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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科63巻5号

2009年05月発行

雑誌目次

今月の臨床 性器脱診療の最前線

性器脱の発生機序

著者: 工藤隆一 ,   佐藤賢一郎 ,   堀保彦

ページ範囲:P.671 - P.678

はじめに

 性器脱は骨盤内臓器脱(pelvic organ prolapse : POP)あるいはpelvic floor disordersの名称が付されている.性器脱には性器の脱出にかかわる悩みや障害のみならず膀胱,尿道,直腸,小腸の脱あるいは下垂に伴って発生する排尿,排便などにかかわる障害,不調などを伴っている.その結果日常生活の質を損なう慢性疾患として生活および行動を制限する.また高齢化社会の到来などからPOP関連の疾患が増加し,これらの疾患に対する医療の需要がますます増加していると考えられる.このような背景にあるためか,アメリカでは1年間に約200,000人にPOPに関連する手術治療が行われていることが報告されている.またこれらの手術症例の約30%に再手術が実施されていることも報告されている1, 2)

 このように性器脱の手術症例の増加と性器脱の修復手術後の再手術率の高さを考えると性器脱の予防,治療成績の向上のため,性器脱の発生機序についてreviewすることも重要と考えられる.そこで本稿では最近発表された文献から性器脱の発生機序について概説する.

性器脱と排尿障害

著者: 角俊幸 ,   福田武史 ,   石河修

ページ範囲:P.680 - P.683

はじめに

 これまで,性器脱と排尿障害は独立した疾患として扱われ,性器脱は婦人科医が,排尿障害は泌尿器科医が,主にその診療に当たってきた.近年,女性骨盤底医学(UrogynecologyやFemale Urologyともいう)の分野が発展するとともに,その両者の病態が骨盤底支持機構の破綻に起因することが多いことが解明され,婦人科医と泌尿器科医が共同してその診療をするようになってきた.特に,最近では性器脱の治療にTVM(tension─free vaginal mesh)手術が広く行われるようになってきたが,これは泌尿器科医が開発した術式である.女性の排尿障害に関しても,世界的な高齢化社会の進行につれてその有病率は増加傾向にあり,また過活動膀胱といった新しい疾患が提唱されるようになり,泌尿器科医だけではその診療に当たれない現状と,女性が相談する窓口としては泌尿器科医より婦人科医のほうが選ばれやすいといったことから,婦人科医がその診療に貢献するようになってきた.本稿では,密接な関係をもつ性器脱と排尿障害について,自験例を交えて若干の文献的考察を加えて解説する.

性器脱の診断

著者: 平松祐司 ,   友国弘敬

ページ範囲:P.684 - P.690

はじめに

 女性の平均寿命の延長により高齢女性人口が増加し,女性骨盤内臓器下垂・脱(pelvic organ prolapse : POP)の頻度が増加している.POP発生のメカニズムは本特集の他稿で解説されているが,「骨盤内臓器支持の異常」であることは間違いない.子宮体部は子宮円索,卵巣固有靱帯,卵巣提索により保持され,子宮頸部は上方では基靱帯,膀胱子宮靱帯,仙骨子宮靱帯により保持され,それを骨盤底筋群,それを連結する腱,被包する筋膜が支えている1~3)(図1,2).

 DeLanceyは解剖学的支持機構を次の3つのレベルに分類した4)

 Level 1 : 子宮頸部および後腟円蓋部で,この部は仙骨子宮靱帯,基靱帯の結合組織で仙骨方向に強く牽引されている.

 Level 2 : 腟上部2/3および直腸部.内骨盤筋膜は恥骨頸部筋膜,直腸腟中隔に連続し,側方に伸び左右の恥骨尾骨筋(肛門挙筋)腱弓に付着しこの部を支持している.

 Level 3 : 腟下部1/3,会陰体,遠位尿道部.この部は恥骨尾骨筋膜(会陰膜)で支持されている.

