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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科62巻9号

2008年09月発行

雑誌目次

今月の臨床 妊産婦の薬物療法―あなたの処方は間違っていませんか

妊婦における薬物療法の基礎知識

著者: 豊口禎子

ページ範囲:P.1155 - P.1159

はじめに

 母体に投与された薬物は胎児に移行するが,薬物により胎盤通過性が異なる.胎児へと移行した薬物は,催奇形性や胎児毒性を発現する可能性がある.また,妊娠中は体内水分量などが変化し,代謝・排泄機能も変化するため,母体の薬物動態が異なり,薬効の発現が変化する可能性がある.

褥婦における薬物療法の基礎知識

著者: 伊藤進 ,   小谷野耕祐

ページ範囲:P.1161 - P.1165

はじめに

 分娩時に,出生した児に異常な症状が出現したとき,母体摂取の嗜好品や投与された薬物がその症状に影響していることに気づくことは少ない.しかし,周産期の母体には,多くの嗜好品や薬物が投与されていることが報告されている.一方,母乳育児を続けている母親は,薬物摂取による児への影響を過度に心配する傾向あり,その指導体制の重要性が指摘されている.これら新生児期を中心とした薬物の母子相互作用を理解することは重要であり,胎盤を移行した嗜好品や薬物の新生児への影響としてneonatal depressionと新生児薬物離脱症候群があり,薬物の乳汁移行の問題がある.ここでは,胎盤を移行した薬物の催奇形性や児の行動に関する長期の影響に関しては記載しない.

【よく使われる薬剤と処方の実際】

1.抗菌剤,抗ウイルス薬

著者: 平松祐司

ページ範囲:P.1166 - P.1169

はじめに

 本稿では妊娠時に問題となる性感染症sexually transmitted disease(STD)およびその他の感染症に対する抗菌剤,抗ウイルス薬投与について概説する.STDは,性行為によってパートナーに感染する疾病をいい,現在では30種類以上の微生物が性行為によって伝搬することが知られている.わが国では,平成11年4月から施行(平成15年11月改訂)された「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」のもとに,五類感染症の定点把握疾患として性器クラミジア感染症,性器ヘルペスウイルス感染症,尖圭コンジローマ,淋菌感染症の4種類,および全数把握疾患として梅毒を合わせた5種疾患の発生動向調査が行われている.STDは,初交年齢の若年化により,性感染症の増加,蔓延科が大きな問題になっている.

 妊娠時にSTDが発見されることも多く,われわれが年2回岡山県の全産婦人科施設を対象に実施している調査でも妊娠合併例は15.0~23.5%の頻度で発見された(表1)1).疾患としてはやはり性器クラミジア感染症がほとんどで,61.9~81.2%の頻度であった.ついで多いのが性器ヘルペス感染症と尖圭コンジローマであり,淋病,梅毒の頻度は低かった1)

 このたび作成された,「産婦人科診療ガイドライン産科編2008」2)でも妊娠中の主な感染症への対応が記載されているため参照していただきたい.

2.解熱・鎮痛・消炎・抗アレルギー薬

著者: 石郷岡哲郎 ,   千石一雄

ページ範囲:P.1170 - P.1173

はじめに

 NSAIDsと抗アレルギー剤などの使用時の留意点について概説した後に,感冒(風邪症候群)など比較的よくみられる疾患についての薬物療法を中心に述べる.

 誌面の都合上,薬理学的な詳細は専門書などを参照されたい.

3.降圧薬

著者: 松原裕子 ,   伊藤昌春

ページ範囲:P.1175 - P.1177

はじめに

 正常妊婦の血圧は収縮期,拡張期血圧ともに妊娠16~24週で最も低下し,その後,妊娠後半にかけて非妊時レベルまで上昇し,産褥期(分娩後5日間)に一時的に上昇する.妊産褥婦における高血圧の診断基準は,収縮期血圧140 mmHg以上または拡張期血圧90 mmHg以上の場合である.

 高血圧は妊娠中の合併症として最も一般的であり,全妊娠の0.5~9%に認められる.

