icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科62巻7号

2008年07月発行

雑誌目次

今月の臨床 エキスパートに学ぶ―体外受精実践講座

採卵周期における各種卵巣刺激法

著者: 福田淳 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.915 - P.921

はじめに

 生殖補助医療(assisted reproductive techonology : ART),とりわけ体外受精(in vitro fertilization : IVF)においては,いかに良好な成熟卵子を得るかが成功の可否を握る重要な鍵である.当初,体外受精は自然周期で行われていたが,複数の胚を移植したほうが妊娠率が向上することから,クロミフェンあるいはゴナドトロピン製剤を用いた刺激周期が用いられるようになった.しかし,この方法では内因性のLHの上昇を抑制できず,採卵前の排卵や,早期黄体化による卵の質の低下が問題となった.この問題に関し,Porter ら1)はGnRHアゴニストを用いて内因性LHを抑制することにより,良好胚を得られることを報告した.この方法によりキャンセル率を低下させ,採卵日の調節性を著しく向上させることが可能となった.以降,本邦においてもGnRHアゴニストとHMGによる調節卵巣刺激(controlled ovarian stimulation : COS)が主流となり,最近までゴールデンスタンダードとして用いられている.

 しかし,近年,クロミフェンによる低刺激法の見直しや,GnRHアンタゴニスト,recombinant FSH(rFSH)の開発などを機にCOSの種類も多様化し,混沌としてきているのが現状である.本稿では,現時点で比較的多く選択されていると思われるCOSについて概説する.

【採卵法─私はこうしている】

1. 山形大学

著者: 五十嵐秀樹 ,   網田光善 ,   倉智博久

ページ範囲:P.923 - P.927

はじめに

 経腟超音波下採卵の普及により,施設の規模の大小にかかわらず外来ベースでのIVF─ETが可能となった.当院でも,1988年より従来の腹腔鏡下採卵から経腟超音波下採卵へ移行し,これまで約7,000周期を経験してきた.本稿では当院で行っている経腟超音波下採卵の実際について述べる.

2. IVF大阪クリニック

著者: 福田愛作

ページ範囲:P.929 - P.933

はじめに

 1978年にSteptoe&Edwardsにより初めて成功した体外受精胚移植法(IVF─ET)から始まった生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)はいまや不妊治療の主流となっている.ここに至るには2つの要因が存在する.1つ目は経腟プローべの開発,2つ目は顕微授精法(intracytoplasmic sperm injection : ICSI)の開発である.1985年にヨーロッパで開発された経腟プローベはARTを革命的に変化させたといって過言ではない.ARTばかりでなく,産婦人科画像診断の精度を画期的に向上させた.ARTにおいては卵胞発育モニターを正確かつ簡便にするとともに,患者にとっても膀胱充満などを要せずフレンドリーな検査といえる.また,子宮内膜の状態を高い精度で評価することも可能となった.実地臨床での最も大きな功績は経腟プローベの誕生が外来での採卵を可能としたことである.外来採卵の誕生が本邦でのART臨床応用を爆発的に拡大した.本稿では筆者自身が行っている採卵法の実際,そして注意している点について詳述する.

3. セント・ルカ産婦人科

著者: 宇津宮隆史

ページ範囲:P.935 - P.939

はじめに

 採卵の過程は生殖補助医療(ART)において唯一の手術的操作である.そのため,完全に安全,確実な方法が要求される.そこでここでは,採卵のタイミング,採卵前の処置,麻酔,採卵操作などについて述べる.

卵子の質の評価法

著者: 上野ゆき穂 ,   見尾保幸

ページ範囲:P.940 - P.945

はじめに

 生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)においては,いかに妊孕性の高い胚を選択的に移植するかが妊娠成立の鍵を握る最大の要因であり,良好胚の選別はART従事者にとってきわめて重要な課題である.また,近年大きな社会問題となっているARTによる多胎妊娠の頻発,およびその防止の観点から,これまで3個以内とされていた移植胚数が見直されつつあり,選択的単一胚移植(elective single embryo transfer : eSET)の必要性が唱えられるようになったことから1),より精度の高い胚のクオリティ評価が求められている.本稿では,当院における初期胚のクオリティの評価法を,time─lapse cinematography(TLC)を用いた初期胚発生過程の連続観察により得られた新たな知見を交えながら解説する.