 この骨盤底には膀胱子宮窩,直腸子宮窩,挙筋裂孔の3か所の抵抗減弱部があり,種々の原因により支持組織の弛緩,無力化が生じるとこれらの部位から臓器が脱出しPOPが発生するがその症状は多彩である1, 2)

性器脱の保存療法―ペッサリーの有用性と問題点

著者: 岩宮正 ,   山嵜正人

ページ範囲:P.692 - P.697

はじめに

 ペッサリー治療は,骨盤臓器脱や腹圧性尿失禁に対し,非侵襲的な保存的治療として,非常に重要な役割を占めている.さまざまな種類や大きさのペッサリーが存在するが,それらを使い分けることにより,骨盤臓器脱の重症度や部位にかかわらず,たいていの患者に対し装着が可能である.その一方で,管理様式,ペッサリーの成功や継続にかかわる因子,治療中の合併症などに対しての大規模な前向き研究がなく,十分なデータが得られていない.

 そこで,これまで報告されている内容を,ペッサリーの歴史から有用性と問題点について,自験例を含めて,文献的考察を行った.

性器脱手術の歴史的経緯

著者: 永田一郎

ページ範囲:P.699 - P.710

はじめに

 近年,性器脱(子宮脱,前後の腟脱,子宮摘出術後の腟脱)は骨盤臓器脱(pelvic organ prolapse : POP)という用語に一括して論じられることが多い.POPは婦人科領域の重要な疾患である.なぜなら,POPは経産婦の高齢者に非常に多い疾患で,高齢人口の増加とともに増加しているからである.POPは生命を脅かすことは少ないが,高度になるとQOLを著しく損ない,長い余生を暗くする.一方,適切な治療を行えばそのQOLは100%近く回復できる.POPの根本的治療は手術療法しかないが,POPの現れ方は症例ごとに異なり,術後再発も多く,その予後は術者の技量によって異なるといったさまざまな臨床上の問題を有している.POPを扱う領域には,米国ではfemale pelvic medicine and reconstructive surgery,欧州ではurogynecologyがあり,ともに産婦人科領域に属している.しかし,欧米でも症例の一部は泌尿器科が取り扱っている.わが国では数年前にメッシュ手術(tension─free vaginal mesh : TVM)法が導入されてから特に泌尿器科医がPOPの手術に熱心である.筆者も2006年6月の女性骨盤底医学会で本法に出会ってから1),すべてのPOP症例を原則としてTVM手術を第一選択とすることにし,300余例を経験したが,腹圧性尿失禁,子宮頸部再下垂,メッシュびらんなど,従来法ではあまり遭遇しなかった術後合併症も出てきている.これらの合併症には従来の婦人科的手法の経験者なら十分対応できるので,TVM手術は婦人科が窓口になると術後の問題を含め幅広い適応が駆使できると思われる.TVM手術にしても,ほかの近年の術式にしても,長い歴史的変遷の末たどり着いた手法であり,POP治療の歴史を顧みることはPOPの近代治療の概念を理解するうえで有意義である.そこで本稿ではPOP(古い時代は子宮脱が主体)の歴史を概観してみる.

【性器脱手術の実際】

1.マンチェスター手術

著者: 草西洋

ページ範囲:P.711 - P.717

はじめに

 Thompsonは子宮脱手術の際に術者が心得るべき9項目を挙げている.そこでは子宮摘出は目的ではなく,再発リスクを下げるためには弛緩部位を詳細に評価すること,また過剰な切除手技を控えることなどを記している(表1)1).骨盤臓器脱の常用術式としては腟式子宮全摘術と前後腟壁形成術の併用手術(以下VH術式と略),マンチェスター手術,腟閉鎖手術が挙げられるが,VH術式が広く実施されており,一部の高齢者には腟閉鎖術が選択されている.最近関心を集めているTVM手術は子宮を温存し,脆弱・破綻した骨盤底支持を合成メッシュで補強・再建する術式である.当科でもTVM手術に積極的に取り組んでいるが,TVM手術を希望して当科を受診する患者の多くが子宮温存を期待して来院していることがわかった.VH術式,腟閉鎖術はともに子宮を摘出あるいは腟を閉鎖する点において女性のアイデンティティを損なう手術である.その意味でマンチェスター手術はTVM手術に共通するところがある.かつてマンチェスター手術は子宮温存希望の若年女性が対象とされたが,じつは年齢を問わず子宮頸部延長タイプの子宮脱症例はマンチェスター手術の適応と考えられる.子宮を摘出しないことから女性の心理・身体に配慮した低侵襲性手術として有用性の高い方法といえる.