4.子宮収縮抑制薬

著者: 平井久也 ,   金山尚裕

ページ範囲:P.1178 - P.1181

はじめに

 子宮収縮抑制薬は切迫早産および後期切迫流産に対する治療として用いられている.主として使用される薬剤は,塩酸リトドリン(ウテメリン®),硫酸マグネシウム(マグセント®)が保険適用薬として認可されているほか,インドメタシン(インダシン®)などが使用される場合がある.切迫早産に対する子宮収縮抑制薬投与の有効性については,Canadian Preterm Labor Investigators Groupを代表とするさまざまな欧米の試験では,48時間または7日以内の妊娠延長効果しか認められず,母体搬送や,経母体的ステロイド投与治療における効果発現までの待機目的での投与が推奨されている1).しかし,「妊娠37週未満に規則的子宮収縮と頸管の開大の両者を認めるもの」を切迫早産と定義する欧米の試験結果をそのまま当てはめて考えることはできず,実際本邦における切迫早産治療に関する多施設共同研究では塩酸リトドリン点滴群と子宮収縮薬未投与群とで妊娠延長期間に有意差を認める報告がなされている2)

 先ごろ日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会より刊行された産婦人科診療ガイドライン─産科編2008では,切迫早産の取り扱いとして,「規則的子宮収縮や頸管熟化傾向(開大あるいは頸管長の短縮)がある場合には,切迫早産と診断し,子宮収縮抑制剤投与や入院安静などの治療を行う」ことが勧められる(推奨レベルB)とされており,適応や禁忌を適切に判断したうえで子宮収縮抑制薬を用いることが大切である3).本稿では,薬剤投与の適応と,代表的な薬剤の注意点などについて述べる.

5.子宮収縮促進薬

著者: 野尻剛志 ,   瓦林達比古

ページ範囲:P.1182 - P.1187

はじめに

 子宮収縮促進薬は産科診療を行ううえでは必要不可欠な薬剤であり,種々の子宮収縮不全に関する産科疾患治療には有用性も高く,重要性も明らかである.産科の日常診療のなかで,最も繁用されている薬剤であるが,薬剤投与量や投与方法の誤った使用により胎児・新生児や母体に対する弊害の危険性もあり,使用に際しては十分な注意が求められる.

 今回は,子宮収縮促進薬とその処方の実際について,陣痛誘発・陣痛促進,弛緩出血,子宮復古不全について解説する.

6.抗凝固薬

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.1189 - P.1193

はじめに

 静脈血栓塞栓症(VTE)はわが国においては発症頻度が低いと考えられていたが,生活習慣の欧米化や高齢化社会の到来などの理由により,近年その発症数は急激に増加している.なかでも肺血栓塞栓症(PTE)は,手術後や分娩後,あるいは急性内科疾患の入院中などに多く発症し不幸な転帰をとる.また,抗リン脂質抗体症候群(APS)をはじめ血栓性素因を有する患者では,習慣流産や妊娠高血圧症候群をきたしやすい.これら疾患の治療の基本は抗凝固療法である.

 本稿では,妊産婦に抗凝固薬を投与する際の注意事項や投与方法を解説する.

7.抗てんかん薬,向精神薬

著者: 佐川正 ,   宮島直子 ,   中澤貴代

ページ範囲:P.1194 - P.1201

抗てんかん薬

1. はじめに

 てんかんにおいては,発作そのものを診察できることはきわめて少ないため,問診,脳波,画像検査などによる総合的診断が必要とされる.われわれ産婦人科医がプライマリケアとして,妊婦のてんかんを診断し,抗てんかん薬を処方することは通常の場合にはないと思われる.しかし,てんかんの有病率は0.5~1%と比較的頻度の高い神経疾患である1)ため,てんかん合併妊婦に遭遇する機会は稀ではない.したがって,てんかんの診断・治療,抗てんかん薬の催奇形性についての知識はわれわれ産婦人科医にとって不可欠といえる.

8.胃腸薬,制吐薬,便秘薬

著者: 中井章人 ,   阿部崇

ページ範囲:P.1203 - P.1207

はじめに

 妊娠中,大量に分泌されるホルモンは胃腸の運動能に抑制的に働くと考えられているものの,妊娠初期には胃の機能自体は変化しないとされている.しかし,妊娠経過とともに増大する子宮による物理的な圧迫により胃内容物の貯留時間が延長するなど,消化器機能に影響を与えていると考えられている.本稿では,妊娠中に比較的頻回に発生する胃腸症状を挙げ,その際に用いる薬剤について解説する.

9.副腎皮質ステロイド

著者: 梅川孝 ,   杉山隆 ,   佐川典正

ページ範囲:P.1208 - P.1213

はじめに

 副腎皮質で合成されるステロイドホルモンは中間代謝物を含めると50種以上ある.また,ステロイドは,性ホルモンなどを含むステロイド骨格を有するホルモンの総称であるが,ここでは抗炎症および免疫抑制作用を持つグルココルチコイドを副腎皮質ステロイドと呼ぶ.本稿では,妊産婦に対する副腎皮質ステロイド投与につき,最近の知見を含めて概説する.

