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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科61巻9号

2007年09月発行

雑誌目次

今月の臨床 臨床遺伝学─診療に必要な最新情報

臨床遺伝学の基礎

著者: 新川詔夫

ページ範囲:P.1098 - P.1105

はじめに

 遺伝学は本来,個体や生物種の遺伝(heredity)と多様性(variation)を研究する分野であったが,最近は表現型に依存しないで遺伝子発現の差異などを研究する分子遺伝学的手法が開発されたため「遺伝子の記述」が主たる任務となりつつある.近年の臨床遺伝学の分子化によって明らかになった主な新しい遺伝学的概念は以下のようなものである(表1).(1)単一遺伝子病だと思われていた形質が2個以上の遺伝子によることがある(寡因子遺伝,遺伝子発現修飾因子),(2)1つのアレルが複数の表現型を表すことがある,(3)複数の表現型が1つの遺伝子で支配される(多面発現),(4)同一遺伝子内の変異が異なることによって表現型が優性になったり劣性となったりする,(5)体細胞レベルで変異が証明できないのに,複数の子供が罹患することがある(性腺モザイク),(6)子供の相同染色体が両方とも片親から由来することがある(片親性ダイソミー),(7)世代が進むと重症化する現象がトリプレットリピートの伸張と関係する(遺伝的表現促進),(8)一部の遺伝子は,由来する親の違いによってその発現の程度が異なる(ゲノム刷り込み),(9)発癌感受性という表現型は優性だが,細胞レベルにおける発がん機構は劣性(細胞性劣性)などである.

 このように,臨床遺伝学も形質遺伝学から分子遺伝学へ変貌を遂げつつあるが,メンデル遺伝と細胞遺伝学の原理なくしては分子遺伝学も理解されないので,本稿では最近の進歩を交えながら臨床遺伝学の基礎を概説する.

産婦人科診療での臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーの役割

著者: 山内泰子 ,   金井誠 ,   福嶋義光

ページ範囲:P.1106 - P.1113

はじめに

 近年の産婦人科診療において,遺伝医学的対応が求められる場面が急増している.従来から実施されていた羊水検査や母体血清マーカー検査などは妊婦やその家族が読む一般雑誌に多く記載されているが,必ずしも妊婦やその家族に正しく理解されておらず,産婦人科医が対応に困るケースもある.一方,胎児の超音波検査の精度が高まり,思いがけない胎児の異常を観察したり,nuchal translucency(NT)の肥厚をはじめとする胎児の異常とはいえないが無関係ともいえない,説明の困難な所見が検出されることもあり,多くの産婦人科医がその対応に苦慮している.また,疾患にかかわる遺伝子やその変異が特定されるようになり,これらにかかわる出生前診断の相談や遺伝学的検査の問い合わせも寄せられる.多くの産婦人科医が出生前診断にかかわらず挙児や妊娠継続の不安を持つ妊婦やその家族の相談を受け,時間をかけた診察と説明を行いたいと思っている.しかし,多忙な産婦人科医師が多くの時間を割くことは難しいのが現状であり,産婦人科の医師数が少ないことも大きな問題である.

 遺伝医学の進歩に伴い,日本でも上記のような相談に対応できる遺伝カウンセリングが始まっている.遺伝カウンセリングとは,「遺伝性疾患の患者・家族またはその可能性のある人に対して,生活設計上の選択を自らの意思で決定し行動できるように臨床遺伝学的診断を行い,医学的判断に基づき適切な情報を提供し,支援する医療行為」である〈鈴木友和,他 : わが国における遺伝カウンセリングのあり方について,平成11年度厚生科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「遺伝医療システムの構築と運用に関する研究」(主任研究者 : 古山順一)〉.

 産婦人科医師と遺伝の専門家が協力して,胎児検査や出生前診断などに対する正確な情報提供を行うことで,来談者が納得を得られる遺伝カウンセリングと,よりよい産婦人科医療が提供できるのではないだろうか.産婦人科医が信頼のおける遺伝の専門家を得て,遺伝カウンセリングを託することができれば,産婦人科医はより専門性の高い領域に本来の力を注げるということである.

