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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科63巻6号

2009年06月発行

雑誌目次

今月の臨床 HRTの新ガイドラインを読み解く

HRTの歴史,考え方の変遷

著者: 中尾美木 ,   久具宏司 ,   矢野哲 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.774 - P.779

はじめに

 エストロゲンは,脳,血管,心臓,乳房,大腸,泌尿生殖器,骨など多彩な臓器に存在する受容体に作用し,女性の生理機能に大きく影響する.中年期の女性は,閉経前後の時期にエストロゲンが低下することにより月経が停止し,ホットフラッシュや発汗異常などの血管運動神経障害をはじめとするさまざまな機能的あるいは器質的変化を認める.更年期障害により日常生活に何らかの支障をきたす女性は20~30%にのぼる.脂質代謝が悪化し総コレステロールが上昇する.閉経後は動脈硬化が急激に進行し,心血管系疾患の発症が増加する.骨代謝は高回転型となり,骨塩量が減少し骨粗鬆症を惹起するため,脊椎圧迫骨折や大腿骨頸部骨折が起きやすくなる.尿失禁や頻尿,性交痛などの泌尿生殖器障害も多くの女性で認められるようになる.また,更年期にはうつ症状や記銘力低下もしばしば認められる.

 更年期を迎えて低下してきたエストロゲンを補充することにより,エストロゲン低下に伴う諸症状を緩和させる治療がホルモン補充療法(hormone replacement therapy : HRT)である.女性の平均寿命が50歳を超えるようになった近代になって,閉経後女性に対するHRTの必要性が認識されるようになった.

新ガイドラインのポイント

著者: 水沼英樹

ページ範囲:P.781 - P.785

はじめに

 わが国ではHRTガイドラインとして,2001年に厚生省長寿科学総合研究の3年間の活動を集約した「高齢女性の健康増進のためのホルモン補充療法ガイドライン」が上梓され1),また2004年にはその改訂版が発行されて,わが国のHRTの施行法,注意点などに関してのコンセンサス形成に大きな役割を果たしていた2).このようなHRTを取り巻く上昇機運の中,WHIショックと称されるWomen's Health Initiative中間報告が行われ3),以来,HRTは世界的に大きな後退を余儀なくされてしまった.このWHIの中間報告がもたらした社会的影響は少なくなく,特に医療者にとって,副作用の発生を必要以上に恐れるあまり,HRTを本当に必要としている女性に対してもその使用を忌避するなどの弊害も出てきていた.WHIで得られた結果は特に米国においてそれまでの安易な使用に対する警鐘となったが,一方では科学的に詳細な検証が加えられ,現在ではどうすればより安全なHRTが行えるかについての知識も集積されてきた.日本産科婦人科学会生殖内分泌委員会では日本更年期医学会との協同事業として本邦におけるHRTガイドライン(案)の作成に当たってきたが,本ガイドライン(案)3)は所定の手続きを経て本年4月に正式にガイドラインとして認定されるにいたった.今回認定された新ガイドラインはWHI以降に得られた新たなエビデンスに基づき作成されたものであり,新しいコンセンサス形成に活用され,HRTの標準化に寄与することが期待される.本稿では本ガイドライン作成に携わった立場からそのポイントを述べることとする.

HRTのメリット/デメリット

著者: 太田博明

ページ範囲:P.787 - P.795

はじめに

 閉経や両側卵巣摘出術によってエストロゲン分泌の欠乏した女性に,エストロゲンを中心とした女性ホルモンを補充するホルモン補充療法(hormone replacement therapy : HRT)は,エストロゲン欠乏に伴う諸症状や疾患の予防ないし治療に対して合目的的であり,20世紀後半まで閉経後女性の健康維持や改善に有用であるとして普及してきた1)

 しかし,HRTも平坦な道を辿ってきたわけではない.1980年代前半にはエストロゲンは子宮内膜癌のリスクを高めるということで,HRTは下火となったが,黄体ホルモン(progesterone)を併用することによってほぼ解消された.ところが,乳癌リスクも上昇することが1980年代後半に判明し,この点に関しては黄体ホルモンを併用することによっても解消されず,長い間,乳癌はHRTのリスクとして危惧されてきた.エストロゲンの効果および有用性は十分わかっていたが,これらの子宮癌と乳癌のリスクがないエストロゲン製剤が待ち望まれていたわけである.そこで登場したのが分子薬理学的手法を取り入れることによって創薬に成功したSERM(selective estrogen receptor modulator)である2).その結果,第一世代のタモキシフェンが乳癌の予防・治療薬として,また第二世代のラロキシフェンが骨粗鬆症の予防・治療薬として,それぞれその役割を担っている.

