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文献概要
今月の臨床 母体救急
法制からみた産科リスクマネジメント
著者: 谷昭博1
所属機関: 1北里大学医学部産婦人科
ページ範囲:P.700 - P.703
文献購入ページに移動はじめに
日本産婦人科医会が行った医療事故・医事紛争収集結果では分娩事故が産婦人科医療事故の約7割を占める.そのうちの36%が分娩に伴う母体異常で,60%が分娩に伴う新生児異常であった1).このことは分娩事故,すなわちほとんどの周産期救急が産婦人科医事紛争の中心であることを示している.
分娩時のリスクマネジメントを困難にしている背景は,まず妊娠分娩の絶対的な安全性の向上によってそれを当然視する風潮が患者側にあることが挙げられる.分娩の結果が期待と異なった場合,それが稀であるという理由で何らかの過誤の存在が疑われがちになる.
一方,医療側にも,(1)小中規模施設では,稀に発生する緊急事態(母体大量出血など)に適切に対応する体制を継続的に維持することが困難である,(2)現場の医師の高齢化と絶対数の減少のために,医療レベルの維持が困難となっている,(3)現場は多忙をきわめており,現代の医療に必要不可欠な十分な説明と同意を実施する体制となっていない(言い訳にはならないが,人手不足のために産婦人科の臨床現場が現代医療の標準から取り残されつつある可能性がある),といった要因もある.
このような背景でひとたび医療事故が生じた場合の争点は,分娩監視義務違反と十分な分娩時のリスクに対するインフォームド・コンセントがなされていたかどうかに大別される.
英国における大規模な医療事故調査において集積された医事紛争へつながる誘因に関与する事故キーワードは2),母体側誘因としては,(1)1,500 ml以上の出血,(2)8 g/dl未満のHb濃度,(3)臍帯トラブル,(4)分娩第二期遷延(初産3時間,経産1時間),(5)子癇発作,(6)集中治療室(ICU)入室,(7)母体死亡,(8)三度以上の会陰裂傷,(9)吸引・鉗子分娩の不成功である.
また,胎児・新生児側誘因としては,(1)apgar score<7点,(2)分娩外傷,(3)臍帯動脈pH<7.2,(4)新生児死亡,新生児痙攣,(5)500 g以上の子宮内胎児死亡,(6)妊娠34週以降のNICU入室,(7)肩甲難産が挙げられる.
また,システム欠陥による誘因としては,(1)スタッフ(オンコール)への連絡遅延,(2)30分以上の緊急帝王切開施行遅延,(3)設備の欠陥・不備,(4)医療従事者間の対立,(5)医療従事者─患者間の信頼関係の喪失,(6)処方ミス,(7)プロトコール違反である.これらの結果から分娩管理におけるリスクマネジメントとしてわれわれが取り組まなければならないものは,(1)胎児機能不全の検出と対応システムの構築,(2)産科ショック・出血をはじめ産科救急への対応システムの構築,(3)信頼関係の構築のための十分なインフォームド・コンセントといえよう.(1),(2)に関してはすでに諸兄が,紛争発生時常に問題となる“医療水準”の認識のために諸外国も含めたガイドラインや日産婦学会「産婦人科研修の必修知識」,日産婦医会「研修ノート」などを学習・活用されているはずであり,救急対応システムは行政も含め密なる連携を深めるよう努力すべき問題であるため誌面の都合もあり論ずることは避けたい.
日本産婦人科医会が行った医療事故・医事紛争収集結果では分娩事故が産婦人科医療事故の約7割を占める.そのうちの36%が分娩に伴う母体異常で,60%が分娩に伴う新生児異常であった1).このことは分娩事故,すなわちほとんどの周産期救急が産婦人科医事紛争の中心であることを示している.
分娩時のリスクマネジメントを困難にしている背景は,まず妊娠分娩の絶対的な安全性の向上によってそれを当然視する風潮が患者側にあることが挙げられる.分娩の結果が期待と異なった場合,それが稀であるという理由で何らかの過誤の存在が疑われがちになる.
一方,医療側にも,(1)小中規模施設では,稀に発生する緊急事態(母体大量出血など)に適切に対応する体制を継続的に維持することが困難である,(2)現場の医師の高齢化と絶対数の減少のために,医療レベルの維持が困難となっている,(3)現場は多忙をきわめており,現代の医療に必要不可欠な十分な説明と同意を実施する体制となっていない(言い訳にはならないが,人手不足のために産婦人科の臨床現場が現代医療の標準から取り残されつつある可能性がある),といった要因もある.
このような背景でひとたび医療事故が生じた場合の争点は,分娩監視義務違反と十分な分娩時のリスクに対するインフォームド・コンセントがなされていたかどうかに大別される.
英国における大規模な医療事故調査において集積された医事紛争へつながる誘因に関与する事故キーワードは2),母体側誘因としては,(1)1,500 ml以上の出血,(2)8 g/dl未満のHb濃度,(3)臍帯トラブル,(4)分娩第二期遷延(初産3時間,経産1時間),(5)子癇発作,(6)集中治療室(ICU)入室,(7)母体死亡,(8)三度以上の会陰裂傷,(9)吸引・鉗子分娩の不成功である.
また,胎児・新生児側誘因としては,(1)apgar score<7点,(2)分娩外傷,(3)臍帯動脈pH<7.2,(4)新生児死亡,新生児痙攣,(5)500 g以上の子宮内胎児死亡,(6)妊娠34週以降のNICU入室,(7)肩甲難産が挙げられる.
また,システム欠陥による誘因としては,(1)スタッフ(オンコール)への連絡遅延,(2)30分以上の緊急帝王切開施行遅延,(3)設備の欠陥・不備,(4)医療従事者間の対立,(5)医療従事者─患者間の信頼関係の喪失,(6)処方ミス,(7)プロトコール違反である.これらの結果から分娩管理におけるリスクマネジメントとしてわれわれが取り組まなければならないものは,(1)胎児機能不全の検出と対応システムの構築,(2)産科ショック・出血をはじめ産科救急への対応システムの構築,(3)信頼関係の構築のための十分なインフォームド・コンセントといえよう.(1),(2)に関してはすでに諸兄が,紛争発生時常に問題となる“医療水準”の認識のために諸外国も含めたガイドラインや日産婦学会「産婦人科研修の必修知識」,日産婦医会「研修ノート」などを学習・活用されているはずであり,救急対応システムは行政も含め密なる連携を深めるよう努力すべき問題であるため誌面の都合もあり論ずることは避けたい.
参考文献
1) 社団法人日本産婦人科医会(編) : 産婦人科医療事故防止のために.平成16年11月
2) Holden DA, Quin M, Holden DP : Clinical risk management in obstetrics. Curr Opin Obstet Gynecol 16 : 137-142, 2004
3) 日本法医学会 :「異状死」ガイドライン.日法医誌48 : 357-358,1994
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