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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科61巻7号

2007年07月発行

雑誌目次

今月の臨床 中高年女性のトータルヘルスケア 更年期障害と関連疾患

1.更年期障害─その実態とケア

著者: 安井敏之 ,   上村浩一 ,   苛原稔

ページ範囲:P.877 - P.881

国内外における更年期障害の実態

 閉経周辺期には更年期障害として多種多様の症状がみられる.徳島大学更年期外来を受診した更年期障害を有する女性の症状を図1に示したが1),ほてりや発汗といった血管運動神経症状が多く,そのほかにも多彩な症状がみられる.また,これらの症状の程度は患者ごとに異なり,存在する症状も1つではなく複数にまたがり,症状の組み合わせも異なる.一方,海外においてはhot flashes,depressed mood,sleep symptoms,sexual symptoms,cognitive symptoms,vaginal symptoms,urinary symptoms,somatic symptomsなどに分類されることが多く,調査方法によっても異なるが,それぞれの頻度を閉経状態に分けて示すと表1のようになる2)

 更年期障害の原因は,エストロゲンの減少とともに,環境因子や性格も関係する.

2.うつを見逃すな

著者: 大藏健義

ページ範囲:P.882 - P.885

はじめに

 WHOからの報告によると,うつ病の発症頻度は男性5~12%,女性10~24%であり,女性が男性の2倍である1).女性のうつ病は,いずれもホルモン変動の大きい月経前期,分娩後,および更年期の3つの時期にそれぞれ発症のピークがある2).更年期のうつ病は,更年期外来受診者または更年期障害患者の23.7~28.4%に合併しているとされる3~5).また,うつ病またはうつ状態の初診診療科は内科が圧倒的に多く64.7%を占めるが,ついで婦人科が9.5%,脳外科が8.4%と続く6).このように,うつ病は婦人科医にとっても重要な疾患であるが,更年期外来では更年期障害としてひとまとめにされ,うつ病が見逃されている可能性も少なくないと思われる.

 本稿では,婦人科医が日常診療で接することが多い更年期女性のうつ病について,疫学,診断,および治療について概説する.

3.ぼけ,アルツハイマー病は防げるか

著者: 岩佐弘一 ,   本庄英雄

ページ範囲:P.887 - P.891

はじめに

 痴呆は,今や高齢化の進行している先進諸国においては深刻な社会問題となっており,本稿のテーマである痴呆の予防には,今後ますます関心が寄せられるであろう.痴呆の予防という,一見婦人科にとっては無縁の領域にどのように関与すべきであるのか.閉経後女性におけるホルモン補充療法(HRT)を通じて検討する.近年,有害事象のほうばかりに着目されがちなHRTであるが,こと痴呆の予防に関しては,基礎的にも臨床疫学的にも数多の有力なエビデンスが蓄積している.もちろん,現状では痴呆の予防ためだけにHRTを行うことについてコンセンサスが得られているわけではないが,HRTを中高年女性のヘルスケアに上手に利用することで,必ず痴呆の予防につながると筆者らは信じている.

 痴呆の大半を占め有名なのが脳血管性痴呆,アルツハイマー病である.痴呆は退行性に症状や病態の悪化をきたし,有効な治療法もないため,予防に重点が置かれる.脳血管性痴呆は動脈硬化,血栓による脳虚血が神経細胞死をもたらすものである.ADは多くの因子が重なって発症するものと考えられ,脳血管性痴呆と同様に脳血管性障害による脳虚血もその一因と考えられる.病理組織学的所見からは,アミロイドの過剰沈着が重視されている.アミロイド斑は神経細胞毒性を有する.アミロイドの過剰沈着をきたす原因として,presenilin─I,II,apolipoproteinee4などの遺伝因子や,アストロサイトの貪食能低下など免疫系の関与も考えられている.いずれにしても,血管障害をきたす高血圧,高脂肪血症,糖尿病(DM),肥満に注意し,喫煙しないようにすることが痴呆の予防につながると考えられる.ADに関しては,原因が明でないため有効な予防手段が講じられていない.

