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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科62巻2号

2008年02月発行

雑誌目次

今月の臨床 新生児の蘇生と管理 分娩室での蘇生

1.新しい考え方とConsensus 2005の概要

著者: 田村正徳

ページ範囲:P.115 - P.119

はじめに

 国際蘇生法連絡委員会(International Liaison Committee on Resuscitation:ILCOR)は,2005年末に,5年ぶりに心肺蘇生法の概要の大幅な改正を提言した(Consensus 2005)1).アメリカ心臓協会(American Heart Association:AHA),の2000年版心肺蘇生法国際ガイドライン(AHA 2000)2)に比較すると新生児蘇生法に関しては小児の蘇生法ほどの大幅な改訂は行われなかったが,いくつかの重要な変更が行われた.こうした変更を受けて日本救急医療財団の心肺蘇生法委員会の日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会(委員長:丸川征四郎,小児科学会推薦委員:清水直樹,田村正徳)は,日本版救急蘇生ガイドラインを作成し,ホームページ3)にて関係者の意見を聴取したのち,2007年1月に確定版を出版4)した.また,日本周産期・新生児医学会は,このConsensus 2005に基づく日本版新生児心肺蘇生法を周産期医療関係者に修得させるための日本版新生児心肺蘇生法普及講習会を学会の認定事業(NCPR)5)として2007年1月から開始した.このように,今回のILCORのConsensus 2005はわが国の新生児心肺蘇生法の標準化とその普及活動の直接の引き金として作用した.

2.出生直後の評価とケア

著者: 真喜屋智子

ページ範囲:P.121 - P.125

はじめに

 日本の新生児医療は飛躍的な進歩を遂げ,新生児死亡率は1.4人/1,000出生(平成17年)まで改善した.しかし,いまだに地域格差は大きく,死亡率に約3倍の開きがある.今後,新生児死亡率をさらに改善するためには,新生児仮死への対応が重要である.

 出生前情報だけで,生まれてくる児の状態を完全に予測することは困難であり,突発的な事態に対応するために,すべての出産に,新生児蘇生に習熟したスタッフが立ち会うべきである.新生児蘇生はチーム医療であり,どのような判断や順序で蘇生を行うかチーム内で統一されていれば,よりスムーズに効果的な治療が行える.

 米国では,小児科医だけでなく,産婦人科医や助産師など分娩に携わるスタッフにも新生児蘇生プログラム(neonatal resuscitation program:NRP)の習得を要求している.現在,このNRPを日本の実情に合う形で導入した新生児蘇生ガイドラインが作成され1),2007年より周産期医療関係者への研修がスタートしている.

 本稿では,新しいガイドラインに沿って,主に正期産児の出生直後の評価とルーチンケアについて述べる.

3.羊水混濁時の対応

著者: 赤澤陽平 ,   廣間武彦

ページ範囲:P.126 - P.129

はじめに

 胎便吸引症候群(meconium aspiration syndrome:以下,MAS)は,胎便で混濁した羊水を気道内に吸引することによって生じる呼吸障害である.胎児が子宮内で低酸素などのストレスに曝されると,羊水中に胎便が排出される.胎便が肺内に吸引されるのは胎児が子宮内で呼吸様運動をして胎便で混濁した羊水を肺内に吸引する場合と,出生後に口腔内にある胎便を啼泣に伴い,肺内に吸引する場合が考えられる.

 MASでは肺内に吸引した胎便による機械的な機序に加え,胎便中の物質による化学的影響や,子宮内で羊水が胎便で汚染されるに至った背景にある低酸素状態による影響などによって,呼吸障害が生じると考えられている1)

 胎便は胆汁食に由来する黒緑色の粘稠な便であり,消化管分泌物,腸上皮,胆汁,膵液,粘液,血液,産毛,胎脂などにより構成されている.胎便が妊娠37週以前に羊水中に認められることは非常に稀であるが,42週以降の過期産になると30~40%の妊娠で胎便の混じった羊水が認められる.分娩の13%で羊水中に胎便が混在しており,5%の児がMASとなり,そのうち30%の児が人工呼吸管理を必要とするという報告がある2~4)

 臨床症状としては,出生後早期から多呼吸,陥没呼吸,呻吟などの呼吸窮迫症状を呈する.気胸,気縦隔などのair leakを合併しやすく,急激な酸素化の悪化や,低血圧を認めた場合は緊張性気胸を疑う必要がある.新生児遷延性肺高血圧症を合併した場合は,著明な酸素化の悪化と経皮酸素飽和度(SpO2)の上下肢差を認める.

