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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科64巻2号

2010年02月発行

雑誌目次

今月の臨床 ここが知りたい―PCOSの最新情報

PCOSの病因─最近の考え方

著者: 高橋俊文 ,   五十嵐秀樹 ,   倉智博久

ページ範囲:P.130 - P.141

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は,性成熟期女性の5~10%に認められる頻度の高い疾患である1).月経異常や不妊症の主要な原因の1つであるのみならず,肥満,脂質異常を伴い心疾患系疾患やメタボリック症候群のリスク因子としても重要である.また,PCOSによる排卵障害や肥満は,子宮内膜に対して持続的なエストロゲン刺激をもたらし,若年性の子宮体癌を引き起こすことが知られている.しかし,このように女性のライフスタイル全般にわたって重大な影響を及ぼす疾患であるPCOSの病因はいまだに学説の域をでないのが現状である.その本体には,PCOS自体がheterogeneousな病像の集合体である点が根底にある.本稿では,近年病因として最も重要視されているインスリン抵抗性や高アンドロゲン血症を中心に述べる.さらに,インスリン抵抗性に関与するアディポネクチン,摂食調節に関与するグレリンやレプチン,卵胞発育に関与する抗ミューラー管ホルモンならびに遺伝子異常に関する最近の知見を紹介する.

最新のPCOS診断基準

著者: 久具宏司

ページ範囲:P.143 - P.147

はじめに

 多囊胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は,生殖年齢女性の5~8%,月経不順患者の多くを占め,罹患率が比較的高い症候群である1).従来欧米では,病態の本質である男性ホルモン高値に重点を置いた診断基準に基づいているのに対し,わが国では,日本人女性にみられるPCOSの特徴を要点とした診断基準が用いられていた.1993年に日本産科婦人科学会(日産婦)生殖内分泌委員会により決定されたこの診断基準2)では,症状として不可欠な月経異常,普遍的にみられる卵巣の多囊胞所見,さらに内分泌的な裏付けとして日本で頻度の高い高LH血症の3項目を必須とし,ほかにいくつかの参考項目が設けられた.ただし,この基準では,高アンドロゲン血症があるにもかかわらず血中LH値の高値がみられない例がPCOSと診断されないなどの問題点があった.さらに,欧米での基準との違いから,わが国で行われた研究が国際的な評価を得られないという事態も起こっていた.

 そこで,現在のわが国におけるPCOSの実態を把握し,それを基にわが国における新たな診断基準を策定することを目的として,日産婦生殖内分泌委員会において検討がなされた.新たな診断基準は,2007年の学会総会において承認され,発効した.本稿では,新たな診断基準策定の背景とともに診断基準の適用法について概説する.

PCOSの治療方針

著者: 北脇城 ,   楠木泉

ページ範囲:P.149 - P.155

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は,月経異常,男性化,肥満などを呈する比較的頻度の高い疾患で,排卵障害を合併することが多く,不妊を主訴として来院することも多い.その概念は,SteinとLeventalが1935年に月経異常,多毛,肥満,卵巣腫大を主徴とする症例を初めて報告したことに始まる1).しかし,その疾患概念は時代とともに変遷を遂げ,現在では,おそらく単一疾患ではなく,複数の病態による症候群であろうと捉えられている.

 本邦におけるPCOSの特徴として,欧米と比較して,PCOS患者で典型的症状とされる多毛,肥満などの症例が少ない,卵巣腫大の程度が軽度であることが多いなど,症状の発現頻度に違いが指摘されている.そのため,1993年に日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会が,本邦婦人における多嚢胞性卵巣症候群の新しい診断基準の設定に関する小委員会を設けて,日本独自の診断基準を作成した2).この診断基準は,臨床症状,内分泌検査所見,卵巣所見の3項目において日本のPCOSで出現頻度の高い所見を必須項目としたことが特徴である.しかし,男性ホルモン値が高値を示すにもかかわらずLH値が高値でないためにPCOSと診断できないケースがあるなど,欧米の診断基準との乖離が生じ,その運用に混乱が生じる問題点が残されていた.そこで,2007年,本邦のPCOS患者の診断のため,新しい診断基準が作成された(表1)3).この診断基準は,1993年の診断基準と比べて,アンドロゲン過剰状態の診断基準における重要度が増加したこと,LH過剰状態の数値的な評価基準,超音波検査における多嚢胞卵巣の評価基準の定義が規定されたことが特徴である.

