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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科62巻10号

2008年10月発行

雑誌目次

今月の臨床 卵巣癌診療の最新情報

わが国における卵巣癌の動向

著者: 長谷川清志 ,   木村治美 ,   市川亮子 ,   加藤利奈 ,   宇田川康博

ページ範囲:P.1274 - P.1281

はじめに

 近年,卵巣癌の罹患率(罹患数),死亡率(死亡数)の増加が指摘されているが,ここでは,まず本邦におけるそれらの動向(経時的,年齢別)や臨床進行期の分布および臨床進行期別年齢分布に関して概説する.また,卵巣癌の組織型の分布の動向に触れ,各臨床進行期別の生存率に関してはFIGO annual reportを中心に概説する.

卵巣癌のリスクファクター

著者: 小林佑介 ,   阪埜浩司 ,   津田浩史 ,   青木大輔

ページ範囲:P.1282 - P.1289

はじめに

 本邦における卵巣癌の発生頻度は欧米に比べていまだ低いものの,近年明らかな増加傾向にある.厚生労働省の人口動態統計によると,卵巣悪性新生物による年間死亡数は1980年に人口10万人対3.5人であったのに対して,2000年では6.2人と増加し,これは女性の悪性新生物死亡の3.4%を占め,第10位となっている.このような卵巣癌増加の要因として,従来より考えられていた生活習慣や環境要因などに加えて,リプロダクションに関連した女性のライフスタイルの変化が大きく関与しているものと推察される.また,65歳以上の占める割合は15%以上を示しており,今後さらに高齢化が進むことを鑑みると卵巣癌の罹患数,罹患率はますます増加することが考えられる.

 このような卵巣癌の増加を抑制するためには,まず卵巣癌の発生に直接および間接的に影響しているリスクファクターを明らかにしたうえで,卵巣癌の予防方法を模索していくことが重要であると思われる.本稿においては,リスクファクターを環境因子,内分泌・排卵関連因子,子宮内膜症関連因子,遺伝子関連因子に分け,各カテゴリーごとにその因子を詳細に検討する(表1).

【卵巣癌治療の最前線】

1.進行期別の上皮性卵巣癌治療戦略

著者: 藤原寛行 ,   竹井裕二 ,   大和田倫孝 ,   鈴木光明

ページ範囲:P.1291 - P.1296

はじめに

 本邦では日本婦人科腫瘍学会から2004年にほかの婦人科がんに先駆け,卵巣がん治療ガイドラインが発刊され,2007年にはすでに改訂第2版1)が刊行された.ガイドラインには現時点で広くコンセンサスが得られ,適正と考えられる卵巣がんの治療法が示されており,多くの施設において治療選択の基準となっている.本稿では,まずこのガイドラインをもとに,上皮性卵巣癌の各進行期における標準的な治療法を概説する.さらに今後検討すべき課題について筆者らの成績も含め考察する.

2.組織型別の上皮性卵巣癌治療戦略

著者: 杉山徹 ,   熊谷晴介 ,   吉崎陽

ページ範囲:P.1297 - P.1301

はじめに

 卵巣がん治療ガイドラインが発刊・改訂された現時点で1),難治性腺癌に対する個別化治療の検討が次の課題であろう.特に日本では明細胞腺癌は際立って多く,漿液性腺癌に次ぐ第2の組織亜型であり,粘液性腺癌を合わせると卵巣癌の約35%に達し,これらの予後改善なくして卵巣癌の予後改善はない.研究的にもcompetitiveな領域であり,translational studyとして重要な課題である.

3.胚細胞腫瘍の治療戦略

著者: 長井裕 ,   青木陽一

ページ範囲:P.1303 - P.1309

はじめに

 卵巣悪性胚細胞腫瘍は,発生頻度が全悪性卵巣腫瘍の5%以下と比較的稀な腫瘍であり,多くは10~20代の若年層に発生し,悪性度はきわめて高い1, 2).化学療法(化療)が行われるようになる以前には,進行例のほとんどが死亡していたとされている3).この30数年の間に,VAC→PVB→BEPと化療が発展してきたため,本腫瘍の予後は著しく改善した.このような,本腫瘍に対する治療の進歩は,「腫瘍治療学における真のサクセスストーリーのひとつである」とまでいわれている4).有効な化療が開発された今日では,若年者における本疾患の治療は,妊孕性の温存に十分配慮した手術を行い,術後早期に標準的化療であるBEPを行うことが基本となっている4~8)

 本稿では,昨年(2007年)改訂された「卵巣がん治療ガイドライン」,その後のupdateされた文献から,本疾患の治療戦略を中心に,また当科の治療成績について述べる.

