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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科64巻1号

2010年01月発行

雑誌目次

【救急搬送のタイミングと応急処置】 1.緊急に救命処置が必要な産科疾患

1)大量出血・ショック

著者: 大口昭英 ,   松原茂樹

ページ範囲:P.10 - P.15

産科出血における周産期医療の役割

 過去50年の日本の周産期統計の推移をみると,この50年間で日本の妊産婦死亡率は約1/30に減少した〈妊産婦10万対176(1950年)→6.5(2001年)〉.しかし,「死亡を免れたが,死亡し得た母体」は相当数存在すると想定される.この点を解明するために,久保らは,2004年分娩例について834施設に対し「妊産婦死亡を含めた重症管理妊産婦調査」を行った1).調査対象は以下の通りである.(1)妊産婦死亡,救命救急センターあるいは集中治療室管理,人工呼吸管理,(2)意識障害,ショック,2l以上の大量出血,輸血,救命のための子宮摘出,DIC,子癇,常位胎盤早期剥離,HELLP症候群,羊水塞栓,肺塞栓,子宮破裂,心不全・腎不全・肝不全・多臓器不全,脳出血・脳梗塞,敗血症・重症感染症.33.6%から有効回答が得られ,その結果,124,595名の分娩数(2004年の日本の全分娩の11.2%)に対して妊産婦死亡32名(2004年の日本の全妊産婦死亡の65.3%)が集計された.また,母体救命目的に緊急搬送された妊産婦は179例,同院あるいは他院のICU収容症例は202例,人工呼吸管理例は71例,延べ417例(0.3%)がきわめて重症であり,これ以外に上記対象(2)に該当する重症妊婦が2,859例(2.3%)みられた.2,859例から重複計上を除いた症例2,325例から,32例の母体死亡が発生していたことになる.すなわち,1人の妊産婦死亡の約73倍(2325÷32)の重症管理妊婦が存在したが,それら超重症妊婦のうちの約99%が救命されていたことになる.死に至る程の重症妊婦数は年間約4,500人と推定された.すなわち,妊婦250人に1人は死に至る重症疾患を合併すると計算された.このように,妊娠は非常にリスクの高い状態だが,周産期医療はそのような重症妊婦の多くを救命している.出血は重要な産科合併症である.妊産婦死亡で最も多かったのは産科出血であるが,分娩時大量出血により死亡したのはわずか4例(0.4%)であり,残りの多くの大出血妊婦は救命されていた.

2)産科DIC

著者: 土井宏太郎 ,   古川誠志 ,   鮫島浩

ページ範囲:P.17 - P.21

はじめに

 通常,妊娠中の血液凝固能は非妊娠時に比べ亢進状態にある.循環血液量が最大で40~45%,非妊時より増加するにもかかわらず,第XI,XIII因子を除くすべての凝固因子濃度は増加する.特に,フィブリノゲン濃度は約1.5倍と著増する.一方,妊娠中の線溶能は非妊娠時に比べて抑制状態にある.プラスミノゲンは増加するがプラスミン活性は低下する.したがって,妊娠中は凝固亢進による過凝固傾向と,それに引き続く消費性の凝固障害が起こりやすい環境であるといえる1)

 妊娠中もしくは分娩前後に発症したDIC(産科DIC)は,非妊娠時に発症したものと比べ短時間で著しい消費性凝固障害と線溶亢進をきたし,より早急な治療介入が必要とされる.産科DICの最も大切な臨床的特徴としては,産科基礎疾患2)(表1)がDIC発症に密接に関連している点であり,その多くは急性で突発的に起こる.重症例では腎不全などの臓器症状を合併することが多いが,発症後早期に抗DIC治療を開始できた場合は比較的予後が良好であるとされている.したがって,すべての検査成績を待ってから治療を開始したのでは手遅れとなる可能性・危険性が高く,早期に処置や治療を開始していかなければならない.できるだけ早くDICの治療を開始するため,臨床所見を重視した診断基準として1985年に真木・寺尾・池ノ上によって産科DICスコアが提唱された(表2).スコアが8点以上となったら産科DICと診断し,早急に抗DIC治療を開始する.