不妊への対応 1.PCOSにおける排卵誘発法と問題点

1)経口薬

著者: 千石一雄 ,   佐藤恒 ,   宮本敏伸

ページ範囲:P.157 - P.161

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovarian syndrome : PCOS)は生殖年齢婦人の5~10%に認められ,排卵障害や不妊の最も頻度の高い原因である.その病態は,視床下部,下垂体,副腎,卵巣などの内分泌,耐糖能などの代謝異常が複雑に関連し,表現系も多岐にわたる疾患グループと位置づけられる.PCOSの排卵障害に対する治療は食事制限,運動などのライフスタイルの是正が基本であるが,排卵が誘起されない場合の次の選択肢としては,経口投与可能な排卵誘発剤が患者の利便性,コスト,副作用の点から推奨される.従来,クロミフェンが第一選択薬として長い間使用されてきたが,最近,インスリン抵抗性改善薬,アロマターゼインヒビターの有用性が報告されている.本稿では各種経口薬による排卵誘発治療の現状と問題点を現在のエビデンスに基づいて概説する.

2)ゴナドトロピン療法

著者: 久慈直昭 ,   奥村典子 ,   持丸佳之 ,   高野光子 ,   山田満稔 ,   浜谷敏生 ,   吉村泰典

ページ範囲:P.163 - P.169

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovarian syndrome : PCOS)に対してFSH/hMG製剤によって卵胞発育を促し,成熟卵胞に対してhCGによる排卵誘発を行うゴナドトロピン療法は排卵率・妊娠率の点で有効な治療法であるが,卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome : OHSS)と多胎という副作用を常に意識する必要があり,厳密に100%多胎を防ぐことができるプロトコールはいまだ完成されていない.これはPCOの病態が多様であり,hMGに対する反応性や,患者により卵子1個当たりの妊孕性が異なっていることも関係している.しかし,プロトコール通りに排卵誘発を行うことによって,多胎の多くを回避することができることもまた事実である.

 さらに,近年わが国でも遺伝子組換えFSH(recombinant FSH,以下recFSH)製剤が保険収載となり,また同製剤の患者による自己注射が認可となった.このことにより,いままで患者の通院負担を考慮してどうしても確実に効果が出るやや多めの量を投与しがちであったこの治療において,患者の負担をそれほど増加させずに単一卵胞発育を起こすことができるようになってきている.

 そこで本稿では,これまでの報告に基づいて,基本的な単一卵胞発育のための低用量FSH漸増療法のプロトコールの理論と実際を解説するとともに,このプロトコールを施行するために必要なrecFSH製剤とその自己注射について紹介する.

 本文中,特に断りなく「FSH」と書いてある場合,hMG,尿由来FSH,recFSHのすべてを意味することとする.また,特に断りなければ「卵胞径」は平均卵胞径の意味である.低用量FSH漸増療法については,ご存じのようにHomburgらの優れた総説1)や,最近ではESHRE consensus-groupの報告2)がある.本稿も多くの部分これを参考としているので,興味のある読者はぜひ参照されたい.

3)多胎

著者: 山口和香佐 ,   高島明子 ,   清水良彦 ,   村上節

ページ範囲:P.170 - P.173

はじめに

 ゴナドトロピン製剤を使用した排卵誘発や生殖補助医療技術(assisted reproductive technology : ART)の進歩により,不妊治療の成績は飛躍的に向上した.しかし,多胎発生率が1960年代から徐々に上昇しはじめ,1970年代のゴナドトロピン製剤の保険採用,1980年代のARTの導入で急速に上昇した1)

 多胎妊娠は母体の合併症や胎児への影響など医学的な問題に加え,本人や家族への精神的,経済的負担,NICUの不足など社会的問題も引き起こすことから,多胎予防として,ARTでは1990年代から移植胚数の制限が提唱され,本邦においても2008年から日本産科婦人科学会が原則,移植胚数を1個にすべきと会告を出している.しかし,排卵誘発剤を併用したタイミング治療や人工授精では,排卵数をコントロールすることは難しい場合があり,多胎の問題はいまだ解決されてはいないといえる.とくに,多嚢胞性卵巣症候群(policystic ovarian syndrome : PCOS)では排卵誘発に対して過剰反応しやすく,単一排卵が困難な場合があり,多胎のリスク要因となっている.