4.卵巣癌の初回化学療法

著者: 片渕秀隆 ,   宮原陽

ページ範囲:P.1311 - P.1315

はじめに

 上皮性卵巣がん(以下,卵巣癌)の治療では手術療法と化学療法が車の両輪をなす.そして,現在の標準的治療として,手術療法が先に行われ,化学療法がそれに続く.初回手術の目的は,臨床進行期の正確な決定と病巣の可能な限りの切除の2つである.完全切除あるいは残存病巣が1 cm未満のoptimal surgeryが初回手術で達成されると予後の改善がより期待される.しかし,その達成率は進行卵巣癌の約5割と必ずしも高くないため,その後に行われる化学療法が根治を目的とした治療に大きくかかわることになる.

 本稿では,初回化学療法に関する正しい理解のために必要な基礎的知識を中心に概説する.

5.卵巣癌の腹腔内抗癌剤投与法

著者: 佐藤慎也 ,   板持広明 ,   紀川純三

ページ範囲:P.1316 - P.1319

はじめに

 卵巣癌に対する標準的化学療法であるタキサン系抗癌剤と白金製剤との併用療法は高い奏効率を示し,その予後を改善した1).しかしながら,長期予後は未だ満足できるものではなく,種々の試みがなされている.なかでも,抗癌剤の投与経路については多くの検討がなされてきた.

 卵巣癌は早期から腹腔内播種を起こすことから,播種病巣の制御は予後を決定する重要な因子である.卵巣癌に対する腹腔内抗癌剤投与(intraperitoneal chemotherapy)の利点としては,(1)卵巣癌の進展形式と同様の経路で薬剤が分布する可能性がある,(2)高濃度の薬剤を播種病変に直接接触させ得る,などがある.しかしながら,卵巣癌に対する腹腔内抗癌剤投与に関して多くの研究がなされてきたにもかかわらず,未だ最終的なコンセンサスが得られていない現状にある.

 本稿では,卵巣癌に対する腹腔内抗癌剤投与の最新知見と問題点について概説する.

6.卵巣癌の維持化学療法

著者: 鈴木直 ,   大原樹 ,   小林陽一 ,   木口一成

ページ範囲:P.1321 - P.1325

はじめに

 近年,進行卵巣癌患者においても腫瘍減量手術とタキサン系薬剤+白金製剤による化学療法を併用した集学的治療によって,臨床的に寛解に至ることが可能となってきた.Pectasidesら1)によると,進行卵巣癌に対する化学療法の奏効率は90%に達し,臨床的完全寛解(CR)率と生存の中央値はそれぞれ75%と26か月であるという.しかし不幸にも,寛解に至った患者の多くが再発することとなる現状がある.寛解に至った患者に対して有効性を示す維持化学療法の開発は,卵巣癌の長期生存率改善に多大なインパクトを与えることとなる.これまでに維持化学療法の必要性の是非を検討する多くの臨床試験が施行されてきた.本稿では最近の卵巣癌の維持化学療法に関する臨床試験報告について述べる.

7.再発卵巣癌の化学療法

著者: 工藤一弥 ,   大友圭子 ,   田㔟亨 ,   八重樫伸生

ページ範囲:P.1326 - P.1331

はじめに

 再発卵巣癌の化学療法では,前回の化学療法終了から再発までの無治療期間(treatment free interval : TFI)を確認し,再発癌の薬剤感受性を判断することが大切である.TFIが6か月以上ならば薬剤感受性再発癌として前回と同じ化学療法を行う.6か月に満たないTFIであれば薬剤抵抗性再発癌と認識し,前治療薬とは交叉耐性のない薬剤を選択する.

 再発時には化学療法,照射,2期的減量手術など,延命の方策を積極的に考えるべきであるが,同時に根治が困難である再発治療の限界をも認識し,必要な患者には緩和,終末期医療を遅滞なく提供し,QOLを保つことが重要である.以下に当科の治療方針を示す.

