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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科62巻8号

2008年08月発行

雑誌目次

今月の臨床 エキスパートに学ぶ―漢方療法実践講座 【漢方医学の基礎知識】

1.漢方医療とは何か―〈証〉を理解する

著者: 笠原裕司 ,   寺澤捷年

ページ範囲:P.1035 - P.1039

はじめに

 有史以来,病気は誰にでも起こりうる大事件であり,洋の東西を問わず,医療は最大級の社会的関心事であった.(現在のような自然科学の知識をまだ手に入れてなかった)古代人にとって,幅広く行われ,またある程度の有効性を持った治療法は薬草を用いた薬物療法であろう.

 しかし,症状と薬草を1対1で対応させた単純な治療法では,十分な効果を上げることはできない.そのため,東洋では次第に複雑な薬物(複数の薬草を組み合わせた処方)の創成とその使用方法が研究されていった.病態を認識し,病態に合致した処方を投与したいという医師の五感を通して患者から得られた判断材料を組み合わせることで,病態認識を深めていき,やがて高度な治療体系が構築されるに至った.

 ここでは,漢方医学の根幹をなしている〈証〉という考え方を紹介し,現代医療における漢方医学の意義を考えてみることにする.

2.漢方の診察法と診断法

著者: 柴原直利 ,   条美智子

ページ範囲:P.1041 - P.1045

漢方医学の診察と診断

 診察は患者を診断して治療方法を決定する目的で行うということに東西両医学で差はない.ただし,西洋医学では「病名」を診断し,漢方医学では「証」を診断する.証は患者の自覚症状と他覚所見を統合して整理し,○○湯証という1つのパターンとしたものである.このパターンは固定したものではなく,証の変化に応じて,薬方が加減され幅広く活用される.証を決定するためには,望・聞・問・切の四診により患者の身体から情報を取り,漢方医学的病態概念である陰陽・虚実・表裏・寒熱,六病位,気血水,五臓を診断する必要がある.

3.医学教育における漢方

著者: 渡辺賢治

ページ範囲:P.1046 - P.1051

医学教育の変化

 ここ10年ほど,医学教育を取り巻く環境は大きく変貌している.医学に関する基礎ならびに臨床の知識と技術の量は年々増加し膨大なものとなっている.知識偏重の従来の教育方式では倫理観やコミュニケーション能力が軽視されてきた.その結果,医学・医療に求められる社会のニーズの多様化に対応しきれなくなってきた.特に膨大な学習内容のすべてを従来の教育手法で履修させることは不可能となり,また,講座単位の細分化された授業区分が全体像を捉えにくくしているという批判も出てきた1)

 このような状況から生まれたのが医学教育モデル・コア・カリキュラムである2).これは「医学における教育プロ
グラム研究・開発事業」委員会の組織したワーキング・グループ(佐藤達夫委員長)が42回の会議を経て作成したもので平成13年3月に提出された.

4.これだけは知っておきたい産婦人科漢方処方

著者: 髙松潔

ページ範囲:P.1053 - P.1059

はじめに

 漢方療法は天然三界,つまり動物,植物,鉱物から得られる天然薬物である生薬を組み合わせた方剤を用いるが,中国では頻用されている生薬だけで300種以上,一説には8,000種ともいわれており,日本薬局方や日本薬局方外生薬規格には約200種類が収載されている.これらの組み合わせは無限ともいえるが,臨床上,多くの処方の氾濫を避け,保険医療上利用できる方剤を明らかにする目的で,厚生省より昭和47年から49年にわたって,漢方製剤に関する基本的取扱い方針と,一般用医薬品として承認される漢方210処方に関する成分・用法・容量・効能効果など具体的な基準が公表された1).以来,これが日本の漢方の規準となっており,210処方のうち,現在,148種類の漢方製剤(147種類がエキス剤を中心とする内服薬,1種類が外用の軟膏)と煎じ薬用生薬159種類が薬価基準に収載されている.

