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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科63巻1号

2009年01月発行

雑誌目次

今月の臨床 産科出血―診断・治療のポイント

流産,絨毛膜下血腫

著者: 輿石太郎 ,   田中利隆 ,   竹田省

ページ範囲:P.11 - P.15

はじめに

 臨床的に診断された妊娠の約15%が自然流産に至るとされ,厚生省心身障害研究班報告によると,その80%以上が1st trimesterに起こる.また,切迫流・早産の原因の1つとして絨毛膜下血腫(subchorionic hematoma : SCH)が挙げられるが,経腟超音波検査が普及したことにより疾患概念がより知られるようになり,その診断にも注意が注がれるようになっている.今回,絨毛膜下血腫の超音波診断ならびに臨床上の特徴,管理,予後を中心に言及する.

胞状奇胎

著者: 上岡陽亮

ページ範囲:P.39 - P.43

はじめに

 胞状奇胎は欧米では出生数1,000に対し0.5~1%の発生頻度とされるが,それに比してアジア地域においては発生頻度が高い1, 2).本邦における1997年の絨毛性疾患の地域登録成績によると,出生数1,000に対し全奇胎は0.71,部分奇胎は0.89であった.胞状奇胎は悪性新生物ではないと考えられるものの,続発症として侵入奇胎や絨毛癌を発生することがある.これらの発生を早期に発見,予防するために奇胎の正確な診断と娩出後の厳格な管理が必要である.

常位胎盤早期剥離

著者: 潮田まり子 ,   潮田至央 ,   石田剛 ,   宋美玄 ,   中村隆文 ,   下屋浩一郎

ページ範囲:P.44 - P.47

はじめに

 Obstetrics is “bloody business”といわれるように,周産期医療から出血を切り離すことはできない.また同時に周産期死亡率を大きく左右しているのも出血である.出血が原因の母体死亡例の19%が常位胎盤早期剥離(以下,“早剥”と略す)によるものであり1),早剥は産科DICの原因の約50%を占めるといわれる.近年の周産期管理の向上に伴い,早剥による周産期死亡率は低下傾向にあるといわれているが,いまだ診断や管理が困難である疾患の1つであり,子宮破裂や弛緩出血とならび母体死亡の最大の原因の1つである.

前置胎盤

著者: 依岡寛和 ,   神崎秀陽

ページ範囲:P.49 - P.51

はじめに

 前置胎盤は,近年,帝王切開術の増加に伴い増加傾向にある.本疾患は産科疾患のなかでも最も慎重な対応を要する合併症の1つと考えられる.その診断については以前では内診所見をもって診断の手がかりとしていたが,超音波断層検査機器の進歩によって多くは妊娠30週以前に診断がつくようになってきた.しかし,その管理についていまだゴールデンスタンダードは存在せず,自己血輸血をはじめとして術式の工夫など各施設それぞれが出血に対応しているのが現状である.特に癒着胎盤を合併している場合には,術前診断の難しさに加え強出血を伴うことも多く,子宮全摘を余儀なくされることも多いが,その手術自体も困難を伴う.

癒着胎盤

著者: 藤森敬也 ,   伊藤明子 ,   高橋秀憲 ,   佐藤章

ページ範囲:P.53 - P.59

はじめに

 癒着胎盤の発生頻度は年々増加していると考えられ,その最大の要因は帝王切開症例の増加による.この50年でその頻度は10倍になりおよそ2,500分娩に1例と報告され1),さらに最近では533分娩に1例との報告2)もあり,毎日の臨床の場で遭遇する可能性が高くなってきている.その対応は慎重に行わないと思わぬ大量出血をもたらし,母体の生命まで脅かす危険性がある.その診断や対応については専門機関であっても苦慮する場合があり,術前にさまざまな準備が必要である.最近では,いろいろな特集が組まれ,さまざまな術中出血の軽減の工夫が報告されている.本稿のみでは,それらの工夫をすべて解説することは無理があり,現在,筆者の考えていることを中心に記述することとし,読者にはぜひたくさんの文献に当たって自分たちの施設に合った対応を考えていただきたいと思う.