 以上とは別に,HRTのリスクとベネフィットをランダム化比較試験(randomized controlled trial : RCT)により明らかにしたものがWHI(Women's Health Initiative)3)であり,また乳癌リスクについて言及したのが観察研究ではあるがMWS(Million Women's Study)4)である.

 そこで,ここではWHIを中心にHRTのメリットとデメリットについて整理してみたい.ただし,HRTのメリットとデメリットについては評価が非常に難しく,どのような対象にどのような内容のHRTをどのくらいの期間使用したかによってメリットとデメリットは微妙に変わる5)ことをまずお断りしておきたい.

投与ルートと薬剤による副作用の違い

著者: 若槻明彦

ページ範囲:P.797 - P.803

はじめに

 2002年のWomen's Health Initiative(WHI)1)の報道で閉経後ホルモン療法(HT)の副作用ばかりが注目され,これまで多くの閉経後女性が使用してきたHTは再考すべきと考えられ,その使用が制限されるようになった.確かにHTには更年期障害の改善作用や骨折予防効果など種々の副次的好効果もあるが,心血管疾患(CVD),乳癌,静脈血栓症,胆嚢疾患などのリスクを上昇させる副作用が存在する.しかし,WHIを含めたこれまでの大規模臨床試験ではエストロゲン製剤は経口の結合型エストロゲン製剤がほとんどであった.一方,近年,エストロゲンの貼付製剤やジェル製剤などの経皮製剤が使用可能となり,同じエストロゲン製剤でも,経口と経皮でその作用は異なり,エストロゲンの持つ有害事象にも大きな違いがあることがわかってきた.

 本稿では経口と経皮エストロゲンの投与ルートの違いがエストロゲンの有益・有害事象にどのような影響を与えるかについて概説する.

【HRTの適応】

1.更年期障害

著者: 望月善子

ページ範囲:P.804 - P.809

はじめに

 45歳から55歳ぐらいの更年期女性では個人差はあるものの,漠然とした変化しやすい身体的愁訴をもつことが多い.具体的には,疲れやすい,動悸がする,肩がこる,腰が痛い,体がだるい,のぼせるなど,訴えは全身にわたり非常に多彩である.これらの症状は不定愁訴と呼ばれ,加齢に伴う身体的・精神的機能の低下と卵巣機能の低下,すなわちエストロゲン分泌の低下が背景にある.

 HRTは,治療,予防,健康増進という3つの側面をもつが,減少してしまったエストロゲンを補うことにより,症状の改善や緩和をはかろうとすることは,根本原因に働きかけるという意味で合目的的であり,その効果は確実かつ顕著に現れると予想できる.HRTの安全性を考えるきっかけとなったWHI報告では,心血管疾患や脳卒中など生活習慣病に対するHRTのネガティブ評価は示されたが,エストロゲン使用の基本的な適応疾患である更年期障害に対しての検証はされなかった.

 本稿では,更年期障害とは何かという疾患概念について説明したうえで,ガイドラインに示された項目を概説するとともに,さまざまな症状に対するHRTの有効性について探ってみたい.

2.更年期の「うつ」

著者: 髙松潔 ,   小川真里子 ,   大藏健義

ページ範囲:P.811 - P.816

はじめに

 「うつ」という言葉は,基本的に抑うつ気分,抑うつ症状,うつ状態,うつ病すべてを包含する広範な概念である1).うつが女性に多いことはよく知られており,典型的なうつ病である大うつ病性障害では日本における生涯有病率は6.16%,男女別では男性3.84%,女性8.44%と女性の有病率は約2倍高い2).有病率のピークはホルモン変動の大きい月経前期,分娩後,そして更年期の3つの時期であるといわれており3),更年期女性への対応時には常に念頭においていなければいけない病態である.