 このところ,国内でも遺伝医療に携わる専門家の制度が整ってきた.臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーである.遺伝医学,生命倫理,来談者への心理的配慮を学んでおり,遺伝性疾患の確定診断・出生前診断・保因者診断ばかりでなく,近親婚など,結婚や妊娠をきっかけとした相談に対応できる.また,遺伝学的検査実施には,遺伝の専門家による遺伝カウンセリングが必要なことが厚生労働省のガイドラインに記載された.遺伝カウンセリングを含め,遺伝医療は各診療科の医師および臨床心理士や看護師,必要によっては地域の保健師とも連絡を取るチーム医療が基本である.主治医や各専門科の医師との「信頼」と「密接な連携」がカギとなる.

 遺伝要因が発症にかかわっている遺伝性疾患は特別の家系だけの問題ではない.すべての人の問題である.われわれは現在健康でも将来遺伝性疾患を発症する可能性があり,だれもが病気のリスクを持っているからである.本稿では,臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーの特徴と現状について述べる.

遺伝情報の取り扱い―臨床遺伝部の役割

著者: 玉置知子 ,   宮本正喜 ,   齊藤優子

ページ範囲:P.1114 - P.1121

はじめに

 遺伝情報の取り扱いは,患者・家族・クライエントの診療に重要であることはいうまでもないが,遺伝医学の教育・研究の立場も同時に考える必要がある.取り扱いの基盤として,ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針および個人情報保護法(関連ガイドライン)の理解が不可欠である.

 兵庫医科大学では1974年,当時まだ数少なかった染色体検査室を開設したことに伴い,その結果を患者とご家族に十分に理解していただく目的で遺伝相談外来が開始された.染色体検査室が中検内科に所属していたことより,内科の診療録を作成していたが,この当時から,診療録は医事請求などで不特定の人員が取り扱うため,診療録には受診の主な内容について簡潔に記載し,詳細な内容は別に記録し独立して保管することとした.1988年には臨床遺伝部として独立し,独自の診療録を持つようになったが,遺伝カウンセリング記録や染色体分析写真は部内で保管し,部のスタッフおよびスタッフの許可が得られた医師のみが閲覧可能とした.現在のところ,25年前の再診にも応じられる状況である.このようにわれわれの施設では,他施設を参考にすることができなかったため独自の判断で遺伝情報管理を行ってこざるを得なかった.

 このような経験から考えると,上記の指針・ガイドラインが策定されたことにより,研究環境や遺伝診療環境が整備しやすくなり,遺伝情報を取り扱う施設・人材・方法の具体的な目途がたつようになり,その役割は大きいことが実感される.以上の経験より,遺伝情報の扱いを考えてみたい.

生殖医療の先天異常への影響

著者: 平原史樹

ページ範囲:P.1123 - P.1129

はじめに

 生殖補助医療(ART)による出産児数はいまや年間1万出生を大きく超え,新生児の60名に1人はARTによる出産児といわれている.これらの技術は開発され,世に送り出されたときから出産児への影響が懸念されてきた.いままでにも先天異常とARTとの関係を論じた報告が数多くあるが,最近の報告では,不妊として診療を受ける医学的理由が背景にある母集団であることも含みおいたデータとして,やはり若干の異常発生率の上昇が指摘されている.しかしながら,その背景にはますます複雑な要因の介在が示唆されてきている.本稿ではそれらの各論を論じることとする.

着床前遺伝子診断

著者: 末岡浩

ページ範囲:P.1130 - P.1135

はじめに

 生殖医学の発展と同時に遺伝学の発展も進み,その融合分野の新たな医療技術として,着床前遺伝子診断(preimplantation genetic diagnosis : PGD)の概念が発生した1).さらに,その具体的な背景には体外受精技術の発達と安定化があり,加えてPCR法やFISH法などの遺伝学的情報の診断を単一細胞から得ることができるようになったことがこの技術の必要条件となっている.