皮膚の老化

気になる皮膚の衰え

著者: 佐々木哲雄

ページ範囲:P.892 - P.895

はじめに

 皮膚の老化は,年齢に伴う生理的老化と光による光老化の二種類がある.非露光部(臀部など)では前者だけであるが,顔面などの露光部では両者が相加された結果として非露光部ではみられない特有の皮膚症状を呈してくる1).本稿では,実際に皮膚科外来に受診する中高年女性の訴えとして多い皮膚の老化症状について,特にその予防も含めて具体的に紹介したい.

性器脱

性器脱の治療方針は

著者: 古山将康

ページ範囲:P.896 - P.899

中高年女性のヘルスケアにおける性器脱治療の重要性

 わが国は現在65歳以上の人口は2,682万人で,総人口(1億2,776万人)の21%が65歳以上という超高齢化社会を迎えている.高齢者の行動範囲はますます広がり,successful aging,quality of life(QOL)を維持するヘルスケアは今後さらに重要となってくる.日本人の閉経年齢は50.5歳であり,性成熟期を終えた女性は更年期,高年期,老年期と30年以上の人生が待っている.更年期障害のなかでも発汗,のぼせなどの自律神経失調症状は一定の時期を過ぎれば回復していくが,本稿のテーマである骨盤底の弛緩に伴う性器脱(pelvic organ prolapse : POP)や排尿障害などは更年期以降に発症することが多く,以後ずっと持続するため,これらの疾患のため行動範囲を制限せざるを得なくなり,QOLは著しく低下することとなる(図1).

 米国の統計では,成人女性が一生の間に性器脱や尿失禁などの骨盤底の弛緩による疾病のために一度以上何らかの治療を受ける頻度は11%と推定される1).年間163億ドルが消費され,そのほとんどは尿漏れ用のパッドや大人のおむつに消費されているのが現状であり,高齢化が続く限り増大する社会的コストである2)

骨盤底機能障害

尿失禁治療のベストチョイス

著者: 巴ひかる

ページ範囲:P.901 - P.904

はじめに

 尿失禁は,国際禁制会議(International Continence Society : ICS)で討議され2002年に新しく用語基準で定められた「下部尿路症状(lower urinary tract symptoms : LUTS)」のなかで,代表的な蓄尿症状である1).女性の尿失禁の発生率は12~45%とされるが,近年ノルウェーで行われた大規模なコホート研究であるEPINCONT studyによると20歳以上の女性の尿失禁罹患率は25%であり2),日本における疫学的研究でも40歳以上の女性の尿失禁罹患率は43.9%と高率であった3)

 女性の尿失禁は,おもに腹圧性尿失禁(stress urinary incontinence : SUI),切迫性尿失禁(urge urinary incontinence : UUI)とこれら2つを併発する混合性尿失禁(mixed urinary incontinence : MUI)の3つのタイプに分類され,全体の90%以上を占める.本稿では,代表的な尿失禁であるSUIとUUIおよびUUIの最大の原因である過活動膀胱(overactive bladder : OAB)の病態と治療について述べる.

骨粗鬆症

1.閉経後骨粗鬆症─実態と診断

著者: 保坂博章 ,   龍野一郎

ページ範囲:P.905 - P.909

はじめに

 骨粗鬆症は高齢者のADLやQOLを阻害する代表的疾患の1つで,わが国では約1,000万人が罹患していると推定されるが,50歳以上の女性に限ると約650~850万人にのぼり圧倒的に女性に多い疾患である.

