菌5%)などがある.

 インフルエンザは,突発性に発症し,発熱,頭痛,全身倦怠感,筋肉痛,関節痛,腰痛などの症状に進行し,流早産の頻度も上昇する.

【アレルギー性鼻炎(妊娠中)】11.春になり,アレルギー性鼻炎を訴えている妊婦です.

著者: 澤倫太郎

ページ範囲:P.373 - P.375

1 診療の概説

 アレルギー性鼻炎(allergic rhinitis)は鼻粘膜のI型アレルギー疾患で,原則的には発作性反復性のくしゃみ,水性鼻漏(さらさらした水のような鼻水が出ること),鼻閉(鼻づまり)を三主徴とする.I型アレルギー疾患とはIgE抗体によるアレルギー疾患を指し,外因性のアレルゲン(アレルギーの原因物質 : スギ,ブタクサ,室内塵,ダニなど)の存在を前提とする(表1).

 アレルギー性鼻炎は好発時期から通年性と季節性に分類される.前者は室内塵(house dust : HD),ダニを抗原とするものが多く,後者の抗原は花粉である.室内塵は雑多なものを含んでおり,そのなかで一番多くみられるアレルゲンはヒョウダニである.陽性アレルゲンには地域差があるので地域特異性の知識が必要である.最近はペット(特にイヌ,ネコなど)やゴキブリのアレルギーもみられる.

【気管支喘息(妊娠中)】12.急性発作を起こした慢性気管支喘息の妊婦です.

著者: 板倉敦夫

ページ範囲:P.376 - P.377

1 診療の概説

 妊娠中の気管支喘息は,悪化,不変,改善がそれぞれ1/3といわれていたが,最近のデータでは,不変の割合が高いことも報告されている 1).妊娠中に喘息発作が改善する例もあることには違いないが,安易に改善することを期待することは非常に危険である.気管支喘息は,妊娠初期から薬物による治療が必要な疾患であり,薬物あるいは発作の胎児への影響が懸念されるため,処方に苦慮することも多い.

 最近,全米喘息教育・予防プログラム(NAEP)は妊娠中の喘息管理に関するガイドラインを改訂した.その内容は,成人の気管支喘息の治療プロトコールと大きな差はなく,コントロール不良の喘息の母体・胎児に及ぼす悪影響は,薬物投与のリスクを大きく超えていることを示している.アメリカ人と日本人に違いがあるため,米国のガイドラインをそのまますべて日本に持ち込むことは危険であるが,日本における成人の喘息治療プロトコールが米国のガイドラインとほぼ同一であることから,日本の妊婦に対しても,このガイドラインを踏襲することに,大きな問題はないであろう.

【頭痛(妊娠中)】13.ひどい頭痛を訴えている妊婦です.妊娠前からかなりの頻度で頭痛薬を服用していたといいます.

著者: 板倉敦夫

ページ範囲:P.379 - P.381

1 診療の概説

 妊娠初期の頭痛で最も多いのは器質的疾患を有さない,いわゆる機能性頭痛である.つわりは,本来妊娠初期の消化器症状を指すが,頭痛や嗅覚異常などが前面に出る場合もある.国際頭痛学会は,2004年に頭痛を従来の機能性頭痛と症候性頭痛を一次性頭痛と二次性頭痛に分類した 1).妊娠中の頭痛は,このなかで「ホメオスターシスの障害による頭痛」として妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)および子癇による頭痛が含まれている.しかし,つわりは二次性頭痛に分類されておらず,一次性頭痛の増悪と考えるべきであろう.

 嘔吐および気分不快の持続は,一次性頭痛を助長するので,片頭痛の既往がある妊婦では,この時期にしばしば頭痛を訴える.さらに,月経時片頭痛のように女性ホルモンの変化は頭痛を起こしやすいため,つわりの時期には片頭痛は増強するが,妊娠中期に入るとホルモンも安定し,片頭痛はむしろ起きにくくなるとされている.

【腰痛(妊娠中)】14.妊娠25週に,突然,強い腰痛をきたした妊婦です.

著者: 板倉敦夫

ページ範囲:P.383 - P.385

1 診療の概説

 腰痛症の原因としては,妊婦が大きな妊娠子宮を前方に抱えるので,重心を後ろへ移動させ上体を反屈する姿勢をとるためと考えられている.しかし,妊娠初期からすでに腰痛に悩まされる妊婦もいるため,肥大した妊娠子宮だけでは説明できない.腰痛症は,仙腸関節由来であることが多く,妊娠中に恥骨が離開しやすいのと同様に,仙腸関節も緩み引き伸ばされ,固定化するために疼痛を感じるとされている.そのため,仙腸関節を動かすと,直後は痛みを訴えても,その後に楽に感じるようになることが特徴である 1)

 腰痛の約60%がその初発時期は20~31週であるとされており 2),妊娠25週の腰痛は,発症頻度から考えても,器質的疾患を伴わない腰痛症である可能性が高い.しかし,すべての妊娠中の症候がそうであるように,器質的疾患を見逃さないことが重要である.

【胃炎(妊娠中)】15.胃のもたれ,嘔気を訴えている妊婦です.

著者: 喜多伸幸 ,   高橋健太郎 ,   野田洋一

ページ範囲:P.387 - P.389

1 診療の概説

 胃のもたれや嘔気は,一般的に上腹部の消化器疾患の徴候としての頻度が高く,臨床上重要な症状であるが,妊娠悪阻や増大した妊娠子宮の圧迫などの生理現象により生ずることもある.また,妊娠や消化器疾患以外の病態にも起因し,適切な検査,診断,治療が行われなかった場合,非常に重篤な事態を招くこともある.そのため,症状の発現時期,程度,持続期間など細心の注意を払い対応する必要がある.さらに,妊婦がこのように原因が多岐にわたる症状を訴えている場合,非妊時と比較し行い得る検査にも制限があり,日常診療の場ではその選択に苦慮する場面にしばしば遭遇する.

 嘔吐は胃のもたれや嘔気,胸やけがさらに進行した病態と考えられるが,そのメカニズムは以下のように考えられている.すなわち,嘔吐中枢が興奮して起きる遠心性神経刺激は迷走神経,交感神経を経て各臓器に伝達される.この嘔吐中枢刺激経路には,脳圧亢進を介し主に物理的要因により嘔吐中枢を刺激する経路(脳腫瘍,頭蓋内出血など),視覚・聴覚・嗅覚により大脳皮質を介する経路,薬剤や体内代謝産物などの化学受容体を介する経路(糖尿病性ケトアシドーシス,尿毒症,妊娠悪阻,甲状腺疾患など),さらに各臓器疾患の求心性神経を介する経路(腹膜刺激,狭心症,心筋梗塞など)の4つに大別される 1)

【便秘(妊娠中)】16.習慣性便秘に苦しんでいる妊婦です.

著者: 望月昭彦 ,   高橋健太郎 ,   野田洋一

ページ範囲:P.390 - P.391

1 診療の概説

 便秘は,便の排出に困難を感じるか,あるいは稀である状態をいう.したがって,毎日何回か,少量ずつの排便があっても,便が硬く苦痛を伴うときは便秘という.一般的には3日以上排便を欠き,便通異常に伴う症状(腹痛,排便困難,腹部膨満感など)が主訴となる.妊娠初期はプロゲステロンによる消化管蠕動運動抑制作用や悪阻による食事量の減少により,また妊娠中期以降は増大した妊娠子宮による腸の圧排・偏位により,妊婦は弛緩性便秘となることが多い.さらに血流のうっ滞により痔核になりやすくなり,肛門痛のためにときに排便障害をきたす.そのために便意を抑制し,さらに便秘を助長し,痔を悪化させるという悪循環に陥る.また,わが国の若い世代での食物線維接種量は十分でなく,食生活の内容も便秘の原因の1つである.

【下痢(妊娠中)】17.激しい急性の下痢を訴えている妊婦です.

著者: 望月昭彦 ,   高橋健太郎 ,   野田洋一

ページ範囲:P.392 - P.393

1 診療の概説

 下痢とは,経口摂取される水分量と消化管からの分泌液が,小腸や大腸での吸収能力を上回った結果,糞便の状態が軟便や水様便となった状態である.

 糞便中の水分量が増加する原因としては,腸管液(胃液,膵液,小腸液)の分泌が著しく亢進した分泌性下痢,水分の吸収能力が低下した吸収不良性下痢,腸管の蠕動運動が亢進した運動機能亢進性下痢があるが,多くは複合して下痢を生じている.

 急性下痢の主な原因は,病原体,毒素および薬物である.慢性下痢では,神経性下痢,過敏性腸症候群などの精神心因性や,炎症性腸疾患,甲状腺機能亢進症,薬物の服用などが原因となる.

【痔核(妊娠中)】18.痔核が大きくなり,疼痛,痔核の脱出がみられる妊婦です.

著者: 中田雅彦

ページ範囲:P.394 - P.395

1 診療の概説

 痔とは,直腸や肛門付近の疾患を含めた総称で,痔核(いぼ痔),裂肛(切れ痔),痔瘻(うみ痔)に大別される.このなかで最も多いのが痔核で,痔疾患の半数以上を占め,妊婦の3~4割は痔に悩んでいる.妊娠中は,便秘になりやすいこと,内分泌環境の変化によって静脈壁が弛緩すること,循環血液量の増加と増大した子宮による総腸骨静脈などの圧迫に起因する直腸肛門静脈内圧の亢進などによって,痔疾患に罹りやすく,妊娠中期以降に多い.

 直腸や肛門の静脈叢は門脈系の最下部に位置し,静脈弁がないためうっ血しやすい.うっ血の持続により,静脈壁が拡張して静脈瘤となり痔核が派生する.痔核(いぼ痔)は内痔核と外痔核に大別され,肛門管の歯状線の上方・下方で分類される.内痔核は,上直腸静脈叢より発生する.痔核の大部分は内痔核で,肛門外に脱出することが多い.内痔核が進行すると痔核が大きくなり,肛門外に脱出するようになり,脱肛と呼ぶ.脱肛がひどくなると,排便時や歩行時でも疼痛を伴うようになる.また,直腸粘膜下の拡張した静脈叢より出血をきたすことがあるが,出血自体は神経支配に乏しい組織が起因するため疼痛を伴うことは少なく,排便後の自然還納や用手的還納ができない場合に特に疼痛がひどくなる.外痔核は,歯状線より下方の肛門静脈叢から発生したもので,静脈血栓として黒いしこりができる.感染などを契機に増大すると,有痛性の暗赤色の腫脹を呈するが,神経分布によって激しい疼痛を伴う.

【皮膚の痒み(妊娠中)】19.手足に痒疹のみられる皮膚の痒みを訴えている妊婦です.

著者: 中田雅彦

ページ範囲:P.396 - P.397

1 診療の概説

 妊娠中の皮膚疾患のほとんどが,湿疹・皮膚炎群を主とした日常診療上しばしば遭遇する疾患で,妊娠が関連する皮膚疾患は15%程度である.妊婦に特有の皮膚疾患としては,妊娠性痒疹(prurigo gestationis),pururitic urticarial papules and plaques of pregnancy(PUPPP),妊娠性疱疹(herpes gestationis),妊娠性丘疹性皮膚炎(papular dermatitis),妊娠性掻痒性毛包炎(pruritic folliculitis)などが挙げられる 1)

 妊娠性痒疹の頻度は0.3~2%で,妊娠中期に発症する.皮疹は,四肢伸側や体幹に痒みの強い癒合傾向の乏しい紅色丘疹が多発する.痒みが強く,掻爬により丘疹の頂点にびらん,鱗屑,痂皮を伴う.出産後は速やかに消退する.

【下肢静脈瘤】20.皮下静脈の怒張,拡張がみられる下肢静脈瘤の妊婦です.

著者: 杉村基

ページ範囲:P.398 - P.399

1 診療の概説

 下肢静脈瘤は先天的な素因に加え,長時間の立位,妊娠,加齢により発症,増悪すると考えられている.妊娠中には妊娠週数が進むにつれ下肢静脈瘤の所見が顕在化する.こうした変化の原因として,仰臥位時における大腿静脈圧が妊娠初期に約8 cmH2Oであるのが妊娠10週台より漸増し,妊娠末期には約24cmH2Oに上昇することによると考えられている 1).大腿静脈圧の上昇は側臥位をとることや分娩後には速やかに正常化することから,主として増大する妊娠子宮によって骨盤内の静脈が圧迫されることや,下大静脈が圧迫されることによる.

 皮下静脈の怒張,拡張はこのように妊娠中の大腿静脈圧の上昇によるものが大半で,下腿の浮腫も伴うことがみられ,足のだるさなどの訴えが多い.また皮下静脈の怒張を伴う下肢静脈瘤は血管壁の拡張に伴う疼痛を訴えることも多く,さらに増悪する場合には皮下出血の皮診を示すこともある.一方,こうした骨盤内の静脈圧の上昇は下肢のみならず,外陰,腟,直腸肛門部の静脈瘤を合併することもある.特に外陰,腟部の静脈瘤は長時間の排便姿勢などで著明に怒張拡張をすることもあり,便秘を日ごろより避ける必要がある.さらに,分娩時には拡張した静脈瘤から予想外の出血を呈することもある.過度の血流のうっ滞を伴う静脈瘤には表在性静脈血栓を発症する場合もあり,発赤,疼痛,発熱といった臨床症状を呈する場合もある.

【子宮筋腫】21.子宮筋腫合併妊娠の妊婦です.疼痛を訴えています.

著者: 杉村基

ページ範囲:P.400 - P.401

1 診療の概説

 子宮筋腫合併妊娠は全妊娠の1.5~4.0%と考えられているが,日本においては妊娠分娩の高齢化に伴いその頻度は増加傾向にある.一般には子宮筋への胎盤付着部位下に3 cm径以上の筋腫が存在する場合,流早産,常位胎盤早期剥離の危険度が増加するとされ,筋腫核の位置,径によっては妊娠後期での胎位異常の頻度が増加する 1).また,産褥期には分娩後出血の増加や,変性を伴う筋腫核では感染を発症した場合,敗血症といった重篤な合併症を併発する危険性を伴う.

 妊娠に伴う子宮筋腫の変化としては腫瘍径の増大がある.子宮筋腫自身はエストロゲン依存性腫瘍であるため,妊娠に伴い腫瘍径の増大が起こりうる.ただ,腫瘍径と妊娠中の変化を詳細に観察すると6 cm径以上の筋腫核は妊娠初期において80%が径の増大を示すのに対し,妊娠中期から後期では約80%で計の縮小もしくは変化なしとなることが観察されている.一方,3 cm径以下の筋腫核の場合は腫瘍径が増大するものは約40%であるものの,妊娠中期にも増大するものが30%程度ある 2)

II 内分泌

【無月経】22.16歳になっても初経をみない患者です.

著者: 古井辰郎 ,   今井篤志

ページ範囲:P.403 - P.405

1 診療の概説

 最近の初経発来は11歳前後に認められる.原発性無月経は「18歳になっても初経の発来を認めないもの(日本産科婦人科学会)」と定義されているが,実際には16歳で初経を認めない場合,無治療では18歳まで月経を認めない例がほとんどであり,本症例では原発性無月経に準じて検査を始めるべきであろう.特に遅発思春期「適正な年齢を過ぎても乳房発育(11歳),恥毛発育(13歳),初経発来(14歳)をみないもの」の状態を呈する場合は卵巣での性ステロイド産生がなく,原因検索の機会を逃してはならない.しかし,月経以外の第二次性徴が正常であれば生理的範囲内での初経の遅れの可能性も念頭に置く必要がある.

