icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科62巻6号

2008年06月発行

雑誌目次

今月の臨床 妊婦の感染症

妊婦の感染症―今日の話題

著者: 梅川孝 ,   杉山隆 ,   佐川典正

ページ範囲:P.802 - P.805

はじめに

 医学の進歩により,これまでに多くの感染症が克服されてきたが,母子感染の領域においては,妊婦の感染症スクリーニングや性感染症対策,あるいはpreconception careといった点において,今なお克服されていない課題が存在する.このような視点から,母子感染に関連した話題について,最近の動きを含めて概説する

妊婦の免疫学

著者: 中島彰俊 ,   伊藤実香 ,   斎藤滋

ページ範囲:P.807 - P.811

はじめに

 胎児は母親にとってsemi-allograftであり,異物である.また,まったくの異物である第三者由来の胚を代理母の子宮に移植しても(胎児はallograftとなる),妊娠は維持される.しかし一方で,妊娠時の免疫系の変化は,ウイルス感染の重篤化や再活性化を引き起こすだけでなく,流・早産の原因ともなる.妊娠中の免疫能を理解することは,妊娠の感染症の理解にもつながり,管理上重要であると考えられる.そこで,本稿では妊婦における免疫学を概説する.

妊産褥婦の重症感染症 : リトドリンによる無顆粒球症を中心に

著者: 松原茂樹 ,   泉章夫 ,   大口昭英

ページ範囲:P.812 - P.815

はじめに

 妊産褥婦は基本的には健康な女性である.Compromized hostではないので,妊産褥婦に重症感染が起こる頻度は低い.問題なのは,妊産褥婦は一見健康そうなので,感染症初期サインが見逃されやすいことである.発見が遅れ,治療開始が後手に廻ると感染症は重症化しやすい.髄膜炎や細菌性心内膜炎では治療の遅れは致命的になり得る.

妊婦の感染と早産

著者: 大槻克文 ,   松浦玲 ,   杉山将樹 ,   八鍬恭子 ,   長谷川潤一 ,   松岡隆 ,   市塚清健 ,   岡井崇

ページ範囲:P.816 - P.823

はじめに

 妊婦の感染が早産の原因となることは古くから知られていたが,早産の多くで子宮内感染,特に絨毛膜羊膜炎の関連していることが指摘されたのは比較的最近のことである.その知見に基づき,早産予防や切迫早産管理の新しい指針の確立が急がれているが,現在のところ未だ実現していない.それは絨毛膜羊膜炎の診断と治療が一般に予想される以上に難しく,またその前段階の腟や頸管の感染などの取扱に関しても最適な方法を見つけることが困難なためである.

 本稿ではこれまでの報告を基に,上記をめぐる諸問題について考察してみたい.

妊婦の感染─胎児への影響と対策

1. 梅毒

著者: 河村堯 ,   河村隆一 ,   平泉良枝

ページ範囲:P.825 - P.829

はじめに

 厚生労働省の「感染症発生動向調査1)」(表1)をみると1999年では梅毒罹患者の35.8%を女性が占め,その13.1%の女性が年齢20~39歳で,その43.1%の女性が60歳以上で占めたが,2003年以降は60歳以上の女性では約18%に減少していた.また0~4歳までに発症した先天梅毒児は1999年以降で全梅毒感染患者数の約0.76%と減少した.

2. B群溶連菌

著者: 牧野康男 ,   松田義雄 ,   太田博明

ページ範囲:P.831 - P.833

はじめに

 B群溶血性連鎖球菌(Group B Streptococcus : GBS)はStreptococcus agalactiaeによる感染である.GBSはヒト泌尿生殖器に常在し,妊婦の10~30%がGBSを保菌している1).GBSはGBS保菌妊婦から約60%の割合で新生児に伝搬し,そのうち1~2%に早発型新生児感染症が発症する1).米国ではGBS感染予防対策を実施する以前は,早発型が出生1,000人に1.8人発生していたが,予防対策実施以降,早発型は0.31~0.34人に減少した2, 3).一方,わが国においては,新生児GBS感染症の発病率は0.005~0.02%程度と推測され,米国よりも低い水準にある4)

 わが国ではGBS感染予防対策はまだ統一されたものはないが,米国疾病管理予防センター(Center for Disease Control and Prevention : CDC)では,新生児のGBS感染症予防ガイドラインを1996年に策定し5),その後,2002年に改訂版が発表されている6)

 本稿ではCDCの2002年改訂版ガイドラインを中心に,GBS感染症に対する児への影響,予防の適応ならびに抗菌薬予防投与の方法ついて述べる.