【卵巣癌治療の将来展望】

1.卵巣癌における抗癌剤耐性の克服

著者: 寺井義人 ,   大道正英

ページ範囲:P.1332 - P.1337

はじめに

 卵巣癌はprimary cytoreduction surgeryとadjuvant chemotherapyが基本的治療である.卵巣癌における抗癌化学療法治療は1980年代のプラチナ製剤導入以来,飛躍的に予後が改善されてきた.その後多くのRCTを経て,現在TC(Carboplatin+Paclitaxel)療法が標準的治療として一般化している.しかし,初回治療で投与されるTC療法により50~60%が臨床的完全寛解に至るにもかかわらず,いまだに進行癌の5年生存率が20~30%と予後が悪い癌として知られている.その理由として,当初抗癌剤に感受性を示していても次第に耐性性を示す場合が多いことが考えられる.初回化学療法後に再発した卵巣癌は,すでに初回治療で使用されたカルボプラチンをはじめとする白金製剤に対する耐性性を示すために,second line以降の化学療法に対する奏効率は20~30%以下と低く,この白金製剤に対する耐性性の克服が再発卵巣癌に対する治療戦略の重要な鍵となっている.

 本稿では,われわれの研究を中心に,白金製剤耐性にかかわる分子を標的とした耐性性克服の可能性について述べたい.

2.卵巣癌における血管新生抑制療法

著者: 馬淵誠士 ,   森重健一郎 ,   木村正

ページ範囲:P.1339 - P.1345

はじめに

 プラチナ製剤とタキサン製剤の併用が標準的化学療法となり,上皮性卵巣癌の予後が改善されたが1),長期予後はなお不良であり,満足のいくものではない.最近,プラチナ・タキサンに交叉耐性を示さない抗癌剤を第三の抗癌剤として前述の標準化学療法に追加しても予後が改善されないとの報告がなされた2).この報告は,殺細胞性抗癌剤の併用療法の限界を示唆するものであり,結果的に卵巣癌における分子標的治療の重要性が認識され,その臨床応用への期待がいっそう高まることとなった.

 本稿では,血管新生をターゲットとした分子標的治療について概説するとともに,卵巣癌における抗血管新生治療の現状と問題点ついて解説する.

3.卵巣癌の遺伝子治療

著者: 高倉正博 ,   京哲 ,   井上正樹

ページ範囲:P.1347 - P.1351

はじめに

 遺伝子治療とは疾病の治療を目的として遺伝子または遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与(接種)する治療法である.1990年に最初の臨床応用がなされてから20年に近い年月が経過している.これまでにさまざまな臨床研究が行われ,幾多の技術革新がなされてきたにもかかわらず,その適応はいまだ臨床研究レベルに限定されている.本稿では遺伝子治療の基礎的な知識について述べるとともに,卵巣癌に対するこれまでの遺伝子治療の試みを振り返り,さらに今後の展望について考察したい.

4.卵巣癌のウイルス療法

著者: 那波明宏

ページ範囲:P.1353 - P.1359

はじめに

 ウイルスの特性を利用して,新たな癌治療法を開発するための研究が近年精力的に進められている.特にウイルスの増殖能を保持させた形で用いる方法は“oncolytic virotherapy(腫瘍溶解性ウイルス療法)”として,さまざまなウイルスを対象に研究・開発が行われ,現在では臨床試験が実施されているのも少なくない.今回ボストンで開催された第11回米国遺伝子治療学会(ASGT)においても,cancer gene therapy研究分野における演題の大半がoncolytic virotherapyに関連したもので占められており,new anti─cancer agentとしての期待が高まっている.実際,ウイルス増殖,生体防御機構の研究がこの数十年で著しく進展し,この領域も一時的な流行に終わる,いわゆる“際物”から分子的基盤に基づく戦略的研究へと変貌しつつある.とはいえ,当初の期待に反して,臨床試験において画期的な結果を生み出すには至っておらず,さらなる工夫が要求されている.

 本稿では,さまざまな増殖型ウイルスを用いたoncolytic virotherapyの現状にスポットライトをあて,われわれが手がけているHF10の開発の現状,さらには卵巣癌治療への応用について概説したい.