 産科DICの治療の基本は,基礎疾患の排除とDIC対策である.DICが進行すれば,出血性ショックに対する補液と濃厚赤血球の輸血,消費性凝固障害に対する新鮮凍結血漿や血小板の補充投与,それらに加えて酵素阻害療法が必要となる.酵素阻害療法として,最も有効なものはアンチトロンビンである.ほかにはメシル酸ガベキサートやメシル酸ナファモスタットが挙げられる.抗ショック作用の強いウリナスタチンも有効である1)

 産科DICと関連性の高い代表的な基礎疾患として,常位胎盤早期剥離,DIC型後産期出血,羊水塞栓,重症妊娠高血圧症候群,死胎児症候群などが挙げられる2)(表1).本稿では主に常位胎盤早期剥離と死胎児症候群に関して詳述する.

3)重症妊娠高血圧症候群および関連疾患

著者: 山崎峰夫

ページ範囲:P.22 - P.25

はじめに

 妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension : PIH)は母児の転帰に重大な影響を及ぼす可能性が高い周産期領域の最重要疾患である.すでに臓器障害が顕症化した症例の母児予後を警戒すべきことはいうまでもないが,発症の初期段階と思われた症例が急速な病態の重篤化によって母や児に異常が発生することも稀ではない.そのため,産科医師にとって,自施設で管理困難な症例をより高次の施設へ紹介・搬送するタイミングをみきわめることは重要である.ただし,転院の基準は紹介元施設の診療体制,すなわち母体と児の管理可能範囲に依存しているが,その範囲は同じ規模・レベルの施設であっても人的要因や地域における周産期医療体制によって差があるのは当然である.また,同一施設でも,時間外や休日といった時間的背景による制約を受けることも多い.したがって,「搬送すべき基準」を画一的に解釈することは適切ではない.幅広い危機管理意識をもって症例ごとに対応するという意識が求められる.

4)羊水塞栓症および肺血栓塞栓症

著者: 金山尚裕 ,   平井久也

ページ範囲:P.27 - P.31

羊水塞栓症

 羊水塞栓症は,羊水が母体血中へ流入することによって引き起こされる「肺毛細管の閉塞を原因とする肺高血圧症と,それによる呼吸循環障害」を病態とする疾患である.本症の発症頻度は以前,約2万~8万分娩に対し1例程度と考えられていたが,最近ではニアミス例が多いこと,後述する分娩後のDIC・弛緩出血に羊水塞栓症が含まれる例があることより,実際の頻度はもっと高いことが指摘されている.事実,本邦で平成元年~16年までの間に193例が妊産婦死亡で病理解剖されたが,そのなかで羊水塞栓症が24.3%と第1位であった1).近年,羊水塞栓症は妊婦が死亡する最も頻度の高い疾患といえよう.

 本症は,羊水中の胎児成分(胎便,扁平上皮細胞,毳毛,胎脂,ムチンなど)と液性成分(胎便中のプロテアーゼ,組織トロンボプラスチンなど)が母体循環に流入することにより発症すると考えられている2).卵膜の断裂部位より羊水成分が卵膜外漏出し,子宮筋の裂傷部位や子宮内腔に露出した破綻血管から母体循環系へ入るとされている.流入した羊水成分は,胎児成分が肺をはじめとした母体血管の小血管に機械的閉塞をきたす場合と羊水の液性成分が,アレルギー反応を起こし肺血管の攣縮,血小板・白血球・補体の活性化をきたす3).前者によるものは意外と少なく,後者の機序が多いと考えられている.

2.妊産褥婦に合併した救急疾患

1)脳血管障害

著者: 辻本雄太 ,   横田裕行

ページ範囲:P.32 - P.37

脳血管障害に対する応急処置の理論的背景と実際

 脳血管障害は,脳への一次的な損傷をきたす.そして多くの場合,二次的な脳損傷をも合併する.初期治療の目的は,低酸素血症,高または低二酸化炭素血症,電解質異常,血糖値異常,体温異常などの二次的脳損傷の原因を可及的に取り除き,一次的な損傷を受けなかった神経組織とその機能を保護することである1).急性期の適切な対応が,患者および児の転帰と神経学的後遺症の程度に大きな影響を及ぼすことが考えられ,それゆえ救急搬送のタイミングと応急処置にかかる比重は大きい.