精子の質の評価法

著者: 吉田淳 ,   中村拓実 ,   渡邊倫子 ,   鈴木幸成 ,   岩本豪紀 ,   両角和人 ,   杦村和代

ページ範囲:P.946 - P.949

はじめに

 ART(体外受精・顕微授精)の成績に影響を及ぼす大きな6つの柱には,ART実施前の検査,ovarian reserveを評価した適切な卵巣刺激,採卵,laboratory work(quality control,quality assurance),胚の選別と胚移植,黄体補充がある1).ARTのなかで,卵子は選別することができないが,精子は選別することができる.体外受精では自然による精子選別(natural sperm selection)によって受精が成立するが,顕微授精ではどの精子を使用するかの選別は最終的に人の目によってなされるため,1匹の精子の質の評価が重要となる.もちろん,精子の良し悪しが,妊娠率,流産率,生産率,奇形率,児の疾病の発生率に大きく影響する.

 また,精液検査の結果が異常であるときは,即ARTを行うのではなく,精索静脈瘤の有無など男性の診察を行うべきである.著明な精索静脈瘤があると,精子数,精子運動率のみでなく精子の質が低下することがある.

 本稿では,精子の構造と成熟と精子の質の評価法について述べる.

顕微授精

著者: 栁田薫 ,   猪鼻達仁 ,   藤倉洋子 ,   片寄治男

ページ範囲:P.951 - P.955

はじめに

 卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection : ICSI)は体外受精で受精をはかることができない場合に適応となる媒精法の一法である.1992年にベルギーのグループがその成功を報じて以来,多くの重症男性因子例や受精障害例へ用いられてきた.安定した高い受精率が得られること,多精子受精の心配がないことが長所で,卵子損傷による変性が起こりうること,体外での操作による遺伝的影響の実態が不明なことが短所である.また,当面の課題としては,卵子と精子が存在するのに受精率が100%にならないことへの解決法を考案すること,良質な胚を作成するための良質な配偶子を選別する方法を考案することが挙げられる.以上のことをふまえて,ICSIの実践に役立つ重要なポイントを解説する.

培養液

著者: 荒木康久 ,   八尾竜馬 ,   荒木宏昌

ページ範囲:P.956 - P.961

はじめに

 ヒト胚は,以前は体細胞培養用に開発された培養液や,平衡塩類,栄養素と患者血清からなる培養液を用いて培養されていた.しかし,前者は胚培養用に設計されたものではなく,構成成分の一部が胚発育に悪影響を及ぼすことが明らかにされた.後者は,胚の生理機能を保つために重要な役割を担うアミノ酸などの有効成分を欠いた単純な組成のものであった.これらの培養液はヒト胚を8細胞期まで発育させることはできたが,胚盤胞まで発育させることは困難であった.

 一方,近年の哺乳動物胚に関する研究の急速な進歩に伴い,ヒト胚の培養法は大幅に改善され,in vitroで胚盤胞まで発育させることが技術的に可能になり培養成績は著しく向上した.

 本稿では,はじめに,配偶子や胚の生理機能や生殖器道内環境について概説し,次いで主な培養液成分の役割とART(assisted reproductive technology)に用いられる培養液の現状と課題について述べる.

未熟卵子の体外培養

著者: 吉田仁秋

ページ範囲:P.962 - P.967

はじめに

 未熟卵の体外成熟がART(assisted reproductive technology)に急速に取り入れられてきている.この新しい技術はさらに改善する余地もあるが,最近のデータでは従来から行われている体外受精IVF(in vitro fertilization)とほぼ同様な有用性と安全性が示されていると報告される1).さらに,IVMはいくつかのメリットを有し,例えばHMG製剤やGnRHアナログを必ずしも必要とせず経費を軽減することができる.さらに卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発現を回避することができ,プロトコールが簡便であることなどが挙げられる.