3. リステリア

著者: 竹田善治 ,   安達知子 ,   中林正雄

ページ範囲:P.834 - P.837

はじめに

 リステリア症は,自然界に広く分布するリステリア菌(Listeria monocytogenes)による感染症である.わが国における平均発症件数は年間83件,人口100万人当たりの発症頻度は0.65と報告1)されており,通常は悪性腫瘍,AIDSなど免疫不全となるような状態でない限り罹患することは稀な疾患である.しかし妊娠中は,妊娠継続の必要性から特殊な免疫状態に置かれるため,本菌に対する感受性が約17倍高くなることが知られている2)

 リステリア菌に感染した場合,妊婦の症状は発熱,感冒様症状など比較的軽微で非特異的であるにもかかわらず,児に対しては流早産や子宮内胎児死亡,早期新生児死亡などきわめて重篤な合併症を起こす.症状に乏しい感染母体から胎児に経胎盤感染が起きるため,妊娠中の診断が困難であること,免疫能の未熟な胎児への感染後の経過が急速かつ重篤であることなどが予後を不良にしている2, 3).このため,本症の迅速な診断・治療が望まれるが,一般的には早期の対応は困難で,多くは母体血や羊水などからリステリア菌が培養されたり,出生後に比較的特徴的な新生児の症状などから疑われ,本症が診断される.早期診断の手がかりとして,頻度は低いものの,周産期死亡率の高いリステリア菌を母児感染の原因菌として念頭に置いておくことが大切である.

4. トキソプラズマ―IgG avidityとmultiplex-nested PCR法を用いた先天性トキソプラズマ感染症の管理

著者: 山田秀人 ,   西川鑑 ,   山本智宏 ,   水江由佳 ,   西平順

ページ範囲:P.839 - P.843

先天性トキソプラズマ症

 トキソプラズマ(Toxoplasma gondii : T. gondii)は,胞子虫綱,真コクシジウム目,サルコシスティス科に属する原虫であり,ネコ科の動物を終宿主とする.中間宿主域はきわめて広く,ヒトを含むほ乳類や鳥類などの温血動物に感染する.ヒトへの感染経路には3つが考えられる.①トキソプラズマ)に初感染したネコの糞に排出されるオーシスト(接合子嚢)を摂取した場合,②感染した動物の肉を生や不十分な加熱調理で食べ,シスト(嚢子)を摂取した場合,ならびに③タキゾイト(栄養体)が母体から胎児へ入り感染する場合(先天性トキソプラズマ症)である.

 トキソプラズマ感染では無症状であることが多く,ときに頸部リンパ節腫脹や発熱を伴う.母体の初感染で,胎児は先天性トキソプラズマ症を発症する.妊娠中・後期の初感染では胎児感染率(妊娠15~30週で約20%,31週以降で60~70%)は高いものの,不顕性や軽症が多い.一方,妊娠初期(~14週)の初感染では胎児感染率(10%以下)は低いが,症状がより重症(流死産,脳内石灰化,水頭症,脈絡網膜炎,精神運動障害)になる1).先天性トキソプラズマ症の1~2%は知的障害もしくは死亡に至り,4~27%は脈絡網膜炎を発症し片側性視力障害を起こす2, 3)

5. 風疹

著者: 久保隆彦

ページ範囲:P.844 - P.847

はじめに

 妊娠中の風疹感染症では,母体症状・管理だけではなく胎児・新生児への影響にも留意しなければならない.太平洋戦争後の沖縄での風疹大流行の半年後に多数の先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome : CRS)が出生し社会問題となった.このことにより,産科医・国民は妊娠と風疹感染に注目することとなったが,妊娠初期の風疹検査結果のみで安易に人工妊娠中絶を選択する風潮も生じた.その後CRSは報告がきわめて少なくなったが,3年前に再び2桁のCRSが発生し,妊婦の風疹感染の緊急対策が検討され,提言された.この検討で,従来信じられていた風疹の母子感染に関する医学常識が間違っていたことが明らかとなり,風疹特異的IgM陽性だけで風疹胎内感染を予想することは困難であることが判明した.したがって,CRSを恐れるあまりの安易な妊娠中絶を産婦人科医あるいは妊婦・家族が選択する医学的根拠を失った.