 骨粗鬆症は1993年の香港におけるコンセンサス会議で「骨量の低下と骨微細構造の劣化を特徴とし,骨強度が低下し,骨折リスクの増大した状態」と定義づけられていたが,近年骨粗鬆症を考えるうえでは,年齢・既存骨折の存在・骨代謝回転関与など骨折の発生にかかわる危険因子全体を検討することが重要であると考えられるようになってきた.このような流れのなかで2000年に開かれたNIH(米国国立衛生研究所)のコンセンサス会議では,骨粗鬆症の定義が「骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と改められた.「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり,骨強度のほぼ70%は骨密度で,残りの30%は骨質で説明されるものとし,以前よりも骨質の重要性を強調したものとなっている.

2.骨粗鬆症治療薬の選択基準は

著者: 岩本潤 ,   市村正一

ページ範囲:P.910 - P.915

はじめに

 骨粗鬆症と診断された患者に対して薬物治療は必須である.本邦では閉経後の骨粗鬆症患者に対する治療薬として,アレンドロネート,リセドロネート,エチドロネートなどのビスフォスフォネートやラロキシフェン,活性型ビタミンD3,ビタミンK2,カルシトニン,女性ホルモンなどが使用されている.本稿では閉経後の骨粗鬆症患者におけるevidence─based medicine(EBM)に基づいた薬物治療と治療薬の選択基準について概説する.

メタボリックシンドローム

1.もっと気にしてほしい肥満

著者: 高橋一広 ,   高田恵子 ,   吉田隆之 ,   倉智博久

ページ範囲:P.916 - P.919

はじめに

 女性にとって太るということは美容上大きな関心事である.特に若い女性では太ることを気にするあまり,20歳代の女性の2割以上が“やせ”の状態である.しかし40歳以後には年齢とともに肥満者の割合が増加してくる.肥満は美容上の問題だけではなく,女性の生殖機能に大きくかかわっている.女性の肥満で性成熟期から問題となるのは,(1)肥満と月経異常・妊孕力低下,(2)妊娠中の肥満と妊娠合併症の増加,(3)閉経後の肥満とメタボリックシンドロームおよび子宮体癌・乳がんの増加,などである.本稿では特に上記(3)の「閉経後の肥満」を取り上げる.

2.閉経後の高コレステロール血症─MEGAスタディが教えるもの

著者: 朝倉正紀 ,   北風政史

ページ範囲:P.920 - P.923

はじめに

 日本においては欧米に比較して心筋梗塞をはじめとした虚血性心疾患罹患率は低いとされている.女性の虚血性心疾患の発症率は男性と比較して少ないため,高コレステロール血症を有する女性に対して,男性に対して行われる薬物療法と同様に行うべきか否かに対しては,はっきりとしたエビデンスがなく,議論の的になっている.しかしながら,近年の生活習慣の欧米化により,虚血性心疾患の危険因子を合併する人口の増加とともに,複数の危険因子を抱える虚血性心疾患症例が増加していると考えられる.最近,閉経後の女性における高コレステロール血症に対する薬物療法による冠動脈疾患の発症率軽減効果を検討したMEGA試験のサブ解析が報告された.本試験の結果は,世界ではじめて,閉経後の女性において,スタチンが冠動脈疾患の発症を抑制することが可能であることを示唆した臨床試験となった.本試験の概要,結果について解説する.

3.閉経後の高トリグリセリド血症─FIELDスタディが教えるもの

著者: 若槻明彦

ページ範囲:P.924 - P.927

はじめに

 女性の場合,閉経年齢を過ぎるとLDLが蓄積し,心血管疾患のリスクが高くなるこが報告されているが,トリグリセリド(TG)についてはあまり注目されてなかった.しかし近年,血中TG値が高値になると,LDLの小粒子化やレムナントの増加,善玉のHDLコレステロールの減少,血栓症の増加など動脈硬化に悪影響を及ぼすことがわかってきた.本稿では女性の高TG血症の頻度や冠危険因子,閉経後の脂質代謝特性,さらにはフェノフィブラートで最近行われた臨床試験の成績とその解釈について概説する.