 一般的にPCOSの不妊治療は,肥満を伴う場合はダイエット指導からはじまり,薬物療法としてはクロミフェンが第一選択薬となる.インスリン抵抗性のPCOSにはメトホルミンを併用することで排卵が得られることもあるが,クロミフェンやメトホルミン無効症例に対してはゴナドトロピン製剤による排卵誘発か,腹腔鏡下卵巣多孔術(laparoscopic ovarian drilling : LOD)が考慮される.それでも妊娠に至らない場合や多排卵を繰り返す例ではARTに移行せざるを得ない2)

 本稿ではPCOSにおける各排卵誘発方法の多胎リスクと多胎を減少させるための工夫を,文献的考察をふまえて概説する.

4)OHSS

著者: 阿部崇 ,   竹下俊行

ページ範囲:P.175 - P.179

はじめに

 卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome : OHSS)は,排卵誘発の過程で,多数の卵胞が大きく発育し,卵巣が腫大,卵胞からのエストロゲンが著しく上昇する結果,腹水貯留などをきたす状態と定義される1).OHSSは不妊治療における排卵誘発の重篤な合併症の1つであり,特に多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)の患者でのOHSS発症リスクは非PCOSの不妊患者の6.8倍との報告2)もあり注意が必要である.

 PCOSは,2007年に日本産科婦人科学会よりその診断基準が改定されたが,排卵障害を主体とする生殖機能の異常を認め,その背景には高アンドロゲン血症やインスリン抵抗性の関与が指摘されておりさまざまな性格をもつ疾患である.

 PCOSの卵巣内には多数の小卵胞が存在し,排卵誘発の際に投与されるゴナドトロピン製剤に対する反応性も高い3)ため多くの卵胞が発育し,human chorionic gonadtropin(hCG)投与が引き金となり容易にOHSSを発症する.

2.PCOSでのART

PCOSでのART

著者: 栁田薫 ,   片寄治男

ページ範囲:P.181 - P.185

はじめに

 生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)の体外受精(in vitro fertilization : IVF)や顕微授精(ここでは卵細胞質内精子注入法,intracytoplasmic sperm injection : ICSI)にはそれぞれ実施する適応があり,多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)だけではARTの適応とはならない.PCOS症例で適応がある場合にARTが実施される.PCOSは生殖年齢層婦人の4~7%に認められ1),近年,増加傾向にある.不妊原因のなかで排卵因子はメジャーな原因であり,不妊症例の70%に何らかの排卵障害が存在し2),そのなかで多嚢胞性卵巣はよく遭遇する原因で3),不妊症例の20%に認められるといわれている1)

 通常,ARTは調節過排卵刺激(controlled ovarian hyperstimulation : COH)を行い経腟的に採卵して実施する.PCOSのARTで留意しなければいけない点はCOHによって卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome : OHSS)を発症しやすいことである.繰り返して重症OHSSを発症する場合には,卵巣刺激を行わず採卵する未熟卵子体外培養体外受精法(in vitro mature-IVF : IVM-IVF)というオプションがある.この方法ではOHSSを完全に除外することができる.

PCOSと多毛症

著者: 和泉俊一郎 ,   布田孝代

ページ範囲:P.187 - P.194

はじめに

 2007年,多嚢胞卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)の診断基準にアンドロゲン過剰症が新たに加えられた.アンドロゲン過剰症における男性化徴候の1つとして多毛症がある.本邦では欧米に比しアンドロゲン過剰症状を呈することは少ないとされている.しなしながら,多毛症は通常の診療ではあまり重要視されずに,患者自身からの訴えがなければ見過ごされがちのものであるが,軽度のものも含めると男性化徴候としては,本邦では最も高頻度にみられる主症状ともいえる.美容的観点からも患者当人にとっては非常に深刻な悩みとなり得ることなどからもその臨床上の取り扱いは重要である.本稿では,PCOSがアンドロゲン過剰をきたす内分泌学的背景,および診療における多毛症の取り扱いについて鑑別などを挙げながら解説する.

PCOSと女性のQOL

著者: 沖利通 ,   堂地勉

ページ範囲:P.195 - P.200

はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(以下,polycystic ovary syndrome : PCOS)は月経異常・ホルモン異常(高LH血症または高androgen血症)・多嚢胞性卵巣を呈する症候群である1).思春期では体重増加・月経異常・男性化徴候,性成熟期では不妊症や子宮体癌が,閉経期以降は糖代謝異常・脂質代謝異常・心臓血管系合併症がPCOS患者のquality of life(QOL)低下に関与する.