 その一方で,技術的な発展とは別に倫理面での議論が表在化した.特に本邦においてはこれまでに妊娠と遺伝学,具体的には出生前診断の意義とそのあり方などについての公開された議論が行われてこなかったことや,本邦固有の歴史的背景についての理解が十分に浸透していなかった事実は否めない.この点を明らかにし,新たに公開した議論の形でさまざまな意見のなかから本邦での実施のあるべき形が議論され,現在の実施に至ったことも特記すべきことである.

 本稿では着床前遺伝子診断を実施する際の対象や審査,技術,問題点など,現在すでに得られている新たな情報について論ずることにする.

出生前遺伝子診断

著者: 山田秀人

ページ範囲:P.1137 - P.1143

はじめに

 産婦人科医が自ら,出生前遺伝子診断をクライアントに初めて説明し,勧めるケースは少ない.他科(小児科,神経内科,皮膚科など)において発端者の遺伝子変異が同定されたのちに,他科主治医がその母親の次回妊娠時の出生前遺伝子診断を判断し,勧めていたケースがこれまでに多かった.遺伝子医療部門がなかった時代には,他科主治医と産婦人科のいわゆる出生前診断担当医とクライアントとの関係だけで,出生前遺伝子診断が散発的に実施されていたのであろう.出生前遺伝子診断には,多くの倫理的・社会的問題が包含されている.したがって,各種ガイドラインを遵守し,実施前に十分な遺伝カウンセリングを行うことは必須である.手続きが複雑になり時間がかかるであろうが,より慎重で客観的な判断の質を維持するために,遺伝子医療部門や倫理委員会が果たす役割は大きいと思う.歴史的背景と経緯から施設によっては30余年前から実施されている羊水染色体検査と,それに比較して新しい羊水や絨毛を用いた遺伝子検査を同列に扱えば焦点が不明確になるために,本稿では主に,出生前遺伝子検査にかかわる内容を中心に記載することにする.

遺伝カウンセリングの実際

1.不妊

著者: 竹下直樹

ページ範囲:P.1144 - P.1149

はじめに

 カップルにとって,妊娠・出産は非常に当然のことと考えられ,当然自然に子を授かるものと思っている.そのため避妊期間を持たず,1年,2年と経過し妊娠に至らない場合は「なぜ妊娠しないのだろう?」,「お互い身体的に病気なのだろうか?」といった不安が生じてくる.現に,結婚後1年で妊娠に至るのは約80%といわれており,多くのカップルが2年の間で出産に至っている.また,妊娠は成立するが,残念にも稽留流産あるいは児心拍が確認できたにもかかわらず,その後発育しない,不育状態となる場合もある.こういったカップルにとって,「妊娠」という言葉は大きな葛藤の原因となり,周囲からのプレッシャーなども加わり,抑うつ的気分に代表されるように,ときに精神状態が不安定になることもある.

 不妊カウンセリングとは,単に妊娠に至るまでの相談ではなく,生殖生理のメカニズム,生殖遺伝学の知識,そして心理的支援,カウンセリングを含めた「生殖心理カウンセリング」のなかの1つとして欧米では位置づけられている.したがって,そこに携わるものは当然医師のみでは不十分であり,非医師遺伝カウンセラー,心理士,助産師,看護師などのチーム体制を整備し対応することが必要である.

 ここでは,実際のカウンセリング場面で,しばしば遭遇する具体的な問題と,また,外来診療をするに当たり情報提供が望ましい最近のトピックスについて解説する.

2.流産

著者: 中岡義晴

ページ範囲:P.1151 - P.1157

はじめに

 産婦人科医にとって最も日常的に診療する疾患の1つに流産がある.流産の原因は非常に多岐にわたり,かつ曖昧なこともあるが,最も頻度が高く明確な原因となりうるものが胎児染色体異常である.遺伝子が構成要素である染色体の過不足は,胎児の致死的な要因となる.胎児の染色体異常は実に流産の50~70%1~3)と高率に認められている.母体年齢の上昇とともに,流産率が上昇することと,流産に占める染色体異常の割合が高くなることがわかっている.また,胎児の心拍確認後に心拍の消失した児においては染色体異常が高頻度に認められる.ただ,染色体異常を有する流産児のほとんどは,正常染色体夫婦から偶発的に生じたものである.

