文献詳細
文献概要
今月の臨床 ハイリスク妊娠─ここがチェックポイント 妊娠のリスク診断と管理の実際
2.妊娠中・後期のチェックポイント 4)妊娠高血圧症のリスク評価と管理
著者: 江口勝人1
所属機関: 1岡山中央病院産婦人科
ページ範囲:P.1405 - P.1411
文献購入ページに移動はじめに
個体発生は系統発生を繰り返す.生殖は地球上に存在するあらゆる動物(生物)が子孫を残す手段として,祖先から代々引き継がれた営みである.一般に,寿命の短い生物ほど子孫を残すことに全エネルギーを費やすことが知られており,例えば,鮭がたった一度の産卵のためにふるさとの川を遡上し,産卵が終えると命が枯渇するのがそれである.
ヒトの場合も例外ではなく,歴史的にみても妊娠,分娩には常にリスクを伴い,妊婦は命懸けで分娩に臨んだという.しかも,ほかの動物と比較して,根本的にヒトの分娩はリスクを伴い,難産である.このことは以下に述べるごとく,ヒトの進化と形態学・解剖学的機能と密接に関連している.すなわち,
(1)ヒトが言語を話し,直立して手を使うようになって大脳化(encephalization)が起こったこと.ヒトの新生児の脳重量は約400 gとほかの動物と比べて大きく,CPD(児頭骨盤不均衡)のリスクがあること.
(2)直立二足歩行に伴い,内臓(腸管)を支えるため両側の骨盤腸骨翼が外側に広がって入口部が扁平化した結果,複雑な分娩機転(骨盤内で児頭が回旋する)が発生した.その結果,ヒトの分娩では回旋異常を起こすことがあること.
(3)ヒトの胎盤は解剖学的に絨毛が脱落膜のなかに進入した血絨毛型(hemochorial type)であるため,分娩時大出血を起こしやすく,ときとしてカタストロフィ的状況をきたすこと.
すなわち,ヒトの分娩は基本的に常にリスクを伴う現象であり,このことは将来も変わることはない.生物学的原点に戻って,今一度ヒトの分娩を,国民目線のみならず,医学的にも見直すことが重要である1, 2).
妊娠,分娩に伴うリスクには,予知することが可能なものと,突発的かつ偶発的に起こり予知不可能なものがある.前者は妊娠中のスクリーニングによる検査所見や,妊婦の環境因子などからリスク因子を抽出し予知するもので,リスクの程度を評価して,異常(adverse outcomes)を予防することも,ある程度は可能である.一方,後者はほとんど予防が不可能なものである.
個体発生は系統発生を繰り返す.生殖は地球上に存在するあらゆる動物(生物)が子孫を残す手段として,祖先から代々引き継がれた営みである.一般に,寿命の短い生物ほど子孫を残すことに全エネルギーを費やすことが知られており,例えば,鮭がたった一度の産卵のためにふるさとの川を遡上し,産卵が終えると命が枯渇するのがそれである.
ヒトの場合も例外ではなく,歴史的にみても妊娠,分娩には常にリスクを伴い,妊婦は命懸けで分娩に臨んだという.しかも,ほかの動物と比較して,根本的にヒトの分娩はリスクを伴い,難産である.このことは以下に述べるごとく,ヒトの進化と形態学・解剖学的機能と密接に関連している.すなわち,
(1)ヒトが言語を話し,直立して手を使うようになって大脳化(encephalization)が起こったこと.ヒトの新生児の脳重量は約400 gとほかの動物と比べて大きく,CPD(児頭骨盤不均衡)のリスクがあること.
(2)直立二足歩行に伴い,内臓(腸管)を支えるため両側の骨盤腸骨翼が外側に広がって入口部が扁平化した結果,複雑な分娩機転(骨盤内で児頭が回旋する)が発生した.その結果,ヒトの分娩では回旋異常を起こすことがあること.
(3)ヒトの胎盤は解剖学的に絨毛が脱落膜のなかに進入した血絨毛型(hemochorial type)であるため,分娩時大出血を起こしやすく,ときとしてカタストロフィ的状況をきたすこと.
すなわち,ヒトの分娩は基本的に常にリスクを伴う現象であり,このことは将来も変わることはない.生物学的原点に戻って,今一度ヒトの分娩を,国民目線のみならず,医学的にも見直すことが重要である1, 2).
妊娠,分娩に伴うリスクには,予知することが可能なものと,突発的かつ偶発的に起こり予知不可能なものがある.前者は妊娠中のスクリーニングによる検査所見や,妊婦の環境因子などからリスク因子を抽出し予知するもので,リスクの程度を評価して,異常(adverse outcomes)を予防することも,ある程度は可能である.一方,後者はほとんど予防が不可能なものである.
参考文献
1) Trevathan WR : Human Birth. pp17─34, ALDINE DE GRUYTER, New York, 1987
2) 佐藤 章,佐藤和雄 : ヒトの分娩現象─ヒトの出産はリスクを伴うものである.必携ハイリスク妊娠の診療を極める(江口勝人,編),pp23─32,永井書店,東京,2009
3) 中林正雄 : 産科領域における安全対策に関する研究.厚生労働省科学研究費補助金.平成16年度総括・分担研究報告書pp17─40,2005
4) 江口勝人,佐伯和彦,米沢 優,他 : リスク因子の分析.産婦の世界39 : 89─95,1987
5) 江口勝人 : 妊娠高血圧症候群のすべて─保健指導・妊産婦管理へのアドバイス.pp52─58,メディカ出版,大阪,2007
6) 江口勝人,光井行輝,米沢 優,他 : 血液希釈障害.産婦の世界44 : 623─631,1992
7) 江口勝人 : 妊婦における水血症と血液レオロジーの臨床.産婦治療66 : 209─218,1993
8) Barker DJP, et al : Infant mortality, childhood nutrition,and ischemic heart disease in England and Wales Lancet 1 : 1077─1081, 1986
9) 日本妊娠高血圧学会 : 妊娠高血圧症候群(PIH)管理ガイドライン2009.pp22,メジカルビュー社,東京,2009
10) 日本妊娠高血圧学会 : 妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群へ─過去から未来へ.pp54─82,メジカルビュー社,東京,2005
11) 江口勝人,大倉磯治 : 胎児・臍帯の血流測定.産婦人科研修ノート(三井直樹,綾部琢哉,編).pp98─101,診断と治療社,東京,2009
12) Sibai BM, Taslimi M, Abdella, et al : Maternal and perinatal outcome of conservative management of severe preeclampsia in midtrimester. Am J Obstet Gynecol 152 : 32─37, 1985
13) 江口勝人 : 妊娠高血圧症候群.ペリネイタルケア夏季増刊ハイリスク妊娠プライマリケア(松原茂樹,編).pp54─63,2007
14) 江口勝人 : 妊娠高血圧症候群.必携ハイリスク妊娠の診療を極める(江口勝人,編).pp154─178,永井書店,東京,2009
15) 江口勝人 : 妊娠に伴うけいれん.精神科領域におけるけいれん・けいれん様運動(兼本 浩,山内俊雄,編).pp156─162,中山書店,東京,2009
16) 江口勝人 : 子癇とその治療.周産期診療プラクティス.産婦治療96 : 145─151,2008
掲載誌情報