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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科64巻10号

2010年10月発行

雑誌目次

今月の臨床 ハイリスク妊娠─ここがチェックポイント

ハイリスク妊娠―最近の動向

著者: 中林正雄

ページ範囲:P.1367 - P.1371

はじめに

 ハイリスク妊娠とは,妊娠・分娩時に母体または胎児・新生児に,何らかの異常が発生する危険性の高い妊娠のことをいう.近年,ハイリスク妊娠が増加しているが,その理由として,(1)晩婚・晩産化による高齢妊娠の増加,(2)これまで妊娠・出産が困難とされたさまざまな疾患を有する女性が,周産期医療の進歩により妊娠・出産が可能となったこと,(3)不妊症患者に対する生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)の進歩に伴い,多胎妊娠の増加,早産・低出生体重児の増加などの新たな要因が関係している.

 一方,最近の社会問題である全国的な産科医の減少,分娩施設の減少,医療訴訟の増加などのため周産期医療システムの再構築と新たな周産期医療提供体制の確立が求められている.

 周産期母子医療センターなどの基幹病院は,医療資源の集約化・重点化を行い,ハイリスク分娩を集中的に管理し,常時母体搬送・新生児搬送の受入可能な状態に維持することが必要である.一次・二次分娩施設は低リスク・中等度リスク分娩を主体的に管理し,必要時には早目に高次医療センターへ搬送することが必要である.このような医療施設の機能別役割分担による周産期医療システムの効率的な運用のためには,妊娠・分娩にかかわる産科医が妊娠のリスク評価とハイリスク妊娠の管理指針について十分に理解しておくことが大切である.

妊娠リスクスコア

著者: 久保隆彦

ページ範囲:P.1372 - P.1377

わが国の周産期医療の背景

 妊産婦死亡からの分析(長屋班報告書を利用した)では,2年間の全妊産婦死亡のうち,救命可能であったと考えられた妊婦は臨床症状が発生し最初にかかわった施設に3人以上常勤産婦人科医師がいた施設に比較し,1人開業医であった場合の分娩数当たりの発生数は3.7倍にもなった.確かに,わが国の分娩の約99%は病院あるいは診療所の施設分娩であり,医療行為のできない助産所あるいは自宅分娩は1%以下とわずかであったが,産科医の減少・分娩施設の閉鎖に伴い都会では自宅・助産所分娩が増加しつつある.さらに,わが国の産科医療体制の特徴ではあるが施設分娩の約半数は1人開業医が大半を占める診療所である.したがって,わが国の分娩の約半数が1人開業医で行われていることと医療の存在しない自宅・助産所での分娩は今後の母子の安全が憂慮される.

 われわれ産科医にとっては当然ではあるが,分娩には常に死に至る急変が付き物である.わが国の妊産婦死亡は10万出生当たり6~7人と世界でも有数に低値であるが,それでも年間分娩数から算出すると,交通事故による死亡率とほぼ等しく,約250人に1人の妊婦は死に至る危険性があることが確認されている.さらに医療介入が十分でないアジア・アフリカの妊産婦死亡率はわが国の百倍から千倍(10万出生当たり500~1,500の母体死亡)であり,全世界の妊産婦死亡率が250人に1人であることから,この数字が妊娠分娩の本来持つ母体のリスク率といえる.もちろん,わが国では母体死亡に至ることはきわめて少ないものの,母親の罹病,児の死亡,後遺症の発生が母体のリスクに比例することも重要な問題である.

妊娠のリスク診断と管理の実際

1.妊娠初期のチェックポイント

著者: 田中幹二

ページ範囲:P.1379 - P.1385

はじめに

 最近の社会情勢の変化に伴い妊婦の高齢化が進むなど,ハイリスク妊娠は増加している.

 妊娠初期の段階で妊娠のリスク評価を的確に行うことは,その後の妊娠分娩管理にとって必須である.リスク評価法としては,中林正雄先生が班長としてまとめられた厚生労働科学特別研究「妊娠リスクスコア」が発表されており,それについては前稿で詳述されている.本稿では妊娠初期にリスクを適切に抽出するために,とくに問診,初期検査における留意点について概説する.