子宮破裂

著者: 古谷健一 ,   松田秀雄 ,   笹秀典

ページ範囲:P.60 - P.63

はじめに

 今日,産科医療のなかでは医事紛争の影響もあって,前置胎盤や癒着胎盤について関心が高まっているが,妊娠や分娩経過中に子宮筋層が断裂・破壊される「子宮破裂」は,それこそ母児の生命に直結する緊急事態として,産科医の正しい判断と速やかな対応が求められる最重要項目の1つと思われる.さらに子宮破裂は,前述した前置・癒着胎盤のように画像診断による癒着程度の判断や放射線医によるインターベンションなどの事前準備が整わない環境で緊急事態に対応しなければならず,産科医は真の臨床的実力が求められる状況に直面することが多い.

 本稿では「子宮破裂」に関して,その分類とならんで,帝王切開既往後の経腟分娩(VBAC)や損傷された妊娠子宮の摘出法について概説する.

産道損傷,腟・会陰血腫,後腹膜血腫

著者: 天野完

ページ範囲:P.65 - P.69

産道損傷

1. 骨産道損傷

 恥骨結合離開,仙腸関節や尾骨損傷では損傷部に圧痛,下肢への放散痛がみられる.鎮痛薬やコルセット,骨盤ベルトで固定することで症状を緩和する.診断は臨床所見とX線診断による.尾骨は可動性があり容易に骨折,離開するがほとんどが自然治癒する.

2. 軟産道損傷

1) 子宮破裂

 別稿を参照していただきたい.

2) 頸管裂傷

 胎盤娩出後に子宮収縮を確認しつつ,示指と中指で頸管を挟むように全周の連続性を確認したうえで,直視下に裂傷の有無を確認する.その際,助手に子宮底を下方に十分に圧迫させ,頸管部を腟入口部近くまで転位させる.ジモン式腟鏡などで十分に視野を展開しペアン鉗子か頸リス鉗子で頸部前後唇を把持,牽引して損傷の有無を確認する.頸管裂傷の多くは3時,9時の部位で縦方向に生じ,動脈損傷により持続的に鮮紅色の出血がみられる.

子宮内反症

著者: 安藤一道 ,   細川あゆみ ,   笠井靖代 ,   杉本充弘

ページ範囲:P.70 - P.73

はじめに

 子宮内反症(uterine inversion)とは,子宮底部が陥没または下垂して子宮内膜が外方に反転し,子宮内膜面が腟内または外陰に露出した状態である.子宮内反症は内反の程度により全内反症,不全内反症,子宮圧痕と分類される(図1).また,発症時期により分娩後24時間以内に発生する急性内反症,分娩後24時間以上で1か月以内に発生する亜急性内反症,さらに分娩後1か月以上経過してから発生する慢性内反症に分類される.Daliら1)は241例の子宮内反症を検討し,分娩に伴う子宮内反症が229例(95%)で,そのうち急性子宮内反症が191例(83.4%)と大部分を占めていると報告している.

 急性子宮内反症のリスク因子として初産婦,胎盤の子宮底部付着,付着胎盤,巨大児,オキシトシン投与などが指摘されているが2, 3),胎盤が剥離する前に,強く臍帯を牽引したり子宮が収縮していない状態で子宮底部を下方に圧迫したりするなど,分娩第III期の不適切な処置が大きな原因と考えられている.子宮内反症の頻度は報告者により大きく異なり,Achannaら4)は31,394分娩中4例(7,848分娩に1例)と報告しているが,Hussainら5)は57,036分娩中36例(1,584分娩中1例)であったと報告し,そのうち27例(75%)が分娩第III期の誤った処置が原因であったと述べている.Rachaganら6)も17年間に15例の子宮内反症を経験(頻度は4,836分娩中1例)し,注意して分娩第III期を管理することにより急性子宮内反症は回避できると結論している.当センターの過去5年間について子宮内反症の発生を調査したところ,2例の急性子宮内反症を認めた(頻度は5,166分娩中1例).

 急性子宮内反症は迅速な診断と治療が遅れると,時に母体死亡につながる重篤で予知困難な産科救急疾患の1つである.本稿では,最近われわれが経験した急性子宮内反症症例の診断と治療の実際を呈示することにより,急性子宮内反症の診断と治療のポイントについて述べる.

弛緩出血

著者: 中井祐一郎 ,   今中基晴

ページ範囲:P.74 - P.77

はじめに

 Bloody businessと揶揄される産科医であるが,日常遭遇する多くの出血性疾患のなかで,最も多いものは弛緩出血であろう.しかしながら,後述するように定義の曖昧さもあるために,厳密な鑑別診断をするまもなく対処する必要があることから,正確な発生頻度すらわかっているとはいえないのが現状である.本稿では,その診断上の問題点を含めて整理し,合理的な対応方法を考えてみたい.