 流産児染色体検査の実施は,直接の流産原因を知るだけでなく,次回妊娠への対処の方法を知る手がかりとして非常に重要であると考えられる.

3.不育

著者: 小澤伸晃

ページ範囲:P.1158 - P.1163

はじめに

 反復流産も含めた不育症患者は妊娠女性の約5%に認められ,発症要因の多くは未解決のままである.そのなかで両親の染色体異常は最も因果関係の明確なものであり,夫婦染色体検査は不育症の病因検索として不可欠な検査となっている.一方で,染色体異常に対する根本的な治療は不可能であり,染色体検査を行うこと自体が患者夫婦にとってはしばしばストレスであり,異常が認められた場合はやり場のない精神的苦痛を患者夫婦に強いることになる.また最近では,染色体異常以外にも遺伝子異常・多型,エピジェネティクスなどさまざまな遺伝的要因が流産とかかわっていることも示唆されており,不育症診療においては遺伝的素因の追及と適切な遺伝カウンセリングが今後はさらに重要になると考えられる.

4.胎児異常

著者: 澤井英明

ページ範囲:P.1165 - P.1171

はじめに

 産科診療において胎児異常がみつかった場合に,その診断と治療・管理自体が重要であることはいうまでもないが,適切な診断と治療・管理を行い,妊娠経過の全体を見通した診療を行うためには遺伝カウンセリングは不可欠である.また,明らかな胎児異常はみつかっていないが,超音波検査や母体血清マーカー検査などで胎児異常の存在する可能性が高いことが示唆される場合,遺伝カウンセリングが対応の中心となることが多い.妊娠週数によってはこの対応いかんで,夫婦の十分な理解がないままに人工妊娠中絶になったりすることもあり得るので,より慎重な対応が望まれる.そしていずれの場合でも,遺伝カウンセリングにおいてはその妊娠のみならず,将来の妊娠や家系全体への影響などに内容が及ぶこともあり,こうした場合には複雑な多面的な内容を1つ1つクライアント(対象となる妊婦と夫,家族など)とともに解決していくステップが要求される.

 もちろん産科診療における遺伝カウンセリングはそのほかの領域の遺伝カウンセリングと本質的に異なるものではないが,その重要性からいくつか留意すべき特有の点がある.

5.先天異常児

著者: 川目裕

ページ範囲:P.1173 - P.1177

先天異常

 先天異常とは,出生前の原因による機能異常や形態異常であり,出生時に認めるか,あるいは潜在して生後しばらくして認められる疾患や病態をいう.髄膜瘤や口唇口蓋裂,先天性心疾患などの単一先天奇形,Down症候群,18トリソミー症候群などの染色体異常症,Marfan症候群,Noonan症候群などの種々の先天奇形症候群,ムコ多糖症,Wilson病などの先天代謝異常症,筋強直性ジストロフィー,脊髄筋萎縮症などの遺伝性神経筋疾患,その他,血友病などの血液疾患,先天性表皮水泡症などの皮膚疾患,難聴,眼科疾患など多彩である.

連載 産婦人科MRI 何を考えるか?・3

子宮筋腫をもつ妊婦の腹痛

著者: 山岡利成

ページ範囲:P.1095 - P.1097

 2日前より下腹部痛を自覚していた.安静にしていたが,下腹部痛が増強したため,婦人科外来を受診した.採血にて炎症反応(WBC=18,110/μl,CRP=11.4 g/dl)を認め,緊急入院となった29歳の妊婦(妊娠9週)である.画像はすべてT2強調像で,患者の右側から左側の順に呈示している.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・25

胎盤遺残による子宮復古不全の1例

著者: 古澤嘉明

ページ範囲:P.1180 - P.1183

症例

 患者:38歳,2経妊・2経産

 主訴:多量性器出血

 既往歴:特になし.