 生殖医療は1978年,英国のSteptoe&Edwardsらの世界初体外受精(IVF─ET)の成功により卵管性の不妊症に幸福を呼び,さらにPalermoらの顕微授精(ICSI)の成功により男性不妊症に福音を与え,格段の進歩を遂げ発展してきた感がある.そのなかで経腟超音波,GnRHアゴニストやアンタゴニストの開発により,成熟卵の採取が可能となり,さらに胚盤胞移植や凍結技術の進歩などさまざまな生殖補助医療が開発されてきた.

 IVM─IVF(in vitro maturation─in vitro fertilization)は未熟卵を採取し,体外で成熟させ,その後は通常のIVFと同様である.主に多嚢胞性卵巣(poly cystic ovary : PCO)や反復不成功の患者にHMG製剤を使用せず,あるいは少量のFSH製剤だけで未熟卵を採取し,体外で成熟させ,成熟した卵を体外受精あるいは顕微授精させ,分割卵を子宮に移植する方法である.当初は採卵手技の困難さおよび妊娠率が低く,なかなか普及していないのが現状であった.最近さまざまな工夫により手技の簡便さ,技術の進歩,培養液の開発など妊娠率の向上が認められ,通常のIVFの代わりになる可能性もあると推察される.今回はわれわれの施設での改良点や手技などを記載し,どの施設でもARTの選択肢の1つとして,気軽に挑戦可能な方法をできるだけ簡便にわかりやすく述べていきたい.

融解胚移植における子宮内膜の管理

著者: 山下能毅 ,   森嶌祥子 ,   大道正英

ページ範囲:P.968 - P.971

はじめに

 現在,日本産婦人科学会では多胎妊娠を避けるために,ARTにおける移植胚数は3個以内と定めているが,培養技術の進歩によりさらに少なくなる傾向にある.生じる余剰胚は,凍結融解胚移植の応用により採卵周期以外にも移植可能になっただけでなく,患者に対する経済的,肉体的負担や,卵巣過剰刺激症候群の発生率を減少させることができることから,凍結融解胚移植は臨床上必要不可欠な技術となっている.凍結方法は,従来,プログラムフリーザを用いたslow freezing法(緩慢凍結法)が一般的に行われていたが,最近では,より簡便なvitrification法(超急速ガラス化法)が行われ,妊娠例が報告されるようになった.手技の向上とともに凍結融解胚の生存率が70%前後と高くなっており,移植周期当たりの妊娠率は新鮮胚移植周期の妊娠率と差を認めないとする報告が多い1).そこで,本稿では,凍結融解胚移植における子宮内膜の管理について,当院での成績と文献的考察を加えて述べる.

胚の凍結保存法

著者: 桑山正成

ページ範囲:P.973 - P.977

はじめに

 近年の超急速冷却ガラス化保存法の成功により,従来のガラス化保存法や緩慢凍結法による卵子や胚の凍結保存による障害の概念が一新された.これまで,胚は凍結保存でさまざまな障害を受け,顕著なものは死滅し,また生存胚においても凍結保存胚の移植成績は新鮮胚に劣るとされてきた.しかしながら,超急速ガラス化保存法では,凍結保存後の胚損失,活力の損耗がほとんどないばかりでなく,IVF胚をすべていったん凍結保存し,患者の子宮環境が良好な時期に解凍,移植することにより,新鮮胚移植よりも高い妊娠率が得られるようになった1)

 わが国で考案された代表的な超急速冷却ガラス化保存法,Cryotop法2, 3)は,現在700以上の不妊治療施設において,すでに100,000症例以上に適応され,きわめて良好な臨床成績が得られている.開発後これまでに溶液など数回の改良が加えられ,現在の手法では前核期,分割期および胚盤胞期胚においても融解後ほぼ100%の生存率が得られ,さらに卵子の凍結保存も可能となった4)

 本稿では,胚の凍結保存における最適ステージや凍結保存のメカニズム,またCryotop法の詳細や成績について概説する.

