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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科62巻4号

2008年04月発行

文献概要

今月の臨床 産婦人科臨床の難題を解く─私はこうしている II 不妊治療 【一般不妊治療】

7.早発卵巣不全(POF)への対処は?―閉経患者の内分泌動態から考案した早発卵巣不全(POF)の排卵誘発法

著者: 田中哲二1

所属機関: 1和歌山県立医科大学産科婦人科学

ページ範囲:P.474 - P.481

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1 はじめに

 早発卵巣不全(premature ovarian failure : POF)の原因はさまざまであるが,共通した特徴は卵胞発育不全による卵巣性第2度無月経/早発閉経を呈し,治療困難な排卵障害を示すことである.卵巣摘出や放射線照射による卵巣機能廃絶のような絶対的卵胞消失状態を除けば,卵胞が多少なりとも残存していれば排卵する可能性はゼロとはいえない.しかし,残存卵胞数がきわめて少なかったり,下垂体からの卵胞刺激にも低反応であると,通常の排卵誘発方法ではほとんど成功を期待できないのが現状である.したがって,POF合併不妊症患者の不妊症治療の第一歩は,まず排卵させることであるが,POF合併不妊症患者に対する確実な排卵誘発法はいまだに確立していない.POFは決して稀な疾患とはいえないが,不妊症治療を積極的に望む患者は一部にしか過ぎず,多数のPOF合併不妊症患者の不妊治療を試みた経験のある婦人科医がほとんどいないことも,治療法未確立の大きな理由でもある.POFの原因は多様であるが,卵巣機能不全を完全に治す原因療法は,現在のところ皆無であり,今後もその期待はできないと想像される.

 現実的に,POF患者にとって問題となるのは,早発閉経の名称から予想されるエストロゲン不足による加齢現象の促進と,ゴナドトロピン抵抗性無排卵症によるきわめて難治な不妊症の2つのみである.前者はエストロゲン禁忌患者でない限りは,対症療法としてのホルモン補充療法が完全に確立されている.問題は,ゴナドトロピン抵抗性無排卵症によるきわめて難治な排卵障害である.一部のPOF患者には自己抗体が検出されることから自己免疫疾患としての関与も考えられており,排卵誘発療法時に副腎皮質ステロイド剤を併用する方法も試みられているが,その治療成功率が特に高いというものではない.また,卵胞数が維持されているゴナドトロピン抵抗性卵巣患者の場合は,ゴナドトロピン受容体以降のシグナル伝達系に異常があると考えられるために,通常の排卵誘発方法には限界がある.受容体以降の細胞内シグナルを特異的に制御できる方法や試験管内で卵胞発育を完全に制御できる方法が確立されれば,排卵させずに発育未受精卵を獲得できる可能性が考えられる.この理論は卵胞数減少による一般的なPOF患者やpoor responder患者に対する不妊症治療への応用も期待できるが,現実的にはほとんど研究が進んでいない.

 本稿では,実際の不妊診療の現場で最も多く遭遇する,卵胞数減少による一般的なPOF患者に対する不妊症治療について,筆者の行っている対処法を紹介する.

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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