2.妊娠中・後期のチェックポイント 1)胎児の発育・形態異常のチェックと管理

著者: 後藤清美 ,   佐藤昌司

ページ範囲:P.1387 - P.1391

はじめに

 妊娠中・末期における画像検査の目的は,分娩様式の決定に当たって胎児発育,胎児形態異常の存否および児の健常性を評価することにある.

 日常診療では非侵襲的に反復施行できる超音波断層法を用いて胎児計測および胎児形態異常スクリーニングが行われる.ハイリスク妊娠と判断された場合には,さらに高次医療機関で,超音波ドプラ法やMRIなどの画像検査法を組み合わせることによって,現在では高い精度で健常性評価や形態異常診断がなされるに至っている.

 本稿では,妊娠中・末期における胎児発育の評価,胎児形態異常の診断方法および管理について概説する.

2.妊娠中・後期のチェックポイント 2)胎盤・臍帯・羊水異常のチェックと管理

著者: 三村貴志 ,   長谷川潤一 ,   松岡隆 ,   岡井崇

ページ範囲:P.1392 - P.1395

はじめに

 臍帯や胎盤の異常は比較的多く遭遇し,周産期予後に影響を及ぼす重要な産科異常である.近年,超音波検査の発達により,臍帯・胎盤の描写性能が向上してきており,それを駆使して妊娠中に,それらの異常をできるだけ詳しく評価することが重要となってきた.これらの異常を予測し準備することで緊急帝王切開を回避することができるだけでなく,症例の周産期予後の改善も期待されている.本稿では,比較的頻度が多く,妊娠・分娩管理に影響する胎盤異常として前置・低置胎盤を,臍帯異常として,臍帯付着部異常(卵膜・辺縁付着,前置血管),臍帯過捻転,臍帯頸部巻絡を取り上げた.加えて,また羊水過少,過多の診断・管理についても解説する.

2.妊娠中・後期のチェックポイント 3)静脈血栓症のリスク評価と管理

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.1397 - P.1403

はじめに

 静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)はこれまでわが国では比較的稀であるとされていたが,生活習慣の欧米化などに伴い近年急速に増加している1).血栓症で臨床的に問題となるのは,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)とそれに起因する肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)である.PTEはDVTの一部に発症する疾患であるが,一度発症するとその症状は重篤であり致命的となるので,急速な対処が必要となる.妊娠中は,(1)血液凝固能亢進,線溶能低下,血小板活性化,プロテインS活性低下,(2)女性ホルモンの静脈平滑筋弛緩作用,(3)増大した妊娠子宮による腸骨静脈・下大静脈の圧迫,(4)帝王切開などの手術操作による総腸骨静脈領域の血管内皮障害および術後の臥床による血液うっ滞,などの理由でVTEが生じやすくなっている.日本産婦人科・新生児血液学会が行った全国調査2, 3)でも,妊娠初期と後半期および産褥期に3相性のピークを示しているが,21世紀になってからは妊娠中発症が増加している.特に,妊娠初期の発症が大きい理由は,エストロゲンによる血液凝固因子の増加,重症妊娠悪阻による脱水と安静臥床,さらには先天性凝固阻止因子異常の顕生化などが考えられる.

 本稿では,産科領域におけるVTEの予防と対策について解説する.

2.妊娠中・後期のチェックポイント 4)妊娠高血圧症のリスク評価と管理

著者: 江口勝人

ページ範囲:P.1405 - P.1411

はじめに

 個体発生は系統発生を繰り返す.生殖は地球上に存在するあらゆる動物(生物)が子孫を残す手段として,祖先から代々引き継がれた営みである.一般に,寿命の短い生物ほど子孫を残すことに全エネルギーを費やすことが知られており,例えば,鮭がたった一度の産卵のためにふるさとの川を遡上し,産卵が終えると命が枯渇するのがそれである.

 ヒトの場合も例外ではなく,歴史的にみても妊娠,分娩には常にリスクを伴い,妊婦は命懸けで分娩に臨んだという.しかも,ほかの動物と比較して,根本的にヒトの分娩はリスクを伴い,難産である.このことは以下に述べるごとく,ヒトの進化と形態学・解剖学的機能と密接に関連している.すなわち,

(1)ヒトが言語を話し,直立して手を使うようになって大脳化(encephalization)が起こったこと.ヒトの新生児の脳重量は約400 gとほかの動物と比べて大きく,CPD(児頭骨盤不均衡)のリスクがあること.