 脳外科専門医へ転院搬送する際は,二次的脳損傷を最少にするような処置が必要となる.脳外科非専門医が行うべき応急処置の目的は,「二次的脳損傷を最少にする」ことに尽きる.

2)急性心不全

著者: 神谷千津子 ,   池田智明 ,   野々木宏

ページ範囲:P.38 - P.42

はじめに

 海外からの報告によると,三次医療機関において肺浮腫を合併する妊婦は,500~1,000分娩に1例である.そのなかでも,心機能の低下による心原性心不全は約1/4程度であり,日常診療のなかで妊婦の急性心不全を診察することは,それほど多くないと思われる.しかし,診断治療が遅れると致死的にもなるため,すべての妊婦において,当初から病歴聴取をしっかりと行い,息切れ,浮腫,咳などの訴えがあった場合には,鑑別診断として心不全も念頭に置き,診療を行っていく必要がある.

3)呼吸不全

著者: 永岡賢一 ,   赤星俊樹 ,   橋本修

ページ範囲:P.43 - P.47

はじめに

 妊娠中には妊娠子宮の増大により横隔膜が挙上し,胸郭の形態が変化する.妊娠末期での横隔膜の静止位置は非妊時に比べ約4cm頭側に変位し,胸郭横径は約2cm増大する.しかし,呼吸による横隔膜の上下運動は制限されず振幅は増大するため,妊娠末期にはむしろ1回換気量が相対的に増加する.そのため,呼吸機能では機能的残気量が減少する(図1)1).くわえて,妊娠中のプロゲステロンの増加により,呼吸中枢における二酸化炭素感受性が増大して分時換気量が増加する.これら生理的代償変化が,妊娠により増加した酸素消費量を補う.実際には,動脈血二酸化炭素分圧は低下して軽度呼吸性アルカローシスを示すが,これは腎臓による代償でpH値は一定に保持される.

 このような妊娠に伴う生理的変化は,呼吸予備能力の低下を反映しているため,妊娠中に合併症が生じると呼吸不全に陥りやすく注意を要する.母体動脈血酸素分圧が50mmHg以下では,胎児に深刻な影響が生じるためである2, 3)

 呼吸困難や胸痛は急性呼吸不全の主症状であり,これらの症候をきたす疾患は重症度の高い疾患群が考えられ,適切かつ迅速な診断ならび治療が必要である.特に,緊急治療となる疾患では,肺血栓塞栓症,羊水塞栓症,急性呼吸窮迫症候群,肺水腫,気管支喘息,重症肺炎,緊張性気胸,急性心筋梗塞,急性大動脈解離,急性心筋炎,急性心内膜炎などが挙げられる.初期対応と鑑別診断を同時に行いながら,必要であれば速やかに救急搬送を行う.上記のうちの呼吸器関連疾患について詳述する.

3.診断未確定の重篤な症状

診断未確定の重篤な症状

著者: 杉本充弘

ページ範囲:P.49 - P.56

はじめに

 母体救命搬送システムが整備されても,それだけで母子の予後が改善されるわけではない.システムを運用する「人の力」,なかでも産婦人科医の判断力や臨床能力が,母子の予後に大きな影響を与えることは明らかである.一方,一次・二次医療施設の医師が重篤な症状を呈する妊産婦を診療する機会は,それほど多くはない.しかし,稀な疾患や専門外の疾患に救急合併症として遭遇した場合でも,高次医療施設へ的確なタイミングで搬送することが求められる.産婦人科専門医として,重症妊産婦への適切な対応ができるように,日ごろから関連疾患の知識を整理しておくことが,母子の予後改善につながる.

【地域における母体救命搬送体制と問題点】

1.東京都

著者: 岡井崇

ページ範囲:P.57 - P.62

はじめに

 日本の周産期救急医療体制は,これまで産科と新生児を扱う医療機関相互の連携を中心に整備されてきた.各都道府県に周産期母子医療センターが設置され,一次・二次施設と同センターおよびセンター間の連携で救急患者の搬送システムが構築されている.このネットワークの活用で,東京都でも一般産科救急患者およびハイリスク新生児の予後は著しく向上したが,この周産期医療システムのみでは偶発合併症による緊急事態などへの万全な対応ができない事実を,平成20年10月に起きた妊婦の救急搬送困難事例が世に晒したといえる.

