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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科62巻12号

2008年12月発行

雑誌目次

今月の臨床 胎児機能不全

胎児機能不全の新しい考え方

著者: 岡村州博

ページ範囲:P.1516 - P.1517

胎児機能不全の用語と定義について

 平成18年4月の,第58回日本産科婦人科学会の総会において,周産期委員会(委員長 : 岡村州博)からの提案事項,胎児機能不全の定義と使用に関して,以下の通り承認・決定された.

 ・日本産科婦人科学会は「胎児仮死」あるいは「胎児ジストレス」の用語を使用しない.替わって「胎児機能不全」を欧米におけるnonreassuring fetal statusに相当する邦語として使用する.

 ・「胎児機能不全とは,妊娠中あるいは分娩中に胎児の状態を評価する臨床検査において“正常ではない所見”が存在し,胎児の健康に問題がある,あるいは将来問題が生じるかもしれないと判断された場合をいう」と定義された.

胎児機能不全の病態

著者: 鮫島浩

ページ範囲:P.1518 - P.1521

はじめに

 胎児機能不全とは,non─reassuring fetal statusまたはnon─reassuring FHR patternの邦訳であり,原語の概念を発展させ,日本産科婦人科学会が提示した用語である.そこで本稿では,胎児心拍数モニタリング(FHR monitoring)の解釈に際して,胎児機能不全と判断されるさまざまな病態について概説する.

 胎児心拍数モニタリングの解釈と評価,さらにその管理方法に当たっては,パターン認識と同時に,背景にある胎児胎盤生理学の理解が必要である.換言すれば,胎児生理学の理解なくしては,モニタリング解釈の臨床的意義はきわめて低いということができる.

 そこで過去数十年に及ぶ胎児生理学の発展をみると,動物実験モデルを用いた数多くの基礎的研究と,同様に多くの臨床研究とが行われ,胎児生理学と胎児心拍数パターンとの関連が明らかにされてきた.そのなかで最も研究されてきた領域は,元来健康な胎児が低酸素症,虚血,アシドーシス環境下で,呼吸・循環・内分泌系がどのように変化するかに関してであった.すなわち,胎児生理学の視点からは,元来,健康である胎児に低酸素症などのリスクが加わった場合の病態である.この条件を実際の臨床に当てはめると,リスク因子を持たない胎児が分娩中に低酸素などに陥る場合といえる.

 そこでまず,低リスク妊娠における胎児機能不全の病態を述べ,次にハイリスク妊娠での病態に関して,現在までに明らかとなっている知見を述べる.

【胎児機能不全の原因】

1.母体因子

著者: 杉山隆

ページ範囲:P.1522 - P.1525

はじめに

 胎児機能不全の原因のうち,母体因子として母体血流低下や母体低酸素を介した胎児・胎盤循環不全や胎盤での物質交換機能低下が挙げられる.狭義の因子として,母体の基礎疾患による低酸素症(心疾患,気管支喘息,無呼吸など)や出血,仰臥位低血圧症候群,麻酔などによる低血圧や重症貧血などが挙げられる.本稿では,胎児機能不全を生じるこれら母体因子について概説する.

2.胎児因子

著者: 小野恭子 ,   菊池昭彦

ページ範囲:P.1527 - P.1529

はじめに

 胎児のwell─beingの評価において“胎児の状態が悪い”ことを指す用語として,日本産婦人科学会周産期委員会は2001年の報告で“胎児ジストレス(胎児仮死)”に代わって“non─reassuring fetal status”という用語を使用することを提案し,また2006年には“non─reassuring fetal status”に相当する邦語として“胎児機能不全”を提唱した1).“胎児機能不全”の概念としては,「胎児の状態を評価する臨床検査において“正常ではない所見”が存在し,胎児の健康に問題がある,あるいは問題が生じるかもしれないと判断された場合」であり,従来の“胎児ジストレス(胎児仮死)”よりも幅の広い状態を指す.これに対し,同委員会の胎児機能不全の診断基準の作成と妥当性の検証に関する小委員会は,分娩中の胎児心拍数パターンを警戒の程度に応じて分類し,対応処置のガイドライン(案)2)を作成し,そのなかで心拍数波形分類に基づいた“胎児機能不全”の診断基準を定義しているが,これにより“胎児機能不全”という用語がより狭義に,明確に定義づけされていくと思われる.