胎盤ポリープ

著者: 中塚幹也

ページ範囲:P.78 - P.81

はじめに

 胎盤ポリープとは,分娩,流産,妊娠中絶などの後に子宮内に遺残した胎盤が変性,フィブリン沈着,硝子化を伴い器質化しポリープ状に増大したものである.妊娠終了後にも断続的に性器出血がみられ,大量出血を起こすこともある.妊娠終了後,数日から数週間で発症することが多いが,分娩後,何年か経過して発症したとの報告もある1)

 胎盤ポリープの原因として癒着胎盤は重要である.このため,胎盤絨毛の子宮筋層内への侵入を容易にする子宮内膜損傷を起こす子宮手術,また胎盤遺残の起こりやすい子宮腔の形態異常,副胎盤や分葉胎盤などは癒着胎盤を起こしやすく,胎盤ポリープ発生のリスク因子になると考えられる.

 子宮内腔に遺残した胎盤組織が遊離していれば,自然に排出されるか,機械的な掻爬により容易に除去されるが,血流のある胎盤ポリープに対して安易に子宮内掻爬術を行うと出血を起こす.このため,産後,流産・中絶後に胎盤遺残などの異常を早期に発見し,患者自身へも胎盤ポリープ発生のリスクを伝え,受診を促すことは重要である.

子宮外妊娠

1.卵管妊娠

著者: 堤誠司 ,   逸見典子 ,   倉智博久

ページ範囲:P.17 - P.21

卵管妊娠の疫学

 子宮外妊娠は妊娠のおおよそ1%と報告され,そのうち卵管妊娠の占める割合は,自然妊娠において98.3%,生殖補助技術(assisted reproductive technology : ART)後の妊娠において82.2%である1).感染,炎症,外科手術の既往などが危険因子となり,卵管に障害が生じる.卵管内腔および卵管采の障害によるものが大半を占め,自然妊娠における子宮外妊娠は膨大部が79.6%,卵管采が6.2%であるのに対し,ART後の子宮外妊娠では膨大部が92.7%に及ぶ1).独立した子宮外妊娠の危険因子としては,次の項目が挙げられる2)

1. 骨盤内炎症性疾患(PID)の既往

 クラミジア腹膜炎は最も重要な起炎菌であり,卵管妊娠の7~30%で認められると報告されている3, 4)

2. 子宮外妊娠既往

 卵管妊娠の保存手術後の子宮外妊娠反復率は13%である.

3. 経口避妊薬と子宮内避妊用具(IUD)使用者

 経口避妊薬服用既往のある者の子宮外妊娠のリスクは上昇しない5).IUDはリスク因子とされてきたが6),最近の知見ではIUDは子宮外妊娠のリスクは上昇させないとのレビューもある7)

4. 卵管形成術後

 総じて卵管形成術後の子宮外妊娠発症率は2~7%と報告されている.

2.間質部妊娠

著者: 栁原敏宏 ,   秦利之

ページ範囲:P.23 - P.27

はじめに

 従来,子宮外妊娠の頻度は全妊娠の0.5~1%とされており,このうち98%は卵管妊娠が占めていた.卵管妊娠のなかでも膨大部,峡部,卵管采の順で多く,間質部妊娠は全卵管妊娠の1.9%前後であった.しかし,IVF─ETなどの生殖補助医療の普及やクラミジアなどの性行為感染症の広がりにより子宮外妊娠の頻度が近年増加傾向にある.図1 1)に生殖補助医療による変化を示した.卵巣妊娠,頸管妊娠などが増加し卵管妊娠全体の率はやや低下しているが,間質部妊娠は1.9%から7.3%へと増加を示している.

 間質部妊娠の特徴として,卵管への着床部が子宮筋層に保護されているため妊娠初期は症状が現れにくく,妊娠週数の進んだ8週から16週になって腹痛として発症する場合が多い.なかにはさらに無症状で妊娠継続するの場合もあり,診断を遅らせる原因の1つである.破裂すると子宮筋層や子宮血管から直接多量に出血し,止血困難である.このため破裂による急激なショック症状で初めて診断される場合もあり,子宮温存できない例も多く妊婦死亡の症例も存在する.このような状態を避けるためにも,破裂前の早期発見と治療が重要である.