受精卵着床前診断の現状と課題

著者: 竹下直樹

ページ範囲:P.978 - P.987

はじめに

 受精卵診断(着床前診断,preimplantation genetic diagnosis : PGD)は,1990年Handyside博士ら1)によって,単一遺伝子疾患の回避を目的として(X連鎖性遺伝性疾患)報告された.以来,生殖医学,臨床遺伝学の分野における技術(主に分子生物学的技術)は飛躍的に進歩を遂げた結果,対象は急速に拡大した.同時に診断精度も向上した.しかし一方では,いくつかの課題が浮き彫りになってきており,今後十分な検討が不可欠であることが指摘されている.ここで課題を挙げると,(1)倫理的側面(個人・社会的),(2)技術面(全ゲノム解析),(3)診断対象〔成人発症型遺伝病・家族性腫瘍・低浸透率の優性遺伝病,染色体スクリーニング=(PGD─aneuployd screening : PGS)など〕,(4)Epigeneticの問題,(5)PGD後の産科的について,検討されるべきである.現在の,全世界的な,その実施数・詳細についての把握は大変難しいが,総括的な報告としてESHRE(European society of human reproduction and embryology : 欧州生殖医学会)の報告であるESHRE PGD consortium dataが参考となる.2007年,最新のdataVI2)が報告された.また,PGDを精力的に施行している大規模施設では,これまでのデータをESHREやASRM(American society for reproductive medicine : 米国生殖医学会)などの学術集会で報告している.ここでは,PGDの概要に触れ,最近注目されている課題を中心に解説する.

高度生殖補助医療を受ける患者の心のケア

著者: 伊藤弥生

ページ範囲:P.989 - P.993

はじめに

 筆者は1997年より不妊治療を専門とする婦人科蔵本ウイメンズクリニック(以下,K医院)で,非常勤の臨床心理士として心のケアに携わっている.不妊治療はカップルで行うものであり,高度生殖補助医療(ART)を受ける患者には男性も含まれるが,K医院の患者は女性が主であり,本稿は女性に関する論述が中心となることをお許しいただきたい.

卵子・卵巣凍結保存の将来展望

著者: 久慈直昭 ,   持丸佳之 ,   山田満稔 ,   浜谷敏生 ,   浅田弘法 ,   末岡浩 ,   吉村泰典

ページ範囲:P.994 - P.997

はじめに

 卵子・卵巣凍結保存の成功率はこれまできわめて低率であったが,両法ともこの10年ほどの間に画期的な技術的進歩があり,その結果,成功例が複数の施設から報告されたことから,女性の妊孕性保存法として注目を集めている.

 しかし,卵細胞が受精卵と異なり,構造的に遺伝子変化を受けやすいMII期の細胞であることから,児への影響を考慮してその安全性を今後厳密に検証しなければならない.マウス以外のほとんどの動物では,卵巣刺激や体外受精法さえ確立してないため,卵子・卵巣凍結保存は動物でのデータ蓄積もなく,やはりまだ現時点では実験的な技術である.

 とはいえ,これまで妊娠を断念せざるを得なかった悪性腫瘍の女性患者に妊孕性温存の道を開く卵子・卵巣凍結保存に対しては,これを希望する患者のニーズはきわめて強い.そのため,臨床で応用する際には実験的な技術であることを含めて患者に正しい情報を伝えることが必要であり,アメリカ不妊学会では2006年に卵子・卵巣保存の臨床応用に関する会告を出しているほどである1)

 ここでは卵子・卵巣凍結保存の成功率改善の原因となった技術革新と,現在解決できずに残されている問題点を概説し,これを克服するため現在進められている研究を将来展望とともに紹介する.

連載 産婦人科MRI 何を考えるか?・11

下腹部痛の鑑別診断

著者: 山岡利成

ページ範囲:P.911 - P.913

 1週間前より下腹部痛を訴える18歳,女性.前医で施行された腹部超音波検査で卵巣腫瘤を指摘され,精査・加療目的で紹介された.