 このなかでどの方剤を使用するのかは,難しい問題である.周知のとおり,漢方医学における診断は「証」によって表わされるが,証自体が西洋医学的には理解しがたいものであると同時に,その証に対してどの方剤を処方するのかということにも諸家の意見がある.また,よくいえばテーラーメイド,さじ加減が可能であることが漢方療法の魅力であり,多くの処方の使い分けを知っていてそれらを使い分けることこそ漢方療法の醍醐味ともいえる.しかし,これらは西洋医学を主とするもの,特に初心者には困難であることには異論がなく,多くの入門書と呼ばれるものには「まず,いくつかの基本となる方剤を使い,それから応用を考えましょう」とある.では,基本の方剤,つまり本稿のタイトルである「これだけは知っておきたい産婦人科漢方処方」とは何なのか?これもまた難しい問題であるが,本稿ではこれを産婦人科において頻用されており,外来に常備すべき代表的漢方処方とは何かと考え,それらについて概説する.

【処方の実際】

1.月経不順・女性不妊

著者: 安井敏之 ,   苛原稔

ページ範囲:P.1061 - P.1066

西洋医学的視点からみた処方の実際

 正常月経周期は,視床下部─下垂体─卵巣による内分泌系の円滑な活動により営まれている.したがって,これらの部位の異常により排卵が障害されると,無月経,稀発月経,無排卵周期症,機能性子宮出血などの月経異常や不妊がみられることになる.表1にこのような病態に用いられる漢方製剤をまとめた1)

2.男性不妊

著者: 布施秀樹 ,   渡部明彦 ,   小宮顕

ページ範囲:P.1067 - P.1071

はじめに

 不妊の半数は男性側に原因を認める.男性不妊の病因は,精子形成障害,精路通過障害,副性器障害ならびに性機能障害に分類される.精子形成障害が男性不妊の90%と大部分を占め,そのうち原因不明の特発性のものが過半数を占める.精索静脈瘤が30%に認められる.低ゴナドトロピン性性線不全症,停留精巣,クラインフェルター症候群なども,頻度は低いが精子形成障害をきたす.精路通過障害は数%であるが,外科的治療が奏効する点が特記される.

 原因疾患の診断のために,問診では小児期の鼠径ヘルニア手術歴,流行性耳下腺炎の既往,潰瘍性大腸炎治療薬や抗悪性腫瘍剤などの薬歴を聴取する.精索静脈瘤の有無,精路の異常などを慎重に診察し,経直腸的超音波断層法により前立腺などの副性器の情報を得る.一般精液検査,内分泌検査,染色体分析などが行われ,精子機能の評価も時に必要となる.精液所見で精子濃度20×106/ml未満ないし,精子運動率50%未満の場合,通常治療の対象となる.

3.不育症

著者: 假野隆司

ページ範囲:P.1072 - P.1075

はじめに

 漢方医学には不育症(免疫性習慣流産)の概念がない.このため,同症の治療はもっぱら切迫流産を適応に行われてきた.代表的な方剤は金匱要略婦人妊娠病篇に「婦人懐妊,腹中痛,当帰芍薬散主之」と記載された安胎薬の当帰芍薬散である.一方で,中医の漢方医は不妊や流産の原因を腎虚と考えるため補腎剤を中心に運用している.ところが,Takakuwaら1)が抗リン脂質抗体陽性不育症に対する柴苓湯(蒼朮含有)の臨床的有効性を発表して以来,西洋医を中心に処方が広まり,一部の自治体で保険適用になる現状に至った.

 本稿では,柴苓湯の不育症に対する有効性を自験例を中心にして,構成生薬の朮が蒼朮の製剤(蒼朮柴苓湯 : ツムラ)と白朮の製剤(白朮柴苓湯 : クラシエ)の使い分けの重要性を中心に論考したい.