4.婦人科医に求められる高血圧のケア

著者: 柴田洋孝

ページ範囲:P.929 - P.933

はじめに

 中高年,特に閉経後女性では,急激に心血管疾患のリスクが増加することが知られている.これらの背景には,内臓肥満,高血圧,血清脂質異常,耐糖能異常などの動脈硬化危険因子が,軽度であっても特定の個人に重積して,心血管病の発症率が高まることから,これらの病態は近年,メタボリックシンドロームと呼ばれている.本稿では,メタボリックシンドロームを示す中高年女性における高血圧の病因およびその治療について概説する.

5.糖尿病を見逃すな

著者: 石井新哉 ,   及川眞一

ページ範囲:P.935 - P.937

はじめに

 糖尿病はインスリンの作用不足あるいは絶対的欠乏による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患であると定義されている.2型糖尿病はインスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす素因を含む遺伝因に,過食(特に高脂肪食),運動不足,肥満,ストレスなどの環境因子および加齢が加わり発症する.1型糖尿病では,インスリンを合成・分泌する膵ランゲルハンス島β細胞の破壊・消失がインスリン作用不足の主な原因である.軽度の血糖上昇では自覚症状に乏しく,持続する中等度以上の高血糖により,口渇,多飲,多尿,体重減少などの特徴ある症状を呈する1)

6.閉経は動脈硬化症の大きなリスクである

著者: 河野宏明

ページ範囲:P.939 - P.943

はじめに

 虚血性心疾患は,欧米では女性の最多の死因である.わが国においても心疾患は,がん,脳血管障害と併せて,女性の全死因の5割を大きく超える.女性の虚血性心疾患は閉経後に増加する.このことは,内因性女性ホルモンが動脈硬化進展を抑制していると考えられる.また,女性の心筋梗塞は男性に比較して重症になりやすいこともよく知られており,近年,女性の危険因子とその管理が注目されている.閉経前女性といえども,将来の動脈硬化性疾患の発症を減少させるために,生活習慣の管理に留意すべきである.妊婦に対しても,妊娠中の厳重な体重管理と禁煙を強く奨励する.さらに,分娩後も再発しないように強く奨励しなければならない.

連載 産婦人科MRI 何を考えるか?・1【新連載】

卵巣腫瘤の精査

著者: 山岡利成

ページ範囲:P.873 - P.875

 前医にて8.5cm大の左卵巣腫瘤を指摘され,精査目的で紹介された26歳の女性である.T1強調像で著明な高信号を呈する腫瘤の鑑別は類皮嚢腫と内膜症性嚢胞に絞られる.両者を鑑別する目的で,通常はT1強調像の脂肪抑制画像が撮影されるが,T2強調像に脂肪抑制法が併用されることがある.

 呈示した画像は,低磁場装置でも良好な脂肪抑制効果が得られるSTIR法で撮影されたT2強調像である.問題の腫瘤は皮下脂肪と同程度の低信号を呈している.この2枚の画像から診断を絞り込んでもよいであろうか.

OBSTETRIC NEWS

最も有効性の高い避妊方法 : Mirena

著者: 武久徹

ページ範囲:P.947 - P.949

 何も避妊方法を使わないと1年以内に35%は妊娠する.日本に比べ,米国では多くの避妊方法が使用許可されている.それぞれに利点と欠点があるが,各避妊方法別の1年目の失敗率は,殺精子剤29%,コンドーム15%,経口避妊薬3%であり,銅付加子宮内避妊器具(IUD)は0.8%,黄体ホルモン放出子宮内避妊装置(IUS)は0.1%である(Contraception 71 : 319, 2005/70 : 89, 2004).参考までに,日本で使われているIUD(非薬剤付加.プレイン)の失敗率はFD-13.7%,優性リング2.5%と高率である.

