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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科62巻8号

2008年08月発行

文献概要

今月の臨床 エキスパートに学ぶ―漢方療法実践講座 【処方の実際】

9.婦人科癌治療

著者: 賀来宏維1 熊谷晴介1 杉山徹1

所属機関: 1岩手医科大学産婦人科

ページ範囲:P.1103 - P.1111

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はじめに

 婦人科癌は,子宮頸癌・体癌・卵巣癌が主な癌種で,手術療法・化学療法・放射線療法による集学的治療が標準的治療法として行われている.近年,プラチナ製剤やタキサン製剤の導入,標準化に伴い生存期間が延長し,癌化学療法は婦人科癌における中心的な治療の1つとして確立された.また,術前化学療法(NAC),化学放射線同時併用療法(CCRT)などの検討も進められてきており,今後化学療法の役割はさらに重要度を増すと予想される.その一方で,末梢神経障害やアレルギー反応,下痢など前述の新規薬剤・治療方法特有の副障害の対策や,生存期間の延長に伴うQOLの維持・向上などがより重要視されてきた.これらの管理に漢方療法が積極的に取り入れられている.近年,小規模ではあるがいくつかのランダム化比較試験によって,婦人科悪性腫瘍領域においても漢方療法の有用性が報告されており(表1),『漢方治療によるエビデンスレポート』(日本東洋医学雑誌56 EBM別冊号)において,「悪性腫瘍の治療におけるQOL向上の一手段として,また西洋医学的な治療手段の副作用防止などの補助手段として,漢方治療は有用である」と推奨されている.

 婦人科癌治療における漢方治療の目的を西洋医学と照らし合わせて考えると,3つに大別できる.すなわち,(1)抗腫瘍効果,(2)化学療法や放射線治療などによって生じる副作用予防や軽減,(3)癌治療や末期癌における全身状態の改善やQOLの維持・向上,である.本稿では婦人科悪性腫瘍における漢方療法の現状と実際を上記(1)~(3)に大別して報告する.

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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