連載 産婦人科MRI 何を考えるか?・14

腹部膨満感にて来院した55歳の女性

著者: 山岡利成

ページ範囲:P.1271 - P.1273

 腹部膨満感で来院した55歳の女性.超音波にて巨大腹部腫瘤が認められ,精査のためにMRが施行された.

BSTETRIC NEWS

分娩予測プロファイル(delivery probability profile : DPP)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1361 - P.1363

 早発陣痛とその結果起こる未熟児出産は周産期合併症や死亡の原因となる.また,それに伴い医療費も増加する.医療上の技術的進歩があるが,残念ながら早産が関係する新生児の罹患と死亡の問題の発生頻度は減少しない.米国では過去12年間に早産は14.4%増加している.カナダでは,全生児分娩のなかの6.3%(1981~1983年)の早産率が6.6%(1991年),7.6%(2000年)と増加している.大きな原因は多胎妊娠の増加ではあるが.

 昔から引用されている早産のリスク因子は,早産を予知するうえで不十分である.それらの危険因子を使用して,早産予知スクリーニングを行っても妊娠37未満の早産のせいぜい70%を診断できるだけである(OG 177 : 13, 1997).また,早発陣痛の徴候や症状がある場合でも約80%は早産にならない(OG 177 : 13, 1997).したがって,早産を疑わせる症状に基づいて切迫早産と診断し,介入すると無駄な治療が行われることになる.

病院めぐり

神戸掖済会病院

著者: 加藤俊

ページ範囲:P.1364 - P.1364

 当院は神戸市の西部郊外,南に明石海峡大橋を見晴らす丘陵地の住宅街にあります.大正3年に神戸市中心部に開設され,平成13年3月に現在の垂水区に移転,17診療科を備え,6病棟で総病床数317床の総合病院として地域医療の中核を担っています.

 現在,産婦人科の常勤スタッフは3名で,年間約350件の分娩と約200件の手術を手がけています.

嬉野医療センター

著者: 一瀬俊介

ページ範囲:P.1365 - P.1365

 嬉野市は佐賀県西部に位置する人口3万5千人の小さな温泉町です.この小さな町に病床数424床の総合病院があるのは,旧大日本帝国海軍佐世保基地を控え,戦傷者を治療するためにあった旧嬉野海軍病院が昭和20年12月1日,厚生省に移管され国立嬉野病院として発足したからです.当院は佐賀県西部にある唯一の総合病院として,その守備範囲は広く,北は伊万里市,南は太良町,東は多久市,西は長崎県中部に及んでいます.また,嬉野市内には産婦人科を開業されている先生方がいらっしゃらないため,この地域の産婦人科の診療を行える唯一の病院として重い責任を担っていると思います.症例は産科関係から婦人科関係まで幅広く分布しています.しかしながら,最近では分娩数が減少し産科関係の症例よりも婦人科関係の症例が優位を示しつつあります.

 平成16年,全国の国立病院は行政改革による統廃合が完了し,独立法人として民営化されました.当院も国立療養所武雄病院と統廃合し,独立行政法人国立病院機構嬉野医療センターと名前を変え,心臓血管外科,脳神経外科,神経内科,総合内科などが新設されました.常勤医師数も約2倍の64名(レジデントと臨床研修医を加えると70名)となりました.当院は,臨床研修指定病院,日本医療機能評価機構認定病院,地域がん診療連携拠点病院,そのほか各種学会の専門医や認定医制度の研修病院などの指定を受けており,この地区の基幹病院として活動しています.また,付属看護学校が併設されており,講義,実習などを通じて,病院のあちこちに若さの力を感じることができます.

Estrogen Series・83

最近のRU─486の使用状況

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1366 - P.1367

 米国では35年前に最高裁で人口妊娠中絶が合法化された(Roe vs Wade decision).

 2000年には経口内服薬であるRU─486が発売され,中絶の方法に変化が起きている.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・37

無症候性母体からの垂直感染が原因と考えられた新生児サルモネラ菌血症の1例

著者: 原田直哉 ,   延原一郎 ,   春田典子 ,   長岡明子 ,   鈴木博 ,   川口千晴 ,   石川智朗

ページ範囲:P.1369 - P.1373

症 例

 症 例 : 日齢1,女児

 家族歴 : 特記すべきことなし.