 これを受け,東京都では母体救命搬送のための新しいシステムを構築し,それをこれまでの周産期ネットワークシステムに加える形で,本年4月より運用を開始している.このシステムは,都の周産期医療協議会で立案し慎重な検討を重ねたうえで,消防庁ならびに多くの関連医療機関と関連各科の協力を得て樹立されたものである.本稿では,本システムを導入するに至った経緯,システムの概要ならびにこれまでの実績について述べることとする.

2.愛知県/名古屋市

著者: 石川薫

ページ範囲:P.63 - P.70

平成18年奈良県大淀町立病院・平成20年東京都立墨東病院の報道で大きく取り上げられた2つの事案について

 平成18年8月奈良県大淀町立病院で産婦が分娩経過中に脳内出血を起こし死亡に至った事案は,その過程で19の病院に当たって搬送収容先が見つからず,それをマスコミが「たらい回し」としてセンセーショナルに報道した.奈良県では平成8年に当時の厚生省より発出された「周産期医療対策事業」の通達1)が10年間放置され,総合周産期母子医療センターも周産期医療システムもなかったことに主因があり,奈良県行政の怠慢が責を負うべき問題と考える.脳内出血を起こした妊婦の搬送収容先が8病院当たって決まらず死亡に至った,平成20年10月東京都立墨東病院の事案も,NHKが大きく報道した.指定された総合周産期母子医療センターを9施設有する首都東京で生じた事案であり,舛添厚労相が急遽「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」を立ち上げた.そのなかで,都立墨東病院の産科医療体制が2名当直を維持できぬまでの苦境に陥っていたこと2)やNICUの恒常的な満床状態,および既存の周産期医療情報システムが十分に機能していなかったことなどが明らかになっている.2つの事案が刻んだ傷痕は深く,平成8年に始った本邦の「周産期医療対策事業」の見直しも視野に入れた議論が進行している.本稿では,2つの事案の共通項であった妊産婦死亡につながりかねない母体救命搬送体制について,愛知県/名古屋市の現状と問題点について紹介する.

3.青森県

著者: 佐藤秀平

ページ範囲:P.71 - P.75

はじめに

 青森県では,母体胎児搬送のうち特に母体救命にかかわる搬送については,通常の搬送の取り決め以外に救命疾患ごとに施設の対応能力と専門医の有無によって,搬送先の選別を行っている.

 厚生労働省(以下,厚労省)によって定められた総合周産期母子医療センターの基準には,母体救命のために連携しなければならない関連科の取り決めもなく,また,地域周産期医療センターにおいても,すべての診療科の医師がそろっていない規模であったり,あるいは妊娠中の合併症については取り扱っていないこともある.また,当該疾患にて,母体救命のために妊娠のターミネーションが必要な場合,早産で娩出される児については,その施設での対応が不可能な場合も生ずることがある.さらに,播種性血管内凝固(DIC)など全身麻酔を要する疾患があった場合でも,センターで麻酔科の対応が困難な施設も少なくない.

 本稿では,母体救命に関しての当県での仕組みと,各救命疾患ごとの対応とその現状それらの問題点と今後の展望を解説する.

4.千葉県周産期ネットワーク事業の現状

著者: 鈴木真 ,   秋本菜津子 ,   羽成恭子

ページ範囲:P.77 - P.81

はじめに

 日本の医療は高度成長のなか過疎地域の小さな町にいっても小さいながら入院施設のある病院があり,すべての国民が自分の生活圏のなかである程度の医療が受けられるようになった.また,人口過密地域においては日本の医療の特徴である病床数が小さい病院が多数あり,生活圏や病院の特徴から患者がどこに行くかを自由に選択することが可能であった.しかし,患者の高齢化,医療の高度化,社会的問題などさまざまな要因により医療提供が困難になっている.