 更年期のうつは,更年期症状としての抑うつ気分あるいは抑うつ症状と,抑うつ気分以外にも多くの精神・身体症状を有するうつ病とに分けられるが,更年期に生じる症状の主たる要因はエストロゲンの消退,つまりホルモン変化であることには言を俟たない.そのため更年期の抑うつ症状やうつ病に消退したホルモンを補うホルモン補充療法(HRT)を考慮することは理に適っていると考えられる.

 そこで本稿では更年期の抑うつ気分や抑うつ症状,うつ病に対するHRTの効果について概説する.

3.泌尿器・生殖器の萎縮

著者: 倉林工

ページ範囲:P.817 - P.823

はじめに

 泌尿器萎縮に伴う尿失禁,過活動膀胱や生殖器萎縮に伴う萎縮性腟炎と性交痛は,多くの閉経後女性に認められ,その頻度と症状の程度は,加齢ともに高度となる.従来日本では,欧米に比べ女性の尿失禁や性交痛への関心度が著しく低かった.しかし,近年のquality of life(QOL)を求める流れのなかで,次第に女性や医療者側でもこれらの泌尿器・生殖器の萎縮症状に対して目が向けられつつある.

 下部尿路と生殖器は発生学的に密接な関係にあり,同様なホルモン感受性を持つ.更年期以後の女性ではエストロゲン欠乏に伴い,更年期障害,萎縮性腟炎,骨量減少,コレステロール上昇など種々の病状を呈するが,尿路系にもエストロゲン欠乏が影響するものと考えられる.エストロゲン欠乏に対するホルモン補充療法(hormone replacement therapy : HRT)が更年期以降の女性の泌尿器・生殖器の萎縮症状に対する有効な治療法となりうるか,以下,泌尿器萎縮と生殖器萎縮にわけて,「HRTガイドライン」での記載および文献的考察を加えて詳解する.

4.骨粗鬆症

著者: 茶木修

ページ範囲:P.824 - P.827

はじめに

 更年期以降は卵巣機能の低下によりエストロゲンの分泌が減少し,さまざまな症状や疾患のリスクが上昇する.閉経後骨粗鬆症はエストロゲンの急激な低下が主因で,骨代謝が亢進し,骨量が減少することで骨折の危険性が高まった状態である.2006年,日本骨粗鬆症学会から「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版」が刊行され1),診断と薬物治療開始は分けて考えられることとなった.同時に治療薬剤の選択においては骨折予防のエビデンスレベルが問われることとなり,ホルモン補充療法(hormone replacement therapy ; HRT)の扱いはより慎重なものとなった.更年期医療で広く行われているエストロゲン補充療法(ERT)は骨量を維持・増加させ,骨折のリスクを下げることが知られているが,乳癌や脳血管障害,虚血性心疾患のリスクを上げる可能性が指摘され,このガイドラインでは推奨レベルはCとされている.しかし海外では一般にレベルBとされ,適応を十分に考慮すればERTを用いた骨粗鬆症の管理も更年期医療の柱の1つとなり得る.今回『本邦におけるホルモン補充療法ガイドライン』ではHRTに期待される作用・効果として骨粗鬆症が提示された.この項ではHRTの骨粗鬆症に対する効果について概説する.