 風疹の診断,治療だけではなく,風疹に感染する可能性のある妊娠可能年齢の女性がCRSを出産することを予防することが強く望まれる.これにはまず妊婦の風疹抗体の有無をスクリーニングし,抗体陰性あるいは低抗体価の妊婦には産後にワクチン接種をしなければならない.

 母子感染についてエビデンスのある診断法・治療法・管理法については,患者ならびに家族に十分に説明したうえで実施することが大切である.

6. 麻疹

著者: 齊藤寿一郎

ページ範囲:P.850 - P.853

はじめに

 最近,麻疹は10歳台,20歳台を中心とした流行を毎年のように繰り返しており,妊孕性のある年齢での発症は周産期へ影響を及ぼすことが懸念されている.本稿では麻疹流行の動向,麻疹罹患の周産期に及ぼす影響と対応,現在行われている予防管理対策について述べる.

7. サイトメガロウイルス

著者: 金子政時

ページ範囲:P.854 - P.857

はじめに

 胎内サイトメガロウイルス(cytomegalovirus : CMV)感染症は,乳幼児に神経学的後遺症を引き起こす最も頻度の高い周産期ウイルス感染症である.近年,若年者におけるCMV抗体保有率の低下に伴い,妊娠初期に妊婦がCMVに感染する機会が増え,ひいては胎内CMV感染症の発生の増加につながることが懸念されている.

 ここでは,胎内CMV感染症の胎児への影響と対策について概説する.

8. パルボB19ウイルス感染胎児に対する診断と治療

著者: 吉田昌史 ,   松田秀雄

ページ範囲:P.859 - P.861

はじめに

 これまで胎児パルボB19ウイルス(以下,B19)感染症では,胎児採血または中大脳動脈血流速度の測定1)による胎児貧血の診断がなされ,胎内治療の適応が考えられてきた.しかし,胎児感染・胎児低酸素・心筋障害の程度を測る指標があれば,治療の多様化に即した胎内治療の適応の確立が可能となる.当院ではB19感染胎児に対し羊水中のB19─DNA,エリスロポエチン(Epo),トロポニンT(TnT)を測定し,多角的に胎内感染の重症度を解析することを試みているので,最近のB19に関する知見とともに紹介する.

9. 水痘

著者: 永井立平 ,   林和俊 ,   深谷孝夫

ページ範囲:P.862 - P.867

はじめに

 水痘は水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus : VZV)感染により発症する.VZVはα亜科に属するヘルペスウイルスで,初感染によって水痘を発症し,治癒とともに知覚神経に沿って三叉神経節や脊髄後根の知覚神経節に潜伏感染する.その後,宿主の細胞性免疫低下に伴い再活性化し,皮膚の神経分布領域に帯状疱疹を発症する.わが国における水痘罹患は5歳までに80%が,9歳以上では90%がVZV抗体を保有していると考えられている1).逆にいうと,約10%の成人は抗体を保有していないことになり,現在の水痘の流行状況からすると,抗体を持たない母親が増える可能性がある.しかし,浅野2)の報告では21~38歳女性のVZV抗体保有率は98.0~99.1%であり,わが国における妊婦水痘の頻度は非常に低いとしている.世界的には,妊娠中の水痘罹患率については1/2,000との報告がある3, 4)が,実際にはもう少し多いとのみかたが有力である.周産期水痘の最も注意すべき点は,母体の水痘肺炎合併であり,重症化した際は適切な治療が予後を左右する.また,罹患時期によっては児の予後を左右すること,また管理についても罹患と分娩までの期間によりその対応が異なるといった特殊性を有し,産科医としては本疾患に対しての慎重な配慮と適切な対応を行う必要がある.