 このように,“胎児機能不全”は,基本的には胎児心拍数図(cardiotocogram : CTG)を中心に診断される.ここでは,胎児機能不全の胎児因子について,CTG異常をきたしうるという視点から項目を提示し,それぞれ概説する.

3.胎盤因子

著者: 伊東宏晃

ページ範囲:P.1531 - P.1535

はじめに

 胎児機能不全とはnon─reassuring fetal statusの邦訳である.過去に胎児仮死,胎児ジストレスと呼ばれ,さらに近年提案された胎児機能不全までの一連の概念は,胎児への酸素供給あるいは栄養供給など健全な生存と発育が障害される子宮内環境を想定している.しかしながら,現代の医学では胎児そのものの酸素飽和度,血圧,体温,尿量,栄養状態など種々のバイタルサインを直接モニタリングすることは不可能である.このような背景から,胎児機能不全とは胎児心拍数モニタリングなどあくまで子宮外から間接的な胎児well─beingの評価結果に基づく概念であり,実際の胎児の状態を必ずしも反映していない.したがって,厳密に考えれば胎児機能不全と診断される胎児の病態は十分に特定されておらず,その原因は必ずしも同定されていない.

 本稿では,胎児機能不全と診断された場合の胎児状態の本態として想定されている急性あるいは慢性の低酸素症による代謝性アシドーシスをきたす機序に対して胎盤因子という視点から概説を試みる.

4.臍帯因子

著者: 村越毅

ページ範囲:P.1536 - P.1541

はじめに

 胎児機能不全(non─reassuring fetal status : NRFS)は胎児の状態を表す用語であるが,胎児が回復可能な状態から重篤で回復困難なものまで幅広い概念を表しており,その原因もさまざまである.本稿では,主に臍帯にその原因がある(臍帯因子)と考えられている胎児機能不全について解説する.

【妊娠中の検査と診断】

1.ノンストレステスト

著者: 渡辺博 ,   多田和美 ,   稲葉憲之

ページ範囲:P.1543 - P.1547

はじめに

 ノンストレステスト(nonstress test : NST)は1975年,Leeら1)が子宮収縮という胎児に対するstressをかけずに胎児心拍を記録し,胎動に伴う一過性頻脈の有無により,胎児の状態を知ることができると報告したことから始まる.NSTは胎児のwell─beingを評価する目的のために,産科臨床では普遍的に用いられている検査である.2008年4月よりNSTの保険適用が拡大され,入院・外来妊婦のNSTを健康保険を用いて実施することが容易になった.

 本稿では,NSTの検査法とその判定,NSTの保険適用の拡大,NST実施中にみられた高度の異常心拍パターンについて述べる.

2.バイオフィジカルプロファイル

著者: 柳原敏宏

ページ範囲:P.1549 - P.1553

はじめに

 胎児well─beingの評価は,胎児の的確な状態把握と治療の選択,さらに分娩時期の決定を行い周産期罹病率と周産期死亡率を低下させることが目的である.Well─beingの評価に有用な検査法の条件は,sensitivityならびにspecificityが高く,検査が簡便で,短時間で実施可能であり非侵襲的なことである.現在行われている胎児well─beingの評価法として,超音波による胎児計測・羊水量計測・胎児血流計測(パルスドプラ法),母体自覚胎動カウント,NST,CST,VAS,BPS(biophysical profile scoring)がある.最も簡便で広く行われているNSTでは,胎児心拍数変化のみで判断するため偽陰性率は低いが偽陽性率が高い.特に観察時間が短いと偽陽性率ならびに偽陰性率ともに高くなる.また,NSTで一過性頻脈が存在しreactiveであれば胎児のアシドーシスは否定的であるが,non─reactiveであった場合でも90%が偽陽性であるとされており,正確な胎児状態の把握のために追加検査が必要であり,VAS(vibro acoustic stimulation),CST,BPSなどが行われている.