(2)直立二足歩行に伴い,内臓(腸管)を支えるため両側の骨盤腸骨翼が外側に広がって入口部が扁平化した結果,複雑な分娩機転(骨盤内で児頭が回旋する)が発生した.その結果,ヒトの分娩では回旋異常を起こすことがあること.

(3)ヒトの胎盤は解剖学的に絨毛が脱落膜のなかに進入した血絨毛型(hemochorial type)であるため,分娩時大出血を起こしやすく,ときとしてカタストロフィ的状況をきたすこと.

 すなわち,ヒトの分娩は基本的に常にリスクを伴う現象であり,このことは将来も変わることはない.生物学的原点に戻って,今一度ヒトの分娩を,国民目線のみならず,医学的にも見直すことが重要である1, 2)

 妊娠,分娩に伴うリスクには,予知することが可能なものと,突発的かつ偶発的に起こり予知不可能なものがある.前者は妊娠中のスクリーニングによる検査所見や,妊婦の環境因子などからリスク因子を抽出し予知するもので,リスクの程度を評価して,異常(adverse outcomes)を予防することも,ある程度は可能である.一方,後者はほとんど予防が不可能なものである.

2.妊娠中・後期のチェックポイント 5)多胎妊娠のリスク評価と管理

著者: 中田雅彦

ページ範囲:P.1413 - P.1417

はじめに

 わが国における多胎妊娠の年間分娩件数は人口動態調査によると1999年には11,962分娩であり,以後若干の変動は認めるものの2008年には11,684分娩となっている.中でも双胎がその大半を占め,11,606分娩から11,496分娩とその数はほとんど変化を認めない.これは年間分娩件数の約1.1%で,総分娩数の増加に比較して,不妊治療の影響により若干割合は増加しているといえる.一方,品胎は341から181分娩と減少傾向を求め,生殖補助医療における胚移植数の制限などの対策の効果が現れていると思われる.

 多胎妊娠は,単胎妊娠と比較して胎児数が複数であるという点でさまざまな妊娠に一般的なリスク因子を有していると同時に,一絨毛膜性双胎などに代表される膜性によるリスク因子を有するため,その2点に大別してリスク評価を行うことが重要である.まず絨毛膜数より,一絨毛膜性(monochorionic : MC)双胎・二絨毛膜性(dichorionic : DC)双胎を鑑別し,MC双胎であれば,1絨毛膜1羊膜性双胎〈monochorionic monoamniotic(MM)双胎〉,1絨毛膜2羊膜性双胎〈monochorionic diamniotic(MD)双胎〉の診断を行う.MC双胎の場合には,双胎妊娠における一般的リスクとともに特有の合併症を併発する可能性を考慮して評価することが大切である.

2.妊娠中・後期のチェックポイント 6)既往子宮手術のリスク評価と管理

著者: 板倉敦夫

ページ範囲:P.1419 - P.1423

はじめに

 既往子宮手術妊娠・分娩に関する最も重要視すべきリスクは,子宮破裂である.しかし,子宮破裂の頻度は少なく,実際の臨床現場では腹腔内癒着や分娩時・手術中の出血量なども問題となる.既往子宮手術妊娠の管理方針は,近年の産科医療を取り巻く環境の変化によって,大きく変わっている.妊娠・分娩時のリスク評価を行い,適切な管理が求められ,さらには妊産婦にもエビデンスに基づいた説明が必要となる.本稿では,既往帝王切開,既往子宮筋腫核出での妊娠・分娩時のリスクと管理について論文を引用しながら解説する.

2.妊娠中・後期のチェックポイント 7)偶発徴候のリスク評価と対応

著者: 井出哲弥 ,   佐々木禎仁 ,   池田智明

ページ範囲:P.1425 - P.1429

はじめに

 偶発徴候のリスクの評価,対応の際には妊娠中であることを考慮する必要があり,特に留意すべき点を以下に記載する.

 1. リスク評価

 解剖 : 子宮の増大とともに腹部臓器の解剖的位置関係に変化が生じる.

 血液検査 : 非妊娠時と妊娠時では正常範囲が異なる場合がある.