 現病歴:妊娠38週でnon-reassuring fetal statusにて吸引分娩となった.児娩出後,胎盤は自然に娩出され,肉眼的に明らかな欠損は認めなかった.退院前診察では明らかな胎盤遺残は認めず,子宮収縮も良好であり産後5日目に退院となった.1か月健診では子宮収縮はやや不良であったが悪露は正常であり,経過観察とされていた.その3日後,突然の多量の性器出血を主訴に当院救急外来を受診した.

 入院時現症:意識は清明で,血圧140/78mmHg,心拍数80/分と全身状態は安定していた.内診上,子宮は小鵞卵大で軟,子宮口より持続性の出血が認められた.

 検査所見:WBC 6,400/μl,RBC 379/μl, HB10.8g/dl,Ht 34.4%,Plt 27.9/μl,PT 13.7秒,APTT 31.5秒であった.

病院めぐり

東京臨海病院

著者: 河合尚基

ページ範囲:P.1186 - P.1186

 東京臨海病院は江戸川区の南端に位置し,平成14年4月に新規オープンした病床数400床,歯科を除く全診療科対応の総合病院で,電子カルテシステムが導入されています.また,健康医学センターを併設して,人間ドック・健康診断も行っています.当院は臨床研修病院の指定を受けており,平成18年度は7名の,平成19年度には10名の初期臨床研修医を受け入れることになっています.平成18年10月には日本医療機能評価機構Ver. 5に合格し,地域中核病院としての重責を担うこととなりました.

 産婦人科のスタッフは常勤医4名の体制で,日常診療,当直・オンコール業務を行っています.江戸川区を中心とした地域の中核的存在であり,産科は「できるだけ自然に」をコンセプトにしています.残念ながらNICUがないことから,産科診療には制約を余儀なくされていますが,産科病棟のスタッフは16名全員が助産師であり,大きな力となっています.外来助産師3名も加え,助産師の力量を最大限に発揮してもらうために,助産師外来の開設を目指して準備を進めています.年間分娩数は300件前後で,帝王切開率は20数%となっていますが,最近の傾向として,予定日近くでの帝切目的の紹介が増えています.新生児は小児科管理・病児は小児科入院となり,良好な連携が保たれていますので,安心して出産していただける施設です.

岐阜県総合医療センター

著者: 山田新尚

ページ範囲:P.1187 - P.1187

 当院は,最初につくられたときの名称は「陸軍衛戍(りくぐんえいじゅ)病院」で,明治42年,日露戦争の4年後に創設されました.1909年,今から98年前のことであります.衛は「守る」,戍も「守る」という意味と「兵士」や「兵営」の意味もあり,「兵士を守る病院」という意味です.衛戍病院という名はさすがに難しかったのか,昭和に入ると「岐阜陸軍病院」に改名されました.陸軍病院で終戦を迎え昭和20年12月には厚生省所管の「国立岐阜病院」となりました.昭和27年8月,医療機関整備の国の方針により,国立病院資産譲渡に関する法律が施行されて,昭和28年6月30日に岐阜県議会において譲渡の議決がなされ,翌7月1日から病床数130床の「岐阜県立岐阜病院」として開院しました.

 平成11年11月には病床数555床,救命救急センター,新生児センターを併設した26診療科の総合病院となりました.臨床研修指定病院,基幹災害医療センター,地域がん診療拠点病院,エイズ拠点病院でもあり,職員数は約700名です.そして,平成18年11月には「岐阜県総合医療センター」へと名称が変更され,①救命救急医療,②心臓・脳血管障害の医療,③母とこどもの医療,④がんの医療,⑤女性の医療,の5つを重点医療としています.

Estrogen Series・76

更年期後の骨折増加と姿勢平衡感覚機能の低下,およびエストロゲン療法による平衡感覚の回復について

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1189 - P.1191

 今回にご紹介するスエーデンの研究者による発表を要約すると,(1)加齢に伴う骨折は前腕部および大腿骨骨頭の骨折(この2つを合わせて,遠位端骨折と総称される)と脊椎骨折(近位端骨折)とに2分される,(2)脊椎骨折が骨密度(BMD)の減少をその大きな原因としているのに対して,前腕骨折と大腿骨骨頭の骨折は加齢およびエストロゲン低下による姿勢の平衡感覚の低下にその主な原因がある.姿勢平衡機能の維持の回復はエストロゲン療法により可能であるが,その時期は更年期後なるべく早期であるほうが有効である.