OBSTETRIC NEWS

妊娠糖尿病の診断 : 100g GTT対75g GTT

著者: 武久徹

ページ範囲:P.998 - P.999

 日本では妊娠糖尿病の診断に75 gブドウ糖負荷試験(75 g GTT)が行われるが,北米では100 g GTTが行われている.世界保健機関(WHO)はカナダ糖尿病協会と同様に,妊娠糖尿病の診断に75 g GTT使用を支持しているが,米国糖尿病協会は75 g GTTと100 g GTTのいずれの採用も可としている.しかし,米国産婦人科学会(ACOG)は100 g GTTの採用を勧めている.

 75 g GTTは,100 g GTTに比べて妊婦が飲むブドウ糖液が少なくてすむ,所要時間が2時間で100 g GTT(3時間)より短くてすむという利点がある.しかし,結果の信頼度は同じなのだろうか? カナダのグループはその問題を比較検討し,カナダ産婦人科学会で発表した.Armsonらは,1,000名以上の女性を対象に75 g GTTと100 g GTTを比較した.研究は,単胎妊娠女性を対象にノヴァスコティアの8施設で行われた.研究期間は2001年12月から2005年1月までとした.

病院めぐり

済生会福岡総合病院

著者: 岸川忠雄

ページ範囲:P.1002 - P.1002

 済生会福岡総合病院は,大正8年3月に福岡県福岡市の現在地で,福岡診療所として内科を開設して始まりました.設立母体は恩賜財団済生会ですが,戦後は社会福祉法人恩賜財団済生会となっています.大正12年6月に20床の福岡病院に昇格しました.産婦人科は昭和3年に開設されました.その後数回に及ぶ増改築を重ね,昭和55年に救命救急センターを含む390床の病院となりました.平成14年に現在の地下4階,地上14階のヘリポート設置の新病院が完全竣工しました.平成16年から新臨床研修制度での管理型病院として,毎年約12名の初期研修医を受け入れています.診療科20科,常勤医師数約120名の構成です.福岡市の中心地,天神の一角に位置し,福岡市および周辺地域の救命救急の中核病院として貢献しています.

 産婦人科医師の絶対的不足から,当院でも大学医局からの派遣が中止され,平成17年度には産婦人科医師が1名まで減少し,診療の存続が危ぶまれました.懸命の求人により,平成18年より悪性腫瘍の専門医を含むスタッフ,後期研修医が加わり,診療の質,量を回復することができました.診療実績の向上と院長の後押しにより人が集まるようになり,平成20年度は産婦人科専門医6名,後期研修医3名の大所帯となりました.

大牟田市立総合病院

著者: 森田淑生

ページ範囲:P.1003 - P.1003

 大牟田市は福岡県の最南端に位置し,南と東を熊本県と接し,西は有明海に面しています.かつては三井三池炭鉱の石炭資源を背景に石炭化学工業で栄えていましたが,エネルギー革命などにより石炭需要が減少し三池炭鉱が閉山,その煽りで市も衰退しているのが現状です.このようななか,大牟田市立総合病院は福岡県南部と熊本県北部の一部を医療圏とし,市民の健康を守る基幹病院として,その役目を担っています.

 大牟田市立総合病院は,1950年に73床の市立病院として開院し,その後拡大・増床しつつ,1985年に厚生省臨床研修指定病院に指定され,医師の教育にも力を入れています.1995年に現在の地に移転し,市立病院から市立総合病院に改称しました.1999年に病院機能評価の認定を受け,2003年には地域がん診療拠点病院の指定を受けました.近隣に久留米大学医学部があり各医局から医師派遣が行われ,当院の各科は学会認定による修練施設として研修医や医学部学生,看護科学生の医学教育の場としての機能も有しています.現在,18診療科,350床の急性期医療の中核病院として稼働しています.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・34

グリセリン浣腸により腸管穿孔をきたし敗血症,DICとなったが,母児ともに救命できた症例

著者: 徳毛敬三 ,   妹尾絵美 ,   山本暖 ,   早瀬良二

ページ範囲:P.1005 - P.1007

症 例

 患 者 : 30歳,初産婦

 主 訴 : 腹痛

 既往歴 : 特記すべきことなし.