 原発性無月経の原因には,表1に示すように染色体異常が最も多い.ほかに中枢障害,ミュラー管分化異常などがある.染色体異常のなかではターナー症候群が最も多く,精巣性女性化症候群が続く.いずれにしても,思春期年代であることも配慮して,肉体的/精神的に低侵襲な検査を夏休みなどの長期休暇の時期にスケジュールすることが望ましい.図1に診断の流れを示したが,十分な問診と第二次性徴の有無に加え,腟と子宮の確認が大切である.MRIによる画像診断が容易になりつつあり,性交経験がないと思われる場合には内診はできるだけ避けるべきである.次いで,染色体分析,黄体ホルモン剤投与による第一度無月経か第二度無月経かの診断,血中ホルモン基礎値(ゴナドトロピン,エストラジオール,プロラクチン,テストステロンなど)の測定を行う.必要に応じてGnRH,TRH負荷テスト,骨年齢および脂質代謝などの異常の有無のチェックを行う.診断と並行して親を交えたカウンセリングを行うことは重要なポイントである.

【無月経】23.13歳より月経があり,転職をきっかけとして26歳時に無月経になった患者です.

著者: 古井辰郎 ,   今井篤志

ページ範囲:P.407 - P.409

1 診療の概説

 環境の変化に伴う身体的および精神的ストレスが誘因となり,発症した無月経の症例である.実際には環境の変化や精神的ストレスが直接的に排卵障害の原因となる場合と全身疾患,摂食障害などを引き起こすことによって二次的に発症する排卵障害とが考えられる.

 一般にはストレスホルモンが視床下部性に作用し,ゴナドトロピン分泌が抑制されるためと考えられている.無月経の期間が長期となると,LHサージだけではなく下垂体ゴナドトロピン自体の分泌様式の不良となり,第二度無月経となることもある.挙児希望の有無で対処方法は異なるが,どちらの場合も治療開始前に全身状態,内外性器の状態を把握することが肝要である.

【無月経】24.肥満を伴う多嚢胞性卵巣症候群の患者です.

著者: 古井辰郎 ,   今井篤志

ページ範囲:P.411 - P.413

1 診療の概説

 1935年にSteinとLeventhal1)が「排卵障害,多毛,肥満,卵巣腫大などを呈し,卵巣の楔状切除により排卵が回復する」症候群を報告したが,現在では多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)として定着している.PCOSは生殖年齢の約5~10%にみられる内分泌疾患である 2).しかしながら,原因や人種差,遺伝的背景などがいまだ特定されておらず,共通の症状,内分泌学的所見,検査値の異常などからPCOSを規定せざるを得ない.そのため,今までにさまざまな診断基準が提唱され,より病態に即した診断を使用との試みがなされてきている.

 2003年に米国生殖医学会と欧州生殖医学会により改訂されたPCOSの診断基準 3)では,多嚢胞性卵巣様の症状を呈する他疾患を除外したうえで,(1)稀発排卵または無排卵,(2)アンドロゲン過剰,(3)超音波上の多嚢胞性卵巣所見のうちの2項目を示すものと定義された.一方日本産科婦人科学会の診断基準では,臨床症状,超音波所見および内分泌的所見に重きが置かれている(表1).近年,インスリン抵抗性が注目されている.

【無月経】25.将来の妊孕性を心配している体重減少性無月経の患者です.

著者: 山口昌俊

ページ範囲:P.415 - P.417

1 診療の概説

 思春期に月経が発来する際に,一定量の脂肪組織の沈着が必須であることはよく知られた事実である.たとえば,初経発来時の体脂肪率は少なくとも17%は必要であるし,月経周期を維持するためには22%以上の体脂肪量が必要であるといわれる 1, 2).最近は,脂肪組織が種々のホルモンやサイトカインを産生していることが知られるようになり,内分泌臓器の1つであるという考え方もある.つまり,月経周期の維持に脂肪組織は必須であり,極端な体重減少による脂肪組織の減少は無月経を引き起こす.最近スリムな体型がもてはやされるようになり,ダイエット情報がマスコミに氾濫するようになったため,若い女性が意識的に体重を減少させようと努力し,その結果として続発性無月経となり婦人科を受診することが稀ではなくなってきている.たとえば,宮川ら 3)は思春期女性の無月経の43%は体重減少がその原因であったと報告している(図1).体重減少の原因にはさまざまなものがあるが,ダイエットなど摂取カロリーを制限したために体脂肪量が減少したものと,アスリートなどのように消費カロリーが摂取カロリーを上回っているために体脂肪量が減少したものが多いといわれる.体脂肪量の減少は血中エストロゲンの低下を引き起こし,月経が停止するのみでなく,生殖器の萎縮や骨塩量の低下を引き起こすことがある.

 診断に関しては,次の設問で述べる神経性食思不振症との鑑別が必要であるが(表1),やせの自覚があるか,異常行動がみられるかなど,いくつかの観点で鑑別は可能である.

【無月経】26.自己嘔吐を繰り返す神経性食欲不振症の患者です.

著者: 山口昌俊

ページ範囲:P.419 - P.421

1 診療の概説

 神経性食欲不振症は気質的な精神疾患や,気分障害や統合失調症などの特定の精神的疾患がないのに,拒食・過食などの食行動の異常,やせであるのに極端なやせ願望(ボディイメージの障害)と月経異常,病識の欠如などを呈する疾患である 1).本疾患は,思春期の女性に多く,過食・拒食以外に隠れ食い,自己嘔吐,下剤や利尿薬などの薬物の連用などの異常行動を伴う.体重減少の結果低栄養状態となると低血圧,低体温,徐脈,貧血,低カリウム血症,低リン血症,浮腫,肝機能障害を伴うことがある.婦人科的にはほとんどの症例が無月経となるが,体重減少に伴って比較的早期に発生する.自己嘔吐を繰り返す症例では自殺などの異常行動を取る可能性があるので注意が必要である.

 診断基準は,アメリカ精神医学会のDSM─4(表1)や厚生省特定疾患神経性食思不振症研究班の診断基準(表2)が用いられる.

【頻発月経,希発月経】27.16歳の頻発月経の患者です.

著者: 竹内亨

ページ範囲:P.422 - P.423

1 診療の概説

 頻発月経とは月経周期が異常に短縮した場合をいう.実際には月経周期が24日以内に短縮し,これを繰り返す.病態としては,卵胞期の短縮,黄体期の短縮あるいは無排卵性月経などが考えられる.希発月経とは月経周期が39日以上3か月以内のものをいう.無排卵性の場合と遅延排卵の場合がある.

 初経の発来は平均で12歳代であるが,大部分が10~15歳までの間に分布している.稀に15~18歳までの間に月経が発来する遅発月経の場合もある.すなわち,16歳というとまだ月経が初来して間もない時期であり,月経周期が確立する途上に相当する.視床下部─下垂体─卵巣系がまだ完全に成熟していないため,成熟女性における月経異常に対する対応とは同様に扱えない.20歳を過ぎるとほぼ生殖内分泌機能も安定する時期になるので,その対応も変化する.

【頻発月経,希発月経】28.思春期における月経異常に関連した肌荒れ,にきびに悩んでいる患者です.

著者: 竹内亨

ページ範囲:P.424 - P.425

1 診療の概説

 エストロゲンは繊維芽細胞を活性化し,コラーゲン繊維の形成を促進する作用を有している.エストロゲンの分泌量低下によりコラーゲンの代謝活性が低くなると皮膚の弾力性がなくなり,肌荒れや小じわなどが増えて皮膚の老化へつながる.月経異常のなかにはエストロゲン分泌が低下することで肌荒れを起こす場合がある.この場合の月経異常は,ほとんどが視床下部性無月経である.一方,にきび(尋常性座瘡)は,思春期以降男女とも男性ホルモンが増加すると毛包にある皮脂腺から皮脂分泌が増加することにより,皮脂を栄養源とするアクネ桿菌が増殖し,炎症を起こすことで生じる.すなわち,男性ホルモンの分泌亢進を起こすような月経異常(多嚢胞性卵巣症候群など)の場合ににきびが増えることがある.

 月経異常を伴う肌荒れやにきびは,皮膚科的な対症療法のみでは改善しにくいので,婦人科的な治療も必要となる.ホルモン検査を施行し,月経異常の病態に沿った治療を行う.

【機能性子宮出血】29.機能性子宮出血が疑われる10歳代後半の患者です.

著者: 安田勝彦

ページ範囲:P.427 - P.429

1 診療の概説

 機能性子宮出血は女性の不正出血の約30%を占める出血で,思春期から更年期までどの時期にでも起こりえる.しかし機能性子宮出血のうち,約20%が10歳代の思春期の女性にみられる.

 出血の原因は卵巣のホルモン分泌異常である.特に思春期では月経周期を調節している間脳─下垂体系の機能が未完成であるため,卵巣からのホルモン分泌が不安定となった結果として起こる.

【機能性子宮出血】30.更年期・老年期の機能性出血,不正出血の患者です.

著者: 安田勝彦

ページ範囲:P.431 - P.433

1 診療の概説

 更年期は婦人科悪性腫瘍が好発する時期であるので,出血を主訴に来院した患者には子宮癌検診をまず行っておかなければならない.また,経腟超音波を用いて卵巣腫瘍の有無,子宮内膜の厚さをチェックしておくことが必要である.

 器質的疾患が除外できれば機能性子宮出血と診断できる.この出血は女性の不正出血の約30%を占める出血で,思春期から更年期までのどの時期にでもみられるが,約50%が45歳以上の更年期周辺の女性にみられる.更年期周辺では卵巣自体の機能が低下してくるためにホルモン分泌が不安定となって機能性子宮出血が起こる.

【機能性子宮出血】31.不正出血を訴えているタモキシフェン内服中の患者です.

著者: 安田勝彦

ページ範囲:P.434 - P.435

1 診療の概説

 タモキシフェン(一般名 : ノルバデックス(R))は20年間以上,進行乳癌の治療に用いられてきたが,近年においてはより早期の乳癌の手術後に補助的,付加的治療として投与されるようになった.その作用はエストロゲンの働きを阻害する点にある.

 つまり,エストロゲンは乳癌細胞の増殖を促進させるが,タモキシフェンはエストロゲンとエストロゲン受容体との結合を競合的に阻害することによって乳癌細胞の増殖を抑制する.

【月経移動】32.2~3日前に月経が終わった患者です。ちょうど次の月経予定日ごろに旅行したいので,月経を移動させてほしいといいます。

著者: 松崎利也 ,   水口雅博 ,   苛原稔

ページ範囲:P.437 - P.439

1 診療の概説

 旅行,仕事,スポーツ,結婚式,行事などの理由により,月経時期の移動を希望する女性は多い.月経は女性ホルモンの作用で子宮内膜が周期的変化を起こすものであり,女性ホルモンを投薬することにより月経周期を調節することができる.しかしながら,卵巣から内因性の女性ホルモンも分泌されているので,当然,内因性の女性ホルモンも考慮に入れる必要がある.

 月経時期を移動するには,(1)遅らせる方法,(2)早める方法の2通りがある.(1)の月経を遅らせる方法は,月経周期の黄体期を延長する方法であり,卵胞ホルモン・黄体ホルモンの配合薬(EP薬)を次回月経の数日前から内服し始め,内因性の黄体ホルモンが出なくなった後もEP薬を内服し続けることで子宮内膜を維持することができる.一方,(2)の月経を早めるに方法は,内因性の女性ホルモンを完全に抑制し,投与したEP薬の作用で子宮内膜を整え,内服終了後に消退出血を起こす.この場合に,EP薬が内因性の女性ホルモン分泌,すなわち卵胞の発育を抑制するのは中枢へのフィードバックによってゴナドトロピン分泌を抑制するもので経口避妊薬と同様の機序である.卵胞の発育がまだ十分でない時期から始める必要があるため月経周期の5日目から投与を開始し,次の月経を早めるために10~14日間で内服を終了する.

【緊急避妊】33.排卵日であるにもかかわらず,24時間前に避妊に失敗した患者です.

著者: 松崎利也 ,   水口雅博 ,   苛原稔

ページ範囲:P.441 - P.443

1 診療の概説

 緊急避妊法(emergency contraception : EC)は,避妊しない性交のあとに受診した女性に,妊娠を避けるために行う方法の総称である.国内で緊急避妊法として効能が承認された方法はなく,海外の治療法や研究報告を参考に,医師の裁量で自費診療として行われているのが現状である.国内で実施可能な緊急避妊法について述べる.

【過多月経】34.過多月経を訴える40歳代の経産婦です.鉄欠乏性貧血と手拳大に発育した子宮腺筋症を認めます.手術の時期は4か月後に決定しました.

著者: 鎌田泰彦

ページ範囲:P.445 - P.447

1 診療の概説

 4か月後に手術を控えた子宮腺筋症患者の治療に関する設問である.

 過多月経とは,「月経の出血量が異常に多いものをいう.ふつう150 ml以上をいう」と日本産科婦人科学会の用語解説集に定義されているが,実際は患者の主観によるところが大きい.そこで,現に月経量が多くて困っている場合や貧血症状を呈する場合が治療対象となる.

 子宮腺筋症は,性成熟期から更年期にかけて好発し,経産婦に多くみられる疾患である.

【過多月経】35.2年前から月経量が増加して,最近は月経2日目に鶏卵大の凝血塊が認められるようになった40歳代の経産婦です.最近階段の昇降で動悸や息切れがみられます.

著者: 鎌田泰彦

ページ範囲:P.449 - P.451

1 診療の概説

 性成熟期の過多月経の鑑別診断に関する設問である.記述より,貧血の存在を疑うのは容易である.しかし,ただ貧血の治療を行うだけでなく,過多月経の原因疾患を確定したうえでその治療を同時に行う必要があることを,あらかじめ患者に十分に説明し,理解を得なければならない.

【月経困難症】36.月経時の胃痛と頭痛を訴える10歳代後半の患者です.器質的な原因を認めず,機能性の月経困難症と診断しました.

著者: 久保田俊郎

ページ範囲:P.453 - P.455

1 診療の概説

 月経困難症とは,月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状をいう.下腹部痛,腰痛,腹部膨満感,嘔気,頭痛,疲労,脱力感,食欲不振,いらいら,下痢および憂うつの順に多くみられる 1).月経終了とともに消失,または軽減するが,次周期の月経時もほぼ同様な症状を繰り返す.

 月経困難症は,原因から機能性と器質性に分類される.

【月経困難症】37.月経痛のために市販の鎮痛薬を服用している患者です.最近,効果がなくなってきたといいます.

著者: 原田竜也 ,   久保田俊郎

ページ範囲:P.457 - P.459

1 診療の概説

 月経痛は軽度のものを含めれば婦人の50%程度にみられるといわれているが,日常生活に支障をきたし治療の対象となる場合を月経困難症という1).月経困難症は,月経開始直前から月経時に起こる下腹部痛,腰痛,嘔気,下痢,頭痛などの症状を呈する疾患群である.この症候群は器質的疾患に由来しない原発性月経困難症と,子宮内膜症などの器質的疾患が原因となる続発性月経困難症に分類される 2)

【月経前緊張症】38.多彩な症状がみられる月経前緊張症の患者です.

著者: 谷口義実 ,   久保田俊郎

ページ範囲:P.460 - P.461

1 診療の概説

 月経前緊張症は,月経前症候群の名称で取り扱われることが多く,本稿でも月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)として解説する.

 PMSは,日本産科婦人科学会の用語解説集によれば,月経前3~10日間続く精神的あるいは身体的症状で,月経発来とともに減退ないし消失するものとされている.

【月経困難症】36.月経時の胃痛と頭痛を訴える10歳代後半の患者です.器質的な原因を認めず,機能性の月経困難症と診断しました.