 MASに対する治療は,一般的な呼吸循環管理やサーファクタントによる肺内洗浄に加え,遷延性肺高血圧症に対する治療が主であるが,MASを発症もしくは重症化させない予防が予後を改善するうえで一番重要であり,胎便による羊水混濁を認める場合は適切な評価と迅速な対応が必要となる.以下,American Heart Association(AHA)ならびにAmerican Academy of Pediatrics(AAP)の推奨する新生児蘇生法に沿ったアルゴリズムに従って(図1,2)5~7),羊水が胎便で混濁していた場合の蘇生法について概説する8~10)

4.バッグ・マスクの実際

著者: 加部一彦

ページ範囲:P.131 - P.133

はじめに

 「無呼吸もしくはあえぎ呼吸,心拍数100/分未満の徐脈」もしくは「100%酸素投与によっても中心性チアノーゼが持続する場合」は人工呼吸の適応となる.新生児仮死児の90%はバッグ・マスクを用いた人工呼吸で蘇生することが可能であり,自信を持って蘇生術を実施するためにも,日ごろからバッグ・マスクを正確に使いこなせるように習熟する必要がある.

5.胸骨圧迫の実際

著者: 清水健司

ページ範囲:P.136 - P.140

はじめに

 胸骨圧迫は新生児蘇生において頻繁に施行する手技ではないが,蘇生が遷延する例のなかでは,適切な胸骨圧迫が蘇生の成否を左右する場合もあるため必須の手技である.また,手技の実際においては,新生児特有の体格や,呼吸,循環生理に基づいて対応する必要がある.現在,新生児心肺蘇生のガイドラインにおいては,AHA(アメリカ心臓病学会)とAAP(アメリカ小児科学会)が中心となって国際的なガイドラインを5年ごとに改訂しており,本稿では,2005年に改訂されたガイドラインをもとに,正期産児を中心とした胸骨圧迫の実際について概説する.

6.気管挿管の実際

著者: 水谷佳世 ,   佐藤弘之

ページ範囲:P.142 - P.146

はじめに

 日常診療において新生児仮死および呼吸障害を呈する新生児に遭遇することは,その呼吸中枢の未熟性と気道や胸郭あるいは呼吸筋の脆弱性などの生理学的な特性から比較的多いと思われる.また,蘇生の遅延や遷延する呼吸障害は低酸素血症に直結し生死を左右するばかりでなく,神経学的な後遺症,予後の点からも重要で,その対応には速やかで適切な対応が必要となる.そのため初期の対応はきわめて重要と考えられ,気管挿管の適応があれば直ちに施行されるべきであることはいうまでもない.しかしながら,新生児・未熟児に対する気管挿管にはある程度,いわゆる“コツ”と呼ばれるものがある.それらを含めて概説する.

新生児室での管理

1.保育環境の整備

著者: 谷口博子 ,   堺武男

ページ範囲:P.147 - P.150

はじめに

 新生時期は,子宮内生活から子宮外生活へという重大な環境の変化に順応していかなければならない重要な時期である.出生直後,新生児は出生前(子宮内)環境の影響を強く残しており,いかにスムーズに新しい外的環境への適応や生理機能の急激な変換を行わせるかが,新生時期保育環境のポイントである.また,初めて母子が対面する瞬間でもあり,将来の親子関係の確立に重要な時期でもある.

 ここでは,新生児の発達にとってよりよい影響を与える環境について述べることとする.

