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文献概要
今月の臨床 ハイリスク妊娠─ここがチェックポイント 妊娠のリスク診断と管理の実際
2.妊娠中・後期のチェックポイント 3)静脈血栓症のリスク評価と管理
著者: 小林隆夫1
所属機関: 1県西部浜松医療センター
ページ範囲:P.1397 - P.1403
文献購入ページに移動はじめに
静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)はこれまでわが国では比較的稀であるとされていたが,生活習慣の欧米化などに伴い近年急速に増加している1).血栓症で臨床的に問題となるのは,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)とそれに起因する肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)である.PTEはDVTの一部に発症する疾患であるが,一度発症するとその症状は重篤であり致命的となるので,急速な対処が必要となる.妊娠中は,(1)血液凝固能亢進,線溶能低下,血小板活性化,プロテインS活性低下,(2)女性ホルモンの静脈平滑筋弛緩作用,(3)増大した妊娠子宮による腸骨静脈・下大静脈の圧迫,(4)帝王切開などの手術操作による総腸骨静脈領域の血管内皮障害および術後の臥床による血液うっ滞,などの理由でVTEが生じやすくなっている.日本産婦人科・新生児血液学会が行った全国調査2, 3)でも,妊娠初期と後半期および産褥期に3相性のピークを示しているが,21世紀になってからは妊娠中発症が増加している.特に,妊娠初期の発症が大きい理由は,エストロゲンによる血液凝固因子の増加,重症妊娠悪阻による脱水と安静臥床,さらには先天性凝固阻止因子異常の顕生化などが考えられる.
本稿では,産科領域におけるVTEの予防と対策について解説する.
静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)はこれまでわが国では比較的稀であるとされていたが,生活習慣の欧米化などに伴い近年急速に増加している1).血栓症で臨床的に問題となるのは,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)とそれに起因する肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)である.PTEはDVTの一部に発症する疾患であるが,一度発症するとその症状は重篤であり致命的となるので,急速な対処が必要となる.妊娠中は,(1)血液凝固能亢進,線溶能低下,血小板活性化,プロテインS活性低下,(2)女性ホルモンの静脈平滑筋弛緩作用,(3)増大した妊娠子宮による腸骨静脈・下大静脈の圧迫,(4)帝王切開などの手術操作による総腸骨静脈領域の血管内皮障害および術後の臥床による血液うっ滞,などの理由でVTEが生じやすくなっている.日本産婦人科・新生児血液学会が行った全国調査2, 3)でも,妊娠初期と後半期および産褥期に3相性のピークを示しているが,21世紀になってからは妊娠中発症が増加している.特に,妊娠初期の発症が大きい理由は,エストロゲンによる血液凝固因子の増加,重症妊娠悪阻による脱水と安静臥床,さらには先天性凝固阻止因子異常の顕生化などが考えられる.
本稿では,産科領域におけるVTEの予防と対策について解説する.
参考文献
1) 小林隆夫 : 静脈血栓塞栓症ガイドブック改訂2版.小林隆夫編集,中外医学社,p1─252,2010
2) 小林隆夫,中林正雄,石川睦男,他 : 産婦人科領域における深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症─1991年から2000年までの調査成績.日産婦新生児血会誌14 : 1─24,2005
3) 小林隆夫,中林正雄,石川睦男,他 : 産婦人科血栓症調査結果2001─2005.日産婦新生児血会誌18 : S3─S4,2008
4) 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン.肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会編,東京 : メディカルフロントインターナショナルリミテッド,pp1─96,2004
5) 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン(2009年改訂版).循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_andoh_h.pdf
6) 木倉睦人,小林隆夫,笠松紀雄,他 : 県西部浜松医療センターにおける静脈血栓塞栓症予防および患者発生時対応への組織的な取組み.県西部浜松医療センター学術誌3 : 10─19,2009
7) Venous thromboembolism : reducing the risk. NICE clinical guideline 92 : 1─26, 2010 http://www.nice.org.uk/guidance/CG92
8) 小林隆夫 : 産婦人科領域における静脈血栓塞栓症予防の実践.日産婦新生児血会誌16 : 14─22,2007
9) Bates SM, Greer IA, Pabinger I, et al : Venous thromboembolism, thrombophilia, antithrombotic therapy, and pregnancy : American College of Chest Physicians Evidence-based clinical practice guidelines(8th edition). Chest 133 : 844S─886S, 2008
10) 小林隆夫 : 薬の使い方Q&A─深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症.救急・集中治療18 : 1021─1026,2006
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