 画像検査 : 原則的には非妊時と同様の検査を行うと念頭におく必要がある.非侵襲的で簡便なものから行っていき,超音波断層法が可能なら主体となる.単純X線,MRI,CTなどを必要とする症例もあり,また妊娠中の造影X線検査,CTなどの安全性についてはほかに代替の検査法がなく手術,処置の決定を左右する場合に十分な説明のうえ施行する.

 2. 対応

 薬剤 : 胎児への影響を考慮する必要がある.

 外科手術 : 妊娠中の偶発合併症に関して外科手術が必要となった後方視的な報告1)によるとa妊娠中の麻酔,手術により死産や児奇形の危険は増加しない.b極低出生体重児出生の危険は増加するとされており,これらのことをふまえて他科と相談し治療方針を決定していく必要がある.

 その他 : 治療方針に関しては,母体生命優先が原則である.

 腹痛,頭痛,発熱を呈する合併症につき以下に概説する.

ハイリスク妊娠と病診連携

著者: 中井章人

ページ範囲:P.1430 - P.1435

はじめに

 医師不足に端を発し,施設の減少,母体搬送受入困難など周産期医療を取り巻く諸問題は,国民生活に不安を招き,少子化対策においても大きな負の要素になっている.こうした環境下で,現存の医療資源を生かし医療供給体制を維持するため,病診連携を強化することは必須である.

 当院では4年前より新しい妊婦健診体制の1つとして注目されているセミオープンシステムを取り入れ,病診連携の強化を図るとともに,ハイリスク妊産婦のトリアージを行ってきた.本稿では当院のシステムを紹介するとともに,ハイリスク妊娠と病診連携のあり方について解説する.

ハイリスク妊娠と医療訴訟

著者: 井上清成

ページ範囲:P.1436 - P.1439

産科医療の侵蝕

 10数年前より,医療過誤訴訟の嵐が産科医療を蝕んできた.

 原因は,司法の側の事情が大きい.刑事司法でも,民事司法でも,医療事故の責任追及をほかの分野の事故と同様に行おうとする政策が採られた.特に産科医療は民事司法の対象になりやすかった事情がある.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・58

超緊急帝王切開で健児を得た臍帯脱出の2症例

著者: 上田克憲 ,   吉本真奈美 ,   占部智 ,   向井百合香

ページ範囲:P.1442 - P.1445

症例 (1)

■患者 29歳,初産婦.

■主訴 破水.

■既往歴 特記事項なし.

■現病歴

 妊娠33週4日の深夜に自宅で破水を自覚したため,分娩予定であった近医を受診した.子宮口は1 cm開大し,児胎位は足位であった.子宮収縮はほとんどないが明らかな破水であったためそのまま入院し,塩酸リトドリンと抗菌薬の点滴を開始された.翌日になり,骨盤位,前期破水として当科に母体搬送された.

病院めぐり

兵庫県立西宮病院

著者: 小泉花織

ページ範囲:P.1447 - P.1447

 兵庫県立西宮病院は神戸と大阪の中間地点にあり,かの有名な甲子園のある西宮市に位置している病院です.国道2号線沿いにあり,阪神西宮駅から徒歩3分,車でも電車でもアクセスしやすい交通の便の良いところにあり,西宮に限らず市外からも多くの患者さんがいらっしゃいます.

 当院は昭和11年に開設され,地域の基幹病院として発展してきました.現在は400床,78人の医師,12人の研修医が働いております.産婦人科に関しては産科病床19床,婦人科病床38床の計47床,産婦人科医9人(常勤医5人,専攻医4人)という診療体制で臨んでおります.

サクラの国のインドネシア・11

侵襲ともののけ

著者: 東梅久子

ページ範囲:P.1448 - P.1449

侵襲とストレス

 7月11日から13日まで第46回日本周産期・新生児医学会が神戸国際会議場で開催された.

 初日に「ひとりの苦しめられた子供の一滴の涙」と題したノーベル文学賞の受賞者である大江健三郎氏の特別講演を聞く機会を得た.