著者: 南佐和子

ページ範囲:P.463 - P.465

1 診療の概説

 月経困難症は「月経期間中に月経に随伴して起きる病的症状」と定義されており,下腹部痛,腰痛がその中心をなすが,嘔気,嘔吐,頭痛,下痢,疲労感,脱力感などとして現れる場合もある.機能性月経困難症は,子宮に器質的な異常が認められないにもかかわらず,痛みが出現するもので若年女性の約50%にみられる 1)

 黄体期後期に卵巣からのプロゲステロンの分泌が低下すると,子宮内膜のサイクロオキシゲナーゼ(COX)の活性化が起こり,アラキドン酸からプロスタグランジン(PG)が産生される(図1).この経路をアラキドン酸カスケードと呼ぶ.カスケードの最終産物の1つであるPGF2αは子宮収縮,血管攣宿を引き起こす.子宮筋層では虚血により低酸素状態となり,これが疼痛の主な原因となっている 2).嘔吐,嘔気,腰痛,頭痛,下痢などの症状はPGsとその代謝産物が体循環に流入し,体内の平滑筋を収縮させるために起こるといわれている.また,カスケードの中間産物であるPGE2は疼痛の誘発に関与している.

【月経困難症】37.月経痛のために市販の鎮痛薬を服用している患者です.最近,効果がなくなってきたといいます.

著者: 南佐和子

ページ範囲:P.467 - P.469

1 診療の概説

 月経困難症は「月経期間中に月経に随伴して起きる病的症状」と定義されており,下腹部痛,腰痛がその中心をなすが,嘔気,嘔吐,頭痛,下痢,疲労感,脱力感などとして現れる場合もある.子宮の器質的な異常が原因となって痛みがみられる場合を器質性月経困難症といい,器質的な認められないにもかかわらず,痛みが出現するものを機能性月経困難症という.今回の設問では,市販の鎮痛薬を服用していたにもかかわらず,効果がなくなってきたことより器質的な疾患について検索する必要がある.痛みの原因となる器質的な異常のうち,最も多いものは子宮腺筋症であり,子宮筋腫,子宮内膜症,骨盤内炎症などが考えられる.

【月経前緊張症】38.多彩な症状がみられる月経前緊張症の患者です.

著者: 南佐和子

ページ範囲:P.471 - P.473

1 診療の概説

 月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)は,日本産科婦人科学会用語解説集 1)では「月経前3~10日の間に続く精神的あるいは身体的症状で,月経発来とともに減退ないし消失するもの」と定義されている.1931年にFrankらにより月経前緊張症として精神症状を主体とする病態が報告されたが,近年では身体症状も合わせて月経前症候群(PMS)とし,症候群として把握するほうが理解されやすい.月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder : PMDD)はPMSの2~9%にみられる重症型で精神症状が中心となる.

 PMSの発生機序にはさまざまな説があるが,いまだ明らかにはなっていない.以前より黄体期のホルモン異常,すなわち黄体機能不全がその原因とされてきた.黄体期のエストロゲンの過剰分泌,黄体期のプロゲステロンの不足,アルドステロンの過剰分泌が月経前症候群の浮腫などの水分貯留の原因として報告されてきた 2).しかし,ホルモンの血中濃度には異常がない症例も多く,ホルモン剤の投与では症状が改善されないことも多く経験する.水分貯留にはプロスタグランディンの血管拡張作用や血管透過性の亢進などの関与も報告されている.

【子宮内膜症】39.子宮内膜症の外来治療でGnRHアゴニスト投与を過去に数回受けた患者です.最近,症状が増悪してきたといいます.

著者: 藤原寛行 ,   鈴木光明

ページ範囲:P.474 - P.475

1 診療の概説

 GnRHアゴニストは下垂体におけるGnRH受容体を刺激し,受容体数の低下を引き起こすことによりゴナドトロピンを抑制する.本邦では子宮内膜症に対する内分泌療法として高頻度に使用されている.プラセボとのrandomized controlled study(RCTs)では,月経痛,下腹痛,腹部圧痛のいずれも有意な効果が認められている.有効率は80~100%と高いが,低エストロゲン症状(ほてり,のぼせ,発汗,うつ)や骨塩量低下などの副作用が認められる.そのため持続投与は最長6か月に制限されており,またadd─back療法のようなホルモン補充も行われている.

 GnRHアゴニストは使用期間中の症状は改善させても,再発が高率に起こるため,本症例のように多くの例で反復使用が行われている.しかし漫然と反復するのではなく,以前の使用効果,副作用の程度,現時点での適応などを再考し決定する必要がある.過去の治療で思うような効果が得られていなかったり,強い副作用が出現していた場合にはほかの治療,例えば経口避妊薬(OCs)や外科的治療を考慮する.患者に反復使用の希望があるかも大切であり,代替治療を提示して十分なインフォームド・コンセントのうえで使用か否かを決定する.

【子宮内膜症】40.骨盤内疼痛を訴える子宮内膜症の患者です.

著者: 藤原寛行 ,   鈴木光

ページ範囲:P.477 - P.479

1 診療の概説

 子宮内膜症は,子宮内膜組織あるいはそれに類似した組織が異所性に発生または生着し,発育する疾患である.月経痛,性交痛,あるいは慢性骨盤痛などの疼痛原因となり,日常生活に多大な影響を与えるものである.個々の患者の多彩な疼痛症状を把握し,適確な治療法を選択することが重要である.しかし,子宮内膜症は腹膜病変,深部病変,卵巣子宮内膜症性嚢胞などさまざまな病態を呈する疾患であるため,治療を画一化することは難しい.

 子宮内膜症患者においては月経時の下腹部痛が最も多く認められる症状であるが,月経時以外の下腹部痛〔慢性骨盤痛 : chronic pelvic pain(CPP)〕も約7割の患者で認められる.さらに腰痛,性交痛,排便痛がよくみられ,骨盤内に疼痛原因が存在することがうかがえる.

【更年期障害(ホルモン補充療法)】41.ほてりとのぼせを主な症状として発症した更年期障害の患者です.

著者: 岩佐弘一

ページ範囲:P.480 - P.483

1 診療の概説

 ほてり,のぼせは,閉経により顕れ,エストロゲンの投与により劇的に改善することより,典型的なエストロゲン欠落症状であると考えられている.しかる症状がなぜエストロゲンの欠落により顕れるのか不明である.のぼせ,ほてり,発汗および発汗による冷えという一連の症状(ホット・フラッシュ)を呈し,上半身に認められ,個人差もあるがその頻度は1日数回から十数回に及ぶ.通常閉経周辺期から,長ければ閉経後5年ぐらいに及び,症状を呈する.治療はエストロゲンの投与が最も効果的であるが,長期に投与する際には,有害事象の発生を考慮する必要がある.

【更年期障害(ホルモン補充療法)】42.腟の乾燥感と性交痛を訴えている患者です.

著者: 岩佐弘一

ページ範囲:P.484 - P.485

1 診療の概説

 腟の乾燥と性交痛をきたす原因として,(1)加齢,閉経によるエストロゲンの低下による外性器の萎縮に起因するものばかりでなく,(2)外性器の形状,性生活,性交体験や性交に対する印象など精神的要因が絡むものも挙げられる.(2)を主因とするのであれば,若年時より性交に対する何らかの問題が生じていたと考えられ,また心身医学的,精神科的アプローチなどを要する.

 (1)を主因とする場合に,純粋に婦人科的治療の対象となる.エストロゲンの低下により外性器においては,コラーゲンの減少,腟粘膜上皮の分化の低下,外陰上皮の萎縮をきたす.これにより,腟腔の伸展性や弾力性が低下し,腟粘膜が薄くなり,粘液の分泌低下,腟入口部の萎縮が起こり,腟の乾燥感や,腟入口部痛,性交痛などの症状を呈する.

【更年期障害(ホルモン補充療法)】43.排尿障害,特に尿失禁を訴えている患者です.

著者: 岩佐弘一

ページ範囲:P.486 - P.487

1 診療の概説

 尿失禁とは,本人の意思によらず,尿をしたくないときや場所で尿が漏れ出てしまうことをいう.尿失禁の症状や原因により5つに分けられ,治療法も異なってくるため,正確な診断が必要とされる.(1)腹圧性尿失禁,(2)切迫性尿失禁,(3)混合性尿失禁,(4)溢流性尿失禁,(5)機能性尿失禁に分けられるが,女性に多くみられるのは腹圧性尿失禁である.

 (1)腹圧性尿失禁は,咳,くしゃみをしたとき,急に立ち上がったとき,重たいものを持ち上げるときなどお腹に力が加わったときに尿が漏れてしまうのが特徴である.女性の尿失禁の7割を占めるといわれている.女性では骨盤底筋群が,加齢,肥満,出産により弛緩してしまうことが原因とされている.(2)切迫性尿失禁は,切迫した強い尿意が現れ,トイレのドアに手をかけたところで尿が漏れてしまうなど,トイレまで耐えることができないのが特徴である.男女問わず,60歳以降の高齢者に多くみられる.膀胱は交感神経により収縮するが,大脳皮質による交感神経の抑制に異常が生じると,膀胱が無抑制に収縮し,尿道括約筋が弛緩してしまう.脳梗塞,パーキンソン病,脊髄疾患などが合併していることがある.(3)混合性尿失禁は,腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁の両方の症状を有するものである.(4)溢流性尿失禁は,排尿が前提にあり,膀胱内に尿が充満してきて,最終的に尿がちょろちょろと漏れ出てくるのが特徴である.男性に多くみられるもので,前立腺肥大症や前立腺癌を原因とする.女性でも子宮癌手術や放射線治療後などに発症する.(5)機能性尿失禁は膀胱や尿道に明らかな異常がないのに,精神や身体運動の機能障害が原因で生じる.老人性痴呆のほうが適切な状況判断ができず,ベッドの中で漏らしてしまうようなケースがこれに該当する.

【更年期障害(ホルモン補充療法)】44.めまい,頭重感を主な症状とする更年期障害の患者です.

著者: 井上善仁

ページ範囲:P.489 - P.491

1 診療の概説

 頭重感,めまいは更年期障害の部分症状として頻度の高い症状である.日本産科婦人科学会・内分泌委員会が本邦の更年期障害患者の症状について調査し,提案した「日本人女性の更年期症状評価表」にも「頭痛・頭重感」と「めまい」が項目として採用されている 1).更年期診療でよく用いられるKupperman indexにも「めまい」は含まれている.さらに頭重感や頭痛はうつ病でもよくみられる症状であり,特に精神症状より身体症状を強く訴えるいわゆる仮面うつ病では頻繁に認められる.更年期がうつ病の好発年齢であることもあり,更年期外来で「頭痛・頭重感」や「めまい」を訴える患者に遭遇する可能性はかなり高いといえよう.その一方で,これらの症状は中枢神経系疾患,内科的全身疾患,耳鼻咽喉科疾患などでもよくみられる症状であり,まず必要となるのはその原因を明確にすることである.

 本稿では,めまいに焦点を絞って述べることにする.

【更年期障害(ホルモン補充療法)】45.更年期のうつ傾向が目立つ患者です.

著者: 井上善仁

ページ範囲:P.493 - P.495

1 診療の概説

 うつ病性障害は気分障害の1つであり,うつ症状により強い心理的苦痛を感じたり,日常生活に障害を伴う場合に診断する.うつ病性障害はさらに中核的な大うつ病性障害,軽症の小うつ病性障害,軽症で慢性的なうつ症状が2年以上続いている気分変調性障害に分けられる 1).閉経前後に気分障害が増えることは事実であり,特に月経前症候群や産後うつ病などの既往がある例ではこの時期にうつ症状が再燃する危険性が高いと考えられている.さらに北米精神医学会の診断分類マニュアルであるDSM─IV─TRによれば,女性の大うつ病性障害の生涯有病率は男性の約2倍であり 2),いわゆる不定愁訴症候群である更年期障害でもうつ状態を伴う場合もあることなどを考え合わせると,産婦人科を受診するうつ症状を有する患者は今後増加傾向となることが予想される.

 更年期のうつに関与する因子として次の2つが挙げられる.

【更年期障害(ホルモン補充療法)】46.強度の不眠を伴った更年期障害の患者です.

著者: 井上善仁

ページ範囲:P.497 - P.499

1 診療の概説

 睡眠はnon-rapid eye movement sleep(NREM睡眠)とrapid eye movement sleep(REM睡眠)に分けられる.NREM睡眠はさらに4期に分類され,1~2期は容易に覚醒する浅い睡眠であり,3期,4期は脳波上δ波と呼ばれるslow waveが認められる深い睡眠である.一方,REM睡眠は脳が活発に働き急速な眼球運動を伴うもので,夢をみている時期を指す.3,4期のNREM睡眠の長さが睡眠の質を規定するが,全体の睡眠時間に占める割合は加齢に伴って減少する 1)

 睡眠障害は更年期から閉経後の女性に頻繁に認められる症状であり,欧米の報告では38%~55%の女性が睡眠障害を訴えるという 2, 3).特に卵巣摘出患者で最も頻度が高い 2).睡眠障害は全身倦怠,うつ傾向,不安・緊張などの原因となり,女性のQOLを著しく損なう原因となる.「寝付きが悪い」という入眠困難,「夜間に何度も目が醒める」という中途覚醒,「朝早く目が醒める」という早朝覚醒に大別される.Owensら 4)は,更年期女性では中途覚醒が最も多く,続いて早朝覚醒,入眠障害の順であると報告している.

【更年期障害(ホルモン補充療法)】47.更年期障害に対してホルモン補充療法を行った患者です.不正出血がみられるといいます.

著者: 望月善子

ページ範囲:P.501 - P.503

1 診療の概説

 ホルモン補充療法(HRT)は,閉経周辺期以降のいわゆる更年期女性におけるエストロゲン減少に起因する諸症状の緩和やエストロゲンの慢性的な欠乏によって発症する骨粗鬆症などの疾患の予防・治療に有効である.しかし,乳房緊満感,消化器症状,頭痛,めまい,浮腫といったマイナートラブルとともに,子宮を有する女性では不正性器出血がHRTのコンプライアンスに最も影響を及ぼす副作用となる.HRTを行う以上,出血は避けられない副作用であるので,脱落することなくHRTの効果を持続させるためにはその対応が重要な鍵となる.

【更年期障害(ホルモン補充療法)】48.ホルモン補充療法を希望する子宮筋腫を持つ閉経後婦人です.

著者: 望月善子

ページ範囲:P.505 - P.507

1 診療の概説

 子宮筋腫は40歳代女性の1/3~1/4が罹患しているといわれるぐらい,日常的に遭遇する疾患であるが,その発生,病態については未知の部分が多い良性腫瘍である.最近では,子宮筋腫にはエストロゲン受容体やプロゲステロン受容体が正常子宮平滑筋よりも高いレベルに維持され,子宮筋腫細胞の増殖にはエストロゲンのみならずプロゲステロンの作用も重要であり,これらの性ステロイドホルモンの周期的作用の下で発育すると考えられている 1)

 無症状で経過,あるいは有症状であっても,子宮筋腫は閉経期を過ぎれば自然に縮小するという理由で保存療法を選択し,子宮筋腫を持ったまま閉経を迎えることも多い.そして,ホルモン補充療法(HRT)が必要となった場合,子宮筋腫の増大が危惧されるわけである.実際,本症へのHRTは増悪を理由に比較的禁忌とされている 2)が,本稿ではこれまでの報告を紹介し,実地臨床上の対処方法を考えてみたい.

【骨粗鬆症】49.閉経後に骨量低下,骨粗鬆症を認める患者です.

著者: 望月善子

ページ範囲:P.509 - P.511

1 診療の概説

 骨粗鬆症は性ホルモン欠乏と加齢に伴う,骨の量の減少と質の劣化により発症すると考えられるようになり,骨代謝制御による骨折防止効果が明らかになるとともに,骨粗鬆症治療薬にも骨の「量の増加」だけでなく,「質の改善」が望まれるようになった.そして,いうまでもなく骨粗鬆症診療の目的は,その合併症である骨折を防止することにあるので,予防的見地からも骨量減少が始まる閉経周辺期に骨量の程度や骨代謝動態を評価しておくことは非常に大切なことであると考える.