 東京と東京に隣接した首都圏の人口過密地域では,医療提供の総量としてはほかの地域に比べると充足しているが,1つ1つの医療施設の規模が小さいため常にほぼ満床状態であり,近隣の施設で重症例が発生しても受け入れることができないことが生じやすい状態にある.このような場合には他医療圏もしくは他自治体の病院への受け入れ要請を余儀なくされ,受け入れ可能な病院を探すことに時間がかかるため,社会からは「たらいまわし」と揶揄されている.しかし,どの医療施設も過重労働のもとに,さまざまな工夫をしながら受け入れ可能な状態を維持しようと努力をしている.また,周辺部の過疎地域においては分娩取り扱いを継続している施設がその地域の周産期医療の最後の砦としてどのような状況においても地域の医療を守ろうという地域完結型医療である広域医療圏統合ネットワーク(integrated health-care network : IHN)を構築せざるをえない状況になっており,ここでも医療従事者の過重労働が問題となっている.われわれ周産期にかかわる産婦人科医師は女性とくに,妊婦と生まれてくる赤ちゃんに健康であってほしいと願い,よりよい医療を提供するために努力し続けている.千葉県では千葉県周産期医療ネットワーク事業が2008年4月より開始されており,その取り組みと現状を報告したい.

5.長崎県

著者: 中山大介 ,   三浦清徳 ,   増﨑英明

ページ範囲:P.82 - P.87

はじめに

 長崎県は九州西端部の県で,東に佐賀県と接する以外,周囲は海である(図1).対馬,壱岐島,五島などをはじめとして島が多く,その数は971で全国一である.人口は約143万人で,平成20年は全国の約1.1%に当たる12,409の出生があった.その10%以上(1,263)が離島での出生である.

 分娩施設数は62,産婦人科医の数は177名(平成21年)でいずれも減少傾向にある.県内の医学部は長崎大学のみで,公立病院の多くは長崎大学からの医師派遣に依存している.比較的小規模の医療圏であるため県内のほとんどの産婦人科医は互いに面識がある.長崎県における母体救命搬送体制と問題点,およびわれわれの取り組みについて述べる.

連載 産婦人科PET 何を考えるか?・9

下腹部腫瘤の精査

著者: 岡村光英

ページ範囲:P.5 - P.8

 57歳女性.2か月前,健診にて尿蛋白陽性を指摘され,近医泌尿器科を受診.腹部超音波検査にて巨大な下腹部腫瘤を認めたためMRIが施行され(図1),精査加療目的で当院産婦人科を紹介された.

 腫瘍マーカーはCA125:192U/mlと高値を示した.その他はCEA:0.5ng/ml,CA19─9:12U/ml,SCC抗原:0.8ng/ml,AFP:6.3ng/mlと正常範囲内であった.下腹部腫瘤の精査と全身検索のため,FDG PET/CTが施行された(図2,図3,図4右列).

病院めぐり

社会保険徳山中央病院

著者: 沼文隆

ページ範囲:P.89 - P.89

 徳山中央病院は,山口県の東南部に位置する周南地域二次医療圏域の急性期・基幹病院です.徳山中央病院が位置する周南市は,平成15年に徳山市を含む2市2町が合併して誕生した人口約16万人の温暖な気候と山海の幸に恵まれた市といえます.瀬戸内海国立公園地域に指定され,また沿線に石油コンビナートが連立した「元気発信都市」「安心安全」の市です.

 病院の前身は徳山海軍燃料廠の海軍共済組合病院ですが,昭和21年に健康保険診療の推進をはかるために厚生省が買収して社会保険徳山中央病院として誕生しました.財団法人全国社会保険協会連合会の病院53病院のうちの1つです.昭和51年に現地に移転し,現在では一般病床494床,22診療科,医師数90名の総合病院です.

Estrogen Series・89

エストロゲンと乳癌(2) 更年期後におけるエストロゲンを含むホルモン療法と乳癌発生リスク

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.90 - P.91

 ホルモン療法(HT)と乳癌発生との関連に関しては,多くの観察的研究がある.その関連の程度やHTの持続期間に関しては多くの報告がなされている.1990年代に行われたWHI調査はエストロゲンを含む製剤とプラセボとをランダムに割り当てた臨床試験である.プラセボに比較して,抱合型エストロゲン単剤の使用者では,そのHR(hazard ratio)は0.80(95%CI:0.62~1.04)である.抱合型エストロゲンとMPA(medroxyprogesterone acetate)の組み合わせを使用した場合には,HR=1.26(95%CI:1.0~1.59)である.