 骨質量(bone mass)の低下が,特に65歳以上の女性において,骨折の原因の1つであることは疑問の余地がない.女性の骨折率は50歳を過ぎると,7~8年ごとに倍増する.女性の骨質量は,男性に比較してもともと低く,さらに骨喪失は男性よりも大きいので,大腿骨頸部の骨折は男性の場合の2倍に達する.それに加えて,女性は男性よりも長生きするので,大腿骨骨折の発生数は女性が全体の2/3を占める.

症例

卵巣悪性腫瘍と鑑別がきわめて困難であった腹膜播種を伴うGISTの1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充 ,   根岸秀明 ,   木村美帆 ,   森下美幸 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.1195 - P.1199

 今回われわれは,腹膜播種病巣を伴うgastro-intestinal stromal tumor(以下,GIST)の1例を経験した.症例は85歳,4経妊・3経産,閉経は53歳で,下腹部痛の主訴で受診したところ卵巣悪性腫瘍と思われ,開腹手術を施行した.開腹所見では,腹腔内には多数の播種病巣が存在し,卵巣悪性腫瘍と思われた.術後の病理組織学的検討で紡錘形細胞を主体とする腫瘍で上皮構造を認めず,免疫組織染色にてKIT陽性であったためGISTと診断された.術後はメシル酸イマチニブを投与中である.

 本例は,卵巣悪性腫瘍と酷似し,術前・術中診断もきわめて困難であり,組織学的検討によって診断された.稀な病態であるが,卵巣悪性腫瘍の鑑別診断の1つとして本疾患も念頭に置く必要があるものと思われた.

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編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.1208 - P.1208

 初期研修医および後期研修(専門研修)医の大学病院離れがますます顕著になってきています.新研修制度が発足する前の平成14年の統計をみると,全国平均では71.4%が大学附属病院で研修(各科入局)しており,あまり大きな地域差はありませんでした(最高は北海道の76.4%,最低は東北の63%).大学病院での初期研修医の減少はこの制度開始の当初から予測されていましたが,それでも2年後には専門研修開始のため帰学するものもかなりあるのではという期待もありました.しかし現実には,初年度(18年度)の帰学率は平均50.4%で,今年はさらに低下して47%となっています.帰学率には非常に大きな地域差があります.唯一関東は14年の71.4%から19年では75%と逆に帰学率が増加していますが,そのほかはすべて大きく減少しました.特に東北,四国は23~25%,北海道,中国は28~30%で,そのほかの地区でも50%以上のところはありません.また帰学しない医師の多くは大都市の病院に集中する傾向がありますので,医師の関東,特に東京への一極集中が急速に進んでいることは明白で,現在医師不足とされている地域では今後ますます状況が悪化するでしょう.

 研修病院のマッチング参加者へのアンケートをみると,研修先を決める優勢項目順位は,1)実績・指導体制,2)プログラム内容,3)将来進みたい大学,関連病院,4)実家に近い,5)給与・勤務条件,6)都市部に近い,などとなっています.また一般病院と大学病院それぞれの研修医への「研修体制などに満足していない理由は?」というアンケートから大学病院の問題点をみると,「待遇・処遇が悪い」「雑用が多い」「コ・メディカルとの連携がうまくいかない」「研修に必要な症例・手技が十分経験できない」「研修に対する診療科間の連携が悪い」などが挙げられています.これらからも初期研修において大学病院が抱える構造的な問題点が示されていますが,同時に医学知識・技術を自ら学ぶという姿勢より,できるだけ効率的に教えてもらいたいという受身的思考が感じられます.現在はなお卒後研修・教育の過渡期であるとはいえ,各領域での専門医あるいは指導医資格の取得をあたかも医師としての最終目標と考えているような若い医師の動向や,大学院での医学研究希望者の激減などからは,医師としての自覚や将来像が大きく変わってきていることが窺えます.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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