 昨年改訂された骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年度版 1)では,骨粗鬆症についての基本的な考え方が示された(表1).また,骨量減少者に対する薬物治療開始の妥当性について言及され,骨折危険因子の有無を考慮したうえで,骨粗鬆症診断基準とは別に,薬物治療開始基準が設定された(図1).さらに,骨代謝回転亢進,疼痛,ビタミン不足などの病態の違いや骨折の有無,骨密度低下など病期の違いといった視点から治療法を整理し,病態・病期ごとの薬剤選択の考え方の方向性が呈示された(図2).

【高脂血症】50.家族性高コレステロール血症家系の妊婦です.妊娠初期は問題なかったのですが,妊娠28週の検査で高脂血症と診断されました.

著者: 高橋一広 ,   高田恵子 ,   倉智博久

ページ範囲:P.513 - P.515

1 診療の概説

 家族性高コレステロール血症は,高コレステロール血症,高低比重リポ蛋白コレステロール(LDL)血症,腱黄色腫,早発性冠動脈硬化症を特徴とする疾患である.この疾患はLDL受容体の遺伝的異常により血中LDLの細胞への取り込みが低下した結果,LDLが高値を示すものである.遺伝形式は常染色体優生遺伝であり,対立遺伝子の片方が異常であるヘテロ接合体,両方の遺伝子が異常であるホモ接合体に分類される.家族性高コレステロール血症のヘテロ接合体は500人に1人の頻度で認められ,血中コレステロール値は260~500 mg/dlであることが多い.一方,ホモ接合体は100万人に1人の頻度で認められ,血中コレステロール値は500~1,000 mg/dlを示すことが多い 1).遺伝的な素因を背景に発症する家族性の高脂血症は,家族性高コレステロール血症のほかに,家族性複合性高脂血症や家族性III型高脂血症がある.それぞれの診断基準を表1に示す.

 妊娠中はエストロゲンの増加に伴い血清脂質は増加し,非妊時に比べて総コレステロールは50%,トリグリセリドは150~300%増加する.妊娠28~32週の総コレステロールの基準値は249±40 mg/dl,トリグリセリドの基準値は219±81 mg/dlと報告されている 2).血清脂質の増加は心血管系疾患のリスク因子であるが,Framingham studyによると,妊娠回数と心血管系疾患の発生には相関がみられないと報告されている 3)

【高脂血症】51.高コレステロール血症,高トリグリセリド血症の閉経後婦人です.

著者: 高橋一広 ,   高田恵子 ,   倉智博久

ページ範囲:P.516 - P.517

1 診療の概説

 閉経前女性の総コレステロール(TC)は男性より低値を示すが,閉経以後に急増する.トリグリセリド(TG)も閉経以後に急増し,70歳以上では男性より高値となる.1990年と2000年の結果によると,TC値が220 mg/dl以上を示す高TC血症の割合は,近年減少傾向にあるものの,50歳以上の女性では依然として約2人に1人は高TC血症の状態にある(図1)1, 2)

 エストロゲンは脂質代謝に関与することが知られている.エストロゲンは肝臓や末梢組織の低比重リポ蛋白コレステロール(LDL─C)受容体の数を増加させ,LDL─Cの取り込みを促進することにより血中LDL─C濃度を減少させる.更年期以降ではエストロゲン分泌の減少によりこれらの脂質代謝経路が機能せず,高脂血症を呈するようになる.高TG血症はそれ自体で心血管系疾患の独立した危険因子とみなされているが 3),それ以外にLDL粒子がより小さなsmall dense LDLの産生に関与している.Small dense LDLは肝臓のLDL受容体と親和性が乏しいため血中に停滞しやすいうえに酸化変性を受けやすく,通常のLDLに比べて動脈硬化を起こしやすいと考えられており 4),超悪玉コレステロールといわれている.近年わが国で行われた高脂血症患者に対する大規模臨床試験であるMEGAスタディの結果,食事療法+スタチン製剤投与を行うことで冠動脈疾患を33%減少させることが明らかになった.この試験の対象者は女性が大半を占めることから,閉経後高脂血症に対する積極的治療の必要性が証明された 5).また,II型糖尿病患者を対象として,フェノフィブラートを投与し,心血管イベントについて検討されたFIELDスタディでは,女性の高TG血症に対する積極的治療の必要性が示されている 6)

【老人性腟炎】52.主に外陰部痛と掻痒感を主訴とする老人性腟炎の患者です.

著者: 高橋一広 ,   高田恵子 ,   倉智博久

ページ範囲:P.518 - P.519

1 診療の概説

 腟はエストロゲン欠乏の影響を強く受ける器官の1つである.エストロゲン低下は腟粘膜上皮内のグリコーゲン含有の低下を招き,腟内酸性度の低下,乳酸桿菌の減少・消失により自浄作用が失われる.このような感染防御機構の破綻とともに腟粘膜の萎縮により外的刺激や感染に対して抵抗力が減少し,萎縮性腟炎,老人性腟炎を発症するようになる.主な症状は,帯下感,掻痒感,疼痛,性器出血や性交痛である.掻痒感は外陰,腟上皮の菲薄化や炎症によるものであり,腟粘膜の萎縮やうるおいの不足は性交痛の原因となる 1).臨床診断として,腟鏡診では粘膜の点状出血,および細菌感染も併存した場合は黄色帯下がみられ,腟分泌の顕微鏡検査では多数の多核白血球と細菌が観察される.

【脱毛】53.髪の脱毛を訴えている患者です.

著者: 高橋一広 ,   高田恵子 ,   倉智博久

ページ範囲:P.520 - P.521

1 診療の概説

 髪の毛には,毛が伸びる時期の成長期,抜ける準備時期の移行期,抜け落ちる休止期を繰り返す毛周期がある.女性の頭髪の成長期は3~7年,移行期は2~3週間,休止期は3か月続く.人間の頭髪は約10万本あり,うち85%が成長期,5%が移行期,10%が休止期と考えられている.休止期の毛髪は軽微な機械的刺激により容易に抜け,1日に50~100本の脱毛は正常範囲内であり,生理的脱毛という.脱毛は,毛周期に即した生理的脱毛と毛周期を逸脱した病的脱毛に分類される(表1)1).脱毛を訴える場合は,その原因が何であるか慎重に鑑別することが必要となる.

 毛髪の成長には男性ホルモンや女性ホルモンが関与している.テストステロンから5α─リダクターゼにより転換された生理活性の強いジヒドロテストステロン(DHT)は,ひげ,陰毛,四肢毛の発育を促進するが,頭髪に関しては抑制的に作用する.エストロゲン受容体(ERαおよびERβ)は毛乳頭に発現しており,マウスではエストロゲンが毛髪成長を遅らせることが知られている 2).一方,ヒトでは妊娠中に増加するエストロゲンが頭髪の成長期を延長するとも考えられている 3)

III 不妊症

【排卵障害】54.排卵障害が不妊要因と推測され,クロミフェン投与で排卵が認められるようになった患者です.しかし,なかなか妊娠できません.

著者: 安藤索

ページ範囲:P.523 - P.525

1 診療の概説

 排卵障害以外の不妊因子として,子宮因子(着床障害),子宮頸管因子,卵管因子,卵巣因子ならびに男性因子などの不妊原因が隠れている可能性があり,再度検査内容を確認する(表1).

 不妊症の原因が排卵障害のみなのか,もう一度再チェックする必要がある.概して,排卵障害を認め,その治療を優先した場合,ほかの検査が抜けていたり,途中までしか行われていない場合がある.

【排卵障害】55.排卵障害の治療を行っている患者です.排卵誘発薬のほかに,漢方療法の併用を希望しています.

著者: 安藤索

ページ範囲:P.526 - P.527

1 診療の概説

 漢方薬は比較的古くから不妊治療に用いられており,最近では排卵誘発の治療薬として,単独あるいは他剤との併用にて使用される頻度も高い.一般的には排卵誘発剤としてクロミフェンやゴナドトロピン製剤投与を行い,hCGや黄体ホルモンによる黄体機能賦活療法が行われることが多いが,排卵障害に用いられる漢方薬として,当帰芍薬散,温経湯,芍薬甘草湯,桂枝茯苓丸などが知られている.

 代表的な漢方薬として,当帰芍薬散は視床下部・下垂体からのゴナドトロピン分泌を促進するとともに,卵巣顆粒膜細胞に直接的に作用しプロゲステロン分泌を促進する作用がある.温経湯は視床下部ならびに下垂体前葉細胞からのゴナドトロピン分泌を促進する.また芍薬甘草湯は下垂体のドパミンレセプターに作用してプロラクチン分泌を低下させるとともに,卵巣からのテストステロン分泌を低下させる作用を有する.桂枝茯苓丸には卵巣顆粒膜細胞からのプロゲステロン分泌促進効果がある.

【排卵障害】56.ゴナドトロピン値が高く,低エストロゲン状態で早発閉経状態となっている挙児希望の患者です.

著者: 安藤索

ページ範囲:P.528 - P.529

1 診療の概説

 生殖年齢にある女性がhypergonadotropic hypogonadismの状態を呈し,無月経となったものを早期卵巣不全(premature ovarian failure : POF)あるいは早発閉経(premature menopause)という.一般には40歳未満の高ゴナドトロピン性の続発性無月経で,エストロゲン低値の卵巣性無月経とされている.日本産科婦人科学会教育・用語委員会では早発閉経を43歳未満での閉経と定義している.自然閉経症例には染色体異常を有するものも含まれ,以前はこの卵巣機能低下は不可逆的で卵胞は存在せず,排卵誘発は困難と考えられていた.しかしながら,最近ではPOFと診断したのちに,自然にあるいは治療により排卵,妊娠する症例も報告されている.

【黄体機能不全】57.月経は規則的に発来しますが,基礎体温で高温相が8日間程度しかなく月経量も少ない患者です.

著者: 堀川道晴

ページ範囲:P.531 - P.533

1 診療の概説

 妊娠は胚の着床に適した子宮内膜が存在して成り立つものであり,卵胞の顆粒膜細胞より分泌されるエストロゲンによる内膜の増殖と黄体より分泌されるプロゲステロンの分泌期子宮内膜への分化および維持が不可欠である.黄体機能不全は黄体期におけるプロゲステロン分泌量の低下を意味し,不妊症や不育症で高頻度に認められる疾患である.黄体機能不全の診断基準はいまだ曖昧な点が多いが,(1)分泌期中期の血中プロゲステロン値 : 10 ng/ml未満,(2)基礎体温 : 高温相が10日未満,(3)子宮内膜日付診 : 2日以上のずれ,とするものが多い.しかしながら,プロゲステロンの分泌はパルス状の日内変動も存在するので,一度のみならず数回の測定による判断が必要である.

 黄体機能不全の原因を表1に示す.黄体期賦活,補充療法は設問58に示すことにし,ここでは各原因別の治療法について述べる.

【黄体機能不全】58.クロミフェン投与で基礎体温が二相性を呈して月経が発来したものの,高温期が短く妊娠に至らない患者です.

著者: 堀川道晴

ページ範囲:P.534 - P.535

1 診療の概説

 黄体機能不全は,黄体期におけるプロゲステロン分泌量の低下を意味し,不妊症や不育症で高頻度に認められる疾患である.黄体機能不全の診断基準はいまだ曖昧な点が多いが,(1)分泌期中期の血中プロゲステロン値 : 10 ng/ml未満,(2)基礎体温 : 高温相が10日未満,(3)子宮内膜日付診 : 2日以上のずれ,とするものが多い.しかしながらプロゲステロンの分泌はパルス状の日内変動も存在するので,一度のみならず数回の測定による判断が必要である.

 排卵障害の認められた症例に対し,クエン酸クロミフェン(クロミッド(R))などの排卵誘発剤の投与により卵胞発育,排卵の正常化により排卵障害の改善および黄体機能の改善がきたされる.一般にクロミフェン投与により月経14~16日目に排卵するようになり,また,short luteal phaseを有する黄体機能不全を改善させるが,効果が認められない場合にはまず高プロラクチン血症など,ほかの黄体機能不全となる原因がないかを調べることが重要である.

【高プロラクチン血症】59.1年前から月経不順となり,最近3か月は無月経となっている患者です.検査したところ,高プロラクチン血症があり,乳房緊満と乳汁分泌もみられます.

著者: 久慈直昭 ,   長西美和 ,   吉村泰典

ページ範囲:P.536 - P.537

1 診療の概説

 高プロラクチン血症(以下,高PRL血症)では,視床下部におけるドパミン代謝異常を介してGnRHの律動性分泌が障害され,女性では乳汁漏出症を伴う無月経や稀発月経,男性ではインポテンス,乏精子症などの性腺機能障害を生じる 1).高PRL血症の頻度は,健康な成人女性の0.4%,無月経女性の9%,乳汁漏出女性の25%,無月経と乳汁漏出両方の症状を有する女性の70%にみられるという 2)

 血中PRL濃度は日内変動を示し,夜間,食後や運動後に一過性に上昇するため,午前中の空腹・安静時に採血し,15 ng/ml以上の場合を高PRL血症と診断する.またPRL血中濃度は種々の要因で変動するため,診断を確定するためには血中PRLを複数回測定することが望ましい.

【高プロラクチン血症】60.外来検査で血中プロラクチン値は正常ですが,月経周期が不規則で少量の乳汁分泌を認める患者です.

著者: 久慈直昭 ,   長西美和 ,   吉村泰典

ページ範囲:P.538 - P.539

1 診療の概要

 乳汁漏出(galactorrhea)を伴う無月経や希発月経などの月経異常は高プロラクチン血症(以下,PRL血症)の一般的な症状であるが,乳汁漏出を認めても血中PRLが正常である症例も20~30%程度認められる.この大部分は,サイロトロピン分泌ホルモン(TRH)負荷テストでPRL分泌の過剰反応を示すいわゆる潜在性高PRL血症とされる.潜在性高PRL血症では不妊症,不育症,排卵障害,黄体機能不全症や乳汁漏出をみることが多いといわれており,このように診断された症例の多くがドパミン作動薬に反応して排卵周期を回復するが,その診断基準(負荷試験のcut off値)や臨床的意義についてはさまざまな意見があることも事実である.

 一方,若年女性で月経異常を主訴とする場合,頻度が高い多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovarian symdrome : PCOS)と,高PRL血症や潜在性高PRL血症との関連を示す考え方が古くから存在する.PCOSを中枢性黄体形成ホルモン(LH)過剰分泌〔基礎値におけるLHの卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する優位〕と定義すると,その30%程度に軽度の高PRL血症がみられること,また視床下部性のドパミンはヒトにおいては主たるPRL分泌抑制因子であり,LH分泌にも中枢性のドパミンが関与しているという報告があることが,その根拠となっている.

【多嚢胞性卵巣症候群】61.多嚢胞性卵巣症候群と診断された希発月経の患者です.挙児希望があります.

著者: 本田律生

ページ範囲:P.540 - P.541

1 診療の概説

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovaries syn drome : PCOS)は,(1)月経異常に加え,(2)内分泌学的にはLH高値(LH>FSH)を呈し,(3)超音波断層法における多数の卵胞の嚢胞状変化(卵巣表層直下に小卵胞の数珠状集積を認める)によって診断される.ほかにも高アンドロゲン血症に伴う多毛(恥毛の男性型形態)や座瘡を伴うことがある.最近,本症候群とインスリン抵抗性・耐糖能異常との関連が注目され,特に肥満を伴うPCOS例では,高率にインスリン抵抗性や耐糖能異常を合併することが知られている.挙児希望例に限ったことではないが,妊娠合併症やメタボリックシンドロームを引き起こすハイリスク群として,肥満PCOS症例を捉える必要がある.

 インスリン抵抗性の評価は,HOMA指数(空腹時の血糖値×インスリン値/405)で行う.HOMA指数が1.6以上の例ではインスリン抵抗性があると考え,さらに糖負荷試験を追加,耐糖能異常の有無を評価する.自験例では,境界型糖尿病と診断される例は肥満PCOS例の44%を占めており,いずれも120分値が140 mg/dl以上を示した.