 テストステロンを含むHTは,更年期後の血管運動性症状があり,エストロゲン(+・-プロゲストゲン)のみでは症状が改善しないときに使用される.テストステロンはリビドーの改善,疲労の改善,一般的な患者のwell-beingを改善することが知られている.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・50

吸引分娩後の腟壁仮性動脈瘤破綻により出血性ショックを呈した1例

著者: 永山千晶 ,   新田迅 ,   上里忠和 ,   平川誠 ,   正本仁 ,   佐久本薫 ,   青木陽一

ページ範囲:P.93 - P.95

症 例

■患者 29歳,初回経妊・初回経産.

■主訴 吸引分娩後,産褥1日目からの腟壁から外陰部にかけての動作時違和感.

■既往歴 特記事項なし.

■家族歴 特記事項なし.

Current Clinic

母体救急搬送の「社会的側面」を考える―当院へ直接搬送された妊産婦の実像

著者: 水主川純 ,   定月みゆき ,   五味淵秀人 ,   箕浦茂樹 ,   松下竹次 ,   木村昭夫

ページ範囲:P.98 - P.102

 周産期救急医療体制の現状が社会的問題になっている.直接搬送では患者申告や救急隊の情報だけで受け入れる場合もある.当院へ直接搬送された妊婦の背景を検討すると,「母体救急医療」「未受診妊婦」「妊娠中の不安」「自宅とかかりつけ医療機関が遠距離である妊婦の急速な分娩進行」「旅行中の異常」に大別された.母体救急医療が必要な症例の受け入れには産科と他科の連携が重要である.一方で,妊婦への保健指導や未受診妊婦に対する行政支援などによって,直接搬送のための救急車要請件数を減少できる可能性もある.安心できる周産期救急医療体制構築のために,社会全体で取り組むことが望まれる.

症例

妊娠中にStevens─Johnson症候群を発症した1早産例

著者: 高地圭子 ,   八十島邦昭 ,   新居隆 ,   水野美幸 ,   山下陽子 ,   丸山裕美子 ,   中浜亨

ページ範囲:P.104 - P.107

 Stevens─Johnson症候群とは,発熱,関節痛などの全身症状とともに,多形滲出性紅斑様皮疹が急激に全身に生じ,口腔,鼻,眼,外陰などの粘膜にも広範なびらんが発生する重篤な疾患である.

 今回われわれは,妊娠25週に葉酸のサプリメントが原因物質と思われるStevens─Johnson症候群を発症し,ステロイド治療により急性期を克服したのち,妊娠32週で緊急帝王切開による分娩となった1例を経験したので,その治療,妊娠分娩経過について報告する.

陰核に発生した顆粒細胞腫の1例

著者: 朝野晃 ,   早坂篤 ,   櫻田潤子 ,   島崇 ,   和田裕一

ページ範囲:P.108 - P.111

 症例は34歳.主訴は陰核部の腫大と掻痒感であり,1.5cm大に腫大した陰核を認めた.生検で顆粒細胞腫の診断であったため,陰核を含む周囲の皮膚・皮下組織を含めて摘出した.陰核の真皮から皮下組織にかけて2.5×2.0×2.0cmの被膜を有さない白色充実性結節を認め,組織学的に顆粒細胞腫の組織像であった.免疫組織染色では,S-100,NSEが陽性であった.術後6か月を経過するが再発・転移は認めていない.陰核に非常に硬い腫瘍を認めた場合には顆粒細胞腫の可能性もあり,鑑別診断には積極的に生検をすることが必要であると思われた.

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編集後記

著者: 岡井崇

ページ範囲:P.120 - P.120

 昨年の総選挙で医師の60%が民主党に投票したとの情報が伝わっています.これは自民党を支持してきた日本医師会の求心力の低下を如実に表すとともに,民主党のマニフェストに記された“コンクリートから人間へ”のフレーズに医師が心惹かれた数字でもあると思っています.対GDP比国民医療費がOECD加盟国の下から三番目という不名誉からの脱出,すなわち人の命を軽視する国策の転換に期待が寄せられたのです.

 ところが,いざ予算編成の段になると,財政赤字の巨大さに立ち竦み,来年度税収の大幅な落ち込み予想に足を掴まれて,結局は歩を前に進めることができずにいるようです.年越しの前に行われた“事業仕分け”では,医療危機打開に向け最優先の施策と位置付けられたはずの救急・周産期医療関連の補助金が半減されました.民主党自身がマニフェスト実現の難しさに頭を痛めていることでしょう.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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