 これらのback─up testのなかから本稿では,Manningら1)によって提唱されたBPSについて解説する.BPSでは,三種類の胎児運動を超音波で検出し,胎児中枢神経の活動性を反映したものとしている.さらに低酸素状態の持続により血液再配分が発生し,胎児腎血流量減少による尿量減少,羊水量減少を慢性ストレスを反映したものとして,これらにNSTを合わせることによって測定し擬陽性率を低下させている.

3.胎児血流計測

著者: 佐藤昌司

ページ範囲:P.1555 - P.1560

はじめに

 超音波ドプラ法は現在,臍帯血管をはじめとして胎児中大脳動脈,下行大動脈,下大静脈などを対象血管とした胎児諸臓器の血行動態を観察する方法として利用され,子宮内発育遅延(FGR)胎児における胎盤血管抵抗の上昇,あるいは低酸素状態に対する胎児血行動態の変化や再分配機構を評価する手段として用いられている.本稿では,ドプラ法を用いた胎児血流の評価法と,胎児機能不全における胎児血流の特徴について概説する.

【分娩中の診断と取り扱い】

1.胎児心拍数陣痛図の読み方―用語の新しい定義の解説

著者: 小濱大嗣 ,   瓦林達比古

ページ範囲:P.1562 - P.1563

はじめに

 胎児心拍数陣痛図の解読に用いる用語・定義は,2003年,日本産科婦人科学会周産期委員会から報告され,現在,一般的に日常の診療に広く普及している.現在での胎児well─beingを評価する方法としては,最も優れている検査であるが,胎児管理をより的確に行うためには,さらなる検証の必要性が求められる.この指針は,分娩中の胎児心拍数陣痛図の波形に基づき,その時点での胎児管理として,現在の医学知識から妥当と見なされる対応と処置を提示するために検討された.この稿では,従来の定義に新しい知見,定義を追加し補足解説する.

2.診断と取り扱いの指針

著者: 松岡隆 ,   長谷川潤一 ,   市塚清健 ,   大槻克文 ,   関沢明彦 ,   岡井崇

ページ範囲:P.1565 - P.1569

はじめに

 日産婦周産期委員会は2003年胎児心拍数図の判読法と定義を改訂した1).その背景となったのは,判読の観測者間誤差のみならず観測者内誤差も高いことが胎児心拍モニタリングの有益性を証明できない一因になっていたことであった.本来,胎児心拍数図の判読においては,子宮内で起きている現象を生理学的に解釈したうえで心拍数図を読むべきであるが,しかし,胎児心拍数変動の生理的意義の解明が未だ不完全であるため生理学的・臨床学的意義を重視した判読は解釈がばらつきやすい.それが観測者間誤差の大きくなる原因の1つでもあった.そこで生理学的・臨床学的意義を無視せず,かつ観測者間誤差を減少させるため,より客観性の高い判断基準の作成を目的としてこの改訂はなされた.この時点では,判定基準の統一はされたが判読結果に対応する指針の決定には至らなかった.

 その後現在まで胎児機能不全に対する指針のコンセンサスは存在せず,1997年NICHDで行われたWorkshop member(米国における周産期のエキスパート)による胎児心拍数モニタリングの判読でも以下の2点以外では指針に対する合意を得ることができなかった.

 1.Reassuring FHR patternとは,胎児心拍数基線が正常である,基線細変動が正常である,一過性頻脈がある,一過性徐脈がない,の4項目のすべてを満たしている波形をいい,このときの児のwell─beingは良好と判断する.

 2.反復する遅発一過性徐脈や反復する変動一過性徐脈や遷延一過性徐脈(徐脈を含む)のいずれかに基線細変動消失を伴う場合は胎児低酸素症のおそれがあるので急速遂娩の必要がある.