【多嚢胞性卵巣症候群】62.多嚢胞性卵巣症候群の患者です.ゴナドトロピン療法を行ったところ,排卵後7日目で卵巣過剰刺激症候群を発症し,腹水が貯留して尿量の減少も認められます.

著者: 本田律生

ページ範囲:P.542 - P.543

1 診療の概説

 卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome : OHSS)は医原性疾患であり,表1に掲げた重症OHSSのハイリスクグループに多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)が含まれていることを認識してゴナドトロピン療法を行うべきである.病態の主因は血管透過性の亢進であり,循環血漿量の減少,血液濃縮,凝固能亢進の程度が重症度と相関し,腹水・胸水貯留による呼吸循環不全と腎不全に加え,血栓塞栓症の続発は致死的合併症をも引き起こしうる.また,腫大した卵巣は,一部破綻や茎捻転による急性腹症をきたす危険があり,急激な貧血の進行(Ht値の低下)と腹膜刺激症状は破裂による腹腔内出血を疑う.また,限局した自発痛・圧痛が突発的に生じた場合は茎捻転を疑う.

 前の設問で述べたようにhCGは症状の増悪因子の1つであり,妊娠が成立した周期では症状が遷延する一方,妊娠に至らなかった周期では,月経発来とともに速やかに症状が消退するのが特徴である.

【男性不妊】63.精子を増加させ,妊娠を目指すための処方を希望している乏精子症の患者です.

著者: 片寄治男

ページ範囲:P.544 - P.545

1 診療の概説

 男性不妊症患者の増加に関する報告は近年多くみられるが,現在では顕微授精法の臨床応用により治療可能な時代になっている.男性因子不妊症の診断はWHO(1999年)の基準によりなされ,乏精子症は精子濃度2,000万/ml未満の症例を指す.原因はほとんど特発性であり,造精機能障害の約60%を占めるといわれ,治療を難渋させるゆえんである.

 精巣内の精細管における精子形成は精母細胞からの減数分裂の過程と,円形精子細胞が成熟した精子に変態するspermiogenesisの過程に大きく大別される.この過程は視床下部─下垂体─精巣系のaxisにより巧妙に調節されている.さらに局所ではセルトリ細胞,ライディッヒ細胞あるいは筋様細胞によるパラクライン,オートクライン機構により細胞機能が調節を受けていることが知られている.精巣網から精巣上体に移行した精子はさらに管内でいわゆる精子成熟過程を経て受精に必要な能力を獲得することができ,精子形成開始から射出までに必要とされる期間は74日といわれている.したがって,何らかの治療後の造精機能評価には約3か月の時間を要することに注意が必要である.

【男性不妊】64.精液検査で無精子症と判明した患者です.AID以外の可能性のある治療法を望んでいます.

著者: 片寄治男

ページ範囲:P.546 - P.547

1 治療の概説

 射出精液中に精子が存在しない症例を無精子症(azoospermia)と診断するが,遠心処理により精子が見出せる場合はcryptozoospermiaといい区別される.無精子症は,精管などの通過障害が原因となる閉塞性無精子症と,精巣における原発性の造精障害である非閉塞性無精子症に大別される.

 閉塞性無精子症は幼少時の鼠径ヘルニア術後や外傷が最も頻度が高く,ほかに精巣上体炎や先天性精管欠損症あるいはYoung症候群(先天性精巣上体精子通過障害)が原因として指摘されている.治療は泌尿器科専門医によるが,自然の排精を期待するには精路再建術が必要である.精管精管吻合術,精巣上体精管吻合術が顕微鏡下で行われ,開通率,精液所見改善率,妊娠率ともに良好な成績が得られる.しかし,実施可能な施設は限られているのが現状である.以前提唱された人工精液瘤は現在ほとんど行われなくなっている.精路再建が不成功に終わった場合は,経皮的精巣上体精子回収(percutaneous epididymal sperm aspiration : PESA)などにより精子を回収し,ART(ICSI)が行われる.

【男性不妊】65.塩酸シルデナフィルが無効の性交障害(勃起障害)の患者です.

著者: 片寄治男

ページ範囲:P.548 - P.549

1 治療の概要

 勃起は神経の活動により誘起される血管性の現象であり,陰茎が腟内挿入可能にするに足る硬度を持たせる生理的意義がある.勃起障害に起因する性交不能症はerectile dysfunction(ED)と呼ばれるが,基本的には男性因子不妊症に含めない.陰茎勃起は抵抗血管である海綿体動脈とラセン動脈の弛緩で始まり,次に海綿体小柱の平滑筋が弛緩することによりさらに多量の血液を海綿体組織が受け入れ,また静脈閉鎖機構が働くことで有効な勃起が完成される.

 原因は器質性および機能性勃起障害に分類される.陰茎および勃起に関与する血管,神経系の損傷などは器質性要因とされるが,機能性要因としては症候性((1)内科的身体疾患 : 糖尿病,肝疾患,消耗性疾患など,(2)精神病性疾患 : 統合失調症,てんかんなど,(3)薬剤性 : アルコール,向精神薬,結核治療薬,降圧剤など)および心因性に分類される.

【原因不明不妊】66.ARTを何度トライしても妊娠しない原因不明不妊の患者です.

著者: 福田淳

ページ範囲:P.551 - P.553

1 診療の概説

 「ARTを何度トライしても」という表現のみでは漠然としており,どのような種類のARTを何回施行したかによって意味合いが異なってくる.最近ではARTにおける手技も多岐にわたっており,各症例の問題点に即して,個別化した治療法が選択されるようになってきている.仮に,今回のARTが,いわゆるconventional ART(GnRHa, FSH/HMG刺激による採卵で4細胞期胚を移植)を意味する場合には,ほかの治療法を選択することにより妊娠できる可能性もある.

 ART不成功の原因は表1に示すように,大きく分けると,胚そのものの異常,子宮内環境の異常が挙げられる.そのなかで胚の因子では,(1)卵胞の発育が悪い,(2)卵子の質が悪い,(3)受精しない,(4)透明体が厚い,子宮内環境の因子では,(1)卵管水腫がある,(2)ポリープあるいは粘膜下子宮筋腫などがある,(3)子宮内膜が厚くならない,(4)移植操作が困難で移植時子宮収縮がある,などは比較的原因を特定しやすく,後述のように改善の余地がある.

【頸管粘液分泌不全】67.規則的な排卵はあるものの頸管粘液分泌不全を認める患者です.

著者: 福田淳

ページ範囲:P.554 - P.555

1 診療の概説

 頸管粘液は頸管腺より分泌されるが,その量および性質はステロイドホルモンにより調節されている.エストロゲンにより分泌量は増加し,プロゲステロンにより抑制される.排卵の2~3日前から分泌量は増加しはじめ,排卵期には1日数mlに達する.排卵後にはプロゲステロンの作用によりすみやかに分泌量は低下する.頸管粘液の性状は排卵期に向け,粘稠性から水様透明となり,牽糸性(spinnbarkeit)は著明に増加するようになる.排卵期では9~15 cmにも達する.頸管粘液をスライドガラスに塗抹,乾燥させると植物のシダに似た構造を示し,羊歯状結晶(fern leaf phenomenon : FLP)と呼ばれる.排卵期になると全体的に良好なFLP形成が認められるようになる.

 頸管粘液検査は排卵前後で施行する必要があるため,基礎体温,超音波検査,ホルモン検査などで排卵日を予測することが重要である.頸管粘液をツベルクリン注射筒などで,吸引採取した後,頸管粘液の量,頸管粘液の硬さ,牽糸性,FLP,細胞濃度などの項目について評価する.判定法としてWHO manual 1)に記載されているcervical mucus test(CMT)の診断基準(表1) 2),Moghissi 3)が報告しているcervical mucus score(表2)などを参考にする.

【チョコレート嚢胞】68.挙児希望の患者です.卵管や子宮には器質的異常はないものの,右卵巣に4~5cm径のチョコレート嚢胞と思われる腫瘤があります.

著者: 中村絵里 ,   鈴木隆弘 ,   杉俊隆

ページ範囲:P.557 - P.559

1 診療の概説

 挙児希望患者に対しては妊孕性温存を重視して保存治療を第一選択とするが,超音波,CT,MRI,腫瘍マーカー検査などの補助診断を駆使して,できるだけ悪性所見を否定すること,十分なインフォームド・コンセントを行うことが重要である.卵巣子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)は卵巣明細胞腺癌や卵巣類内膜腺癌の発生母地となり,年齢40歳以上および嚢胞の長径が10cm以上でそのリスクが高まる 1).また現在では子宮内膜症性不妊を疑う場合,腹腔鏡検査は必須の検査とされている.子宮内膜症の確定診断,R-ASRM分類 2)による進行期の評価(腹膜病変,癒着,チョコレート嚢胞)を行う.不妊患者の55%が腹腔鏡下に子宮内膜症と診断される 3)

 R-ASRM分類では,チョコレート嚢胞に対する配点が高いため,4~5cmの嚢胞が存在すればIII期以上が確定し,重症の子宮内膜症と位置づけられる.しかし実際に不妊に関与するのは嚢胞の存在ではなく,腹膜病変や卵巣,卵管の癒着であることが判明し 4),R-ASRM分類の進行期は不妊の予後を反映しない 5).また嚢胞存在例の体外受精─胚移植(IVF-ET)成績の検討では,嚢胞が存在しても良好な卵子が獲得でき,悪影響を及ぼさないことが示された 6).ただし嚢胞の大きさという観点からは破裂予防,周囲への圧迫軽減,排卵誘発の反応性を上げるなどの利点から,ある程度縮小させる意義はあると考えられる.

【不育症】69.不育症の患者です.子宮に器質的異常はなく,抗核抗体やループスアンチコアグラントは陰性で,夫婦の染色体検査も正常です.

著者: 杉俊隆

ページ範囲:P.561 - P.563

1 診療の概説

 “不育症”とは,厳密な定義を持つ医学用語ではない.強いて定義付ければ,成立した妊娠を完遂できず,健康な生児に恵まれない症例を指すものといえる.一般的には習慣流産を指すことが多いが,同義ではない.習慣流産とは3回以上流産を繰り返すことであり,流産の定義上時期は妊娠22週未満に限定される.しかしながら,不育症といった場合は妊娠中期以降の子宮内胎児死亡や反復流産(流産回数2回)も含まれ得る.胎児形態異常のない10週以上の原因不明子宮内胎児死亡があった場合は,反復しなくても不育症の可能性を考慮するべきである.

 1回の独立した流産の頻度は統計上約15~20%であり,決して珍しくない.その約60~70%以上は胎芽,胎児に染色体異常があると報告されている.また,受精卵の約40%に染色体異常があり,それが出生時には0.6%に減少すると報告されており 1),もし流産という自然淘汰が起こらなければ,出生した児の40%が染色体異常を持つことになる.したがって,流産の多くは病的ではなく,それを止めることもできないし,止める必要もないということになる.1回や2回の流産既往があっても,それが直ちに病的であり,不育症であるということにはならない.ちなみに,1回の独立した妊娠の流産の頻度を20%と仮定すると,反復流産率は0.2×0.2=0.04で4%,3回流産率は0.04×0.2=0.008で0.8%となる.したがって,反復流産の場合は病的原因を持たず,不育症とはいえない場合も多いが,3回以上自然流産を繰り返した習慣流産の場合は運が悪かったですませる前に,不育症の原因を検索すべきである.

IV 感染症

【カンジダ腟炎,外陰炎】70.難治性で再発を繰り返すカンジダ腟炎,外陰炎の患者です.

著者: 三木明徳

ページ範囲:P.564 - P.565

1 診療の概説

 カンジダ腟外陰炎は本来の腟内細菌叢であるデーデルライン桿菌(乳酸桿菌)が減少し,代わりにCandida albicans, Candida glabrataもしくはCandida tropicalisが腟内にて増殖することによって 1),引き起こされる病態である.症状としては外陰部の発赤,痒み,痛みを訴え,カッテージチーズ,ヨーグルトもしくは中華粥と表現される特徴的な帯下を認める.上記のCandida属はともに身体各部位の常在菌叢の一菌種であり,非妊婦の10~15%,妊婦の20~40%に常在菌として存在する 1).よって,腟,外陰,陰茎などからの真菌培養結果で単に検出されたというだけではカンジダ腟炎とはいえない.上記の症状を伴って初めて治療の対象となる 2)

 腟,外陰部にカンジダが増殖する要因として,妊娠,糖尿病,ステロイド薬投与などの免疫力が低下している状態が挙げられ,日和見感染の一種ともいえる 2).抗菌剤の全身投与により腟内の正常細菌叢が破壊された後にカンジダが優位に増殖してくることがあり,膀胱炎や風邪などで抗菌剤投与をされた後に発症することも多い.妊娠・ピルなどの服用によりエストロゲンが亢進し,このため腟上皮のグリコーゲンが増加し,カンジダの発育に適した条件がつくられると増殖する 1).また,常在菌叢の一部ではあるが,性行為感染症(STD)としての一面も持ち合わせており,パートナー間で性器の痒みなどの症状を共有していないかどうかのチェックも必要である.男性の場合は主に亀頭包皮内に潜んでいることが多い.

【カンジダ腟炎,外陰炎】71.外陰部掻痒感を訴えている妊娠6週の妊婦です.外陰部は発赤しており,分泌物を鏡検するとカンジダが認められました.

著者: 三木明徳

ページ範囲:P.567 - P.569

1 診療の概説

 設問70も一緒に読んでいただきたい.腟内は通常デーデルライン桿菌(乳酸桿菌)が多数を占めており,デーデルライン桿菌からつくられる乳酸により腟内環境は酸性に保たれている.この酸性環境により腟内でのほかの雑菌の繁殖が抑制されている.正常な腟内環境ではきわめて少数しか存在しないCandida albicansCandida glabrataもしくはCandida tropicalisが腟内環境の変動により優位に増殖して引き起こされる病態がカンジダ腟外陰炎であり,外陰部の発赤,痒み,痛みおよびカッテージチーズ,ヨーグルトもしくは中華粥を思わせる帯下を主な症状とする.

 腟,外陰部にカンジダが増殖する要因として,妊娠,糖尿病,免疫低下などが挙げられ,日和見感染の一種ともいえる 2).妊娠中はエストロゲンの亢進のために腟上皮のグリコーゲンが増加する.この環境はカンジダの発育に適した条件であり 1),20~40%の妊婦の腟内にはカンジダが常在菌として検出され,非妊婦の10~15%と比較して高頻度となっている 1).妊娠中に何らかの要因が加わると,腟内環境が崩れカンジダが優位に増殖してくる.上記の理由により,妊娠中はカンジダ腟炎を治療しても何度も再発してくることが多い.

【トリコモナス】72.帯下異常で受診し,腟分泌物ならびに尿中にトリコモナス原虫を認めた患者です.

著者: 野口靖之

ページ範囲:P.570 - P.571

1 診療の概説

 帯下異常は,婦人科外来診療において最も頻度の高い主訴の1つである.教科書的にカンジダ腟炎は酒粕様の帯下,トリコモナス腟炎は泡沫様帯下と記載されているが,臨床的に典型例は少なく,複数の病原体による混合感染も珍しくない.このため,性感染症である腟トリコモナス症の診断は,生活習慣,性行動など問診により得られる情報が診断の重要な手がかりとなる.