 現病歴 : 妊娠25週6日より,切迫早産にて前医に入院していた.搬送となる前日,便秘による排便困難にてグリセリン浣腸を行い,切迫症状は軽減した.翌日も同様の症状を呈したため浣腸を行ったところ腹痛が増強し,妊娠30週4日に切迫早産,急性腹症にて当科に緊急母体搬送となった.

 入院時現症 : 身長166 cm,体重53 kg,血圧110/52 mmHg,脈拍108/分,体温37.2℃,心音および呼吸音は正常であった.腹部は軟で,圧痛,筋性防御,反動痛を認めなかったが,NST(non─stress test)にて頻回の子宮収縮を認めた.内診所見では,子宮口閉鎖,出血は認めなかった.

 超音波検査では,胎児の推定体重は1,900 g,胎児および胎盤に異常は認めなかった.

 検査所見 : 検査所見は,WBC 13,400/μl,,RBC 452×104/μl,Hb 13.6 g/dl,Ht 41.1%,PLT 20.3×104/μl,ALT 17 IU/l,AST 21 IU/l,LDH 378 U/l,ALP 363 U/l,γ─GTP 6 U/l,T─Bil 0.7 mg/dl,TP 5.9 g/dl,AMY 60 U/l,TC 178 mg/dl,BUN 5 mg/dl,Cre 0.3 mg/dl,Na 132 mEq/l,K 4.0 mEq/l,Cl 101 mEq/l,CRP 3.5 mg/dl,PT 11.6秒,APTT 29.2秒,AT─3 95 mg/dl,FDP 8.3 μg/ml,D─ダイマー 6.7 μg/ml,フィブリノーゲン421 mg/dlであった.

症例

頭蓋内海綿状血管腫合併妊娠の1例

著者: 千草義継 ,   津浦光晴 ,   稲田収俊 ,   宇治田麻里 ,   金本巨万 ,   坂田晴美 ,   吉田隆昭 ,   中村光作 ,   池内正憲

ページ範囲:P.1009 - P.1011

 われわれは,妊娠後期に痙攣発作をきたし,分娩後に頭蓋内海綿状血管腫と診断した症例を経験した.患者は25歳,経産婦.他院にて妊娠管理されていたが,特記すべき異常はなく経過していた.妊娠37週4日に全身の強直間代性痙攣を認め,当科に緊急入院となった.CTにて明らかな脳出血は認めなかったものの,痙攣は頻回でコントロール不良であったため緊急帝王切開を施行した.MRIにて原因を精査したところ,頭蓋内海綿状血管腫と診断された.脳神経外科にて開頭摘出術を施行され,経過良好である.

 頭蓋内海綿状血管腫合併妊娠の報告はこれまできわめて少ない.しかし,妊娠経過中に痙攣をきたす疾患の1つとして鑑別すべきものであり,MRIにて診断は容易である.妊娠,分娩にて症状は増悪しないとされているが,痙攣コントロールが不良の場合には妊娠中であっても手術適応と考えられる.

長期間経過観察されていた腟壁筋腫の1例

著者: 朝野晃 ,   早坂篤 ,   鈴木博義 ,   太田聡 ,   島崇 ,   和田裕一

ページ範囲:P.1013 - P.1016

 症例は41歳,女性.2002年に挙児希望で近医受診時に経腟超音波検査で前腟壁に3×2 cmの腫瘤を指摘された.その後妊娠し,2004年8月には腟壁腫瘤は6 cm大に増大し,腫瘤による分娩障害のため帝王切開を施行した.腟壁腫瘤は2005年には3 cm大まで縮小したが,2007年には5.7×4.8 cm大に増大したため,腟壁腫瘍の診断で摘出した.摘出腫瘍は6×5×4 cm大で,重量 70 gで黄色,弾性硬で,表面は平滑であった.組織学的には平滑筋腫と診断した.