4.月経前症候群・月経困難症・子宮内膜症

著者: 太田博孝

ページ範囲:P.1076 - P.1079

はじめに

 女性にみられる特徴的な症状のうち,冷えや月経前症状,月経痛,下腹部痛などは,内分泌バランスのみならず,個人の体質と深くかかわっている.こうした症状の発現態度は,体質により異なってくる.例えば,冷えと下腹痛という症状がある.両症状は,一病態の表裏面の症状として発現してくる.痩せて虚証型の女性は,一般に冷えの程度が強くなるが,同時に月経困難症や下腹痛が好発する.このような女性では,全身の血流が低下するため,身体のエネルギー代謝が低下してくる.その結果,末梢血管が収縮し,強い冷えを伴うようになる.下半身の冷えは同時に,内臓器官を収縮させ,腹痛などの症状も発現してくる.このように,症状は個人の体質と密接に関連する.東洋医学では,一連の症状を部位別,臓器別に捉えるのではなく,心身一体として捉えている.こうした理念を深く理解することが,漢方治療エキスパートへの道となる.

5.子宮筋腫の漢方治療―切らない筋腫治療における漢方の役割

著者: 井上滋夫

ページ範囲:P.1081 - P.1085

はじめに

 子宮筋腫は,閉経後退縮する良性腫瘍なので,手術の絶対適応例は少ない.にもかかわらず,「肉腫の可能性も否定できないので,超手拳大で手術適応,40歳以上では子宮全摘」と定型的な治療がなされてきた.

 近年,MRIにより肉腫の可能性がある非典型的筋腫の診断がほぼ可能となり,内視鏡手術の進歩,子宮動脈塞栓療法(UAE),集束超音波治療(FUS)など,新たな治療手段も登場してきた.このような変化のもとに,従来の定型的な手術適応は意味を失い,「切りたくない」という患者の意思を無視することはできなくなってきた.

 筆者は,FUSを日本で最初に導入した医誠会病院に,UAE・内視鏡手術・腟式手術のすべてを実施できる専門ユニットを開設したが,2006年より白眉会画像診断クリニックに「切らない筋腫治療センター」を開設し,MRI診断・漢方・内視鏡手術を柱とした「保険診療による非開腹筋腫治療」を追及している.

 本稿では,子宮筋腫治療のすべての選択肢を実施してきた筆者が,「切らない筋腫治療」において,漢方をどのように位置づけ,活用しているか紹介する.

6.女性の心身症

著者: 後山尚久

ページ範囲:P.1086 - P.1091

はじめに

 ヒトの身体は縦横無尽にはり巡らされた蜘蛛の糸のごとき情報伝達系によって細胞や器官,あるいは臓器が連結し,常に交互の信号の往復により平衡調整がなされている.外傷やウイルスの侵入などの外部要因を除けば,病的環境は1つのシステムの破綻による線系病態ではなく,さまざまな生体機能維持機構を巻き込んだ複雑系病態である.そのため,アメーバや線虫での細胞内物質変動や哺乳類においてもその細胞破砕による分画別のin vitro実験によって得られた知見が,ヒトの病気の本態にいかほどかかわっているかは,十分な討議なくしては結論し得ないものである.

 漢方医学は,元来ヒトが複雑系(表現型としての「証」の概念)であることを規定しており,それを踏まえて治療学の理論構築がなされている1).心身医学は機能系異常による身体疾患を治療する際に力を発揮する医療分野であるが,その基本的思想は「心身相関」である.しかし,心そのものがいまだに科学的な説明がなされていないため,心身相関が何を意味するのかは,答えるための入り口すら見いだせない.ヒトの病気を複雑系として,そのままの形で受け入れ,治療も複雑系に対応するための手法が実施されてきた「漢方医学」と「心身医学」を対比しながら心身症への漢方処方の実際について解説したい.

7.更年期障害 : 簡略更年期指数から漢方処方を考える

著者: 中原健次 ,   小島原敬信 ,   倉智博久

ページ範囲:P.1093 - P.1097

はじめに

 更年期障害を評価するときに,一般にはKupperman更年期指数などを用いるが,日本人の実情に合わない点もあり,また忙しい外来診療の中では煩雑である.実際には,簡略更年期障害指数(simplified menopausal index : SMI)(表1)を使って更年期障害の概要把握や治療効果の推移をみている場合が多いと思われる.