 腟トリコモナス症は,トリコモナス原虫(Trichomonas vaginalis)によって発症する腟炎である.主に性行為により感染するが,性交経験のない女性や幼児にも感染例があり,タオルや便器,浴槽を通じて感染することがあると考えられている.初発症状は,性交渉後10日前後で出現する.悪臭の強い多量の泡沫状黄緑色の帯下(ミルクを流したような),外陰部の強い掻痒感,腟壁の発赤が代表的な臨床症状として挙げられる.しかし,女性における腟トリコモナス症の症状は非常に多様であり,無症候感染も少なくない.さらに,本疾患は,腟だけでなく子宮頸管,尿路,セックスパートナー(パートナー)の尿路,前立腺にも感染する.したがって,治療後もピンポン感染や隣接臓器からの自己感染により再発することがある.このため,パートナーのトリコモナス症に対する検査,治療は必須である.

【クラミジア】73.非妊娠時および妊娠時において,クラミジア検査が陽性であった子宮頸管炎の患者です.

著者: 野口靖之

ページ範囲:P.572 - P.573

1 診療の概説

 クラミジア・トラコアマチス(クラミジア)による子宮頸管炎は,最も罹患率の高い性感染症であり,10歳代後半~20歳代の若者が罹患者の大部分を占める.本疾患は,自覚症状として帯下の増量や軽度の下腹部痛を認めるが,ほとんどの症例が無症状であり,治療せず放置されることも多い.このため,性器クラミジア感染症を疑ったら積極的に検査を行い,早期発見し治療する必要がある.さらに,妊婦がクラミジア子宮頸管炎を合併すると,産道感染による新生児肺炎や新生児封入体結膜炎を発症するので,妊婦健診でクラミジア・スクリーニング検査が行われるようになった.性器クラミジア感染症の診断と治療後の効果判定は,妊娠時,非妊娠時ともに子宮頸管擦過検体を採取し(図1),遺伝子診断法により行う.

【クラミジア】74.抗原検査では陰性でしたが,抗体検査ではクラミジア感染症と診断された患者です.

著者: 野口靖之

ページ範囲:P.575 - P.575

1 診療の概説

 性器クラミジア感染症に対する抗体検査では,血中抗クラミジアIgG・IgA抗体価を測定する.クラミジアIgG抗体価は,クラミジア感染症の現行感染と既往感染で陽性化する.一方,クラミジアIgA抗体価は,クラミジア感染の治癒後に低下し感染の活動性を反映するという考えもあったが,クラミジアIgG抗体価と同様に治癒後も低下しない症例が確認されている.このため,抗体検査はIgGあるいはIgA抗体価が高値であってもクラミジア感染症が現行感染しているとはいえず,また治療の効果判定にも使用できない.

【尖圭コンジローム】75.外陰部の不快感,掻痒感を訴えている妊娠8週の未産婦です.会陰部に鶏冠状となった尖圭コンジロームを認めます.

著者: 朝野晃

ページ範囲:P.576 - P.577

1 診療の概説

 尖圭コンジロームは,主にヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma virus : HPV)6,11型の感染によって生じる性行為感染症の1つである 1).女性では外陰,腟前庭,腟,子宮腟部,尿道口周囲,肛門周囲に好発し,鶏冠状・乳頭状の腫瘍を形成し,巨大化することがある.感染後約3か月で肉眼的に認められるようになるが,症状は無症状であることが多い.ときに掻痒感を訴えるが,多くは陰部・肛門周囲に疣状の腫瘤を自覚し,受診する.診断は肉眼的にほぼ可能であるが,鑑別診断として腟前庭乳頭腫(hairly nymphae),ボーエン様丘疹症,扁平コンジローム,伝染性軟属腫,外陰癌などがあり,生検し,組織診断をすることが必要である.

 治療は,手術療法では外科的切除,電気焼灼,レーザー蒸散,液体窒素による凍結療法が行われる.また,薬物療法には,5─FU軟膏,ブレオマイシン軟膏,ポドフィリン,3塩化酢酸溶液,イミキモドクリーム,インターフェロンなどが用いられることがあるが,いずれも保険適用はなく,十分なインフォームド・コンセントのもとに慎重に治療する必要がある.

【性器ヘルペス】76.初感染と思われる外陰ヘルペスを認めた妊娠30週の妊婦です.病変は広範で激痛があります.

著者: 朝野晃

ページ範囲:P.578 - P.579

1 診療の概説

 性器ヘルペスは,性感染症の1つであり,単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus : HSV)1型,2型の感染により生じ,日本では初感染の場合,1型感染が多いといわれている.性器ヘルペスは,急性型(初発型)と再発型に分けられる.急性型性器ヘルペスは感染後2~10日後に主に外陰部に小潰瘍,小水疱が多発し激痛を伴う.また,排尿障害,発熱,全身倦怠感を伴い,鼠径リンパ節の腫脹を認め,ときに頭痛を伴う.再発型は,急性型と比較して軽症であるが,数か月から数週間の頻度で繰り返し出現し,外陰部に数個の水疱,潰瘍が出現する.

 診断は症状と視診によりほぼ可能であるが,確定診断にはウイルスの同定が必要であり,当科では蛍光抗体法により抗原を検出している.一般的にHSV2型に感染した場合,再発の頻度が高いことが知られている.また,初感染か再発型かを判断するためには,血清抗体の検査が必要である.

【梅毒】77.術前検査で梅毒反応が陽性であった患者です.

著者: 古堅善亮

ページ範囲:P.581 - P.583

1 診療の概説

 梅毒はスピロヘータ科トレポネーマ属の細長いらせん状の細菌,Treponema pallidum(TP)による性感染症である.梅毒は大きく後天梅毒と先天梅毒に分類されるが,まず後天梅毒の自然経過を述べる.

 感染して9週までを第一期,それから3年までを第二期,3年以上を第三期,10~15年で脳・脊髄に変性をきたしたものを第四期梅毒という.第一期梅毒の経過は,まず,3週間の潜伏期間を経て性器に初期硬結が出現する.初期硬結は大豆大の硬い結節で無痛性である.それが自潰して潰瘍となったものを硬性下疳と呼ぶが無痛性である.通常単発性であるが,多発性で,潜伏期間の短い症例も認められる.感染後6週間で鼠径部のリンパ節が腫大し,梅毒血清反応も陽性化する.第二期に入ると皮疹(バラ疹,丘疹)が出現するが痒みもなく,自然に消退する.また,外陰にできた丘疹はびらんとなり扁平コンジローマと呼ばれる.その他,脱毛,粘膜疹がみられることがある.第三期梅毒ではゴム腫,結節性梅毒疹が出現する.ゴム腫は深部皮下組織,骨,筋肉,リンパ節に発生し,深い潰瘍をつくる.結節性梅毒疹は主に顔面に多発し,癒合・瘢痕化する.第四期梅毒では心臓血管系,中枢神経系が侵され,大動脈中膜炎,大動脈瘤,脊髄癆,進行麻痺が認められる.一方,感染していても症状がないものを潜伏梅毒,あるいは無症候性梅毒という.

【梅毒】78.ペニシリンアレルギーがある梅毒患者です.

著者: 古堅善亮

ページ範囲:P.584 - P.585

1 診療の概説

 設問77の「処方の実際」は,日本性感染症学会によるものである.米国国立疾病管理センター(CDC)のガイドラインでは第一期と第二期の梅毒に対してはベンジルペニシリン・ベンザチン240万単位,筋注1回投与である.第三期ではベンジルペニシリン・ベンザチン240万単位,筋注を1週間ごとに3回行う 1).しかし,本邦ではこの製剤はなく,本邦での筋注用の製剤は半減期が短いため,この方法では治療が不十分である.神経梅毒では水溶性結晶ペニシリン300~400万単位を4時間ごとに6回/日を10~14日間投与するが,これは本邦のガイドラインと同様である.CDCでは神経梅毒の場合や妊婦の場合は,たとえペニシリンアレルギーがあっても減感作を行い,ペニシリン投与することが望ましいとしている.しかし,本邦では副作用に対しての配慮からか他剤の投与が推奨されている.

 CDCでは治療のほとんどが注射で行っているが,本邦では経口剤が中心である.内服薬のコンプライアンスが悪かったり,経過観察不能な場合,注射剤が望ましいと考えられる.しかし,前述したように,本邦では半減期の長いペニシリン剤がなく,また内服剤の優れた治療効果が示されてきたため,ショックの危険性の少ない経口剤を使用するのは何ら問題ないと考える.

【淋病(淋疾)】79.頸管炎による膿性帯下を認め,培養検査で淋菌が証明された患者です.

著者: 古堅善亮

ページ範囲:P.587 - P.589

1 診療の概説

 淋疾はグラム陰性球菌である淋菌(Neisseria gonorrheae)による感染症である.淋菌の性状は塗抹標本では細胞内に腎臓型の双球菌として認められる.高温にも低温にも弱く,炭酸ガス要求性なので培養がやや難しい.淋菌感染症はヒポクラテスも記載しているほど古典的な性感染症であり,女性では性器クラミジア,ヘルペス感染に次いで多くみられる 1).特に20歳代前半や,10歳代後半の若年層に感染者が多い.ほとんどが性行為によって感染し,1回の性交で約30%感染すると考えられている.

 男性では淋菌に感染すると2~7日間の潜伏期間の後に排尿痛,尿道分泌物の増加などの尿道炎症状が出現する.さらに上行し精巣上体炎となり,疼痛,発熱,陰嚢腫大をきたし,男性不妊症となることもある.また,肛門直腸炎(肛門性交による)をきたすこともある.

【付属器炎】80.子宮付属器炎が疑われる患者です.まだ,起炎菌は同定されていません.

著者: 竹本周二 ,   牛嶋公生

ページ範囲:P.590 - P.591

1 診療の概説

 卵巣と卵管を総称して子宮付属器と呼び,この子宮付属器に起こる炎症を子宮付属器炎と呼ぶ.主訴としては下腹部痛,性交痛,帯下などが多く,下腹部の違和感程度の軽症例から,激しい下腹部痛を繰り返すような重症例まで,その重症度はさまざまである.一般に,腟内に侵入した病原体が子宮頸管から上行性に子宮内膜に移行し,その後付属器に至ることにより付属器炎が発症する 1).人工妊娠中絶術,産褥,流産,早産,子宮卵管造影,リング挿入後の子宮内感染などの上行性感染や,虫垂炎や結核性腹膜炎からの波及による下行性感染なども原因となりうる.起炎菌としては,腟内の常在菌やSTDの起炎菌が多く,単独感染もしくは混合感染として検出される 2).治療は起炎菌に対する有効な抗生剤の投与が原則となる.ただし起炎菌の同定には日数を要することが多く,また起炎菌が判明しないこともあるため,現実的には理学所見にしたがって治療を先行する.

 薬剤は,まず一般細菌を対象として,抗菌スペクトルの広い薬剤で,子宮内感染,付属器炎に適応を有する薬剤を選択する.通常,徒歩で来院してくる軽症例では,抗生剤の経口投与のみで軽快することが多い.この場合,軽快しても必ず再診させて,臨床所見と起炎菌を確認することは重要である.なぜなら,クラミジア,淋菌などでは選択する薬剤が異なり,それを放置することにより,慢性の付属器炎や卵管性不妊を生じる可能性があるからである.

V 腫瘍

【子宮筋腫】81.超手拳大の子宮筋腫がある20歳代後半の患者です.手術を勧めましたが,未婚でもあり,月経困難症もあまり強くないので手術を受けたくないといいます.

著者: 林卓宏

ページ範囲:P.592 - P.593

1 診察の概説

 子宮筋腫は外来患者の約8~10%を占める,婦人科領域では最も頻度の高い良性疾患である.治療を必要としないものも含めると,全女性の約3割に認められるとされている.40~49歳を好発年齢とし,発生部位は漿膜下・筋層内・粘膜下および頸部筋腫に分類されている.子宮筋腫の臨床症状は,過多月経,月経困難症,不正性器出血とこれらに随伴する鉄欠乏性貧血,また腫大化につれて排尿・排便障害,腹部膨満などを認める.

 診察の進め方としては,まず内診により子宮筋腫の全体的な把握と同時に子宮の可動性を確認する.同時に,悪性腫瘍を否定するために子宮頸部および体部がん検診を実施する.経腟もしくは経腹超音波により子宮筋腫の大きさと数,位置を確認する.ときに粘膜下筋腫が疑われた場合は,バルーンを経腟的に子宮体部に挿入して数mlの生理食塩水を注入し,粘膜下筋腫の輪郭を描出し,子宮内腔への突出具合と正確な計測を可能にする必要がある.子宮卵管造影や子宮内視鏡による観察も,粘膜下筋腫には有用な検査である.MRIは子宮と子宮筋腫との関係をより確実に把握することが可能な診断法である.

【子宮筋腫】82.手術前に筋腫を縮小させる必要のある患者です.

著者: 林卓宏

ページ範囲:P.595 - P.595

1 診察の概要

 子宮筋腫の手術適応としては,(1)子宮筋腫の大きさが手拳大以上,(2)大きさにかかわらず過多月経や不正性器出血により貧血をきたす症例,(3)月経困難症などの臨床症状をきたす症例が対象となる.ここで(2)のような症例は,貧血を改善させてから手術療法を勧める必要がある.また,特に粘膜下筋腫をレゼクトスコープで切除する場合は,手術前に筋腫を縮小させるほうが手術を容易に遂行することができ,手術時間の短縮から水中毒などの術中合併症も少なくてすむ.以上より,粘膜下筋腫の術前処置として筋腫を縮小させることは意義のあることと考えられる.ただし,Gn─RHアゴニスト投与中に突然大出血することもあるので,投与中は注意して経過観察する必要がある.

 また,腹腔鏡による子宮筋腫核出術においても子宮筋腫を縮小させることは,手術をより容易に実施可能となり,術中出血も少なくてすむことが期待できるため,同様に意義があると考えられる.

【子宮筋腫】83.過多月経に伴う貧血を認める患者です.

著者: 京哲

ページ範囲:P.596 - P.597

1 診療の概説

 貧血の原因が過多月経であるのかどうかをまず鑑別することが必要である.本稿では貧血の原因が過多月経以外に認められない場合を念頭に置いて概説する.

 過多月経をきたす疾患として代表的なものには子宮筋腫,子宮内膜症(子宮腺筋症),子宮内膜ポリープがある.これらが互いに合併していることも多い.子宮筋腫はサイズと症状が必ずしも一致しないことが多く,小さなものでも粘膜下筋腫では過多月経を引き起こしやすい.一方,過多月経のなかに子宮内膜増殖症や子宮内膜癌による出血が隠されている場合もあるので注意を要する.また,これらの器質的異常が認められないにもかかわらず,過多月経が引き起こされる場合もある.

【子宮筋腫】84.がん検診の際に子宮に筋腫様の腫瘤がみつかった55歳の患者です.現在,特に症状はありません.

著者: 京哲

ページ範囲:P.598 - P.598

1 診療の概説

 閉経期にみつかった無症状の筋腫様腫瘤では,(1)閉経前から存在した子宮筋腫の残存,(2)子宮内膜癌,子宮肉腫などの悪性腫瘍の可能性を,念頭に置く必要がある.

 子宮内膜癌が筋腫様の腫瘤として発見される頻度は高くないが,内膜にポリープ状に突出するものや,筋層浸潤の程度が強く,腫瘤状にみえることがあるので注意を要する.子宮肉腫は,子宮内膜間質肉腫,平滑筋肉腫,癌肉腫(悪性ミューラー管混合腫瘍)の3つに分類される.主として閉経後に発生し,無症状あるいは不正性器出血を訴える場合もある.時に子宮が急速に増大してみつかることがある.子宮内膜間質肉腫や癌肉腫は内膜の細胞診や生検で悪性が疑われる場合あるが,平滑筋肉腫は筋腫摘出子宮の組織診断で偶然発見される場合が多く,内膜細胞診や生検での診断率は低い.癌肉腫では内腔にポリープ状に突出する腫瘤としてみつかることがある.画像診断で子宮肉腫に特徴的な所見はない.変性を伴うことが診断根拠の1つとされるが,筋腫の変性との鑑別は困難である.腫瘍マーカーも特異的なものはないが,LDHの上昇は参考になる.また,病変が腹膜にまで及ぶものではCA 125の上昇をみることがある.