2.TVM(tension-free vaginal mesh)

著者: 竹山政美 ,   加藤稚佳子 ,   木村俊夫

ページ範囲:P.719 - P.727

はじめに

 フランスで開発された骨盤臓器脱(POP)に対するtension─free vaginal mesh(TVM)手術が2005年に日本に導入され3年以上が経過した.多くの施設で試みられるようになり,優れた成績が報告されるようになった一方,合併症や再発の報告も散見される.術式に対する理解の不足や必要なhands─on trainingを経ることのない手術が広まっているのではないかという懸念がつきまとう.メッシュは有望な補強材料ではあるが,適切な層に留置しなければ腟びらんやmigrationによる膀胱,直腸への露出などを生じ,感染をきたせば治療に難渋する.

 現在,多くの術者によって,種々の形態のメッシュが用いられているが,それらをTVMの名の下に同列において治療成績や術式の優劣を論じることには無理があると思われる.便宜上,フランスのTVMグループと同じ大きさ,同じ形のメッシュを用いるTVMをPrTVMと称することとし,ここではPrTVMの術式の概要,適応,手術成績,術式の工夫と注意点について述べることにする.

3.腟閉鎖術

著者: 長塚正晃

ページ範囲:P.729 - P.731

はじめに

 骨盤底の支持については,前稿でも触れられていると思うが,インテグラル理論により明確にされたと考える.骨盤臓器脱の手術治療については,脆弱した部分の個別あるいは総合的補修・強化が行われてきたが,近年ではポリプロピレンメッシュを用いたTVM(Tension─free vaginal mesh)手術が紹介されている1).TVM手術は,低侵襲性・安全性であるとされ筆者も行っているが,この手術を行う前にはぜひ熟練した医師の手術の見学をすることを,できれば手術指導を受けることを勧める.本手術はblindの手術であり,トラブル発生時の対処方法をとれないのであれば,行うべきではないと考える.

 ところで腟閉鎖術のうちで最も多く行われている術式であるLe Fort手術は,これまで多くの産婦人科医が行ってきている,骨盤臓器脱手術のなかで最も低侵襲な術式である.骨盤臓器脱手術を施行するに当たり,選択されるべき術式の1つであることは今後も変わらないと考える.本稿ではLe Fort手術を中心に述べる.

子宮摘出後の腟脱への対応

著者: 古山将康 ,   錢鴻武

ページ範囲:P.733 - P.739

はじめに

 子宮全摘術は,一般婦人科手術として,子宮筋腫,子宮腺筋症,子宮癌などさまざまな疾患に対して広く施行されている術式である.Oxford Family Planning Associationによる大規模コホート研究によれば,55歳までに約20%の女性が子宮全摘術を受けるとされており,子宮全摘術の既往は骨盤臓器脱のリスク因子である1)

 子宮全摘術の適応にかかわらず,子宮を摘出された患者の腟断端脱のリスクは3.6/1,000人・年である.そのうち,骨盤臓器脱に対して子宮全摘術を施行された者は,それ以外の者よりも,腟断端脱を罹患する確率が5.5倍(2.9対15.8/1,000人・年)も上昇する2).このように,腟断端脱は一般婦人科診療にてしばしば遭遇する疾患であり,その治療に苦慮することも多い.

 従来,腟断端脱に対して,わが国では腟壁縫縮術または腟閉鎖術が行われてきたが,術後の性交障害や性機能の喪失が大きな問題となる.欧米諸国では古くから,腟断端の固定法として,仙骨子宮靱帯固定術(McCall法,Shull法),腸骨尾骨筋膜固定術(Inmon法),仙棘靱帯固定術,仙骨腟固定術といった,多彩な手術が行われており,良好な成績が報告されている.

 この章では,腟断端脱に対する術式を紹介するとともに,その長所,短所および予後について説明する.

連載 産婦人科PET 何を考えるか?・1【新連載】

連載に当たって

著者: 岡村光英

ページ範囲:P.665 - P.668

 フッ素─18標識フルオロデオキシグルコース(18F-fluorodeoxyglucose)を用いた陽電子放出断層撮像検査(positron emission computed tomography),以下,FDG PETは細胞の糖代謝を画像化する検査法で,悪性腫瘍細胞や炎症細胞は正常細胞より糖代謝が盛んなため,強く集積することに基づき病巣部位を検出することができる.ほかの形態画像で判定困難である腫瘍のviabilityを評価できるため,腫瘍診断の新しいモダリティとして臨床に広く用いられるようになってきた.FDG PETは現在13種類の悪性腫瘍の診断の検査として保険が適用されており,子宮癌と卵巣癌に関しては2006年4月から保険適用となっている.最近ではPETとCTの一体型装置であるPET/CTが普及し,FDGの集積部位と同時に撮影したCTと融合した画像が得られるため,診断精度が高くなっている.

