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今月の臨床 新生児の蘇生と管理 分娩室での蘇生
3.羊水混濁時の対応
著者: 赤澤陽平1 廣間武彦2
所属機関: 1信州大学医学部小児医学講座 2長野県立こども病院総合周産期母子医療センター新生児科
ページ範囲:P.126 - P.129
文献購入ページに移動胎便吸引症候群(meconium aspiration syndrome:以下,MAS)は,胎便で混濁した羊水を気道内に吸引することによって生じる呼吸障害である.胎児が子宮内で低酸素などのストレスに曝されると,羊水中に胎便が排出される.胎便が肺内に吸引されるのは胎児が子宮内で呼吸様運動をして胎便で混濁した羊水を肺内に吸引する場合と,出生後に口腔内にある胎便を啼泣に伴い,肺内に吸引する場合が考えられる.
MASでは肺内に吸引した胎便による機械的な機序に加え,胎便中の物質による化学的影響や,子宮内で羊水が胎便で汚染されるに至った背景にある低酸素状態による影響などによって,呼吸障害が生じると考えられている1).
胎便は胆汁食に由来する黒緑色の粘稠な便であり,消化管分泌物,腸上皮,胆汁,膵液,粘液,血液,産毛,胎脂などにより構成されている.胎便が妊娠37週以前に羊水中に認められることは非常に稀であるが,42週以降の過期産になると30~40%の妊娠で胎便の混じった羊水が認められる.分娩の13%で羊水中に胎便が混在しており,5%の児がMASとなり,そのうち30%の児が人工呼吸管理を必要とするという報告がある2~4).
臨床症状としては,出生後早期から多呼吸,陥没呼吸,呻吟などの呼吸窮迫症状を呈する.気胸,気縦隔などのair leakを合併しやすく,急激な酸素化の悪化や,低血圧を認めた場合は緊張性気胸を疑う必要がある.新生児遷延性肺高血圧症を合併した場合は,著明な酸素化の悪化と経皮酸素飽和度(SpO2)の上下肢差を認める.
MASに対する治療は,一般的な呼吸循環管理やサーファクタントによる肺内洗浄に加え,遷延性肺高血圧症に対する治療が主であるが,MASを発症もしくは重症化させない予防が予後を改善するうえで一番重要であり,胎便による羊水混濁を認める場合は適切な評価と迅速な対応が必要となる.以下,American Heart Association(AHA)ならびにAmerican Academy of Pediatrics(AAP)の推奨する新生児蘇生法に沿ったアルゴリズムに従って(図1,2)5~7),羊水が胎便で混濁していた場合の蘇生法について概説する8~10).
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