2.ルーチンケア

著者: 長和俊

ページ範囲:P.151 - P.154

はじめに

 多くの施設で分娩室の個室化と,早期あるいは完全母児同室化が進行しているため,新生児を新生児室に収容する機会は減少している.一方で,早期新生児期は多くのケアを必要とする時期であり,たとえ完全母児同室で管理中であっても,ケアが省略されるわけではない.そのため,「新生児室におけるルーチンケア」は,「早期新生児期におけるルーチンケア」と言い換えることができる.ルーチンケアとは「予定された時期に,予定されたケア項目を確実に実行すること」と考えられるため,チェックリストの使用に適している.同様に,ルーチンケアは新生児領域では一般的に使用が制限されるクリティカルパスの導入にも適していると考えられ,複数のクリティカルパスが公開されている1, 2)

 しかし,疾患を持たない新生児に対するケアは地域・施設ごとに伝統的・経験的に構築されている部分が多く,またその有効性の判定が難しいため,EBM(evidence based medicine)が導入されにくい領域でもある.各施設の特異性を考慮しつつ,他施設の方法やエビデンスに目を向け,偏見を排して日常のルーチンケアを定期的に見直す姿勢が肝要である.

3.注意すべき徴候 1)哺乳不良

著者: 川瀬泰浩

ページ範囲:P.156 - P.158

はじめに

 新生児には本来出生直後よりすぐに乳首を吸啜し,乳汁を嚥下する能力が備わっている.このため母乳育児を成功させるために,生後30分以内に授乳をさせ,欲しがるときに欲しがるままに母乳を与えるといった授乳法が推奨されている.このような本来備わっているべき哺乳力が低下している場合,新生児における何らかの病的状態を考慮しつつ対応することが必要となる.本稿では,正常新生児室でみられる哺乳不良の原因とその対処について概説する.

3.注意すべき徴候 2)吐乳・嘔吐

著者: 川瀬泰浩

ページ範囲:P.160 - P.161

はじめに

 新生児の嘔吐は,大きく特別な処置を必要としない生理的嘔吐と治療を必要とする病的嘔吐に分けられる.正常新生児においても生後48時間以内に1~2回の嘔吐がみられるものが約70%といわれている1).本稿においては,正常新生児室において吐乳や嘔吐をみたとき,どのような場合にすぐに新生児専門施設あるいは新生児病室に入院させるべきかを中心に検討する.

3.注意すべき徴候 3)黄疸

著者: 横山直樹

ページ範囲:P.163 - P.165

はじめに

 新生児期早期の黄疸は高間接ビリルビン血症であり,このビリルビンの急上昇または高値を放置しておくと,中枢神経系を障害し核黄疸を惹起する可能性がある.この核黄疸を防ぐためには,黄疸の適切な治療,管理が必要である.近年,生後早期からの新生児黄疸の管理が普及し核黄疸は激減しているものの,その報告例が散見される.今もなお,適切な黄疸管理は児にとってきわめて重要である.

3.注意すべき徴候 4)呼吸異常

著者: 横山直樹

ページ範囲:P.166 - P.167

はじめに

 出生直後の呼吸異常やその後も持続する呼吸異常には,一過性の適応障害として認められる場合もあるが,重篤な疾患によることが多い.また,これらの原因疾患は呼吸器疾患以外にも心疾患,感染症,神経疾患,代謝性異常など多岐にわたる.そのため,新生児室においては児の呼吸状態の観察と評価がきわめて重要である.日常よくみられる呼吸異常として,呼吸困難症状(多呼吸,陥没呼吸,陥没呼吸,呻吟),チアノーゼ,無呼吸,喘鳴がある.本稿ではこれらの特徴について述べる.

3.注意すべき徴候 5)心雑音

著者: 伊東真隆 ,   早川昌弘

ページ範囲:P.168 - P.171

はじめに

 心臓超音波検査の普及により先天性心疾患の診断は飛躍的に正確になり,以前のように心臓カテーテル検査をするまで診断が確定しない症例はきわめて少なくなった.心臓超音波検査が先天性心疾患の診断に有用である今日であっても,スクリーニングとしての聴診は重要な検査の1つである.心雑音が聴取されたとしても必ずしも先天性心疾患が存在するわけではなく,生理的な心雑音の場合も少なくはない.しかしながら,新生児期にはductal shockなど致死的な経過をとる先天性心疾患があるため,注意深い観察と適切な判断が必要である.