【卵巣腫瘍】85.左卵巣に6~7cm径の嚢胞性腫瘤がある40歳代の患者です.悪性でなければ手術を受けたくないといいます.

著者: 吉崎陽

ページ範囲:P.599 - P.601

1 診療の概説

 まず大切な点は,悪性腫瘍ではないと判断するための根拠は何かということである.患者の左卵巣に認められた嚢胞性の腫瘤が画像診断上どのような所見を示しているか,外来診療で頻繁に用いられる超音波断層法により嚢腫の所見を注意深く観察し,これを正確に把握する必要がある(図1).さらに,必要であれば造影CTあるいは造影MRIを行う.壁の肥厚がある場合や乳頭状の増殖がある場合には直ちに癌を疑って専門機関への紹介を考えるべきである.

 もう1つ重要であるのは,その腫瘍が子宮内膜症性嚢胞かどうかの診断である.これは子宮内膜症性嚢胞からの癌化とそれ以外の嚢胞からの癌化の過程が異なる可能性があることがわかってきたからである.癌化の過程が異なることを説明するうえで説得力のある報告は,小林 1)による静岡県における「臨床的卵巣子宮内膜症を有した患者と有しないコントロール婦人を1985年より最長17年間追跡し卵巣癌の発生を前方視的に調査」した結果である.Non-serous typeとserous typeの卵巣癌患者が発癌する前の超音波画像診断によれば,non-serous typeでは初回の検査で67%に卵巣腫大が認められた.これに対し,serous typeでは81%に所見がなかった.このように嚢胞性の腫瘍において子宮内膜症性嚢胞とほかの嚢胞では嚢胞の出現から癌化するまでの期間が異なっている.癌の自然史が違う可能性を理解して診察し,患者と知識を共有して判断していかなければならない.

【卵巣腫瘍】86.外来管理を続けている卵巣癌患者です.CA125が正常上限の2倍以上の値を2回確認しました.

著者: 吉崎陽

ページ範囲:P.603 - P.605

1 診療の概説

 卵巣癌の年齢調整罹患率は1975年に女性人口10万当たり3.6であったが1998年には6.5となり,乳癌と大腸癌・直腸癌と同様に増加している 1).2004年の人口動態調査による死亡数は4,420人,年齢調整死亡率は4.5と,死亡数・死亡率ともに増加傾向にある 2).卵巣癌は発生の予防法と早期発見の方法が確立しておらず,発見後の確実な初回治療と,再発・再燃の的確な発見を目的とした理論的な管理,さらに再発腫瘍に対する適切な治療が予後の向上に有用である.卵巣癌患者の管理は最近エビデンスが集積され,日本婦人科腫瘍学会により「卵巣癌治療ガイドライン」が上梓され,主要な卵巣腫瘍については理論的な裏づけに基づいた合理的な管理が行われるようになった 3).ここではこのガイドラインに沿って記載する.

【子宮頸癌】87.進行子宮頸癌の患者です.5─FU系の薬剤で外来維持化学療法中に食欲不振,口内炎などの副作用が出現しました.

著者: 松井英雄

ページ範囲:P.606 - P.607

1 診療の概説

 子宮頸癌は0期のcarcinoma in situ(CIS)から肺転移などの遠隔転移を認める4期までに分類され,CISでは単純子宮全摘や円錐切除などの手術療法が一般的に行われ,最近では妊孕性温存や侵襲の問題から円錐切除が一般的となっている.

 1期は病巣の広がりにより微小浸潤癌であるIa期(Ia1期,Ia2期)と病巣が肉眼的に確認できるIb期(Ib1期,Ib2期)に分類される.Ia1期のリンパ節転移率は0.5~1.2%程度であり,その治療はCISと同様の単純子宮全摘術や円錐切除で十分とされる.一方,間質浸潤の深さが3 mmを超える1a2期では7~9%にリンパ節転移を認め,準広汎子宮全摘術や広汎子宮全摘術+骨盤内リンパ節郭清が施行される.浸潤癌であるIb期(Ib1期,Ib2期)の治療法は本邦と外国では異なり,本邦では広汎子宮全摘術が原則として行われ,必要に応じて術後放射線療法や放射線,化学療法同時併用療法(concurrent chemoradiation : CCR)が行われている 1)

【子宮体癌】88.不正出血と過多月経を認める子宮内膜異型増殖症が疑われる患者です.

著者: 松井英雄

ページ範囲:P.608 - P.609

1 診療の概説

 子宮内膜増殖症は子宮内膜が肥厚化している状態であり,腺細胞の異型の有無により子宮内膜増殖症と子宮内膜異型増殖症に分類される.さらに,それぞれを構造的特徴から単純型と複雑型に分けている.異型を伴わない子宮内膜増殖症は初経直後や閉経前後の無排卵周期が頻発する時期に起こることが多く,エストロゲンの長期過剰刺激により発生する可逆的病変であり,悪性化することも1~3%程度と少ない.無排卵以外の病態では,エストロゲン産生腫瘍,肥満,薬剤ではエストロゲン作用物質の長期被曝,タモキシフェン投与などが関与している.一方,子宮内膜異型増殖症は腺細胞の細胞異型を伴い,子宮体癌の前癌病変と考えられる病態であり,単純型の悪性化率は8%,複雑型では29%と報告されている 1).このため子宮内膜異型増殖症は子宮体癌の前癌病変として取り扱う必要があり,妊孕性温存の希望がない患者では子宮全摘手術が勧められる.

【子宮体癌】89.薬物療法を希望する子宮体癌の患者です.

著者: 松井英雄

ページ範囲:P.610 - P.611

1 診療の概説

 子宮体癌は比較的予後良好な子宮体部悪性腫瘍であり,組織型は大部分が類内膜腺癌,また分化度によりG1~G3に分類される.子宮体癌の治療は子宮摘出+両側付属器切除(±リンパ節郭清)であり,早期の子宮体癌では手術療法によってほぼ100%の寛解を達成することが可能である.このため薬剤療法を希望する子宮体癌の患者とは若年あるいは妊孕性温存を強く希望する患者ということになる.

 日本産婦人科学会によれば子宮体癌の発症は年々増加傾向にあり,近年では子宮癌全体の約40%を占めると報告されている.子宮体癌の年齢別発症頻度では50歳代が40%近くを占め,40歳未満のいわゆる若年子宮体癌は6~7%前後と少数である.しかし晩婚化などの社会情勢の変化に伴い,今後増加することも予想されている.

【術後排尿障害】90.広汎性子宮全摘術後の排尿障害の患者です.

著者: 沖明典

ページ範囲:P.612 - P.613

1 診療の概説

 小林隆著の『子宮頸癌手術』では「術式の性質上膀胱支配神経のすべてがその主要根幹において切断され膀胱に麻痺が起こることは周知の事実である」と記載されている.子宮頸癌や一部の子宮体癌に対する広汎子宮全摘術の主要な術後合併症の1つであり,術後の膀胱麻痺を回避するべく膀胱神経の温存術式が工夫されて発表されている.しかしながら本術式が癌を対象としているため,II期症例など進行例では完全切除と膀胱神経温存が両立しない場合も多い.膀胱は畜尿と排尿という相反する機能を併せ持ち,これらは膀胱平滑筋と括約筋が協調して相互作用として営まれる現象である.下部尿路を支配している神経は主に骨盤神経,下腹神経,陰部神経である.骨盤神経はS2─4を由来として,副交感神経優位で直腸の両側を通り膀胱に分布する.下腹神経はTh10─L2に由来し交感神経優位であり,陰部神経はS2─4由来の体性神経由来で外尿道括約筋に分布する(表1).広汎子宮全摘術ではこれらの神経のうち主に骨盤神経が損傷されるため,程度の軽重はあるものの相対的に交感神経優位の膀胱環境となる.神経因性膀胱のパターンとしては麻痺性の機能障害で,膀胱の充満感は消失し,膀胱壁は過進展となり,膀胱容量は増大し,膀胱の収縮不全と内尿道括約筋の弛緩不全により残尿量も増加することとなる.この麻痺は短期で改善する症例もあるが,回復までに半年から1年以上待たなければならない症例や改善しない症例もあるため,外来管理時に問題となることがある.

【術後排尿障害】91.膀胱瘤修復術後の排尿障害の患者です.

著者: 沖明典

ページ範囲:P.614 - P.615

1 診療の概説

 高齢化社会が進むわが国では子宮脱を中心とした性器脱の症例は増加傾向にある.性器脱として一括してもその発症様式はさまざまであり,個々の症例に対して,その病態を理解して適切な治療を行うことが必要である.膀胱瘤(膀胱脱)は高齢者に多く,若年者では少ないとされる.そのため膀胱瘤の治療のみを行っても新たな腹圧の逃げ道を求めて新たな性器脱が再発することは稀ではない.詳説については成書に任せ,本稿では膀胱瘤治療後の排尿障害を解説する.膀胱瘤の発症機序が腟前壁の支持組織の損傷による腟前壁の弛緩や膨隆であるため,その治療は恥骨頸部筋膜(pubocervical fascia)の縫縮に主眼が置かれる.膀胱瘤の術前に多くみられる症状として排尿困難があるが,ときとして術後に腹圧性尿失禁(stress urinary incontinence : SUI)を生じることがある.これは後部尿道膀胱角(posterior urethrovesical angle : PUV角)の変化によって説明される(図1).PUV角は正常では90~100°とされているが,術前には膀胱の脱出のため正常よりも鋭角となり,本来はSUIの傾向があるべき患者で膀胱瘤のためにマスクされてしまい,むしろ排尿困難となっていたものが,手術によりPUV角が鈍角となったり消失することによりSUIが顕性化してしまうものである.

【リンパ浮腫】92.広汎性子宮全摘術後早期に,リンパ浮腫,リンパ管炎,下肢蜂窩織炎が発症した患者です.

著者: 青木宏 ,   鹿沼達哉

ページ範囲:P.616 - P.617

1 診察の概説

 リンパ浮腫は骨盤リンパ節摘出術によりリンパ管が障害され,発症する術後合併症の1つである.障害されたリンパ管より下流のリンパ液の流れは減速や停滞し,その部位にリンパ液が貯留する.このリンパ液が間質組織間隙に流れ出ることにより組織内圧が増加し,組織はさらに浮腫状に腫大してくる.リンパ浮腫の程度は,自覚症状が軽いものから歩行困難な重症なものまでさまざまで,発症時期も術後早期に腫大する場合から,かなり年月が経てから出現する場合もある.約30%が6か月以内に,約65%が3年以内に出現するとの報告がある 1).術後補助療法として放射線外照射を受けると,リンパ管の側副路の形成が障害されリンパ浮腫の発生率が3倍以上に高くなることが知られている.

 リンパ浮腫の程度はI~III期に定義・分類され(表1),治療の目安とされる.I期では,回復可能であり予防的生活が必要となる.II期では,積極的な治療が必要となり,自然には回復不可能で,この段階を正しく治療しないと不自由な生活を余儀なくされ,回復不可能なIII期となる.

【リンパ浮腫】93.広汎性子宮全摘術を受けた患者です.再発もなく順調に経過していましたが,2年過ぎてから片側下肢の著明なリンパ浮腫(疼痛はない)が発生しました.

著者: 青木宏 ,   鹿沼達哉

ページ範囲:P.618 - P.619

1 診療の概説

 リンパ浮腫はリンパ管の機能異常や形成異常により毛細血管から漏出した組織間液が運び去られず,組織間隙に貯留した状態である.皮膚・皮下組織中心の浮腫であり症状的には類似しているが,筋肉内にも浮腫像を呈する深部静脈血栓症とは明らかに異なっている.また,二次的にマクロファージなどによる組織間隙の蛋白処理の働きも低下するため,蛋白濃度の高い浮腫になることもリンパ浮腫の特徴である.

 リンパ浮腫の典型的な症状は,ゆっくりと発症して進行する無痛性のむくみである.また多くが片側性であり,両側性であっても左右差があることが多い.疼痛,熱感,発赤などの症状を慢性期のリンパ浮腫に認めることは少ないが,急激に悪化や進行した症例では,皮膚が突っ張るようなピリピリした痛みやびまん性の発赤を認める場合がある.

【癌性疼痛】94.コデイン経口投与で十分な除痛ができない終末期の患者です.

著者: 青木宏 ,   鹿沼達哉

ページ範囲:P.620 - P.621

1 診療の概説

 がん患者は,病気のいかんにかかわらず,痛みの解放を必要としている.痛みの出現頻度はがんの原発部位や病期,病態,転移などにより異なるが,がんの進行にしたがって高くなる.がんと診断された時点で痛みを経験する患者は30%といわれるが,進行がんにおいては60~70%,末期がんにおいては75~85%と報告されている 1).がんの痛みのすべてが,がん病変に起因するわけではない.がん自体による痛みのほかに,がん治療に起因する痛みや,衰弱に伴う痛み,がんとは無関係な痛みもがん患者には出現する.進行がんの患者においては,複数の痛みが出現し,1つ1つの痛みの原因が異なることが多い.痛みの原因が治療法を決める大きな要因になる.

【癌治療の副作用】95.放射線治療中の子宮癌の患者です.何度も下痢がみられます.

著者: 倉垣千恵 ,   榎本隆之

ページ範囲:P.623 - P.625

1 診療の概説

 放射線治療に伴う障害は,治療開始とともに始まり治療中から終了後3~6か月以内にみられる早期障害と,半年以上経過して生じる晩発障害とに分類される 1, 2).子宮頸癌をはじめとする婦人科癌に対する放射線治療では骨盤内臓器への影響は避けがたく,消化管障害もその副作用の1つとして現れる.放射線治療の下部消化管への早期障害は照射線量が20~30 Gyに達すると生じるとされ 3),放射線治療により生じる炎症と腸管の蠕動運動の亢進により,下部消化管における吸収障害が顕在化する4).通常,水溶性下痢は治療開始後2~3週間で出現し 1, 4),治療終了後1週間~10日で回復する 4).放射線の影響を受ける消化管部位により症状は異なり,小腸への障害では水様性の下痢が,直腸へ影響が及ぶ場合は粘液便・血便がみられる 4)

 下痢症状は放射線治療全体からみた場合,婦人科の子宮頸癌治療患者に最も多くみられるものであり,1/5の患者に早期および晩発の下痢症状がみられ,その約半数に加療が必要であったとの報告がある 4).放射線照射が消化管に与える影響に関して,総照射線量のみならず,1回の分割線量および照射される腸管の体積によって,消化管障害の程度が規定されることが報告されている 5).子宮頸癌1,456症例における検討では,総照射線量が60 Gyを超える場合,50 Gy照射の場合と比較して小腸におけるGrade3の障害発生率が有意に上昇することが報告されている 6).また,従来高率に消化管障害を招いていた大動脈リンパ節への照射については,照射線量を50 Gyまでに抑えることが副作用軽減のために勧められており 3),さらに腹膜外より傍大動脈のリンパ節郭清を行い腹腔内の術後癒着を避けることによって,腸管の閉塞なども含めた放射線治療における消化管障害が軽減されるとの報告がある 7)

【癌治療の副作用】96.放射線治療中の副作用としてイレウス症状を呈した患者です.