 2006年に提示された定義では,上記の1以外の胎児心拍異常すべてが胎児機能不全と診断されることになる.これでは方針を決定するうえで不十分であり,胎児機能不全と診断するだけでなく胎児状態の重症度に応じた細分類が必要なのは明らかであった.そこで,指針を作成する前段階として,臨床現場で,さまざまな胎児心拍数パターンに対応してどのような方針で胎児管理を行っているかの調査目的に,2007年周産期委員会は日産婦周産期登録施設を対象に胎児心拍数パターンとそれに対する臨床行動(level 1 : 経過観察からlevel 5 : 急速遂娩)のアンケート調査を行った.その結果は日産婦に報告されている2).胎児心拍数波形をまず基線細変動の正常と異常に分類し,胎児心拍数基線が正常脈・頻脈・徐脈の場合それぞれについて各一過性徐脈を高度と軽度で分けたすべてのパターンへの対応を問うた.また,基線細変動増加とサイナソイダルパターンは別にして調査を行った.

 この結果を受け,2008年,日産婦周産期委員会は以下を基本方針として「胎児心拍数波形の判読に基づく分娩時胎児管理の指針(案)」を作成した3)

1.胎児心拍数波形の,リスクに応じた段階的分類を行う.

(ア)これまでの知見に基づき胎児の低酸素・酸血症などのリスクを推量する.

(イ)心拍数基線細変動を重視する.

(ウ)過度に詳細な分類は避ける.

2.上記分類に対応した胎児管理指針を作成する.

(ア)米国NICHDの提言を参考にする.

(イ)日本の施設の現状(周産期登録施設の調査結果)を尊重する.

(ウ)施設による対応能力(人員・設備)および症例の背景因子を考慮して方針を決定できるようにする.

この指針の基本理念は胎児心拍数波形と処置を直接対応させるのではなく,まず波形を分類し,それに基づき日本の現状に合う妥当な方針を選択できる点に置かれる.以下に指針(案)を解説する.

3.分娩監視装置モニターの読み方―症例解説

著者: 桂木真司 ,   池田智明

ページ範囲:P.1570 - P.1577

はじめに

 分娩時における胎児管理のポイントは,胎児のアスフィキシアを予見・評価し,重度なアスフィキシアが認められれば改善策を講じ,無効であればただちに娩出することである.胎児アスフィキシアとは,(1)低酸素性または低酸素・虚血性のストレスに対して,(2)胎児の代償機能が破綻した結果,嫌気性代謝が進み,代謝性アシドーシス(または混合性アシドーシス)となり,(3)進行すれば,脳障害をはじめとする臓器障害へとつながる可能性のある病態と定義される.

 胎児アスフィキシアの臨床診断名がnon─reassuring fetal status(日本語病名としては胎児機能不全)である.分娩時における胎児機能不全の診断には,もっぱら胎児心拍数モニタリング(または胎児心拍数陣痛図,cardiotocogram : CTG)を用いて診断されている.胎児機能不全と胎児アスフィキシアとの関係を述べることが,分娩管理という医療行為を特徴づけているといっても過言ではなく,以下に述べる.

連載 産婦人科MRI 何を考えるか?・16

外陰部に骨様突出物を認めた高齢女性

著者: 山岡利成

ページ範囲:P.1512 - P.1515

 発熱のため,救急外来を受診した高齢女性.導尿の際に外陰部より骨様突出物を認めた.熱源精査目的で画像による精査が行われた.

 一見すると非常に複雑な画像のようにみえるので,解剖の整理から始めることとする.画像はT2強調像であり,尿が高信号となっていることから,膀胱(b)が同定できる.膀胱の外側後方に認められる円形のT2高信号(u)は,頭側に連続しており,拡張した尿管と推定される.膀胱の背側には直腸(r)が同定でき,直腸の後方外側に認められる索状低信号(open arrows)が肛門挙筋である.子宮の同定はかなり困難であるが,膀胱と直腸の間に認められる余分な構造として,図中に示したcoが子宮留水腫を合併した体部,cxが頸部と推測される.

