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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科62巻11号

2008年11月発行

今月の臨床 子宮内膜症治療の最前線―症状に応じた治療戦略

【「痛み」に対する治療】

3.子宮内膜症の痛みに対する漢方療法

著者: 後山尚久1

所属機関: 1藍野学院短期大学

ページ範囲:P.1428 - P.1433

文献概要

はじめに

 子宮内膜症の症状のなかで最も治療を期待されるのが月経痛である.初期には月経時の痛みを主徴候とするが,進行すると月経時以外にも腰痛や下腹部痛が出現し,その痛みは性成熟期女性のquality of life(QOL)を著しく損なう.月経痛や骨盤痛は,必ずしも病巣の拡大や進展と一致せず,子宮内膜症そのものの治療とは独立した痛みの治療が要求される場合もある1).子宮腺筋症の41.2%,子宮内膜症の51.9%に強い月経痛が認められ,痛みへの対応が治療の主軸となることがわかる1)

 漢方医学の症候論において,「月経痛」や「月経困難症」は一般的には独立した症状としては扱われず,当然,子宮内膜症という病名に対する処方も存在しない.したがって漢方治療は随証による.駆瘀血生薬や生薬の芍薬,附子を含む方剤が痛みを主体とする疾患の治療に用いられている.また,痛みの基本病態には,主に「瘀血」と「水毒」が関与しているといえるため「利水生薬」も高い頻度で用いられている.もちろん個々の症例によってその病態はさまざまであり,漢方医療の基盤としての個別的な対応が必要である2).子宮内膜症の漢方治療は,標症としての月経痛や月経過多を代表とする月経困難症と本症の内膜症病巣(腫瘤,癒着)の両方の治療を目指しており,随証を基本としたうえで,月経困難症に焦点を当てながら病気そのものの進展を抑止し,さらに妊孕能を低下させないという方向性となる.

 具体的な治療方剤として,桂枝茯苓丸や当帰芍薬散などの駆瘀血剤,あるいは攣急抑止として芍薬甘草湯が,その症状緩和のために比較的高い頻度で処方されているが,近年,GnRH agonistによる治療時の副作用緩和や子宮内膜症の再燃抑止の目的においても試みられるようになっている3, 4)

参考文献

1) 後山尚久,植木 實 : 子宮内膜症と腰痛.産婦治療73 : 280─285,1996
2) 後山尚久 : 東洋医学からみた骨盤痛─漢方治療はどこまで有効か.産婦世界57 : 31─36,2005
3) 川口惠子 : 月経関連疾患への漢方治療─月経前症候群,月経困難症.産婦実際54 : 1353─1361,2005
4) 小畑孝四郎,星合 昊 : 子宮内膜症と漢方.産婦治療92(増刊): 724─726,2006
5) 後山尚久 : 子宮筋腫・子宮内膜症の漢方治療.産婦人科治療83 : 611─619,2001
6) 後山尚久 : 子宮内膜症の漢方療法.産婦治療96 : 289─295,2008
7) 牧田和也,小見由里子,松浦菜穂子,他 : 機能性月経困難症に対する芍薬甘草湯の鎮痛効果とその効果判定時期の検討.産婦人科漢方研究のあゆみ19 : 54─58,2002
8) 竹原幹雄,坪倉省吾,後山尚久,他 : 月経困難症に対する漢方薬の選択.漢方医学23 : 86─90,1999
9) 太田博孝,田中俊誠 : 月経困難症に対する桂枝茯苓丸の奏効機序.産婦人科漢方研究のあゆみ18 : 112─115,2001
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11) 後山尚久 : 東洋医学からみた骨盤痛─漢方治療はどこまで有効か?.産婦世界57 : 327─332,2005
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14) 日本東洋医学会 : 月経困難症─処方例.実践漢方医学.p73,南江堂,東京,2006
15) 太田博孝,田中俊誠 : 月経困難症に対する桂枝茯苓丸の奏功機序─フリーラジカル系の関与.産婦人科漢方研究のあゆみ18 : 112─115,2001
16) 後山尚久 : 産婦人科における桂枝茯苓丸の応用.漢方と最新治療11 : 261─267,2002
17) 後山尚久 : 桂枝茯苓丸の臨床と直結する科学的エビデンス : 治せる医師をめざす漢方医学入門─医学生,研修医のためのやさしい漢方医学実践.pp65─71,診断と治療社,東京,2007
18) 田中哲二 : 子宮内膜症─漢方薬の選択指標と具体的投与方法.産婦実際56 : 985─995,2007
19) 井上亮一 : 駆瘀血剤が効いた子宮内膜症の症例.日東洋医誌59(別冊) : 209A上,2008
20) 坂東正造 : 各論応用編/産婦人科疾患.病名漢方治療の実際.pp333─334,メディカルユーコン,京都,2002
21) 假野隆司 : 私はこうして漢方治療をしている─子宮内膜症.産婦治療78 : 556─558,1999
22) 小畑孝四郎,星合 昊 : 子宮内膜症と漢方.産婦治療89 : 405─407,2004
23) 天野陽子,小畑孝四郎 : 子宮内膜症の新しい考え方─漢方による治療.産と婦75 : 44─47,2008
24) 後山尚久 : QOLからみた女性の医療と漢方療法.産婦治療95 : 555─559,2007

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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