10. HIV母子感染

著者: 伴千秋 ,   岡垣篤彦 ,   伊東宏晃 ,   高橋秀元 ,   佐々木浩呂江 ,   松本久宣 ,   神谷まひる ,   渡辺悠里子

ページ範囲:P.868 - P.873

はじめに

 本年2月12日に発表された厚労省エイズ動向委員会の報告(昨年末現在までの集計)によると,日本人のAIDS患者・HIV感染者の累計(凝固因子製剤による1,438人を除く)は10,683人となり,男9,821人,女862人であった.感染経路別でみると,同性間の性的接触によるものが5,361人,異性間の性的接触が3,623人に対し,母子感染は33人と現在までは低率にとどまっている1)

 しかしWHOによる感染経路別のHIV感染率は,血液・血液製剤の輸注では90%以上と飛び抜けて高いが,それに次いで母子感染の約30%が目立つ.通常の性交で0.1%,感染率が高いと思われる肛門性交でも0.5%,医療従事者の針刺し事故でも0.5%程度の感染率とされているのと比較すると,今後若いAIDS/HIV感染者が急増すれば母子感染がわが国でも主要な感染経路として問題になってくる可能性がある.実際,UNAIDSの推計によると昨2007年の全世界のHIV感染者数は33,000,000人,新規感染者数は2,500,000人であるが,母子感染数はやや減少したとはいえ年間420,000人に上り,その半数が2歳までに死亡するという.

 このように,世界的にみれば異性間・同性間の性交(地域によっては麻薬・覚せい剤の回し打ちも)と並んでHIVの主要感染経路の1つとなっている母子感染も,無治療であれば25~30%に上る感染率を適切な対策を講じることによって2%以下にまで抑制することが可能となった2)

対談

医療崩壊を防ぐために―舛添 要一 氏 vs 岡井 崇 氏

著者: 岡井崇

ページ範囲:P.791 - P.799

 医師不足はどうなる?医療事故は刑事訴追?“危機”を超えて“崩壊”とさえいわれる昨今の医療環境.この窮状の打開に向けて,舛添要一厚生労働大臣にかかる医療界の期待は大きい.「舛添氏は何かやってくれそう」と大臣就任を最も喜んだ医師の1人であり,小説『ノーフォールト』の著者としても知られる岡井崇氏に,現場で苦悩する臨床医を代表して舛添氏と対談していただいた.(2008年3月25日,収録)

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・33

妊娠27週で子宮破裂に至った前置癒着胎盤の1例

著者: 山田新尚 ,   小坂井恵子 ,   日江井香代子 ,   水野智子 ,   小野木京子 ,   田上慶子 ,   佐藤泰昌 ,   横山康宏 ,   今井篤志

ページ範囲:P.875 - P.878

症例

 患 者 : 34歳,4経妊・3経産

 既往歴 : 2000年3月に妊娠高血圧症候群,帝王切開,2002年2月に反復帝王切開,2005年1月に反復帝王切開.人工妊娠中絶術が1回あるが,時期は不明である.

 現病歴 : 近医にて前置胎盤を指摘され,紹介にて2007年6月上旬に初診(13週3日)となった.妊娠継続の危険性をインフォームド・コンセントののち,外来管理とした.9月上旬(27週2日),突然の持続する腹部の激痛のために緊急入院した.

 入院時現症 : 〔表情〕苦悶様,努力呼吸,発汗著明,〔血圧〕140/80 mmHg,〔腹部〕緊満(++),右下腹部の圧痛著明,腸蠕動音弱,金属音なし,〔Blumberg〕陰性,背部叩打痛あり,性器出血なし.

 検査所見 : 〔白血球〕7,700/μl,〔Hb〕10.5 g/dl,〔血小板〕23.7万/μl,〔CRP〕0.40 mg/dl,肝機能,腎機能,血液凝固系はいずれも正常範囲内であった.〔尿潜血〕陰性であった.〔経腟超音波所見〕子宮頸管の開大や短縮はなかった.Sonolucent zoneの消失とカラードプラ法にて血流豊富な絨毛間腔placental lakeを認めた(図1).〔CTG〕 Reassuring fetal status : 2~3分間隔で規則的な子宮収縮があった.

