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今月の臨床 臨床遺伝学─診療に必要な最新情報
臨床遺伝学の基礎
著者: 新川詔夫12
所属機関: 1前 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科分子医療部門人類遺伝学分野 2現 北海道医療大学個体差健康科学研究所
ページ範囲:P.1098 - P.1105
文献購入ページに移動遺伝学は本来,個体や生物種の遺伝(heredity)と多様性(variation)を研究する分野であったが,最近は表現型に依存しないで遺伝子発現の差異などを研究する分子遺伝学的手法が開発されたため「遺伝子の記述」が主たる任務となりつつある.近年の臨床遺伝学の分子化によって明らかになった主な新しい遺伝学的概念は以下のようなものである(表1).(1)単一遺伝子病だと思われていた形質が2個以上の遺伝子によることがある(寡因子遺伝,遺伝子発現修飾因子),(2)1つのアレルが複数の表現型を表すことがある,(3)複数の表現型が1つの遺伝子で支配される(多面発現),(4)同一遺伝子内の変異が異なることによって表現型が優性になったり劣性となったりする,(5)体細胞レベルで変異が証明できないのに,複数の子供が罹患することがある(性腺モザイク),(6)子供の相同染色体が両方とも片親から由来することがある(片親性ダイソミー),(7)世代が進むと重症化する現象がトリプレットリピートの伸張と関係する(遺伝的表現促進),(8)一部の遺伝子は,由来する親の違いによってその発現の程度が異なる(ゲノム刷り込み),(9)発癌感受性という表現型は優性だが,細胞レベルにおける発がん機構は劣性(細胞性劣性)などである.
このように,臨床遺伝学も形質遺伝学から分子遺伝学へ変貌を遂げつつあるが,メンデル遺伝と細胞遺伝学の原理なくしては分子遺伝学も理解されないので,本稿では最近の進歩を交えながら臨床遺伝学の基礎を概説する.
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