 また,漢方は西洋医学と異なる「証」という概念を用いて処方を決定しており,この「証」がやや難解であるため,しばしば漢方を使いたいと思う現場の医師にとって重荷になったりする.しかも,多彩な使い分けの分類となるために鑑別処方が困難な印象を持つことも多い.

 そこで,「証」を細かく意識しないくとも医療現場ですぐに使えるように,SMIの各症候を主に考えた場合の処方を3つずつ挙げてみた.3つずつというのは,初心者でも比較的簡単に自分の処方パターンを把握することができる範囲である.その範囲でうまくいかない場合に初めて,第4の処方以降を考えていけばよい.

 まず,婦人科代表的3処方を覚えておくべきであり,処方の特徴と症例を呈示した.その後,SMIの各症状に対して使ってみてよい処方を3つずつ述べる.

8.更年期のうつ

著者: 赤松達也

ページ範囲:P.1098 - P.1101

はじめに

 うつ状態に対する治療としては,抗うつ薬をはじめとした西洋医学が中心で,漢方薬はごく補助的にしか使用されていない.しかし口渇,肝機能障害といった抗うつ薬など向精神薬による副作用もあり,軽症のうつなどには漢方療法が効果的な場合も少なくはない.更年期うつ症状について,その発症の背景,病態の理解と診断法について掘り下げ,薬物療法のなかでの漢方療法の適応,方剤の選択など報告例を含め示す.

9.婦人科癌治療

著者: 賀来宏維 ,   熊谷晴介 ,   杉山徹

ページ範囲:P.1103 - P.1111

はじめに

 婦人科癌は,子宮頸癌・体癌・卵巣癌が主な癌種で,手術療法・化学療法・放射線療法による集学的治療が標準的治療法として行われている.近年,プラチナ製剤やタキサン製剤の導入,標準化に伴い生存期間が延長し,癌化学療法は婦人科癌における中心的な治療の1つとして確立された.また,術前化学療法(NAC),化学放射線同時併用療法(CCRT)などの検討も進められてきており,今後化学療法の役割はさらに重要度を増すと予想される.その一方で,末梢神経障害やアレルギー反応,下痢など前述の新規薬剤・治療方法特有の副障害の対策や,生存期間の延長に伴うQOLの維持・向上などがより重要視されてきた.これらの管理に漢方療法が積極的に取り入れられている.近年,小規模ではあるがいくつかのランダム化比較試験によって,婦人科悪性腫瘍領域においても漢方療法の有用性が報告されており(表1),『漢方治療によるエビデンスレポート』(日本東洋医学雑誌56 EBM別冊号)において,「悪性腫瘍の治療におけるQOL向上の一手段として,また西洋医学的な治療手段の副作用防止などの補助手段として,漢方治療は有用である」と推奨されている.

 婦人科癌治療における漢方治療の目的を西洋医学と照らし合わせて考えると,3つに大別できる.すなわち,(1)抗腫瘍効果,(2)化学療法や放射線治療などによって生じる副作用予防や軽減,(3)癌治療や末期癌における全身状態の改善やQOLの維持・向上,である.本稿では婦人科悪性腫瘍における漢方療法の現状と実際を上記(1)~(3)に大別して報告する.

連載 産婦人科MRI 何を考えるか?・12

便秘を主訴に来院した60歳の女性

著者: 山岡利成

ページ範囲:P.1031 - P.1033

 便秘のため,大腸ファイバースコープ検査目的で紹介された60歳の女性.CTにてある疾患が疑われたため,確認のMRが施行された.