5.動脈硬化

著者: 大道正英 ,   田辺晃子 ,   笠松真弓 ,   井川佳世恵 ,   藤城奈央 ,   立川奈央 ,   西尾桂奈 ,   丸岡理紗

ページ範囲:P.828 - P.835

はじめに

 閉経前は心・血管疾患の発症は男性の約3分の1であるが,閉経後心・血管疾患の発症が次第に増加していく疫学研究より,女性ホルモンに心・血管疾患予防作用のあることは明らかである(図1)1).しかしながら,心・血管疾患への一次予防を目的とした前方視的大規模無作為臨床試験であるWomen's Health Initiative(WHI)の結果により,ホルモン補充療法が転機を迎えた.HRTは大腿骨頸部骨折の発症を減少することが確かめられたが,冠動脈疾患・脳梗塞,乳癌,肺塞栓症のリスクを上げることも明らかになった2).この結果より,FDAでは,ホルモン補充療法は更年期症状の治療目的のみ利用されるべきで,心・血管疾患の予防目的で行うべきではないと勧告した.しかしながら,ERTでは脳梗塞のリスクは上がるものの,冠動脈疾患,乳癌,肺塞栓症のリスクは上がらなかった3).また,種々のWHIのサブ解析の結果も出た.

 この章では,まずエストロゲンの血管への作用を説明し,動脈硬化におけるホルモン補充療法の位置付けを,ガイドラインの内容も加えながら解説する.

6.メタボリックシンドローム

著者: 岩元一朗 ,   堂地勉

ページ範囲:P.836 - P.843

はじめに

 メタボリックシンドロームとは内臓脂肪蓄積を基盤にインスリン抵抗性および糖代謝異常,脂質代謝異常,血圧高値などを合併し動脈硬化になりやすい状態である.一般に男性に多いが女性は閉経後,女性ホルモンが低下すると体脂肪分布が皮下脂肪型から内臓脂肪型へとシフトするためメタボリックシンドロームの頻度が上昇する.女性ホルモンは皮下脂肪型から内臓脂肪型へのシフトを抑制し,またインスリン抵抗性を改善すると報告されているが,現段階で更年期女性のメタボリックシンドロームに対する治療に女性ホルモン補充療法の適応はない.今回われわれの治験を示しつつ,更年期女性とメタボリックシンドロームについて概説したい.

7.認知症,アルツハイマー病

著者: 岩佐弘一 ,   北脇城

ページ範囲:P.845 - P.850

はじめに

 ホルモン補充療法(HRT)は,更年期不定愁訴のうちホットフラッシュに代表される血管運動神経障害の改善と,エストロゲン欠落による不顕性の身体変化に対応するという2面性をもつ.特に後者のほうが,女性の中高年期におけるQOLの点から重要であると考えられている.HRTは閉経後早期に開始されることが望ましく,60歳以降から開始することにより有益事象より有害事象の発生が増える可能性についても示唆されている.

 これらのことは,HRTによる認知症,特にアルツハイマー型認知症病(アルツハイマー病 : AD)の発症抑制,すなわち予防的な面からもエビデンスが得られている.

 ADの発症には性差があり女性のほうが男性に比べて3倍ほど,その発症が高いといわれている.そのため閉経後のエストロゲンの欠落とAD発症の関連が注目されるようになった.基礎的にはエストロゲンが神経細胞保護や脳機能維持に働くことを示唆する所見が多数報告され(表1)1),疫学的にも閉経後エストロゲンの投薬を受けた女性のほうが,受けなかった女性に比べて有意にAD発症が少ないことが示された.1986年の報告以来,エストロゲンがAD治療にも有効であると考えられるようになった(表2a).実際にHRTをAD女性に試みた報告も多く,当初のオープントライアル試験では有効性を示唆するものであったが,近年二重盲検試験で相次いでその有効性が否定された(表2b)1).現在ではHRTのAD女性に対する効果は疑問視されており,HRTはADの治療には足りえないというのがほぼ確立されたコンセンサスである.

 わが国では現在約150万人の認知症患者がいると推定されており,そのうちの60万から70万人はADであるといわれている.高齢化の進むわが国では認知症患者がますます増加し2015年には250万人になると推定され,社会的にも非常に重要視されている問題である.認知症はいったん発症してしまうと退行性の疾患であり,有効な治療が存在せず,本人ばかりか介護者にまで精神,身体的な負担に止まらず多大な経済的負担をももたらす.したがって,可能なかぎり認知症を予防し,発症年齢を少しでも遅らせることが重要である.本稿では,主にHRTのADに対する予防的効果について検証する.

