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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科63巻11号

2009年11月発行

今月の臨床 生殖医療のトピックス

代理懐胎─海外の現状

著者: 久具宏司1

所属機関: 1東京大学大学院医学系研究科産科婦人科学講座

ページ範囲:P.1422 - P.1431

文献概要

はじめに

 ともに日本人である依頼人,すなわち妻とその夫が,それぞれの配偶子を受精させ生じた胚を,アメリカ合衆国ネバダ州において,既婚者であるアメリカ人女性の子宮に移植して妊娠が成立した.アメリカ人女性は双子を出産し,依頼人である日本人夫婦は自分たちの遺伝子を引き継ぐこの双子を日本に連れて帰り,実子としての嫡出子出生届を役所に提出したところ,受理されなかった.この日本人夫婦が,事前にアメリカにおける代理懐胎の事実を公表していたために,この日本人妻に分娩の事実がないことを自ら明らかにしていたこととなり,この夫婦の実子とは認められなかったのである.後にこの夫婦は,出生届の受理を求めて提訴したが,最高裁判所においても認められることはなかった.この夫婦が著名人であり,この事案をマスメディアを通じて積極的に公表したことにより,代理懐胎という生殖補助技術がにわかに世間の耳目を集めることとなった.

 一般国民を対象とした調査や公的機関における検討が重ねられるなか,今度は日本人夫婦がインドにおいてインド人女性との間に代理懐胎の契約を結んだ.妊娠が成立したこのインド人女性が分娩に至る前に,依頼人である日本人夫婦が離婚したために,出生した新生児が依頼人夫の希望どおりに日本に向かうことができなくなり,大きく報道されることとなった.

 このように国境を越えて行われた生殖医療については,それぞれの国での生殖補助技術に対する考え方,規制の方法,さらには家族を構成する規範となるべき法体系が異なることより,複雑な問題が発生する.本稿では,代理懐胎に対しての現在における日本のスタンス,および先進国を主とした諸外国の歴史と現状を概観する.

参考文献

1) 厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課 : 精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書〔厚生科学審議会生殖補助医療部会〕付・関係資料.平成15年4月
2) 「出自を知る権利」についての諸外国の制度と現状─提供精子・卵子・胚によって生まれた子のドナー情報へのアクセス─.日本医師会総合政策研究機構報告書第66号,日本医師会総合政策研究機構,東京,平成16年7月
3) 大韓民国保健福祉部 : 代理母問題の問題点の考察および立法政策方案の模索,2005年3月
4) 現代生殖医療─社会科学からのアプローチ(上杉富之編).世界思想社,京都,2005
5) デボラ・L・スパー(椎野 淳訳) : ベビー・ビジネス─生命を売買する新市場の実態.(Harvard Business School Press).ランダムハウス講談社,東京,2006
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7) 〔特集〕生殖医療技術の利用に対する法的規制のあり方.自由と正義58 : 12─40,2007
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10) 〔対外報告〕代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題─社会的合意に向けて─.日本学術会議生殖補助医療の在り方検討委員会,平成20年4月
11) 〔特集〕生殖補助医療の法制化をめぐって(代理懐胎を中心に).ジュリスト1359 : 4─65,2008
12) 生殖補助医療(生命倫理と法─基本資料集3,神里彩子,成澤光編).信山社,東京,2008
13) 東京財団政策研究【生命倫理の土台づくり研究】2008年度研究会報告.東京財団.URL:http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=43
14) 大野和基 : 代理出産─生殖ビジネスと命の尊厳.集英社新書0492B,2009
15) 〔日本国憲法研究〕生殖補助医療.ジュリスト1379 : 54─92,2009
16) 〔特集〕家族法改正(婚姻・親子法を中心に).ジュリスト1384 : 4─97,2009
17) South Australian Council on Reproductive Technology(SACRT). URL:http: //www.dh.sa.gov.au/reproductive-technology/default.asp

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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