 子宮内避妊用リング(IUD)は安全で有効な長期使用ができる避妊方法である.米国では2つのIUDが利用できる.Coopper T 380Aとlevonorgestrel(レボノルゲストレル)子宮内システム(日本商品名Mirena)である.しかし,米国でIUDを使っている女性は少数である.その理由は,1970年にダルコンシールドが米国で発売され間もなく,敗血症性流産や骨盤内炎症性疾患の報告があり医療訴訟が多発し,販売会社は莫大な訴訟費用の懸念が発生したため,1988年までに1社のIUDを除いてすべて完全に米国市場から撤退したためである.

病院めぐり

岡山市立市民病院

著者: 小橋勇二

ページ範囲:P.950 - P.950

 岡山市立市民病院は,昭和11年に天瀬診療所を発展的に解消し,一般病床45床の市民病院として開設されました.昭和41年に市立産院を吸収し産婦人科が産声をあげたころには,一般病床254床,結核病床24床となっていました.以後増改築を繰り返し,現在では21診療科,病床数396床(結核病床12床,感染症病床6床を含む),常勤医師56名,研修医10名の所帯となっています.昭和31年建築の南館を筆頭に建物の老朽化が激しく,院内では早急な建て替えが望まれていますが,全国の公立病院と同様に経営状態は厳しく,市議会では病院の存続自体が議論される始末,何とか存続は決定したようですが病院の全面移転・新築には難問が山積の状態です.そんななか,われわれは市民に信頼され期待される病院であり続けるために,「心の通い合う医療」「質の高い安全な医療」の提供を目指して日夜努力しています.

 産婦人科は現在常勤医師が2名,病床は30床ですが,入院患者は10人前後のため,病棟は混合病棟と化しています.分娩数は年間120例ほどですが,市中の開業医に比して分娩費用が割安なため,劣悪なアメニティを我慢してでも安価にすませたい患者と,万一の場合に備え総合病院としての高度な医療を期待して来る患者の二極に分かれているようです.そのため,分娩費用が援助される助産制度の利用者が多い(約1/4が利用),生活の自立していない10歳代の分娩が多い(全国平均1.7%,当院8.3%)という特徴があります.一方でこのような患者は初診時期が遅い,検診回数が少ない,病識が乏しいことが多く,そのため異常の発見の遅れ,指導内容が守れず症状が悪化するなど異常出産となる比率が高く,予断を許しません.また,出産後も育児放棄・虐待などの監視が必要なケースも多く地域の保健婦・ケースワーカーと連携し,対応しています.

広島市立広島市民病院

著者: 吉田信隆

ページ範囲:P.951 - P.951

 厚生省は昭和27年8月,原爆の廃墟の町広島の復興と医療の充実と社会保険の普及を目的として「社会保険広島市民病院」を建設し,その運営を広島市に託しました.それが当院で,その後平成15年4月からは社会保険庁とは関係を絶ち,「広島市立広島市民病院」として再出発しております.立地としては,広島市の中心部で原爆ドームや広島城がすぐ近くにあります.

 総病床数は725床で,診療科は26科,救命救急センター・ICUもあり,18名の麻酔医もいますので,救急体制は万全です.特に大学附属病院以外の公的病院のICUとしては非常に充実していると思います.カテーテル室も4室あり,産科出血の場合の子宮動脈塞栓や,母胎搬送で非常に問題の多い症例にも対応可能です.

Estrogen Series・75

ホルモンと乳癌の関係について

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.953 - P.953

 エストロゲン単剤使用時には乳癌の増加はみられないが,エストロゲン+プロゲスチンの5年以上の使用時には乳癌増加がみられる.プロゲスチンの併用は子宮内膜癌の発生を防止するためになされるが,それによる乳癌の発生率のほうが大きいのではないであろうか.いい換えると,内膜癌を防止するプロゲスチン併用により,内膜癌症例数よりも多数の乳癌例をもたらすことになるのではないかということである.