原著

子宮頸部病変におけるHPV genotypingとintegrationの頻度

著者: 中川達史 ,   平野開士 ,   小林正幸 ,   石田克成 ,   石田世紀子 ,   長﨑真琴

ページ範囲:P.1451 - P.1456

 子宮頸癌の95%以上にHPV(human papillomavirus)感染が確認され,その発癌過程においてとくにハイリスク型HPVの持続感染が関与していることがわかってきた.そこで今回,子宮頸部細胞診でclass IIIa以上の既往をもつ86症例に対して液状細胞診を行い,HPV genotypingとHPVゲノムのintegrationの有無を検出した.さらに,HPV陽性例の治療後におけるHPV陰性化について検討した.PCR-reserved hybridizationによってハイリスク型を含む計21種類のgenotypeを解析し,in situ hybridization(ISH)によってHPV DNAの核内での存在様式を染色し,integration patternおよびepisomal patternの割合を解析した.

 子宮頸部病変におけるHPV陽性率は97.9%で,遺伝子型別では52型が最も多く,次いで16型,18型であった.ASC,LSIL症例においても一部の細胞ではintegrationが観察され,細胞異型が強くなるにつれintegration patternの頻度が増加した.治療後のHPV陰性化率は約90%であった.

 液状細胞診を用いてHPVのgenotypeを判定し,integrationの頻度を評価することは,子宮頸部前駆病変のハイリスク群を抽出でき,治療方針を立てるうえで有用と考えられた.

症例

妊娠28週で羊水過多症を示したが自然寛解を認めた胎盤血管腫の1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   森下美幸 ,   鈴木美紀 ,   田原泰夫 ,   水内英充 ,   水内将人 ,   北島義盛 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.1457 - P.1461

 今回,羊水過多症の自然寛解を認めた胎盤血管腫の1例を経験した.

 症例は29歳,4経妊・2経産で,27週4日で軽度の心窩部痛を訴え,AFI 26.3の羊水過多と,胎盤に5.1×4.0 cmの胎盤血管腫を認め,血流は辺縁のみに存在した.28週4日には季肋部痛,呼吸苦を訴え,羊水量はAFI 46.5と急増し,入院のうえ羊水穿刺を行った.胎盤血管腫は不変~わずかな縮小傾向を示し,33週6日には4.6×3.1 cmと縮小していた.羊水量は,34週6日にAFI 24.9と自然減少傾向を示し,36週4日にはAFI 9.1と明らかな減少を認めた.36週6日に自然頭位分娩となり,児は3,125 g,母児ともに健常で産褥5日目に退院した.

 胎盤の肉眼所見では,臍帯より離れた辺縁に直径約4 cmの乳白色の腫瘍が認められ,臍帯より一部の血管が連続していた.病理組織所見では,中小の血管腔が多数認められ胎盤血管腫(血管腫型)と診断された.また,胎盤血管腫のほぼ100%が梗塞性変化を伴っていた.

臨床経験

Single incision laparoscopic surgery(SILS)の婦人科疾患への応用

著者: 林博章 ,   中田俊之 ,   市川英俊

ページ範囲:P.1462 - P.1465

 現在行われている婦人科腹腔鏡下手術のアプローチ法は,腹壁に3~4ポートを設置して実施されている.臍部1か所からの単孔式腹腔鏡下手術(Single incision laparoscopic surgery : SILS)が最近注目され消化器外科領域では試みられつつある.そこで,われわれが経験した婦人科疾患に対する7症例のSILSとそのアプローチ法の工夫について報告する.

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投稿規定

ページ範囲:P.1468 - P.1468

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.1469 - P.1469

次号予告

ページ範囲:P.1473 - P.1473

編集後記

著者: 岡井崇

ページ範囲:P.1474 - P.1474

〈ホメオパシー〉

 「濱の真砂は尽きるとも,世に医療事故の種は尽きまじ」と,石川五右衛門が言いそうだ.事故というよりは事件として扱うべきものだろうが,過日賑々しく報道されたこの出来事はいくつかの教訓を社会に残したと私は思う.

 事件発覚後,日本学術会議が逸早く声明を出し,「ホメオパシーは何の効力もない」と公式に発表し,その声明への支持を日本医学会と日本医師会が,こちらも迅速に表明した.日本周産期・新生児学会も,母乳哺育児へのビタミンK投与の重要性を改めて関係者に訴えた.このような学術団体の行動はかつてあまりみられなかったと記憶する.医学系の学会が内向的に学問を追求するだけでなく,社会に対する責任を果たそうとする態度は好ましい方向と考えられ,公益法人格の取得を目指している日産婦学会にも,今後は,専門領域の学術または医療にかかわる情報を進んで社会へ発信することが求められる.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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