3.頸管妊娠

著者: 井坂恵一

ページ範囲:P.29 - P.33

はじめに

 頸管妊娠は,受精卵が頸管に着床することにより生ずる異常妊娠であり,その頻度は,1,000~95,000妊娠に1例1)と子宮外妊娠のなかで最も稀な疾患である.ただし,狭義の意味では,卵管妊娠,卵巣妊娠,腹腔妊娠などの子宮外妊娠と頸管妊娠を区別する場合もある.また,最近増えている帝王切開後の創部に妊娠する帝王切開創部妊娠も子宮下部に妊娠することから,頸管妊娠と同様の診断・治療が必要となる.ひと昔は頸管妊娠といえば,妊娠中絶あるいは流産手術の際に大出血を起こし,はじめて診断されることが多く,しばしば子宮全摘を余儀なくされていた.しかし,現在では,超音波装置の出現とともに無症状の妊娠初期に診断することが可能となり,治療法も従来の外科的方法に代わり保存的方法が主流となっている2)

4.腹腔妊娠

著者: 野口靖之 ,   若槻明彦

ページ範囲:P.35 - P.37

はじめに

 子宮外妊娠は,子宮腔以外の場所に受精卵が着床し生育した状態と定義されているが,受精卵の着床部位により卵管妊娠,卵巣妊娠,腹膜妊娠に分類される.近年,低単位hCG測定法や経腟超音波断層法の普及により子宮外妊娠の早期診断が可能になった.腹腔妊娠は,診断がきわめて困難なため子宮内妊娠と誤認され妊娠管理されることもあったが,腹腔鏡手技の普及により妊娠初期に腹腔鏡検査ではじめて診断されるケースが増加してきている1).卵管妊娠であれば腹腔鏡下における妊娠部位の摘出が可能であるが,腹膜妊娠ではまずは腹腔鏡下での診断が重要である.

連載 産婦人科MRI 何を考えるか?・17

骨盤内腫瘍の性状診断

著者: 山岡利成

ページ範囲:P.7 - P.9

 腹痛にて来院した40歳の女性.超音波で腹部腫瘤を認め,精査のためMRが施行された.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・40

造影MRIにて診断し得た卵巣広汎性浮腫の1例

著者: 曽和正憲 ,   西森敬司

ページ範囲:P.83 - P.85

症 例

 患 者 : 22歳.0経妊・0経産

 主 訴 : 左下腹部痛

 既往歴 : 特記すべきことなし.

 月経歴 : 初経10歳,周期28日型・整

 現病歴 : 初診3日前より間欠的な左下腹部痛が出現し,近医内科を受診した.消化器,泌尿器系に異常を認めず,当院に紹介となった.

 初診時現症 : 血圧,脈拍,体温に異常はなく,腹部は平坦,左下腹部に圧痛を認めるが,腹膜刺激徴候は認めなかった.

 検査所見 : 経腟超音波検査では,ダグラス窩に径6.0×4.5 cmの嚢胞を伴った充実性腫瘤を認めた.子宮に異常はなく,腹水も認めなかった.血液検査では血算,生化学検査,腫瘍マーカーなどに異常は認めなかった.

BSTETRIC NEWS

妊娠中の睡眠時の母体体位

著者: 武久徹

ページ範囲:P.86 - P.87

 説明と同意事項が年々多くなること,妊娠や分娩をショーのように扱う風潮,さらにインターネットなどで容易に目にすることができる証拠に基づかない概念の氾濫などが産科医への質問となる.限られた時間のなかで,安全な結果を提供しようと努力している産科医には,あまり愉快な時間ではない.

 重要とは思えない妊婦の質問のなかに睡眠時の姿勢の問題がある.最近,カナダの医師が,この問題に関する文献的考察を行っている.今回は,それを紹介する.

病院めぐり

大分県立病院

著者: 佐藤昌司

ページ範囲:P.90 - P.90

 大分県立病院は,明治13年に大分県立医学校とともに大分市中心部(高砂町)に開設されました.その後,何度かの増改築を経た後,平成4年に大分市豊饒(ぶにょう)の地に新築移転し,現在に至っています.現在,一般病床610床,感染症病床16床を有する県立総合病院で,特に循環器疾患に対する医療,がん医療,救急医療,小児医療および周産期医療を重点的医療と位置づけ,大分県の基幹病院として機能しています.

 産婦人科は,平成20年10月現在,常勤医師9名,後期研修医3名がいずれも産科,婦人科兼務で診療にあたっています.さらにスーパーローテート医師が常時2~4名加わり,産科病床25床,婦人科病床41床の双方を忙しく走り回っています.

