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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科61巻8号

2007年08月発行

今月の臨床 産科超音波診断─正診への道筋

妊娠初期

3.NTの正しい計測法と患者への説明

著者: 増崎英明1

所属機関: 1長崎大学医学部産婦人科

ページ範囲:P.1003 - P.1009

文献概要

はじめに

 Nuchal translucency(以下,NTと略)とは,妊娠初期の胎児を超音波検査で観察する際,後頸部に存在する低エコー域のことである(図1).

 NTそのものはすべての胎児が有する所見であるが,この低エコー域が通常の胎児に比べて厚くなっているときは,染色体異常や心奇形などの可能性があるとされている.欧米におけるNTの取り扱いは,出生前診断のマーカーの1つであって,母親の年齢や母体血清マーカー試験などと組み合わせて用いられている.その背景には,長年培われてきた出生前診断のシステムが存在しており,専門家による遺伝カウンセリングや心理士によるフォロー体制が充実している.つまりNTが臨床応用される以前から,欧米では混乱なく受け入れられる素地はできあがっていたといえる.

 一方,わが国では,欧米で行われている出生前診断システムの技術的側面は取り入れたものの,肝心の出生前診断の運用システム(カウンセリングやフォロー体制)を軽視したことから,一般の臨床において種々の混乱を生じていることは否めない.母体血清マーカー試験については現場における諸種の混乱から,国は自粛を求めたが,NTについても同じことがいえそうである.

 また,NTについては膨大な論文があるものの,そのほとんどは欧米からの報告であって,ただちにわが国の胎児に適応しうるか否かは必ずしも明らかでない.NTが極端に増大した胎児に染色体異常や心奇形を伴う例の多いことは事実だが,NT増大の程度と胎児異常との関連は年齢などのほかの因子を抜きには語れない.わが国の出生前診断は,カウンセリングやサポート体制が整っているとはいい難く,このような状況を考慮すると,NTと胎児異常との関連を強調し過ぎることはむしろ慎むべきではないかと筆者は考えている.

 本稿では,基礎的にも臨床的にも多くの問題を抱えるNTを取り上げ,主に英国で行われている実際の計測法や精度管理について述べるとともに,わが国でNTを臨床応用するに際して注意すべき問題点についても言及したい.

参考文献

1)増崎英明:エコーによる胎児評価-特に発育,形態異常の評価.日産婦誌58:N177-N181,2006
2)恩田威一,北川道弘,飯沼和三:トリプルマーカー・スクリーニング検査.医歯薬出版,東京,pp1-26,1999
3)増崎英明:染色体異常.臨床産科超音波診断.メディカ出版,大阪,pp175-177,1998
4)Nicolaides KH, Sebire NJ, Snijders RJM:The 11-14 week scan, Parthenon Publishing, London, pp3-65, 1999
5)長崎遺伝倫理研究会編:周産期カウンセリングの必要性.遺伝カウンセリングを倫理する-ケーススタディ.診断と治療社,東京,pp43-52,2005

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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