10.甲状腺治療薬

著者: 網野信行

ページ範囲:P.1214 - P.1219

はじめに

 甲状腺疾患はバセドウ病および橋本病も含め頻度の高い病気である.しかも女性が男性に比して5~15倍も多く,妊娠可能域の女性にしばしば合併するので,妊娠時での適切な対処が日常診療でも必要となる.また正常妊娠でも妊娠初期に生理的な甲状腺中毒症が高頻度にみられ,バセドウ病甲状腺機能亢進症と慎重に鑑別しなければならない.最近,軽症甲状腺機能異常症でも積極的な治療介入により,その後の経過が順調にいくことが注目されている.本稿では妊娠時の甲状腺機能亢進症および低下症の治療について最新の知見も入れて解説する.さらに,妊娠時の甲状腺疾患管理に関する国際ガイドラインも合わせて紹介する.

妊産褥婦の禁忌薬

著者: 荒田尚子 ,   久保隆彦

ページ範囲:P.1220 - P.1227

はじめに

 妊娠中や授乳中の薬物療法における安全性については厳密な臨床研究を行うことは倫理上不可能であることから,使用経験に基づく疫学研究に頼るしかない.したがって,発売後間もない薬剤や使用頻度の低い薬剤については情報に乏しいために妊産婦および授乳中は禁忌薬となることも多い.妊娠中や授乳中の薬物量は慎重になるべきであるが,薬物服用を恐れて母体の全身状態が悪化するようであれば,かえって児への悪影響が懸念される.したがって,薬物の危険性と有益性を検討したうえで,本当に必要な薬剤を必要最小限使用することが大切となる.

 一方,妊娠と知らずに薬物を服用してしまった場合,先天奇形が生じる可能性が高いという誤解から,不必要な中絶手術が行われるという事実もある.先天奇形の発生率は全分娩のうち約3%前後であるが,奇形全体のうち薬物が原因とされる奇形は1%以下とわずかであり,妊娠中禁忌薬の多くは催奇形性が明確ではないことから,「禁忌薬」を処方して妊娠が判明した場合でも,安易に人工中絶を勧めてはならない.

連載 産婦人科MRI 何を考えるか?・13

右下腹部痛を主訴に来院した32歳の女性

著者: 山岡利成

ページ範囲:P.1151 - P.1153

 右下腹部痛を主訴に来院した若年の女性.腹部超音波によりある疾患が疑われ,確認のためにMRが施行された.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・36

妊娠後期に尿崩症を合併した1例

著者: 中島彰 ,   山﨑香織 ,   長橋ことみ ,   原信 ,   松下良伯

ページ範囲:P.1229 - P.1232

症 例

 患 者 : 36歳,未経妊

 既往歴・家族暦 : 特記すべきことなし.

 現病歴 : 妊娠30週ごろより多飲,多尿,発汗低下,食欲不振,嘔気,胃痛などを自覚していた.妊娠32週の妊婦検診ではAFI5~6と羊水過少を認めた.検診時およびそのほかの受診時に消化器症状の訴えはあったが,多飲,多尿などの話はなかったため,肝機能などを血液検査で精査し異常がないことを確認し補液治療が施行されていた.

 妊娠34週の妊婦検診時に,上記症状に加えて血圧上昇(141/91 mmHg)を認めたため,入院を指示した(尿蛋白 : 陰性,浮腫 : 認めず).

 入院時現症 : 意識清明,身体所見に異常はなく,血圧138/90 mmHg,脈拍90/分,体温36.9℃であり,自覚症状に変わりはなかった.

 超音波所見 : 胎児推定体重2,285 g,AFI6.5 cm,NST所見はreassuring fetal statusで,羊水過少を認める以外は順調であった.

 検査所見 : 表1に示したように貧血所見,肝・腎機能に異常はなく,Ht,血清NaおよびCl値がやや高値である以外は異常を認めなかった.また,甲状腺機能にも異常は認めなかった.