病院めぐり

聖マリア病院

著者: 河野勝一

ページ範囲:P.1114 - P.1114

 聖マリア病院は福岡県南の久留米市のほぼ中心地にあります.昭和27年に医療法人雪ノ聖母会が設立され,翌年現在地に聖マリア病院が開設されました.当院の基本理念として,「カトリックの愛の精神による保健,医療,福祉および教育の実践」を掲げています.また,運営方針として,(1)生命倫理の追求,(2)患者様と御家族に焦点をあてた医療 : Patient and Family Focused Care(PFFC),(3)24時間,365日,いつでも応じる救急医療,(4)高度医療と医療,福祉の継続性を重視したケアミックス体制,(5)地域の診療所,病院と連携した保健,医療,福祉の推進,(6)国際医療協力,の6項目を挙げています.病床数1,394床,診療科目27科,医師数321名,看護部門1,087名の総合病院で,総職員数は1,795名の大所帯です.また,初期研修医は44名います.各科とも救急医療を中心とした医療を行っています.

 産科においても救急母体搬送,母体救命救急患者などを受け入れています.搬送元は筑後地方を中心に福岡市以南・筑豊地方のほか,佐賀県,熊本県および大分県などの他県の一部からも受け入れています.以前は「決して断らない」が当院のモットーでしたが,交通外傷をはじめとする外科疾患,緊急脳血管外科手術などの救急患者の当院集中化・増加のため,特に夜間などでは手術場スタッフの相対的不足をきたし,新生児センターの受け入れ不能状況も生じ,直ちに母体搬送を取れないことが起こっています.MFICUは12床,後方ベッドは25床あります.妊娠前期の異常妊娠の症例のほとんどは婦人科などの他科の病棟で管理しています.分娩数は最近増加傾向を示し800例ほどとなり,この2年間は120名増加しています.このため,妊娠経過でローリスクとなった妊婦は一次施設での分娩をお願いしています.

市立伊丹病院

著者: 八木美佐子

ページ範囲:P.1115 - P.1115

 市立伊丹病院は,昭和32年に6科,100床で開院され,昭和58年に15科,405床の総合病院として現在の地に移転新築し,昨年は開院50周年にあたりました.

 兵庫県内でも,産婦人科医師不足による大学医局からの人員引き揚げのため,すでに近隣では2つの公立病院が産科を廃止しています.当院では,平成10年頃には700件近い分娩を取り扱っていましたが,人員削減のあおりを受け,平成18年より取り扱い分娩数を制限せざるをえない状況となりました.このため,助産師が中心となり,平成19年4月から助産師外来を立ち上げ,近畿圏内の公立病院としては初めての試みとして,同年7月より助産師主体の院内助産を始めています.

BSTETRIC NEWS

妊婦が要求する帝王切開(1)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1116 - P.1119

 医学的または産科的に適応がないのに,患者が要求する帝王切開が世界的に少しずつ増加しているようである.米国産婦人科学会(ACOG)から,産科委員会の見解が出たので紹介し,問題点を検討する.

 米国における帝王切開(120万人)率は2005年には全生児出産数の30.2%になっている.このなかで,どれくらい「妊婦が要求する帝王切開」が含まれているのかは明らかではないが,全生児出産数の約2.5%と推測されている.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・35

淋菌性感染症と卵巣腫瘍が併発した1例

著者: 井浦俊彦 ,   富田嘉昌

ページ範囲:P.1123 - P.1125

症 例

 患 者 : 23歳,未婚

 既往歴 : 特記すべきことなし.

 主 訴 : 排尿時痛,性感染症の精査

 現病歴 : 数日前から軽度の排尿時痛を感じていた.セックスパートナーが淋菌感染を認めたことから,精査目的にて受診した.帯下の増量や下腹部痛などの症状は認めていない.

 〈外来受診時〉

 内診所見 : 〔子宮〕前傾前屈,大きさは正常,硬さは正常.〔左付属器〕鶏卵大で軟であり,可動性が少ない.〔右付属器〕腫大なし.〔帯下〕淡黄色,中等量であった.

 超音波所見 : 子宮には明らかな異常は認められなかった.左卵巣は6×4.3 cmで単房性に腫大していた(図1).右卵巣は正常であった.