 米国における更年期後女性の乳癌発生率は1,000人につき4人に近づいている.

もうひとつのインドネシア―セックスワーカーを通してみたリプロダクティブヘルス・6

ジャムウによる人工妊娠中絶

著者: 東梅久子

ページ範囲:P.956 - P.957

禁じられた人工妊娠中絶

 人工妊娠中絶が法律で禁じられているインドネシアでは,妊娠がわかったときにひそかに自ら手を下すことを考える女性は少なくない.

 人工妊娠中絶の手段として,人工妊娠中絶に効果的であるとされる食品の大量摂取や,腟内への異物の挿入とならんでジャムウjamuもインドネシアでは一般的に試みられている.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・23

Prolactinoma合併妊娠の1例

著者: 松林滋

ページ範囲:P.959 - P.963

症例

 患者:32歳,主婦

 既往歴・家族歴:2003年に,東京都内の大学病院にて下垂体腺腫(prolactinoma)と診断されたが(直径1.5cmのmacroadenoma),手術を行うことができず,薬物療法中であった〔カベルゴリン(カバサール(R))〕.

 妊娠・分娩歴:2経妊・0経産(2回自然流産)

 月経歴:25~28日・順

 現病歴:2006年1月下旬最終月経,2005年12月中旬から5日間で妊娠5週と診断された.前回2回とも流産の既往があったため,妊娠前半期は慎重に管理し,今回は流産徴候もなく,胎児発育も順調であった.初診時での血中プロラクチン値(PRLと略)は82ng/ml(正常値:6.1~30.5ng/ml)であった.

原著

子宮内手術操作後に顕在化するクラミジア感染症

著者: 宮内文久 ,   大塚恭一 ,   南條和也

ページ範囲:P.965 - P.970

 子宮内容清掃術などの術後に発生する子宮内膜炎,子宮付属器炎は,患者のみならず手術医にとっても大きな問題であり,今回はクラミジア感染症との関連について検討した.

 2003年1月から2004年12月までの期間に子宮内の手術操作を受けたのち,発熱,下腹部痛,出血を訴えて受診した37例を検討対象とした.子宮内膜炎や子宮付属器炎などと診断したのは25例であり,残り12例は感染症とは考えられず経過観察が可能と診断した.感染症と診断した25例中16例はクラミジア単独感染症と,B群溶連菌や大腸菌などとの混合感染症を3例に認め,残り6例は細菌だけの感染症であった.クラミジア単独感染症16例の白血球数は6,870±670/mm3であり,CRP値は0.56±0.26 mg/dlであった.子宮内手術操作後の感染症の多くはそれまで潜行していたクラミジア感染症が顕在化したものであり,不潔な手術操作に由来する症例は少ないと考えた.

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編集後記

著者: 倉智博久

ページ範囲:P.978 - P.978

 最近,Women's Health Initiative(WHI)の再解析結果が発表されました(Rossouw JE, Prentice RL, et al : JAMA 297 : 1465, 2007).これは,HRTは閉経後早期から始めれば心血管系疾患を抑制する傾向がみられ,総合的な「好ましさ(global index)」もよい傾向を示したというものです.そもそも,2002年のWHIの研究デザインについては,対象年齢が一般的なHRTの施行とかけ離れて高齢であることに疑問の声が上がっていました.ほかの研究でも,閉経早期からHRTを開始すれことが好ましいとの結果も発表されています.

 HRT施行の可否についての,最近10数年間の論議を振りかえってみますと,1990年代の「HRTはとにかくよい.すべての閉経後女性に施行すべき」から,2000年に入ると「HRTは危険であり,できるだけ施行すべきでない」,そして現在は,「更年期症状などを勘案して,個別化して施行すべき」と,大きく変遷しました.物事の考え方は,左右に大きく振れてちょうど真ん中に落ち着くという典型的な例かも知れません.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

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今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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