著者: 倉垣千恵 ,   榎本隆之

ページ範囲:P.627 - P.629

1 診療の概説

 放射線治療の副作用としてみられる早期障害と晩発障害のうち,イレウス症状は主に治療後6か月以上経過した後の晩発障害として現れることが多い 1, 2).この放射線障害としてみられる腸管狭窄,イレウス,腸管穿孔,出血などの発症機序としては,主に放射線による腸管組織の線維化および血行障害が考えられている 2).放射線の照射加療期間中に下部消化管にみられる症状は,腸管閉塞よりもむしろ下痢症状であり,通常治療後に回復するが,晩期障害として治療後も長期にわたり認められることがある 3).一方,主に腸管狭窄など,イレウスに関連する消化管障害は主に晩期障害として出現する.これらの発生頻度は5%前後といわれ 3, 4),治療後数か月から数年の長期間にわたり症状が出現する可能性があり 2),特に小腸における障害では重篤となる 5).下部消化管における腸管狭窄,炎症,穿孔などの障害のうち,75%の症例は治療後30か月以内に発症していることが放射線治療を受けた子宮頸癌患者において報告されている 5)

 イレウスはいずれの時期に発症したものであれ,一般のイレウスと同様に,機械的イレウスか機能的イレウスかの鑑別が治療選択上必要となる.婦人科手術後の照射症例では,開腹術による癒着の影響から機械的イレウスのリスクがあることを念頭に置かなければならない 2, 6).さらに,術後照射の開始時には,術創治癒ならびに骨盤内臓器の機能の回復状態を十分に評価する必要がある.一方,開腹術の既往がない症例でも,照射線量が60 Gyを超えるとそれ以下の照射線量の場合と比較して消化管障害のリスクが増すことが報告されている 7).このため,治療に要する照射線量が増加した場合にも消化管への障害をより軽減することが求められており,近年,照射範囲を病変部位のみにより限定して消化管が受ける照射量を減じる照射方法が報告されている 8, 9).婦人科腫瘍の放射線治療においては,消化管障害が生じる危険部位は小腸以下広範囲にわたるため,腸管の狭窄,閉塞,穿孔などが疑われる場合,消化管の障害部位の検索には注意を要す.

【癌治療の副作用】97.抗癌剤治療後に末梢神経障害を起こした患者です.

著者: 倉垣千恵 ,   榎本隆之

ページ範囲:P.631 - P.633

1 診療の概説

 神経障害は,化学療法によりしばしば起こりうる副作用の1つであり,中枢神経および末梢神経の双方に対する障害が報告されている.特に末梢神経障害については,ビンカアルカロイドのビンクリスチン,シスプラチンに代表されるプラチナ製剤,そしてパクリタキセルをはじめとするタキサン系抗癌剤において生じやすいことがよく知られており,ときに化学療法の用量規定因子となる 1).これらの薬剤は卵巣癌,乳癌,血液腫瘍などに対して,幅広く抗腫瘍効果を示す薬剤として用いられており,なかでも近年の婦人科悪性腫瘍に対する化学療法に関しては,タキサン系のパクリタキセルおよびプラチナ製剤であるカルボプラチンとの併用療法が卵巣癌に対する標準的治療とされているため,タキサン系薬剤およびプラチナ製剤が用いられる頻度が増している.これらの薬剤の適応が広がり,その有効性のため使用される症例数が増加するにつれて,副作用としての末梢神経障害が高率に発生することが報告されるようになっている 2, 3)

 まず,従来から報告されているシスプラチンにおける末梢神経障害は,用量蓄積性のために400 mg/m2を越える場合に知覚性障害としてしばしば認められる 4).これらの末梢神経障害の多くは治療終了後に出現し,一方,通常運動神経への障害はみられない.神経障害を生じる詳細な機序については不明であるが,神経の軸索変性によるものと考えられている 1).また,プラチナ製剤であるカルボプラチンは,高用量での神経障害の可能性はあるものの,シスプラチンと比較して神経障害性は低いとされる 1)

VI そのほか

【尿失禁】98.咳や労作時に尿が漏れるという腹圧性尿失禁とみられる患者です.

著者: 角俊幸

ページ範囲:P.634 - P.635

1 診療の概説

 尿失禁とは,「尿の無意識あるいは不随意な漏れが衛生的または社会的に問題となったもの」と定義される 1).これは,更年期女性の3人に1人に認められ,その大部分は以下に示す腹圧性尿失禁か切迫性尿失禁もしくはその混合型である.筆者らの調査 2)でも,1992~2000年までに当施設を受診した19,239名中5,160名(26.8%)に何らかの尿失禁症状がみられた.特に,40歳を境に急激にその頻度は増加しており(40~50%),更年期女性にとって尿失禁は大きな悩みの1つであると推測できる.

 腹圧性尿失禁とは,せき・くしゃみ・体動などにより腹圧が急激に上昇し,その結果,膀胱内圧が尿道抵抗を上回り不随意に生じる尿の漏れをいう.更年期の女性の最も多くにみられ,骨盤底筋群の脆弱化,後部尿道膀胱角の開大,尿道括約筋の損傷などがその原因と考えられている.特徴的な症状としては,(1)せき・くしゃみ・笑ったときに漏れる,(2)漏れるのではないかと運動を避け頻繁にトイレに行く,(3)夜は眠れるが寝起きに漏れる,などである.

【尿失禁】99.トイレに行くまでに尿が漏れるという切迫性尿失禁が疑われる患者です.

著者: 角俊幸

ページ範囲:P.636 - P.637

1 診療の概説

 切迫性尿失禁は,一般的に運動性と知覚性に分かれる.運動性は脳血管障害,脳腫瘍,脳外傷など,大脳排尿中枢の障害により橋部排尿中枢への抑制が低下し,その結果ちょっとした膀胱への刺激でも排尿反射が誘発される.知覚性は,排尿中枢は正常であるが,膀胱炎,膀胱腫瘍,膀胱結石などによる極度の尿意が排尿中枢からの抑制を上回るものをいう.

 しかしながら,明らかな障害が認められないにもかかわらず,切迫性尿失禁の症状を呈する場合が多く,このような症状をこれまでは「不安定膀胱」と呼んでいたが,2002年にICS(国際尿禁制学会)より過活動膀胱(overactive bladder:OAB)という概念が提唱されるようになり,これは「尿意切迫感を有する状態を意味し,通常,頻尿・夜間頻尿を伴い切迫性尿失禁の有無は問わない」と定義され 1),不安定膀胱もこの症候群の1つとして解釈されるようになってきた.OABは,他覚的な所見より自覚症状を重視した症状症候群であり,「尿意切迫感」を有するものがすべて当てはまる.尿意切迫感とは,急に起こる,抑えられないような強い尿意で,我慢することが困難な愁訴であり,ただ単に強い尿意があるが我慢できるものとは異なることがポイントである.OABは,尿意切迫感を有するものの尿失禁は伴わないdry OABと,尿意切迫感を有しかつ尿失禁も認めるwet OABに分類され,従来の切迫性尿失禁はwet OABに当てはまることになる.

【接触皮膚炎】100.外陰に湿潤した接触皮膚炎を認める患者です.

著者: 前村俊満 ,   田中政信

ページ範囲:P.639 - P.641

1 接触皮膚炎とは

 接触皮膚炎は,皮膚科の専門領域であるが,産婦人科診療の場で,マイナートラブルとして遭遇する機会の多い疾患である.ときに原因不明で治療困難例や治療効果に乏しい場合には結局,皮膚科紹介となることも多い.接触皮膚炎の臨床症例を挙げ,解説する.

 接触皮膚炎は,外因刺激物(接触源)が皮膚に接触した部位と一致し限局した湿疹反応をきたす状態をいう.分類としては接触源の作用機序により2つに大別される.接触源が直接皮膚構造細胞に刺激・傷害を与える刺激性皮膚炎と,アレルギー反応によるアレルギー性接触皮膚炎とに分類される(表1).

【外陰掻痒症】101.難治性で再発を繰り返す外陰掻痒症の患者です.

著者: 前村俊満 ,   田中政信

ページ範囲:P.642 - P.643

1 痒みの定義そして概念

 外陰掻痒症は,日常診療において若年者から老人まで訴えることのある疾患である.不定愁訴的な患者も多く,診断,治療に苦慮するケースも少なくない.今回は難治性で再発を繰り返す症例を中心に外陰掻痒症について述べる.

 「痒み」は掻痒または痒感ともいわれ,「掻破したいという欲望を起こさせる不快な感覚である」と定義されている 1).掻痒は炎症性疾患のみならず,全身疾患の一症状としても発症することがあり,多種多様な疾患との関連が指摘されている.以前,痒みは痛みの前段階であると考えられていたが,最近,痒みと痛みとは違う神経線維より伝達されていることが明らかになった 2).しかし,痒みと痛みで類似する点も多く,真実の解明はこれからと思われる.

【術後の肥厚性瘢痕】102.肥厚性瘢痕ができやすい体質の患者です.術後,瘢痕ができないように予防してほしいといいます.

著者: 平川俊夫 ,   和氣徳夫

ページ範囲:P.645 - P.647

1 診療の概説

 肥厚性瘢痕とケロイドは,ともに創傷治癒過程の異常によって膠原線維の過剰増殖が生じる疾患である.前者は受傷範囲を越えて拡がることはなく一定期間の増殖の後に自然退縮して萎縮性瘢痕になるのに対して,後者は受傷範囲を越えて周囲組織に拡がり長期にわたって持続性に増大する.しかし,実際には両者の区別はしばしば困難であり,予防・治療の面では同様に扱われている.いずれも外見が醜状であることに加え,時に拘縮により運動機能に制限をきたし,また疼痛や掻痒感が強いために,治療の対象となる.

 肥厚性瘢痕の発生には体質は関与しないと一般に考えられているが,ケロイドの発生には人種差があり(頻度は黒人>黄色人>白人),家族内発生の存在,またアレルギー素因者に多発することから,遺伝的背景の存在が考えられている 1)

【不眠症】103.手術前,極度の緊張で夜眠ることができないという患者です.

著者: 平川俊夫 ,   和氣徳夫

ページ範囲:P.649 - P.651

1 診療の概説

 術前不安の存在は術中・術後の管理に大きく影響を及ぼすので,術前管理に当たっては患者の不安の程度に十分留意しその軽減に努めることが肝要である.実際,術前の不安は術中の代謝の亢進を惹起し,結果として麻酔薬に対する抵抗性を増し被刺激性を高めることにつながるとされている.術前不安が強いほど,術前・術中の脈拍数や血圧の変動は大きく,麻酔の導入・維持管理がより困難であり,より多量の麻酔薬・鎮痛薬を必要とし,術後に頭痛,嘔吐,疼痛などの後遺症を起こしやすく,また術後の入院期間が延長しやすい 1, 2)

 術前不安は,患者自身のボディイメージ変化,機能喪失,麻酔薬の影響,術後疼痛などに対する不安に起因する 2).術後は自分自身で歩けるか,また排尿・排便処理ができるのかとの不安もあり,さらに帝王切開患者にあっては新生児ケア,母乳哺育が可能かなどの不安も大きい 3).婦人科手術を受ける患者については,その手術自体が女性のアイデンティティに深く影響を及ぼす行為であることから,術前不安にはとりわけ特に慎重に配慮する必要がある.

【頻尿】104.膀胱炎ではありませんが,頻尿を訴えている患者です.

著者: 古山将康 ,   錢鴻武

ページ範囲:P.652 - P.655

1 診療の概説

 頻尿は文字通り,排尿回数の増加した状態のことを指すが,尿量の増加(多尿)に伴う排尿回数の増加とは区別される.一般的には一度排尿してもすぐにまた尿意をもよおす,いわゆる「尿意切迫感」を伴う頻尿を指す.水分を多量に摂取して多尿となり一時的に頻回にトイレに行くことは,病的な状態ではない.

 1日の水分摂取量が1,000~1,800 ml程度の健康成人で,1回の排尿量が200~400 ml,昼間の排尿回数が5~7回,夜間に排尿のため起きる回数が0~1回で1日の排尿総量が1,000~2,000 ml程度が通常の排尿の目安である.正常な下部尿路機能は排尿機能と蓄尿機能が交互に起こり,排尿に要する時間(排尿期)はわずかで,ほとんどが蓄尿期である.蓄尿期には特別な努力は不必要で,症状を伴うことはない.頻尿は蓄尿機能の障害と捉えられ,尿意切迫感を伴う状態を「過活動膀胱」として2002年から別に定義されることとなった 1).本稿では広義の頻尿とは区別して尿意切迫を伴う頻尿について述べる.

【性器脱】105.性器脱を認める患者です.手術は絶対に受けたくないといいます.

著者: 古山将康 ,   錢鴻武

ページ範囲:P.656 - P.659

1 診療の概説

 性器脱は骨盤底臓器(膀胱,尿道,子宮,小腸,直腸)が腟口から脱出する状態であり,患者は腟内への臓器の下垂感をおぼえ,腫瘤を触知したり,脱出した腫瘤を視認して来院することが多い.脱出する臓器によって尿道過可動(尿道脱),膀胱脱,子宮脱,小腸脱,直腸脱,会陰体損傷がみられる(図1).その症状は多彩で,下垂に伴う骨盤内臓器の牽引による骨盤内の鈍痛,疝痛や性交障害などを訴える.膀胱脱,特に尿道膀胱移行部の下垂や尿道の支持欠損は尿道の過可動をきたし,腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁をきたす.膀胱脱が進行すると,逆に尿道の過度な屈曲によって排尿困難が主となり,尿失禁は軽減することが多い.残尿が出現し,膀胱炎を繰り返す.排尿困難は増悪すると尿閉をきたす.直腸脱,会陰体損傷は排便困難を呈し,便秘,残便感を訴え,肛門括約筋の障害は便失禁をきたす.

 骨盤底臓器はそれぞれ独立して支持されているのではなく,互いに解剖学的に関連し合って維持されている.腟の軸は下1/3と上2/3は傾きが異なっており,尿道と腟管下部1/3は立位で垂直に近い軸であり,腟管上部2/3と直腸はほぼ水平の傾きをなす.また,尿道,腟管下部1/3,直腸下部は挙筋裂孔を貫き,肛門挙筋の緊張によって恥骨の方向に強く閉鎖される.上部腟管,子宮頸部は仙骨子宮靱帯・基靱帯系によって仙骨の方向に強く牽引されている.腟管上部2/3は恥骨頸部筋膜,直腸腟筋膜が裏打ちし,恥骨から坐骨棘にのびる内骨盤筋膜腱弓に付着して,骨盤側壁に支持される.腟管下部1/3の部分の支持で,肛門挙筋群筋膜,尿道,会陰体に癒合して強度を保つ.これにより,直腸,腟は骨盤底筋とほぼ平行に保たれ,腹腔内圧を腟管,直腸,骨盤底筋で受け止めて,臓器の脱出を防止する.

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編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.666 - P.666

 先日大阪地方裁判所から,大学病院での手術および電子化された診療録の実態を見学したいという要請があり,4日間で計22名の裁判官および書記官が,外科系全科にわたる手術10数件を見学しました.もちろん手術手技についてではなく,患者さんの移動・受け入れ,認証手順,手術部および個々手術室の構造,麻酔機器や手術器具の準備,麻酔導入,要員の配置,輸血・輸液の手順などについての見学が主体で,最終日の夕刻には,医療安全部の主催で医療訴訟についての講演会を開催しました.

 現在新規の医療訴訟は年間約1,000件で推移しており,内科,外科で全体の50%を占め,産婦人科や整形外科がそれぞれ10%程度という数字はここ数年あまり変わらないようです.長引く裁判は医師,患者双方にとって大きな精神的・身体的負担となるため,期間短縮を目指して全国7か所に医療集中部が設けられています.迅速な審議と鑑定人選定などを行った結果,昨年の大阪地裁の医療訴訟審理期間は4~5年前に比べて10か月以上短縮して14.8か月となっており,今後も審議短縮のために鑑定に協力して欲しい(これが一番言いたかったことか)と要請されました.胃癌診断の遅れでの死亡例を模擬事例とした民事訴訟(損害賠償請求)のビデオ「医療訴訟は現在~大阪地裁医事事件集中部における取り組み」の解説もあり,最近では鑑定人の選定や鑑定方法を工夫し,ときにはグループ鑑定を行い鑑定結果の妥当性も慎重に検討していること,そして医療訴訟の半数以上は判決ではなく和解で解決されていることなどの話がありました.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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