病院めぐり

宮崎県立日南病院

著者: 春山康久

ページ範囲:P.1580 - P.1580

 県立日南病院は昭和23年9月に宮崎県日南市に開設され,平成10年2月に現在地に改築移転し,改築を機にNICU 10床が整備されました.今年は病院開設60年目の節目の年に当たります.

 宮崎県の周産期医療は,宮崎大学附属病院総合周産期母子医療センターを3次施設とし,県北部(県立延岡病院),県中央部(県立宮崎病院,市郡医師会病院,古賀総合病院),県西部(国立病院機構都城病院,藤元早鈴病院),県南部(県立日南病院)の6施設を2次施設病院として周産期ネットワークが整備され,宮崎県独自の「拠点分散型」として機能しています.年2回の周産期症例検討会が開催され,各施設から呈示される症例が徹底的に議論されます.また,周産期ネットワークの各施設は国立循環器病センター(大阪府),船橋中央病院(千葉県)とオンライで結ばれており,毎週月曜日に症例検討会が行われています.これらの成果として,宮崎県の周産期死亡率は常に全国でトップレベルとなっています.

健康保険諫早総合病院

著者: 福田久信

ページ範囲:P.1581 - P.1581

 諫早市は長崎県のほぼ中央部に位置し,人口は約14万人,諫早湾・有明海・橘湾の3つの海に囲まれた田園風景の広がるのどかな地方都市です.

 当院は,昭和28年3月,西彼杵郡喜々津村(現在の諫早市多良見町)に設置された社会保険喜々津病院が前身で,昭和36年6月に現在の諫早駅に隣接した場所に移転,昭和47年に健康保険諫早総合病院という名称になりました.病床数は333床,生命の尊重と安全の確保を理念とし,患者さんを中心とした親切で,優しい,やすらぎのある病院を目指しています.診療科目は18科で,脳神経外科・心臓血管外科・精神科を除く各疾患に対応し,主に急性期を中心とした疾患に医療を提供しています.病診連携という観点から,近隣の開業医とともに地域全体で住民の健康管理を行うよう努力しています.平成18年11月からは電子カルテを導入し,待ち時間を短縮するために外来は完全予約制をとっています.また,当院は臨床研修病院でもあります.独自で研修医募集行う単独型・管理型病院ですが,長崎大学医学部・歯学部附属病院の協力型病院としての役割も担っています.現在7名の研修医が日夜頑張っていますが,研修医のみならず長崎大学医学部学生の臨床実習,看護師・薬剤師・栄養士を目指す多くの学生の実習病院でもあります.

BSTETRIC NEWS

分娩前副腎皮質ホルモンはデキサメサゾンを

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1584 - P.1585

 切迫早産の治療の目標は新生児罹患を最小限にすることである.理想は分娩時の妊娠週数をできる限り延長することである.しかし,早発陣痛を長期間抑制する薬剤はないのが現状である.したがって,新生児罹患を減少させるための分娩前副腎皮質ホルモン使用が重要な戦略となる.その際に使用される副腎皮質ホルモンはデキサメサゾンかベータメサゾンが使用される.

 最近,Elimianら(ニューヨーク)が,これらの薬剤の効果を比較した研究(二重盲検無作為化偽薬対照試験)結果を発表した.研究対象は,2002年から2004年に妊娠24週から妊娠33週6日までの切迫早産(早発陣痛,満期前破水)および母児の適応で遂娩が必要な妊婦299名とした.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・39

子宮筋腫分娩と診断した類内膜腺癌,小細胞癌共存子宮体癌IV期の1例

著者: 乾泰延 ,   國見幸太郎 ,   木村光宏 ,   平野浩紀

ページ範囲:P.1587 - P.1590

症 例

 患 者 : 48歳,会社員.3経妊・2経産,身長156 cm

 主 訴 : 大量の性器出血

 既往歴 : 特記すべきことなし.