芳賀赤十字病院

著者: 渡辺尚

ページ範囲:P.91 - P.91

 当院は,大正11年に株式会社芳賀病院として創立され,昭和24年に現在の日本赤十字社栃木県支部芳賀赤十字病院となりました.栃木県の東部に位置し,真岡市を中心とした芳賀郡市1市5町における地域中核病院として歩んできました.総病床数は410床で,そのうち産婦人科は産科と婦人科併せて34床です.当院の理念として「患者さま本位の医療」を掲げています.平成17年には顕著な医師不足により一時的に病院機能が低下しましたが,現在は最低限の医師数が確保され,病院機能は回復してきています.芳賀郡市で唯一の二次救急病院として積極的に取り組んでおり,最近はひと月に300台を超える救急車を受け入れています.この数は県内でもトップクラスの実績です.平成20年2月には日本医療機能評価機構の病院機能評価Version 5を受審し,指摘事項なしの無条件で認定を受けました.

 平成17年の病院機能低下については産婦人科も例外ではなく,産婦人科医師が4名から2名に減少し,その2名で何とか急場をしのいでいたという状態でした.平成18年4月に自治医科大学産婦人科の関連病院となり,産婦人科医2名が派遣され4名体制となることで二次周産期医療施設としての機能を回復しました.産婦人科は現在,常勤医師4名と病棟・外来スタッフを中心に,小児科,麻酔科,手術室をはじめ,院内の各部署と連携しながら診療しています.

症例

外陰がんと鑑別を要した乳頭状汗腺腫の1例

著者: 長治誠 ,   延本悦子 ,   今福紀章 ,   伊原直美 ,   清水健治

ページ範囲:P.93 - P.97

 症例は39歳,未経妊・未経産.2005年5月頃より左外陰部腫瘤に気付いていたが,放置していた.2006年1月頃より次第に腫瘤の増大を認め,同年2月に当科を受診した.初診時,後陰唇後連左側に周囲組織との境界明瞭な,小豆大の硬く緊満した腫瘤を認めた.同部の擦過細胞診では悪性像は認められなかったが,組織診で高分化型腺癌あるいは乳頭状汗腺腫が疑われた.内診・超音波検査で子宮後壁に4 cm大の筋層内筋腫を認める以外に異常所見は認められなかった.また,両鼠径リンパ節の腫大は認めなかった.外陰部腺癌が疑われたため,消化管を含めた諸検査を施行したが,異常は認めなかった.2006年2月下旬,外陰部腫瘤の診断で小豆大の腫瘤を切除した.組織検査で乳頭状汗腺腫と診断された.術後,現在まで再発は認めていない.乳頭状汗腺腫は多様な組織像を呈することもあり,腺がんとの鑑別が困難で誤診する可能性があり注意が必要である.

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編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.104 - P.104

 今年の3月で臨床研修制度に関する移行措置が廃止されます.指導医資格の臨床経験年数は5年以上から7年以上となり,プログラム責任者および指導医の要件として,平成16年3月に厚生労働省から公布された「医師の臨床研修に係わる指導医講習会の開催指針」に則り16時間以上と規定されている,いわゆる指導医養成講習会の修了が必須となります.厚生労働省は研修指定病院や募集定員の見直しを行うとも言明しており,各地域の厚生局を通じて過去5年間の研修指定病院における研修実態を調査しています.先日,厚生労働省の「臨床研修審査専門官」なる人物から,移行措置廃止後の研修制度の見通しなどの話を聞く機会がありました.2年以上研修実績がない管理型病院や協力型施設は自動的に研修指定から除外されますし,研修プログラムから逸脱した研修を行っている施設への指導,定員枠削減,補助金減額などが予定されています.今年から産婦人科などの必修科目について,3か月以内であれば1年目で行うことが認められましたが,大臣が発言した研修期間の短縮(2年から1年)などについては,共用試験と国家試験のあり方,クリニカルクラークシップの問題点など医師育成政策を総合的に見直す延長線上のものとして,文部科学省と厚生労働省が合同で検討する将来課題の1つと捉えられているようです.

 国からの教育指導経費としての臨床研修補助金は,平成20年度では年161億円で,平成17年の182億円からは20億円も減額されました.施設によって多少の差はありますが,指導経費であり人件費ではないという建前に則って研修医1人当たりで年100万円程度の公的補助があるに過ぎません.多額の経費(研修医給与)と大きな指導医負担を各研修施設に押し付けているにもかかわらず,指定施設や指導医への締め付けを強めようとする国の姿勢には,疑問よりむしろ怒りを感じています.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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