病院めぐり

―公立学校共済組合―四国中央病院

著者: 浜田信一

ページ範囲:P.882 - P.882

 四国中央市はその名のとおり四国の中央付近に位置しており,四国縦断自動車道と四国横断自動車道(通称Xハイウェイ)の交点にあります.このハイウェイを使用すると四国の4つの県庁所在地まですべて40~60分で行くことができ,交通の要所として非常に便利な場所です.古くから製紙工業の町として栄え,大王製紙を筆頭に大小多数の製紙工場があります.当院の管理運営は公立学校共済組合が中心となっており,同じような病院が全国で当院を含めて8病院あります(ほかに東北,北陸,関東,東海,近畿,中国,九州).公立学校に関係ある仕事としては学校の先生の健診(人間ドック)が主で,四国中の先生が当院に集まってきて人間ドックを受けています.もちろん通常の診療においては学校の先生とはまったく関係なく行われており,近隣の住民が数多く受診しています.総病床数は259床で,診療科15科,常勤医29名の中規模総合病院です.

 産婦人科に関していえば,四国中央市では数年前から分娩の取り扱いを中止する医療機関が相次いでいるため,当院の分娩数と手術数は急増しています.平成5年には年間130件しかなかった分娩件数は今では500件を超えており,約4倍に増加しています.手術件数も増え年間約250件です.最近は腹腔鏡手術や悪性疾患の手術が増えてきたのも特徴です.産婦人科に割り当てられている病床数は平成16年度が13床,平成17年度は17床,平成18年度は21床,平成19年度は30床とその数はどんどん増えています.産婦人科常勤医は現在3名ですが,とても3名では足りません.4人目の常勤医を切望しています.当院に少しでも興味のある方はぜひご連絡ください.

県立幡多けんみん病院

著者: 中野祐滋

ページ範囲:P.883 - P.883

 県立幡多けんみん病院は高知県の県都・高知市から西南にJRで約2時間を要する,冬になるとだるま夕日がみられる宿毛市にあります.東にはアカメや手長えびで知られる日本最後の清流と言われる四万十川を擁する四万十市(旧中村市)が,そして南には蒼い海と空に真っ赤な椿の映える足摺岬がある土佐清水市があります.この3市を中心に周辺の町村を合わせて幡多地域と称します.当院は,平成11年4月24日に宿毛市と旧中村市の県立病院を統合し,診療科を17科に拡張して,病床374床で幡多地域の中核病院として産声を上げました.そして,現在は7対1看護に対応すべく,病床数355床となりました.

 開院当時はけっこう見学者もあり,平成13年には医療福祉建築賞も受賞しました.平成17年2月には病院医療機能評価機構により認定を受けました.また,平成19年5月にはDPCの準備も始めており,平成20年度には電子カルテの導入を予定しています.

原著

神経管閉鎖障害は葉酸サプリメントで予防可能―産婦人科医の認知度調査―

著者: 近藤厚生 ,   下須賀洋一 ,   市古哲 ,   井上裕美 ,   小口秀紀 ,   多田克彦 ,   山田満尚 ,   山本真一 ,   渡辺孝紀 ,   渡辺潤一郎

ページ範囲:P.885 - P.889

 妊娠4週前から妊娠12週まで葉酸サプリメント400 μg/日を摂取すると,神経管閉鎖障害の発生リスクを低減できる.アンケート調査を行って,産婦人科医の認知度と妊婦生活指導について調べた.

 葉酸の認知率は87%であり,5年前の76%に比べると有意に上昇していた(p<0.05).この情報は,85%の医師が日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会,学術講演会,学術雑誌などから入手していた.続いて16%がマスメディア,7%がインターネットであった.若い女性または妊婦へ禁煙,禁酒,栄養バランスの取れた食事,葉酸を含むサプリメントなどを推奨している医師は,それぞれ99%,86%,83%,40%であった.81%の医師は,葉酸が神経管閉鎖障害を予防できるとの情報を若い女性へ提供すべきであると考えていた.妊婦が食事から摂る葉酸は,食事摂取基準値を満たしていないので,葉酸サプリメントを摂取するよう指導することが望ましい.