 現病歴 : 2007年11月下旬,当科にてトリコモナス腟炎の治療を受けた.子宮頸部細胞診はクラスII,超音波検査にて直径2 cmの筋腫結節が認められた(図1).2007年12月中旬,不正出血にて来院,内膜細胞診はクラスIIであった.2008年1月中旬,出張中に大量の性器出血があり救急病院を受診,腟鏡診で凝血塊を含む流血があり,内診で子宮は鵞卵大,内子宮口付近に弾性軟な腫瘤を触知し,経腟超音波にて同部に直径3 cmの腫瘤を認めた.造影CTにて子宮内腔は拡張しており,内診,超音波で認めた腫瘤内部には造影効果を認めず,腫瘤は凝血塊である可能性も否定できないとのことであった(図2).機能性出血であるのか,腫瘤からの出血であるのか判断困難であり,出張中であるので止血目的にてプレマリンの処方,鉄剤の投与を受けた.この時点でHb 7.8 g/dlと著明な貧血を認めた.

 救急病院を受診した翌日に当科外来を受診した.超音波検査にて子宮下部に直径4.1 cmの筋腫様腫瘤が認められ,子宮内膜はさほどの肥厚はなく,子宮腟部は腫大しており,子宮筋腫疑いとした(図3).取り敢えずドオルトンと鉄剤を投与し,貧血が改善すれば頸管拡張して筋腫を確認する予定とした.2008年1月下旬,再び多量の出血があり外来受診,内診にて筋腫分娩の状態となってきており,筋腫の表面からも出血があり止血剤の粉を噴霧,ガーゼで圧迫し近々経腟的に筋腫摘出予定とした.その5日後,静麻下で筋腫摘出を試みた.この時点でHbは7.1 g/dl,出血はごく少量であった.摘出時,筋腫は軟らかく変性様で,一塊として取れず,胎盤鉗子にて分割切除後に頸管内を掻爬し,頸管内にヨードホルムガーゼを充填した.以後,経過をみたが出血が収まらず,同日MAP4単位を輸血,緊急子宮全摘を行った.摘出子宮の割面をみると子宮頸部に筋腫が残存しており,子宮内膜からの出血はみられなかった(図4).

症例

外陰口に達した比較的大きな子宮頸管ポリープの1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充 ,   森下美幸 ,   鈴木美紀 ,   北島義盛 ,   水内将人 ,   両坂美和 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.1591 - P.1595

 今回われわれは,外陰部の異物触知を主訴に受診したところ,外陰口に達する比較的大きな頸管ポリープであった1例を経験した.症例は45歳(閉経前),2経妊・2経産,約4時間前より外陰部に異物感を認め受診した.外陰部の視診にて淡紅色の母指頭大程度の腫瘤が腟入口に認められ,腟鏡診にて子宮頸管後唇中央よりectocervixに発生した約5×3×2 cmの子宮頸管ポリープを認め腟入口まで下垂していた.子宮頸管ポリープの基部よりクーパー剪刀にて切除し縫合止血を行った.病理組織所見では表面は扁平上皮で被覆され,ポリープ内部は嚢胞性で,嚢胞壁は頸管腺上皮で覆われており,いわゆるナボット卵を内在して増大した子宮頸管ポリープであった.巨大子宮頸管ポリープは稀であるが,悪性化の問題や鑑別診断,妊娠時も含めた臨床的取り扱いなど臨床的に興味ある,そして重要な問題点が存在する.今後,さらなる症例の積み重ねによる知見の集積が必要であると考える.

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編集後記

著者: 岡井崇

ページ範囲:P.1602 - P.1602

〈行政力〉

 今年の10月に東京都で起こった大変残念で遺憾な出来事です.緊急処置を要する妊婦さんの搬送先の選定に時間が掛かり,因果関係はともかく,悲しいことに患者さんは頭蓋内出血で亡くなられました.

 メディアは一斉に周産期センターの“受け入れ拒否”,“患者のたらい廻し”と書き立てました.いかにも病院あるいは当直医師の使命感が欠如しているが如くです.日が経つにつれて“犯人探しとバッシング”は減り,事例の本質に迫る有意義な報道も目立つようになりましたが,一方で“医師のモラルの問題”などと発言する大臣もいるくらいですから,一般の人に現場の実情をわかってもらうことは難しいようです.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

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今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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