 WHOは,『QOLとは個人が生活する文化や価値観のなかで,目標や期待,基準および関心にかかわる自分自身の人生の状況についての認識』であると定義している2).自分自身のQOLの認識には,精神的および身体的側面がある.本稿では,PCOSの自然史に沿って,PCOSの病態とその治療が患者QOLにどのような影響を与えるか,精神的および身体的側面から解説する.

連載 産婦人科PET 何を考えるか?・10

乳癌術後再発疑い例の子宮集積

著者: 塚本江利子

ページ範囲:P.125 - P.127

 50歳代,女性.9年前に他院で両側乳癌の診断で手術.術後3年間,タモキシフェン,その後2年間テガフールを投与されていたが,その後,通院を中断していた.今回,顔と手のむくみがあり,某院受診.左頸部リンパ節触知し,CT施行したところ,頸部,縦隔リンパ節の腫大を認めた.頸部リンパ節の生検にて腺癌と診断され,乳癌の再発を疑い,全身検索の目的でFDG-PETが依頼された.このときの腫瘍マーカーはCEA 7.5 ng/ml,CA15-3 65.9 U/ml,NCC-ST 439.31 U/ml,BCA 225 110 U/mlであった.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・51

胎児心拍数モニタリング異常を呈したGBS母児感染の1例

著者: 平野秀人

ページ範囲:P.202 - P.207

症 例

■患者 35歳,0妊0産.

■妊婦健診の経過

 妊娠初期より当科で妊婦健診を受診していた.妊娠21週,腟培養検査施行,Candida albicans(+),Lactbacillus plantarum(+),GBS(-)であった.

 妊娠41週3日,予定日超過妊娠,子宮頸部熟化不全(子宮口開大1~2cm,Bishop score 1点)のため,分娩誘発を目的として入院した.

サクラの国のインドネシア・6

互角の合格

著者: 東梅久子

ページ範囲:P.208 - P.209

記憶する日本語

 ある日,携帯に不在着信が表示されていた.インドネシア人看護師からであった.着信時刻を見ると午前の勤務時間中で,何ごとかと思ったものの,気づいたのが夜遅かったため,電話することができなかった.翌朝,また不在着信が表示されていた.気づいたのがすでに勤務が始まっているであろう時間であったため,また電話することができなかった.いったい何ごとだろう.何か問題が起きたに違いない.勤務を終える時間を待って携帯に電話した.

 何か問題が起きたのかと尋ねると,何もないと言ってから突然英語でhappy birthdayを歌い始めた.いつの間にかおぼえた私の誕生日を祝うために,何度も電話をしていたのだと知り,誕生日を人生で初めてひとりで過ごしたと,寂しそうに話していた彼女を思い出して申し訳なく思った.

 しばらくとりとめもない話をしていたところ,看護師国家試験はムリだと話し始めた.インドネシア語に交じる日本語のなかで「ムリ」という単語が際立って聞こえた.私はインドネシア語で「ムリ」という単語を知らない,知っているのは「bisaできる」の否定語の「tidak bisaできない」だけである.いつの間に「ムリ」という言葉を覚えたのであろうか.「ムリ」という言葉を憶えさせる状況が,その単語を記憶させたのであろうと思うと胸が痛んだ.

Estrogen Series・90

エストロゲンと乳癌(3)

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.210 - P.211

 2002年にエストロゲン(E)+プロゲスチン(P)ンの使用と乳癌発生に関するWHI試験の結果が発表されると,米国ではエストロゲン使用が目立って減少した.その減少に伴って乳癌の発生も減少した.エストロゲン使用の減少と乳癌発生の減少とは果たして因果関係があるのかどうかは明確ではなく,いまだに議論の対象となっている.

 この論文の筆者らはWHIデータの中からランダムに抱合型エストロゲン0.625mg+MPA(medroxyprogesterone acetate)2.5mg(E+P)を毎日服用した群と,ランダムにプラセボ投与を受けた群とを比較対照した.WHI観察試験のコーホートから,乳癌発生との時間的関連に注目した.