 検査所見 : WBC 5,500/μl,Hb 10.8 g/dl,Ht 33.2%,Plt 9万/μl,CRP 0.08 mgであった.

 尿検査 : 異常なし.

 腫瘍マーカー : CA19─9 13.4 U/ml,CA 125 18.6 U/ml,CA 546 4.5 U/mlといずれも正常であった.

 腟培養検査 : Neisseria gonorrhoeae〔淋菌〕(3+),腸球菌(+),クラミジア陰性であった.

症例

先天性筋強直症(Thomsen病)合併妊娠の1例

著者: 井庭貴浩 ,   庄司孝子 ,   井庭裕美子 ,   木内誠 ,   北田文則 ,   津崎恒明 ,   渡部道雄

ページ範囲:P.1127 - P.1130

 先天性筋強直症(Thomsen病)は骨格筋のミオトニア現象(筋弛緩の遅延)を特徴とする.妊娠と合併した報告例は少ない.今回われわれは,Thomsen病合併妊娠の1例を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する.

 症例は20歳代,1経妊・1経産の女性.続発性無月経を主訴に初診し,妊娠初期と診断された.妊娠14週時にThomsen病と診断された.以後の妊婦健診では母体のミオトニア現象は増悪傾向であった.妊娠37週で選択的帝王切開術により児を娩出したが術後経過は良好であり,病態の悪化はなかった.過去に同様な症例の報告が少なく,厳重な周産期管理を必要とした.そのなかで,患者観察力や詳細な問診に基づき確実に診断することの重要性が再確認された.Thomsen病は妊娠により増悪したが,産褥期には寛解した.さらには,合併症として弛緩出血を認めたが,その関連は明らかではなく,今後症例を累積し検討する必要があると考えられた.

臨床経験

10歳代の性交未経験者に対する外来での経外陰子宮鏡検査の試み

著者: 佐藤賢一郎 ,   北島義盛 ,   水内英充 ,   水内将人 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.1133 - P.1136

 今回われわれは,腟鏡を掛けずに外陰より直接子宮鏡を挿入する手技(以下,経外陰子宮鏡検査と呼称)により子宮腔内を観察し得た1例を経験した.症例は17歳,0経妊・0経産(性交未経験),主訴は月経不順,過多・過長月経,不正性器出血である.経腹超音波,MRIで明確な診断が得らず子宮鏡検査を施行することとした.麻酔下での子宮鏡検査は同意が得られず,インフォームド・コンセントのうえ外来にて経外陰子宮鏡検査を試みたところ,子宮腔内に多発する内膜ポリープを認めた.麻酔下で経頸管的切除を施行し,その後,過多・過長月経,不正性器出血の症状は軽快している.

 性交未経験者や閉経後例で腟腔の狭小な例など腟鏡の挿入が困難な例のみならず,本手技は,腟鏡を挿入される不快感や疼痛もほとんどなく無麻酔で施行が可能なため,従来の子宮鏡手技に替わっての施行も検討に値するのではないかと思われた.

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編集後記

著者: 倉智博久

ページ範囲:P.1144 - P.1144

 私ごとで恐縮ですが,今年の職員健康診査ではウェスト周囲径を測定されました.世の中「メタボ」です.確かに「太りすぎ」が健康によくないことは事実ですが,逆に「やせすぎ」も健康に重大な影響があることを,特に若い女性に知っていただくことも重要かと思います.これは,ファッションモデルなどの体形をよいとする風潮の弊害かもしれません.しかし,皆様ご存知のように,ファッション界でも「やせすぎ」の弊害が問題となり,一定以上のやせたモデルはファッションショーに出演できなくなってきていることからみても,「やせすぎ」にも重大な健康上の問題があることは確かです.

 若い女性の中には,「何が何でもやせたい,やせていたい」という強い志向がある方も多く,これが一因で食行動の異常(摂食障害)が起こることがあります.最近,摂食障害のある女性が増えているといわれています.これに対し,摂食をコントロールする生物学的機序も明らかにされ,摂食障害の治療薬も開発されつつあるようです.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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