8.卵巣摘出後,早期閉経

著者: 谷内麻子 ,   石塚文平

ページ範囲:P.852 - P.855

はじめに

 生殖可能年齢における両側卵巣摘出術も,早期閉経(あるいは早発卵巣機能不全)もどちらも生理的な閉経よりも早く閉経を迎え,低エストロゲン状態に陥り,骨粗鬆症や心血管疾患のリスクが増加するという点は共通している.しかしながら,早期卵巣機能不全は徐々に卵巣機能が低下し,いわば正常の閉経に似た経過をたどるのに対し,両側卵巣摘出術後では,卵巣機能の消失により更年期障害が急速に出現する点で大きく異なる.これらをふまえて,HRTのベネフィットとリスクについて考えてみたい.

9.アンチエイジング

著者: 安井敏之 ,   西條礼子 ,   苛原稔

ページ範囲:P.856 - P.861

はじめに

 加齢に伴うエストラジオール濃度は,図1のように女性は男性と異なり,周閉経期に大きく変化し,その後は男性のエストラジオール濃度よりも低い値で推移する1).このような内分泌学的変化がエイジングに伴って出現するさまざまな症状や疾患の発生に関係することから,エストロゲンはアンチエイジングとしてその作用を発揮することになる.HRTガイドラインのなかで「期待される効果」として示されている項目は,アンチエイジングと関係することになるが,ここでは,皮膚,筋力,眼,口腔に焦点をおいて述べる.

連載 産婦人科PET 何を考えるか?・2

子宮頸癌病期診断

著者: 岡村光英

ページ範囲:P.769 - P.772

 41歳女性,不正性器出血にて受診.超音波検査で6.5 cm大の子宮筋腫を認め,子宮頸部細胞診にて扁平上皮癌と診断された.治療前の検査としてMRI,造影CTを施行,さらにその他の部位の転移について全身検索のため,FDG PET/CTが施行された.FDG静注1時間後のMIP正面像(図1)にて膀胱と接して右側に強い円形の集積を認める(赤矢印).側面像では膀胱と離れて背方に強い異常集積を認める.このほかに異常集積は指摘できるか.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・44

術前に卵巣腫瘍が疑われた大網脂肪腫の1例

著者: 中曽加珠美 ,   栗田卓 ,   浦りえ ,   竹本由美 ,   竹本周二 ,   森田淑生 ,   島松一秀

ページ範囲:P.863 - P.866

症 例

 患者 9歳,女児

 主訴 腹痛,発熱

 現病歴

 1か月前より腹部の違和感が出現するも放置していた.腹痛および発熱が2日間持続したため近医内科を受診.抗生剤の内服加療を開始したが,腹痛が増強したため翌日当院小児科を紹介受診した.腹部CT検査で腹腔内腫瘤を指摘され,精査目的に当科紹介受診となった.

 既往歴

 特記事項なし.初経未発来.

 家族歴

 特記事項なし.

 理学所見

 身長130 cm,体重28.4 kg,血圧104/55 mmHg,脈拍99回/分,体温37.0℃.咽頭発赤は認めず,呼吸音,心音ともに異常は認めなかった.臍部~下腹部正中にかけて膨隆を認め,腸蠕動音は減弱していた.腹部全体に自発痛・圧痛を認め,筋性防御は認めないものの反跳痛を認めた.

 検査所見

 炎症反応の上昇を認める以外に異常所見は認めなかった(表1).

病院めぐり

一部事務組合下北医療センター むつ総合病院

著者: 佐藤重美

ページ範囲:P.868 - P.868

 むつ市は,本州最北端にある青森県下北半島のほぼ中心部に位置し,その面積は半島の1/2を占め,青森県で最も面積の広い市で,豊かな自然に恵まれております.

 むつ総合病院は下北半島における唯一の総合病院で,半島全体を医療圏とし,その対象人口は約10万人です.地理的に県内の主要都市である青森市,八戸市,弘前市から遠隔にあるため,自己完結的な医療が求められる地域です.