 本稿では,新生児の心雑音の概略と一般産婦人科で正常新生児に心雑音を聴取した際の対処法について述べる.

3.注意すべき徴候 6)神経症状

著者: 横塚太郎 ,   早川昌弘

ページ範囲:P.173 - P.175

はじめに

 後遺症なき生存の必要性が求められるなか,新生児の異常な神経症状を捉え,迅速かつ的確な対応をすることは非常に重要なことである.異常な神経症状を呈する原因としては,低酸素性虚血性脳症や頭蓋内出血などの頭蓋内病変のみでなく,代謝異常や電解質異常などの全身性疾患の場合もあり注意を要する(表1).中枢神経系疾患の徴候として認めうる無呼吸発作や哺乳不良などについての詳細は他稿に譲り,本稿では神経学的な観察や診察により認めうる新生児期の異常徴候について述べることとする.

4.搬送の適応

著者: 近藤昌敏

ページ範囲:P.177 - P.183

はじめに

 新生児を搬送する方法としては,出生後に搬送する新生児搬送と,出生前に母体とともに搬送しておく母体搬送がある.周産期医療が普及するにつれ,ハイリスク症例に対しては母体搬送が主流になってきた.しかし,母体搬送が不可能な場合や,分娩中の経過で異常が発生したり,出生後初めて異常に気づくことも多く,新生児搬送はなくなることはない.新生児搬送の適応について主だったものを総論的に後述するが,実際には各地域のNICUの整備状況や個々の病産院の現状(医師数,看護体制,医療設備など)および小児科医師のサポート体制などによっても異なると思われる.また,早産・低出生体重児などは比較的判断しやすいが,多呼吸・嘔吐など曖昧な病態については判断が難しいことも多く,連絡が遅れたために児の予後にかかわることもある.したがって,いつでも相談できる良好な医療連携を日ごろから構築しておく必要がある.母体搬送が望ましい症例で母体搬送が不能である場合は,できる限り小児科医の分娩立ち会いが必要と考えている.

5.院内感染防止策 Prevention of Nosocomial Infections in Nurseries

著者: 高橋尚人

ページ範囲:P.185 - P.187

正常新生児室での保菌と感染

 新生児は正常の正期産児であっても免疫能は成人と比較すれば弱く,感染症が重症化しやすいこと,また新生児は集団で管理されている場合は集団感染が発生しやすいことに常に注意することが必要である.

 本邦の正常新生児室のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)保菌率は,2000年に主要NICUに対して行われた全国アンケート調査では,保菌者なしが6/18施設(33.3%),1~24%が8/18(44.4%),25%以上が3/18(16.7%)であり,正常新生児室でもMRSA保菌児は皆無ではなかった1).また,NICUを持たない病院で出生した正常新生児の生後1か月のMRSA保菌率が40%を超えたとする報告もあり2),正常新生児室でもMRSA保菌はあり得る.しかし同時に,MRSA保菌新生児のほとんどで生後28週までに保菌が消失していることも示されており2),保菌したMRSAが将来にわたり常在するわけではない.

6.退院時の保健指導:一般新生児を対象に

著者: 河野由美

ページ範囲:P.189 - P.191

はじめに

 退院が近づくと,新しい家族として児がスムーズに受け入れられるように支援することが大切である.保健指導に当たっては,まず赤ちゃんの誕生をともに祝い,喜ぶ気持ちが大切で,そのことが退院後の育児不安の軽減につながると思われる.その後に,家庭に帰ってから注意することをわかりやすく説明する.医師,助産師,看護師を含めた周産期医療スタッフがそれぞれの立場から保健指導を行うことが多いが,説明のずれは不安を助長するため,方針の統一が必要である.