--------------------

編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.1024 - P.1024

 厳しいグローバル化競争に晒されている一般企業では,人事給与体系の改革が急ピッチで進められている.年功序列の対極として当初はもてはやされた成果主義の弊害も踏まえて,優良企業の多くは決め細やかな職種別の考課システムを構築している.そして経済・構造改革の流れから距離をおいていた医療界においても,一般病院はもとより大学病院でも,組織の存続のためには人事給与体制の抜本的な改革が必要となってきた.その基本となるのは評価(考課)であるが,すでに大学病院でも医師(教育職)に関しては,教育・研究・診療という3領域についての自己評価と第3者評価が実施されている.一方,多数を占める一般職については,チームとしての仕事を基本とすることからも,体系だった個人考課については一部の職種を除きほとんど考慮されていなかった.病院の一般職員の昇進は経験年数や上司の情意によるところが大きく,組織内での競争はチーム医療を乱すものとしてむしろ弊害と捉える意識があった.しかし医師はもとより看護師,薬剤師,医療技術職(臨床検査技師,放射線技師など),そして事務職についても,横ならびの年功序列を廃した考課・給与制度がなければ,自己研鑽の意欲は低下し,組織の活性化や発展は望めないことは明らかである.人口減少・高齢化社会になることで,今後の医療保健制度の変革は必至であり,すでに4~5年前から総医療費の抑制政策もとられてきた.一般病院の経営は非常に厳しくなってきており,すでに一部の病院では企業のノウハウを取り入れて職員の考課制度を導入し,抜本的な給与制度改革を進めようとしている.今後は医育機関である大学病院であっても,全職種において各職域別の考課表と公正な判定基準を作成し,個人評価を反映する給与体系を作ることで意識改革と人材育成を進めて,医療資源の効率的な運用をはからなければならない.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻12号(2022年12月発行)

今月の臨床 帝王切開分娩のすべて―この1冊でわかるNew Normal Standard

76巻11号(2022年11月発行)

今月の臨床 生殖医療の安全性―どんなリスクと留意点があるのか?

76巻10号(2022年10月発行)

今月の臨床 女性医学から読み解くメタボリック症候群―専門医のための必須知識

76巻9号(2022年9月発行)

今月の臨床 胎児発育のすべて―FGRから巨大児まで

76巻8号(2022年8月発行)

今月の臨床 HPVワクチン勧奨再開―いま知りたいことのすべて

76巻7号(2022年7月発行)

今月の臨床 子宮内膜症の最新知識―この1冊で重要ポイントを網羅する

76巻6号(2022年6月発行)

今月の臨床 生殖医療・周産期にかかわる法と倫理―親子関係・医療制度・虐待をめぐって

76巻5号(2022年5月発行)

今月の臨床 妊娠時の栄養とマイナートラブル豆知識―妊娠生活を快適に過ごすアドバイス

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号 最新の不妊診療がわかる!―生殖補助医療を中心とした新たな治療体系

76巻3号(2022年4月発行)

今月の臨床 がん遺伝子検査に基づく婦人科がん治療―最前線のレジメン選択法を理解する

76巻2号(2022年3月発行)

今月の臨床 妊娠初期の経過異常とその対処―流産・異所性妊娠・絨毛性疾患の診断と治療

76巻1号(2022年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科医が知っておきたい臨床遺伝学のすべて

75巻12号(2021年12月発行)

今月の臨床 プレコンセプションケアにどう取り組むか―いつ,誰に,何をする?

75巻11号(2021年11月発行)

今月の臨床 月経異常に対するホルモン療法を極める!―最新エビデンスと処方の実際

75巻10号(2021年10月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅱ)―分娩時・産褥期の処置・手術

75巻9号(2021年9月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅰ)―妊娠中の処置・手術

75巻8号(2021年8月発行)

今月の臨床 エキスパートに聞く 耐性菌と院内感染―産婦人科医に必要な基礎知識

75巻7号(2021年7月発行)

今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

icon up
あなたは医療従事者ですか?