 その沿革は古く,明治7年に創立,その後昭和46年に一部事務組合下北医療センター創立により組合に移管,むつ総合病院と改称し,現在に至っています.病床数は487床,診療科は25科で,へき地中核病院,災害拠点指定病院,地域がん拠点病院,単独型臨床研修病院,その他の指定を受けております.

岩手県立宮古病院

著者: 善積昇

ページ範囲:P.869 - P.869

 岩手県は四国4県に匹敵する広大な面積を有し,交通の利便性が悪く,永年医療過疎に喘いできました.無医村に医療の灯りをとの先人の苦闘の末,「県下にあまねく良質な医療の均てん」を理念としたわが国でも類をみない県営医療が発展してきました.

 県土は9つの2次医療圏に分けられていますが,岩手県立宮古病院は宮古医療圏(宮古市など1市2町村,人口約10万人)の基幹病院として,高度・特殊医療を担う盛岡市の岩手医大附属病院や県立中央病院と機能分担しながら,地域完結型の医療を提供しています.標榜診療科は20科,病床数は387床で,平成12年には永年の地域医療への貢献から自治体立優良病院表彰を受けています.

Estrogen Series・87

やはり,エストロゲンは神経機能を保護するのではないか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.870 - P.870

 2008年の核医学学会年次総会(Society of Nuclear Medicine)の発表で,エストロゲンと大脳機能との関連を映像的に調べた報告があった.発表者はカリフォルニア大学神経核映像部門のCheri Geistである.

 この研究者は81名の更年期前後の女性をランダムに2群に分けて比較した.一群にはエストロゲン投与(エストロゲン継続群)を,他群にはエストロゲン投与をしなかった(エストロゲン中断群).この両グループは教育年数,初潮年齢,更年期年齢などがよくマッチしていた.全員家族歴その他の要因によりアルツハイマー病(Alzheimer'd disease : AD)のリスクがあると判断された女性である.

症例

胸水を主徴としたブレンナー腫瘍によるtrue Meigs症候群の稀な1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   森下美幸 ,   鈴木美紀 ,   水内英充 ,   水内将人 ,   両坂美和 ,   松浦基樹 ,   北島義盛 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.871 - P.875

 今回われわれは,臨床的に腹水貯留が目立たず胸水を主徴とし術前診断が困難であった,良性ブレンナー腫瘍によるtrue Meigs症候群と考えられた稀な1例を経験した.

 症例は61歳,気管支喘息,高血圧にて当院内科に通院中であったが,CTにて骨盤内腫瘤を認めるため当院産婦人科を紹介された.子宮下垂,膀胱瘤,直腸瘤を合併し,CA125 254.0 U/ml,胸部X線で右胸水を認め,腹水はほとんど目立たず,超音波,CT,MRIより長径13.5 cmの漿膜下子宮筋腫と考えた.腟式子宮全摘術,前後腟壁形成術を施行したが,術中に左充実性卵巣腫瘍と判明し,さらに開腹のうえ両側子宮付属器摘出術を行った.左卵巣腫瘍は重量は720 g,病理組織診断は良性ブレンナー腫瘍であった.術後,胸水は自然消失し,CA125 13.8 U/mlと下降した.

 以上の経過より,本例は良性ブレンナー腫瘍によるtrue Meigs症候群と最終診断した.

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編集後記

著者: 倉智博久

ページ範囲:P.884 - P.884

 大阪や東京では満開の桜は入学式のイメージです.最近は気温が上昇したためか,入学式の前に満開となり,年によっては散ってしまうこともありますが,やはり桜は入学式の象徴です.記憶は定かではありませんが,入学式に出席する親子が,校門前の満開の桜の下で撮った写真が教科書にも載っていたようにも思います.

 東北や北海道ではこのイメージは通用しにくいようです.南東北でも,桜は4月後半ですし,北東北ではゴールデンウィーク中が満開です.2009年のゴールデンウィーク全国一の人出は弘前の桜祭りと予測されています.あの弘前に220万人もの人出があればどうなるのだろうと,余計な心配をしていますが,大阪出身で山形に住んでいますと,花と行事のイメージにずれがあって興味深く感じます.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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