連載 産婦人科MRI 何を考えるか?・8

下腹部腫瘤の鑑別診断

著者: 山岡利成

ページ範囲:P.111 - P.113

 腹部超音波で骨盤内腫瘤を指摘されていた73歳の女性.経過観察中に増大したため,MRにて精査することとなった.既往歴,家族歴,血液生化学所見には特記すべき異常を認めない.

病院めぐり

社会保険紀南病院

著者: 中川康

ページ範囲:P.194 - P.194

 和歌山県紀南地方(広範な紀伊半島南部地域)は,分娩取り扱い中止を回避するために,東部地区拠点病院に厚生労働省の緊急医師派遣システムにより産婦人科医師の派遣が行われたように医師不足が非常に深刻な地域の1つです.当院は田辺地区(紀南地方西部,診療圏人口15万人)の拠点病院として昭和20年12月に開設され,昭和33年4月に社会保険紀南綜合病院として発足,平成17年5月に新築移転,名称を社会保険紀南病院と改称しました.現在,一般病床352床(NICU 6床,ICU8床),感染病床4床,診療科目22科,日本医療機能評価機構認定,地域周産期母子医療センター,地域がん診療連携拠点病院,臨床研修指定病院などの指定を受け,地域の基幹病院として活動しています.

 産婦人科は前大学医局の撤退に伴い,平成16年4月に筆者(中川)ら3名の医師が徳島大学より派遣され診療を本格的に再開,平成18年10月より当地区のもう1つの拠点病院である南和歌山医療センターが分娩の取り扱いを中止し,当院に集約化されました.集約化前,2病院で7名勤務していた産婦人科医は5名に減少しています.

公立那賀病院

著者: 西丈則

ページ範囲:P.195 - P.195

 公立那賀病院は和歌山県紀の川市に位置し,昭和23年に那賀病院(病床数31床)として開設されました.何回かの増改築,名称変更を経て,平成11年に同じ敷地内に改築し現在の那賀医療圏の基幹病院として新生しました.

 当院は,病床数304床,診療科目18科,医師数46名の総合病院として地域医療に貢献しています.産婦人科は2年前までは4名の医師(男女各2人)で診療に当たっていましたが,現在(2007年),常勤医は3人に減少,さらに2008年4月からは男性医師2人のみの体制になる予定で,ますます常勤医の仕事環境が悪化することが予想されています.

もうひとつのインドネシア セックスワーカーを通してみたリプロダクティブヘルス・8

医療における人工妊娠中絶

著者: 東梅久子

ページ範囲:P.196 - P.197

禁じられた人工妊娠中絶

 人工妊娠中絶が法律で禁じられているインドネシアでは,妊娠がわかったときにひそかに自ら手を下すことを考える女性は少なくない.

 人工妊娠中絶に効果的であるとされる食品の摂取,腟内への異物の挿入,ジャムウjamuと呼ばれる伝統薬の摂取,ドゥクンdukun(霊媒師)による人工妊娠中絶などを試みても難しいとなると医療機関を受診する.しかし最後の選択肢として安全であるはずの医療も必ずしも安全とはいえない.

Estrogen Series・80

「更年期ののぼせ」について

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.198 - P.199

 米国社会では更年期の「のぼせ」(hot flushes)は最高70%ほどにもみられる.のぼせは更年期だけではなく,早発性卵巣機能不全や乳癌の治療に伴ってもみられる.前立腺癌の治療で抗アンドロゲン剤を使用する男性にものぼせはみられる.

 体内の温度調節にはさまざまな機能が関与している.体の深部温度(core body temperature),神経化学的メッセージ,末梢血管網などである.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・30

2回目の妊娠中に発症した先天性胆管拡張症症例

著者: 奥正孝 ,   宇山圭子 ,   前原将男 ,   梶原宏貴 ,   明石貴子 ,   斎藤仁美 ,   丸茂詠子 ,   小川恵

ページ範囲:P.203 - P.206

症例

 患者:26歳,1経妊・1経産.助産院にて2,690gの女児を分娩した.妊娠経過中に異常は認められなかったとのことである.