 母体の妊娠・分娩歴 : 母親は26歳の初産婦.既往歴に特記すべきことなし.妊娠28週6日の健診時に,B群溶血性レンサ球菌(GBS)の有無をスクリーニングするために腟周辺の培養検査を行っていたが,細菌や真菌などすべて陰性であり,妊娠経過にも特記すべきことはなかった.40週6日に自然に陣痛が初来し,適時破水ののち,約2時間で2,886 gの患児をApgar score 9点(1分値)で経腟分娩した.なお,分娩直前までの全妊娠期間を通じて,母体は下痢などの胃腸障害を認めず,発熱などの感染徴候も認めていなかった.

 現病歴 : 出生34時間後に,呼吸障害を伴わないものの,突然,38.6℃までの発熱をきたしたため小児科に入院となった.

 入院時の現症および検査所見 : 体重2,772 g,呼吸数60回/分,心拍数148回/分.活気なく皮膚色不良で重症感染症が疑われたため,直ちに各種細菌培養を採取した.採血結果および胸腹部X線写真を表1,図1に示す.数時間後には一部粘膜様のものも付着する粘液状の下痢便も認めた(図2).

症例

Placental mesenchymal dysplasiaの1症例

著者: 佐々木紘子 ,   森川淳子 ,   松岡正造 ,   小原範之 ,   伊藤智雄

ページ範囲:P.1375 - P.1379

 Placental mesenchymal dysplasia(PMD)(胎盤間葉性異形性)は稀な疾患である.特徴的な画像所見として胎盤の腫大や胎盤内における多数の小嚢胞が挙げられるが,これらの所見は部分胞状奇胎や胎児共存奇胎と類似するために両者の鑑別を要する.PMDでは子宮内胎児発育遅延,子宮内胎児死亡および新生児Beckwith─Wiedemann症候群の発症が知られており,慎重な妊娠管理が要求される.本症例は妊娠15週に胎盤の嚢胞状陰影からPMDが疑われ,さらに妊娠31週に胎盤表面に走行する拡張・蛇行した血管が検出された.妊娠35週より羊水量の減少,児の体重や肺体積の増加不良,臍帯動脈RI上昇と中大脳動脈RIの軽度低下が認められたが,妊娠37週に健常な女児を分娩した.病理学的検査によりPMDとの診断を得た.PMDが疑われた場合は妊娠合併症の発症に注意しながら慎重に妊娠管理する必要があると考えられた.

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編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.1388 - P.1388

 新臨床研修医制度の導入から4年半が経過しました.来年度には,新たな制度下で産婦人科を専攻した医師たちが専門医試験を受けます.実質的に専門研修の期間が5年から3年に短縮して専門医となるわけですが,おそらく筆記試験で評価される知識レベルという点では従来と大差はないと思われます.しかし2年の経験差があることについては,以後の処遇を考えるうえでも,十分に考慮する必要があります.専門医資格の取得は医師としての生涯研修の単なる通過点ですが,個人的な経験からも,特に外科的手技習熟に関しては初期の3年目と5年目との違いが非常に大きいことは明らかです.他方,スーパーローテイトの2年間で他領域を研修したことに一定の意義があったことも確かです.過去2年半の間に入局した新研修制度後の医師たちからの印象では,個人差はかなりあるものの,内科,外科,救急医療などの基礎知識と経験があることが,専門研修への熱意,コメディカルとの協調,対患者への姿勢などに顕れているように感じます.

 新研修制度についてはさまざまな問題点が指摘されており,確かに期間や科目の見直しは今後も必要ですが,指導体制が整っていることを前提とすれば,その根幹理念は間違っていないと思います.産婦人科にローテイトしてくる研修医の慰労や勧誘の目的で定期的に行っている食事会(飲み会)で聞いてみても,当事者からの不満の多くは指導医についてであり,研修制度自体にはおおむね肯定的で,以前の制度への回帰を望むものはいません.大学病院研修の特徴かもしれませんが,2年目になってもまだ専攻科を迷っている研修医もかなりいますので,医学・医療面での産婦人科の魅力について認識してもらうとともに,着実に待遇改善が進んでいることも強調していますが,その成果はなかなか現れてきません.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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