BSTETRIC NEWS

正常妊娠に妊娠36週からNSTは必要なのか?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1233 - P.1235

はじめに

 ある日,まったく知らない産科医から一通の手紙をいただいた.「正常妊娠に妊娠36週前後から全員にNSTを行うことが勧められているが,それを支持するエビデンスはあるのか?」という内容であった.インターネットを見てみると,最初に出てきた10の情報では,ほぼすべてが「妊娠36週前後で全例にNSTを行う」と記載されている.それ以上は見なかったが,同じような内容なのであろう.妊婦達はそれを標準の医療と信じるだろう.

 この問題は,北米やヨーロッパでは25年以上前に結論が出ている問題なのだと思うが,これほど証拠に基づく医療が叫ばれているなかで,この戦略を支持する新たな証拠が出てきたのであろうか.

 データは妊娠40~42週における胎児や新生児の罹患率と死亡率が徐々に増大していることを示している(BJOG 105 : 169, 1998).したがって,分娩前胎児管理試験を行っても周産期死亡は減少しないというデータがあるにもかかわらず,過期妊娠では分娩前胎児管理試験を行うという管理方法が世界的に一般的に受け入れられている.

 妊娠40週と42週の間で分娩前胎児管理試験を行ったら,周産期転帰が改善したことを示した無作為化研究はない(AJOG 158 : 259, 1988).また,正常妊娠に対して妊娠40週から42週までの間にルチーンに分娩前胎児管理試験をすることが,周産期転帰を改善することを示唆する十分な証拠も存在しない(The Cochrane Library, Issue 2, 2004/AJOG 159 : 550, 1988).以上は,米国産婦人科学会医療技術情報の過期妊娠の管理(ACOG Pract Bull. #55, 2004)の記載である.

 この問題に関する研究は主に20~25年前までに結論が出ているのであるが,そのなかのいくつかの研究を紹介する.

Estrogen Series・82

ピルと子宮頸部癌は関連があるのか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1236 - P.1237

 最近のLancet誌にピルと子宮頸部癌との関連に関する大規模調査の結果が発表された.子宮頸部癌の直接の原因はヒトパピロマウイルス(HPV)であることはよく検証されている.HPV感染なくして,子宮頸部癌は発生しない.それでも,ピルの使用と子宮頸部癌は関連があるのであろうか.以下,Lancet誌からご紹介したい1)

 International Agency for Research on Cancerでは,エストロゲンとプロゲステロンの組み合わせによるピル(combined oral contraceptive)を子宮頸部癌の発癌物質として分類してきた.子宮頸部癌は年齢とともに増加するが,ピルの効果が終了してしまったずっと後までも,ピルとの関連がみられる.この問題を解明しようと,オックスフォード大を中心としたグループは世界で発表されている24の論文を検討した.

病院めぐり

神戸赤十字病院

著者: 佐藤朝臣

ページ範囲:P.1238 - P.1238

 神戸赤十字病院は,昭和30年6月に日本赤十字社兵庫県支部附設病院として生田区楠町(現在の神戸大学附属病院の敷地内)に設立されました.神戸医科大学が神戸大学に移管されるにあたり,昭和40年12月に当院は,赤十字支部,血液センター,病院の3機能が収容される赤十字センターとして兵庫県庁近くに移転しました.産婦人科は1~2名のスタッフで,約300例の分娩を取り扱っていましたが,平成4年4月に産科は休診となり,常勤医師の退職に伴い平成4年12月からは診療内容を婦人科外来,検診に限定していたようです.

 平成7年の阪神淡路大震災を契機として,三次救急施設である兵庫県立災害医療センターの設立が決定し,当院はその後方支援を担うべく,市街地再開発事業によって誕生したHAT神戸内に,災害医療センターに隣接した310床の新病院として再スタートを切ることとなりました.当院は,地域医療,救急医療,災害救護活動を柱に掲げており,地域医療支援病院,基幹災害医療センター,臨床研修指定病院,日本医療機能評価機構認定病院などの指定を受けて活動しています.

公立八鹿病院

著者: 津崎恒明

ページ範囲:P.1239 - P.1239

 当院のある但馬(たじま)は兵庫県北部にあり,全国の黒毛和牛のルーツである但馬牛(別名神戸牛)で有名ですが,「限界集落」が増加しており,構成町村の高齢化率が軒並み30%を超えるようになっています.当院は南但馬山間部の養父市八鹿町にあって,急性期からリハビリ・慢性期病床および緩和ケア病床まで備えた19科・420床,職員総数600名の総合病院ですが,常勤医師数は41名と減少の一途をたどっています.一方,但馬全域の分娩数は約30%の帰省分娩を含む年間1,500件ありますが,分娩担当施設は3つの公立病院に限られ,分娩担当医師数は8名と少数です.