病院めぐり

徳島市民病院

著者: 東敬次郎

ページ範囲:P.213 - P.213

 徳島市民病院は,昭和2年に徳島市立実費診療所として内科のみで開設されたのが始まりです.その後,産婦人科,外科,眼科,小児科,耳鼻咽喉科などが増設され,昭和41年に現在の場所に移転し総合病院として開設されました.さらに,病院立て直しのI期工事が平成20年1月に完了し,II期工事が完成すると,医局,正面玄関を含むエントランスが完成する予定です.以前は狭かった外来駐車場も3階建ての立体駐車場となり,いつでもスムーズに駐車できるようになり,好評です.

 診療科は13科で病床数は339床です.また,病院は地上12階地下1階で,屋上には救急搬送用のヘリポートが用意され,発生が予見される南海地震に備えて免震構造となっています.11階にはコンビニも併設され,患者様やご家族だけでなく,医師,看護師などの職員も利用でき,繁盛しているようです.また,病院のセキュリティーも厳格なものとなり,手術室,ICU,NICUだけでなく,患者用エレベーターなどもカードキーがないと利用できません.

原著

卵巣表層上皮性・間質性腫瘍の術前診断の新たな知見―MRIと腫瘍生物学的背景から

著者: 田中聖道 ,   澤田敏

ページ範囲:P.215 - P.219

 近年患者数の増加を認める卵巣癌は,腫瘍組織の多彩性のため,MRI診断と病理診断の隔たりが大きい領域である.今回われわれは術前MRIを施行され,病理にて表層上皮性・間質性腫瘍(漿液性・粘液性・明細胞・類内膜)と診断された79症例を対象に,(1)病理組織,(2)腫瘍マーカー上昇の程度,(3)代表的遺伝子変異・発生様式の3点について,組織型別にMRI所見との相関の点から検討した.(1)(3)の認識はMRI診断に直接的に,(2)の組織型別criteriaの設定はMRI診断に補助的に有用と考えられ,これらはMRI診断を軸とする術前診断をより精度の高いものにすると考えられた.

症例

卵巣原発扁平上皮癌の1例

著者: 澤崎隆 ,   大和幸子 ,   占部武

ページ範囲:P.221 - P.223

 きわめて稀な卵巣原発扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.

 症例は59歳.2007年2月,下肢浮腫を主訴に近医受診し,精査目的で4月末に紹介となった.腫瘍マーカーはSCCが上昇しており,CT,MRIで大動脈左側~左総腸骨動脈周囲のリンパ節腫大,左水腎水尿管症を認め,子宮左側に5cm大の腫瘤を認めた.卵巣悪性腫瘍の疑いで,開腹術を施行した.

 腫瘍は子宮および骨盤壁に強固に癒着しており,また腫大したリンパ節が左尿管を巻き込んでいた.左卵巣,腫大した左総腸骨リンパ節を切除し病理組織学的検討を行った結果,卵巣原発扁平上皮癌と診断した.切除標本中には奇形腫,Brenner腫瘍,あるいは類内膜腺癌の腫瘍成分は認められなかった.

 十分なインフォームド・コンセントののち,化学療法放射線療法同時併用療法(ネダプラチン20mg/m2/週+全骨盤照射50.4Gy)を施行した.治療は奏効し,現在まで再発徴候なく経過観察中である.

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編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.232 - P.232

 昨年末,これまで減少の一途にあった産婦人科医の総数が10年ぶりにわずかながら増加傾向にあると報じられました.厚生労働省の統計では,現在診療に従事している産婦人科医の総数は10,389名と2年前より3.1%増加しており,2000年の調査以来続いていた減少に歯止めがかかったとされています.ちなみに全診療科に占める産婦人科医の割合は3.8%ですが,過去2年でみると,研修終了後の医師総数の4.5%が産婦人科に進んだという統計結果も出されました.新研修制度で必須とされ全員が産婦人科の臨床現場を経験したことが志望者増加の一因であると説明されていますが,それではなぜ来年度から産婦人科は選択科とされたのでしょうか.

 日産婦学会の統計でも,新研修制度が導入された後,2004年101名,2005年143名と著減していた新入会医師数は,2006年329名,2007年335名,2008年402名,そして2009年は405名と確かに回復傾向にはあります.しかし現場では充足に程遠い厳しい状況が続いており,4年間の総数1,471名中の889名(60%)が女性で582名が男性という現実が今後の周産期医療体制の維持に与える影響を憂慮する声もあります.女性は妊娠・出産・育児により必然的にいったんは休職せざるを得ませんので,その実動期間と制約を考えると,最低でも必要な医師数は毎年500名以上と推測されます.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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73巻3号(2019年4月発行)

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73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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