 「産婦人科PET何を考えるか?」シリーズにおいて,初回はPETの原理,検査方法,画像の評価方法,検査の適応について概説し,さらに2回目以降の疾患の画像診断の前に知っておくべきFDGの生理的集積(病的でない集積)について画像とともに解説する.2回目以降は子宮頸癌,子宮体癌,卵巣癌の病期診断,転移・再発診断,その他の産婦人科疾患,原発不明癌を順に取り上げて行く予定である.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・43

分娩後に縦隔気腫を発症した1例

著者: 浜田信一 ,   矢野清人 ,   中山聡一朗 ,   田村貴央 ,   松井寿美佳 ,   横山裕司

ページ範囲:P.742 - P.746

症 例

 患 者 30歳,未経妊

 既往歴・家族歴 特記すべきことなし

現病歴

 2005年9月1日を最終月経として10月6日に当科初診し,妊娠の診断を受けた.その後の妊娠経過は特に異常は認めなかったが,妊娠36週頃より血圧の上昇傾向があった.

 2006年6月5日(妊娠39週4日)に,血圧138/98 mmHgと上昇したため妊娠高血圧症候群の診断にて入院管理とした.入院後は減塩・低カロリー食(食塩6 g/日未満,カロリー1,600 kcal/日)でフォローアップし,血圧は120/70~130/84 mmHgの範囲を推移した.

 6月8日の深夜に自然陣痛が発来した.分娩第1期は特に問題なかったが,第2期は微弱陣痛のため分娩が停止し,オキシトシン点滴による陣痛増強を要した.それでも分娩の進行は遅く,母体血圧も190/120 mmHgまで上昇したため吸引分娩を施行し,6月8日(妊娠40週0日)の13時47分に2,814 gの女児を出産した.結局,分娩時間は第1期が10時間30分,第2期は3時間47分であった.出血量は152 gと少量であった.血圧はその後上昇することなく推移し,翌6月9日には126/80~130/90 mmHgと落ち着いた.

 ところが,6月9日の朝から軽度の胸背部痛を訴えるようになり(その痛みは寝返りなど体動時に増強),また顔面右側(頰部)の腫脹にも気づいた.「開口時に耳の奥で音がする」との訴えもあった.

病院めぐり

千葉市立青葉病院

著者: 岩崎秀昭

ページ範囲:P.748 - P.748

 千葉市立青葉病院は千葉市の中央に位置し,公立病院として地域医療に従事しています.産婦人科は1972年10月に新設されました.当時は婦人科がメインで,産科は地域の開業の先生が多くの分娩を担当され,当院は合併症妊娠の管理,経済的に苦しい妊婦さんなどの診察を行っていました.その後,徐々に分娩数が増加しましたが,2002年までは年間250例程度と横ばいでした.

 2003年5月,新築移転に伴い千葉市立病院から千葉市立青葉病院と名称変更し,新たなスタートを切りました.以後,徐々に分娩数も増加傾向にあり,最近では400例を超えるようになっています.当院は,地域の中核病院として救急医療の強化,専門医療の強化を実践し,災害時の拠点病院としての機能も兼ね備えています.

八戸市立市民病院

著者: 菅原準一

ページ範囲:P.749 - P.749

 八戸市は,太平洋を臨む青森県の南東部に位置し,人口は約25万人の地方都市です.気候は,ヤマセの影響を受け,夏は涼しく,冬は(とても寒いですが)北東北にありながら降雪量が少なく,晴天が多いことも特徴となっています.八戸駅は,東北新幹線「はやて」の終点で,東京から約3時間,仙台から約1時間半で到着します.

 当院は,昭和33年11月215床で発足,平成9年に現在地に移転,現在584床,医師118名(卒後3年目までの研修医が48名)であり,臨床研修病院として多くの研修医が日々の臨床に頑張っています.