 既往歴:腹痛で近医を受診した際に胆石症と診断されたことがある.

 現病歴:前回とは別の助産院で分娩予定.妊娠初期検査目的で妊娠11週に当科を初診した.妊娠経過ならびに血液検査で異常所見を認めなかった.妊娠14週4日に,胃痛・背部痛を主訴に当院総合内科を受診した.血液検査において,AST 203U/l,ALT 156U/l,ALP 458U/l,LDH 252U/lと肝機能異常が認められ,以前指摘された胆石のときと症状が類似しているとのことで,消化器内科に紹介された.

原著

進行子宮頸癌患者の初回治療における費用効果分析─化学放射線療法vs放射線療法─

著者: 上村佳子 ,   向後麻里 ,   井上忠夫 ,   大久保和俊 ,   岡井崇 ,   米山啓一郎 ,   木内祐二

ページ範囲:P.209 - P.216

 進行子宮頸癌患者における放射線療法と併用化学放射線療法を,費用効果分析により比較検討した.対象は,昭和大学病院産婦人科に入院し,放射線療法または併用化学放射線療法を施行した子宮頸癌患者20名とした.治療後の臨床的経過を示すMarkov modelを作成し,費用は社会の立場で直接医療費のみ算出した.臨床効果は論文値より算出し,死亡をアウトカムとして費用効果分析を行い,費用効果比,増分費用効果比を求めた.患者背景では,平均年齢が放射線療法群で有意に高かった.費用効果比は併用化学放射線療法群が161,988円/月,放射線療法群が93,089円/月で,増分費用効果比は256,770円/月であった.感度分析においても結果は覆らず,モデルの頑堅性が示された.併用化学放射線療法は1年あたり約300万円を追加して支払うことで,1年の生存年の延長が得られることが明らかとなり,その費用は十分に許容できると考えられた.

症例

中隔子宮に発生した子宮体癌の1自験例と本邦の文献集計

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.217 - P.223

 今回,中隔子宮に発生した子宮体癌の1例を経験した.症例は83歳,0経妊・0経産,閉経は50歳で,主訴は約1か月前より続く不正性器出血であった.本例の術前診断には経腟超音波がスクリーニングとして有用で,MRIは子宮奇形の確定診断に威力を発揮し,子宮体癌の診断は麻酔下の頸管拡張のうえ細胞診,組織診,子宮鏡が有用であった.また,文献集計を行ったところ,われわれの検索した限りでは本邦では田中ら(1987年)の初回報告以来,2007年2月末日までで20例であった.初診時の内膜細胞診は,30.8%(4/13例)は癌を検出できず,初回の組織診は悪性所見がないものが30.8%(4/13例)であった.最終的に術前診断で子宮奇形に合併した子宮体癌を正診できた例は,記載のある19例中9例(47.4%)で,疑い診断が2例,子宮体癌のみ診断できた例が6例(31.6%),子宮体癌または頸部腺癌の術前診断が1例,骨盤内腫瘤が1例であった.

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編集後記

著者: 岡井崇

ページ範囲:P.232 - P.232

<お産難民>

 平成19年は産婦人科医師不足が臨床現場に実質的な問題を噴出させた年でした.学会認定の流行語大賞は,“医療危機”や “医療崩壊”を押さえて“お産難民”で決まりでしょう.メディアの切り口はさまざまですが,文字通り枚挙に遑がないほど多くの番組や紙面で取り上げられたのはご存知の通りです.

 学会も手を拱いていたわけではありません.理事長が先頭となり,厚労大臣,東京都知事を始め政府,関係官省庁に働きかけ,同時に“産婦人科医療提供体制検討委員会”からの緊急提言の発信,サマースクールの開校,産婦人科紹介のDVDの作製,ニュースレターの発行など,考え付く限りの手段を駆使して難局の打開に向けた活動を精力的に行いました.それに加え,草の根運動ともいうべき,会員1人1人の現場からの声も効いたと思います.厚労省も漸く重い腰を上げ,事態の改善のためのいくつかの施策を打出しました.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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