症例

診断的腹腔鏡により早期発見・治療に至った子宮広間膜ヘルニアの1例

著者: 大隅大介 ,   林博章 ,   杉山隆治 ,   中田俊之 ,   垂石正樹

ページ範囲:P.891 - P.895

 子宮広間膜ヘルニアは内ヘルニアの0.016%を占める稀な疾患である.今回われわれは術前CTにて診断し,腹腔鏡下に治療した本疾患の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は60歳の女性で,間歇的な下腹部痛で発症した.CT検査で左付属器と交差する直腸および左側に吊り上がった子宮を認めた.左子宮広間膜ヘルニアと診断し,腹腔鏡下に手術を行った.左子宮広間膜に約10 cmの裂孔を認め,これをヘルニア門として直腸が嵌頓していた.嵌頓腸管を整復し,左円靱帯・卵管・卵巣固有靱帯を切断して裂孔を開放した.腸切除は必要なかった.本症は稀であるが,腸閉塞の鑑別診断として念頭に置き,通常の婦人科診察上明らかな異常を認めない症例に対して,CT検査や診断的腹腔鏡により早期に診断・治療することにより腸切除を回避できる.

--------------------

編集後記

著者: 岡井崇

ページ範囲:P.904 - P.904

<事故調の行方>

 いわゆる“医療事故調”の設立とその法制化に向けて,第二次試案,続いて第三次試案が公表され,わが日産婦学会もそれらに対して公式の“見解と要望”を発表した.この動きは,日本医師会が医師法第21条の拡大解釈による“医療関連死”の警察への届け出の義務化がもたらす弊害をなくすために厚労省に働きかけたのを契機としている.厚労省を通じてか,直接医師会の要望に呼応してかは定かでないが,自民党内に“医療紛争処理のあり方検討会”が設置され,「診療行為に係る死因究明制度等について(案)」という上記法制化の骨格が示された.それに則って検討された厚労省の試案が,現在,医療関連諸学会を中心に一大論争を巻き起こしているのである.

 一方,野党にも“医療”に関心を持つ議員は少なくないが,問題は現下の政局である.“年金”,“ガソリンの暫定税”等々で躓く与党を一刻も早く解散・総選挙に追い込みたいの一念から,自民党案には理もなく悉く反対する腹づもりのようだ.元来,“事故調”制度は厚労省のみで法制化できるものではなく,司法当局との折衡や国民の合意形成も必要で,政治的に決着を付けられるべきであろうが,こんなときに,政局に紛れ,政治の場で真剣な議論がなされないのはわれわれにとって不幸なことである.今後の見通しはまったく立っていない.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻12号(2022年12月発行)

今月の臨床 帝王切開分娩のすべて―この1冊でわかるNew Normal Standard

76巻11号(2022年11月発行)

今月の臨床 生殖医療の安全性―どんなリスクと留意点があるのか?

76巻10号(2022年10月発行)

今月の臨床 女性医学から読み解くメタボリック症候群―専門医のための必須知識

76巻9号(2022年9月発行)

今月の臨床 胎児発育のすべて―FGRから巨大児まで

76巻8号(2022年8月発行)

今月の臨床 HPVワクチン勧奨再開―いま知りたいことのすべて

76巻7号(2022年7月発行)

今月の臨床 子宮内膜症の最新知識―この1冊で重要ポイントを網羅する

76巻6号(2022年6月発行)

今月の臨床 生殖医療・周産期にかかわる法と倫理―親子関係・医療制度・虐待をめぐって

76巻5号(2022年5月発行)

今月の臨床 妊娠時の栄養とマイナートラブル豆知識―妊娠生活を快適に過ごすアドバイス

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号 最新の不妊診療がわかる!―生殖補助医療を中心とした新たな治療体系

76巻3号(2022年4月発行)

今月の臨床 がん遺伝子検査に基づく婦人科がん治療―最前線のレジメン選択法を理解する

76巻2号(2022年3月発行)

今月の臨床 妊娠初期の経過異常とその対処―流産・異所性妊娠・絨毛性疾患の診断と治療

76巻1号(2022年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科医が知っておきたい臨床遺伝学のすべて

75巻12号(2021年12月発行)

今月の臨床 プレコンセプションケアにどう取り組むか―いつ,誰に,何をする?

75巻11号(2021年11月発行)

今月の臨床 月経異常に対するホルモン療法を極める!―最新エビデンスと処方の実際

75巻10号(2021年10月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅱ)―分娩時・産褥期の処置・手術

75巻9号(2021年9月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅰ)―妊娠中の処置・手術

75巻8号(2021年8月発行)

今月の臨床 エキスパートに聞く 耐性菌と院内感染―産婦人科医に必要な基礎知識

75巻7号(2021年7月発行)

今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

icon up
あなたは医療従事者ですか?