Estrogen Series・86

ホルモン療法の停止後,乳癌発生の急減をみた

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.750 - P.750

 かつて,WHI(Women's Health Initiative)の調査結果はエストロゲンとプロゲストロンを組み合わせたホルモン療法に深い影響を与えた.その最初の報告(JAMA 288 : 321─333, 2000)のあと,米国での更年期女性に対するホルモン療法は急激に減少した.さらに,その減少に続いて,乳癌発生率のかなりの減少がみられた(NEJM 356 : 1670─1674, 2007).「これは乳癌の発生がホルモンの使用によることを示唆するものであるが,しかしその原因は特定されない」という.

 2008年12月12日にテキサス州サンアントニオで開かれた第31回サンアントニオ乳癌シンポジウムで興味深い発表があった.WHIのデータを再検討した結果によれば,エストロゲン(E)とプロゲステロン(P)の組み合わせによるホルモン療法を受けた更年期後女性にみられる乳癌の発生率は,ホルモン療法の中止後にかなり短期間に低下した.すなわち,このグループでの乳癌発生リスクはホルモン療法中止後2年でホルモン使用以前のベースラインに戻った.WHIデータによれば,E+P使用の女性群ではホルモン療法の試用期間が平均5.6年で,その間,プラセボ群に比較して26%の乳癌増加がみられた.今回のWHIデータの再検討には観察的研究の結果も含まれており,そのため時間経過による経過観察が可能であると発表者は述べている.

症例

子宮体癌に合併した子宮脂肪腫の稀な1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   森下美幸 ,   鈴木美紀 ,   水内英充 ,   水内将人 ,   両坂美和 ,   松浦基樹 ,   北島義盛 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.753 - P.757

 今回われわれは,子宮体癌に合併した子宮脂肪腫の稀な1例を経験した.

 症例は82歳(閉経42歳),不正性器出血を主訴に他院産婦人科を受診し,子宮体癌の診断にて精査・治療の目的で当院へ紹介された.子宮体癌のほかに,子宮底部の漿膜下~筋層内に径約2.0 cmの,経腟超音波で均一で境界明瞭,高輝度,CTでは境界明瞭なlow density像として描出される腫瘤を認め,脂肪平滑筋腫を疑った.腫瘍マーカーはCA72─4 14.7 U/ml(基準値10.0以下)と若干の高値を示したが,CA125,CA19─9,CEAは基準範囲内であった.MRIは下肢プレート挿入中のため施行できず.

 2008年6月下旬に入院のうえ,手術を施行した.病理組織検査の結果で,子宮体癌Ib期(類内膜腺癌G1)と成熟した脂肪細胞からなる腫瘤を認め,明瞭な被膜は認められず筋層に接し,わずかの血管と血管周囲結合組織が認められるが平滑筋成分は認めなかったため子宮脂肪腫(pure lipoma)と診断された.

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編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.764 - P.764

 インターネットの医師向けサイトには,その内容から見て,さまざまな年齢の多様な経歴を有すると思われる方々からの意見が書き込まれています.それらの多彩な意見には,各自が医師としてこれまで社会とかかわってきた経緯が色濃くあらわれており,医療事故や訴訟に関するものでは,社会一般やマスコミが不当に医師をバッシングしているという被害者意識的な内容が圧倒的に優勢です.医療界の常識が社会一般には通用しないことが多々あることは驚くにあたりませんが,医師と患者との関係を対立するものと捉えて,患者の,ひいては社会の,医師あるいは医療に関する認識不足および過大な期待と要求があることが,医療訴訟が増加してきた原因であるという意見が目立ちます.産婦人科や救命救急など一定のリスクが避けられない診療科を選択する医師が少なくなっている根底に,このような医師自身の社会および患者認識があることは否めません.

 社会環境の変化とともに,医師の職業意識も変わってきていると感じます.医師となる動機や適性についてあまり深く考えることなく,学業成績を基準にして医学部を受験したとしか思えない者がいることは事実です.医学部入学のための選抜試験の難易度はその国の文化・科学の先進度に逆比例し,また医師の社会的位置づけもしかりです.社会を動かしているのは政治・経済および科学であり,医療はその国家の政策にしたがって,国民の健康維持に貢献する役割が期待されている一種のサービス業ですので,優秀な若者が政治や経済界のリーダーをめざすという欧米の状況は当然でしょう.わが国でも医師の適正配置(専攻科および就労地域の規制)に関する議論が急速に起こりつつありますが,現状の医師偏在を医療界自身が主体的に解決できなければ,いずれは必ずそのような政策が導入されると予測されます.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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