 当院の産科医師数も平成20年5月までは3名でしたが,現在は2名(平均年齢51歳)で,2名の小児科医と12名の助産師で「周産期センター」を構成し(写真),年間約360件の分娩を担当しています.兵庫県は母体搬送・新生児搬送システムが構築されているとはいえ,基幹病院の受け入れが限界に達しており,NICUを持たない当院でもかなりのハイリスク症例をお世話せざるを得ないのが現状です.さらに,前記3施設ともに医師の高齢化が進み,あと数年もすればさらに分娩担当医師の減少が避けられない事態が予想されるため,3病院相互の連携をはかるとともに,当院では「院内助産所」を周産期センター内に設けるべく準備中です.筆者は昭和58年3月から当院に赴任し,当初から胎児心拍モニタリングを導入した妊産婦管理を行い,結果として地域管轄保健所管内の脳性麻痺児発生率低下(2/出生1,000から0.3/出生1,000)を報告しましたが(日産婦誌42巻,1990年),今後もこの成績を維持できるようにリスク評価を適正に行う必要があります.なお当科では,15年前から看護師,助産師,小児科医および産科医師合同の産科カンファレンスを毎月行って,分娩終了例の反省と分娩予定例のリスク評価を行っており,全国平均より低い周産期死亡率を維持しています.

原著

卵巣癌との重複癌症例の臨床的検討

著者: 朝野晃 ,   太田聡 ,   松浦類 ,   早坂篤 ,   和田裕一

ページ範囲:P.1243 - P.1247

 当科で治療した卵巣癌(境界悪性腫瘍を含む)298例中,重複癌症例は同時性癌が11例,異時性癌が20例の計31例で,卵巣癌症例全体の10.4%であった.同時性重複癌の癌種は6例が子宮体癌であった.卵巣癌以前に他臓器癌を発生していた異時性重複癌は10例で,乳癌が最も多く4例で,胃癌と大腸癌が2例と次に多く,他臓器癌との発生間隔は1~28年であった.卵巣癌以後に他臓器癌を発生していた異時性重複癌は12例で,乳癌が5例で最も多かった.他臓器癌との発生間隔は1~12年であった.卵巣癌の重複癌では,特に卵巣癌以後に発生する乳癌や消化器癌に注意する必要があると思われた.

臨床経験

1,000 gを超える子宮筋腫例に対する腟式子宮全摘術の経験

著者: 佐藤賢一郎 ,   北島義盛 ,   水内英充 ,   水内将人 ,   根岸秀明 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.1249 - P.1254

 今回,腟式に摘出し得た1,410 g,1,200 g,1,130 gの1,000 gを超える子宮筋腫3例を経験した.各症例の手術時間は順に110分,85分,95分で,術中出血量は順に685 ml,1,300 ml,1,000 mlであった.3例とも無輸血で,術後経過は貧血を認めるほかは良好であった.手術方法は,基靱帯無結紮切断法,翻転術式,筋腫核出術,子宮および筋腫核の分割切除,切半によった.頸部筋腫例では,まず筋腫核出を行ってから上記術式によった.腟式子宮全摘術の適応について,米国産婦人科学会では妊娠12週の大きさ(約280 g)を超えないことを1つの基準として挙げている.1,000 gを超える子宮筋腫に対する腟式子宮全摘術は,出血量の増量と手術時間が延長する可能性があるが,腹部にまったく切開創が残らない,特別な設備,器具,機器を要さない,コスト面で有利であるなどの利点は捨てがたいものがあり,症例により選択に値するのではないかと思われた.

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編集後記

著者: 岡井崇

ページ範囲:P.1264 - P.1264

〈8月20日〉

 この日の朝,私はお茶の水にある日産婦学会の事務局に出向いた.3階でエレベーターを降りて事務局の前に差し掛かったとき,急に現れたマスメディアの人からビデオカメラを向けられ,だらしなくネクタイをゆるめて上着を肩に担いだ不恰好な姿を収録されてしまったようだ.朝から多くの報道人がつめかけていたのである.メディアの注目度の高さを再認識させられた.

 案外早く“無罪”の報が届いた.吉村理事長,落合理事と静かに握手を交わす.予定通り正午に行われた記者会見では,2回の事前会合で練り上げた声明文を,理事長が一語の間違いもなく朗々と読み上げた.記者からの質問にも学会の見解を適切に答えることができたと思う.まずは一段落である.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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